無理やり連れて行かれた異世界で私はカースト最下位でした。でも好きな人がいるから頑張れるます!

太もやし

楽しい授業

 2時間目の授業は、ハルトさんとハリアー先生の担当だった。

「ハリアー先生の因子理論入門を、おれが担当することになった。この授業は高校からの専門科目だから、わかりやすく説明するよう気をつけるが、分からないところも多々でてくると思う。そのときは、すぐに手を挙げて質問してくれ」

 黒縁の四角いメガネをかけたハルトさんは、いつもと違ったかっこよさだった。ぼうっとハルトさんを見つめていると、目があった。

 ハルトさんはニヤリと笑って、意地悪な声を出した。

「話は真面目に聞くように」

 そんな仕草もかっこよくて、私はブンブンと頷いた。周りがビックリしていたけど、私の心臓の高鳴りを聞いたら、そうなっても仕方ないと言ってくれるだろう。

 そして前置きが終わり、本格的な授業が始まった。

「まず、教科書を閉じろ。今日は因子について基礎的な話をするから、教科書はいらない」

 そしてハリアー先生がプリントを配る。今日はプリントを使って、授業するみたいだ。

「そもそも階級を決める際に判断される、因子の強さとはなんだと思う? 2列の前から3番目、言えるか?」

 プリントが全員に行き渡るのを待ってから、ハルトさんは喋りだした。うわ、絶対に当たりませんように。

「はい、因子の強さとは、制御できる因子の量のことです」

 当てられた男子が答える。

「大まかに言えば、それで合ってるな。でも、厳密に言うと選考基準は3つに分かれていて……」

 ハルトさんが黒板に文字を書き出す。英語を崩したような文字だったけど、頭の中で日本語に変換され、ちゃんと読むことができた。きっとハルトさんがかけてくれた魔法のおかげだ。

「1つ目は自分の身に宿る因子、自己因子の量がどれだけあるか、2つ目は外部にある因子、外部因子を従わせることができるか、3つ目は自己因子、外部因子の2つの因子をどれだけ上手に扱えるか、だ。後ろの2つは、因子制御とも言われてるな」

 黒板に書かれていることを、ノートに日本語で書く。難しいからこそ、ちゃんとノートに書いて復習できるようにしなくちゃ。

「ソルの場合、自己因子量が少ない人が多い。それなら外部因子を扱えばいいだけだが、外部因子は自己因子より扱いが難しい。だから因子を多く使う、大規模な魔法が使えないという負のサイクルに陥る。これがみんなの悩みだと思う」

 む、難しい……でも、周りのみんなは頷いて、確かに、という声もチラホラ上がっている。

「自己因子の量は増やすことはできるが、だいぶ難しい。だから今日は、外部因子の使い方を勉強して、使える魔法を増やすようにしよう」

 やっぱり魔法を使うなら、色んな魔法を使いたいよね。うん、頑張ろう。

「ハリアー先生に配ってもらったプリントには、外部因子しか受け付けない魔法をかけている。大気中にある因子を使うもよし、友達の因子を借りるもよし、どんな手段を使ってもいいから、プリントを浮かしてみてくれ」

 えー、という声がみんなから上がった。ハリアー先生も驚いている。

「普通の魔法なら、自己因子と外部因子を混ぜることが、魔法を使う際のコツです。それを覆すんですか?」

 ハリアー先生が、ハルトさんに尋ねる。そんなコツがあったんだ……

「外部因子は自己因子で制御するから、混ぜて自己因子の境界をなくすことの方が問題なんですよ、ハリアー先生。自己因子を意識して、外部因子との違いを明確にすることで、外部因子を扱いやすくするんです」

 は、何語を喋ってるの? あ、イルド語か。

「……確かにおっしゃられる通りです。私も授業に参加してもいいですか?」

 私には分からなかったけど、ハリアー先生には分かったみたいで、頷いたあと、そう尋ねた。

「もう参加しているでしょう?」

「いえ、教えてもらう側として、です」

 ハルトさんは目をパチクリとさせたあと、少し考えてから許可を出した。

「いいですよ。じゃあ、授業を再開しましょう」

 そして私たちとプリントとのにらめっこが始まった。

 因子とか言われても分からないから、とにかく浮けって考えるけど、ピクリと動きもしなかった。

 段々と、教室のどこかで歓声が上がり出す。え、もう出来たのと思いながらも、集中しようと思うけど、どうにも意識が散って仕方ない。

 そのとき、後ろから肩に手を置かれた。ビクリと体が飛ぶぐらい驚いたあと、手の主を見ると、なんとハルトさんだった。

「深呼吸して肩の力を抜け。そんで目を閉じろ」

 言われた通り、深呼吸をして目を閉じる。そのとき初めて、体中に力を込めていたことがわかった。力が抜けていったあと、肩に置かれているハルトさんの手を強く感じた。

「おれがプリントを持ち上げるところをイメージしろ。特別に、おれの因子を使わせてやる」

 ハルトさんに言われた通りに、イメージする。
私の肩に置かれていない方の右手で、ハルトさんは机の上に置いているプリントを持ち上げる。そして、プリントを私に渡してくれる。

