無理やり連れて行かれた異世界で私はカースト最下位でした。でも好きな人がいるから頑張れるます!

太もやし

助けてくれたのは…

 でも私は死ななかった。なぜか私は長身痩躯の男性に抱きしめられていた。温もりに開いた目には薄紫色の壁が映る。風の尾はその壁で止められていた。

 壁が段々と球体に迫っていくことで、壁が箱であることを知った。そして箱は見えないぐらい小さくなって行った。

「……ハルトさん?」

 私の小さな声が聞こえたのか、男性は勢いよく私を離した。その男性はハルトさんだ。あれ、なんで私はハルトさんだとわかったんだろう。勘なのかな?

 心配そうな顔をしたハルトさんの、優しい色を灯した、夜みたいに真っ黒の瞳が、私の目にはとても鮮やかに映った。

「リンカ、無事か!?」

 ハルトさんが私を守ってくれたことが、なぜか無性に嬉しかった。そして私はもう一度、強く抱きしめられた。

 ハルトさんから感じる、暖かさと程よい力強さに、こらえていた涙は溢れ、私は大声を出して泣いてしまった。

「よく頑張ったな。リンカが頑張ったから、怪我人が一人も出ずにすんだ」

 ハルトさんが私の頭を優しく撫でてくれる。その声はとっても優しくて、どこまでも安心できるものだった。

「ハルトさん! 私、めっちゃ頑張りました! めっちゃ頑張ったんですよ!」

「わかってる。お前の頑張りは、おれが一番わかってるから」

 ハルトさんの胸に顔を深く埋めて、何度もそう言った。ハルトさんはその度にわかっていると、優しく背中を撫でてくれた。まるで小さな子供をあやすように、一定のリズムで撫でてくれる手は、気持ちよくて、いつの間にかにしゃっくりが止まっていた。

「ハルゾノさん! あなたの身分では禁じられた空の間に行ったと聞きました! 校則を破った結果が、この騒ぎなんですよ!」

 ハリアー先生が私たちのそばに来て、大声で怒鳴った。

「すみません、ハリアー先生。リンカちゃんは悪くないんです。私が連れて行ったんです」

 そんなハリアー先生に、ブリジットちゃんが抗議してくれる。

「そもそも先輩である、あなたがちゃんと監督していれば、こんなことにはならなかったんですよ! 身の程知らずにも程があります!」

 ピーテット夫人がブリジットちゃんを責める。それに同意するように、私たちを責める声が、ざわざわと上がる。

「……悪いのは魔法を使った子だと思います!」

 ハルトさんの胸から顔を上げ、涙をぬぐいながら、大声で叫ぶ。少しでも大人に抵抗したくて、必死だった。

「私に空の間を紹介してくれたときに、ちょうど会っちゃっただけなんです! 身の程を分かろうと、ちゃんと努力してました!」

 目ヂカラを込めて大人たちを睨むと、大人たちはたじろいだように後ずさった。あれ、私の睨みがきいてる?

 ……違う、私の後ろを見て怖がってる。目線を辿るように振り向くと、ハルトさんがものすごい怖い顔をしていた。私はまだハルトさんの腕の中にいたから、ハルトさんが放つ威圧感に肌がピリピリした。

「喧嘩の際、因子を先に使った者に罰則が下る。それは当然の法では?」