 手のひらの太陽が暖かくなった気がした。

「よくできたな、リンカ。お前は魔法を使う才能があるよ」

 ハルトさんに頭を優しく撫でられる。目を開けると、プリントが私の手の上にあった。

「私やりましたよ、ハルトさん!」

「おう、よくやったな、リンカ」

 そしてハルトさんは、ポンと私の頭を優しく叩くと、次の子のところに行った。初めて制御できる魔法が使えたことが嬉しかったこともあったけど、何よりハルトさんに褒めてもらえたことがとても嬉しかった。



 今日、最後の授業はアンリさんの授業だった。昼休み中に体操服に着替えるように言われたので、着替えていたけど、まさかこの前のとき私が壊したグラウンドで授業を受けるとは思わなかった。ボロボロにしてしまったグラウンドは綺麗に修復されていて、魔法のすごさを思い知った。

 朝と同じジャージ姿で髪を結んだアンリさんと、紺色のジャージ姿で嫌そうな顔をしたハリアー先生の前に並ぶ。そしてなぜかアンリさんは、この前のタテガミがある彼女を抱っこしていた。それで授業するの?

 授業開始のチャイムのあと、学級委員の掛け声で授業が始まる。

「それじゃあ、今日は基礎体力をつけるところから始めよう。みんな、因子を扱うときに最も重要なことはなんだと思う? はい、そこの君」

 笑顔のアンリさんは、朗らかに尋ねる。当てられた子は、戸惑いながら答えた。

「因子をイメージすることです」

「惜しい。確かにイメージは大事だけど、それよりもっと重要なことがあるね」

 アンリさんは笑顔のまま、答える。

「最も重要なこと、それは筋肉と体力、そして根性だよ」

 細い体のアンリさんが真面目に言っても、説得力がない気がする……みんなの視線から、それを感じ取ったのか、アンリさんはジャージの上を脱いだ。そのとき、ぬいぐるみ風の彼女は空を飛んでいた。

「筋肉は必要な部位に必要な分だけ、ついていればいいんだよ。美しい筋肉の付け方も、一緒に学ぼうね」

 服の上からでは分からなかったけど、アンリさんはマッチョだった。これが真の細マッチョなのか……驚きで胸がいっぱいになった。

「因子を制御するときにイメージは大切だけど、イメージをするときに体力を使うよね。その体力がなければ魔法は使えない。だから基礎体力の向上に努めよう」

 ハルトさんの授業より、アンリさんの授業の方が分かりやすい……! というか、好みだ。

「ちなみにもやしっ子のハリアー先生も、みんなと一緒に運動するよ」

「もやしはやめてください……」

 ハリアー先生は溜息混じりに言った。ハリアー先生は上背もあるし、そこまで細くないけど、アンリさんから見たら、もやしらしい。

「じゃあ、円形に広がってストレッチをしよう」

 そしてストレッチが始まった。色んな筋肉を伸ばしていく。久しぶりの運動に、凝り固まっていた筋肉がほぐれていくことを感じる。ううん、気持いい。

 ストレッチが終わって、もう一度、整列した。

「体がほぐれたところで、これから30分間、グラウンドを回ってもらうよ。30分間、動き続けることが大事だから、歩いてもいいし、走れる子は走ろうね。ただし絶対止まらないこと」

「もう動けないってなったら、どうすればいいですか?」

 ハリアー先生が、アンリさんの声に被せながら言った。

「そのときは休憩していいよ。ただ他の子の邪魔はしないこと。士気を落とす発言も禁止。他に質問はあるかい?」

 誰からも質問は出なかった。私は彼女について聞きたかったけど、触れてもいいことか分からなかったから、やめておいた。

「じゃあ、始めようか」

 そしてみんな動き出した。私は30分間ずっと走りたかったから、ゆっくりとしたスペースで走ることにしたのだった。

 気分良く走っていると、彼女が私の頭の上に座った。いったい何と思うけど、ペースを落としたくなかったから無視していると、頬を尻尾で何度も叩かれる。

「サブリナウスリッチーちゃん、リンカちゃんの邪魔しちゃダメだよー。ほら、僕の腕の中に帰っておいで」

 アンリさんに呼ばれ、名前が長い彼女が頭の上からどいた。なんなの、その名前は……

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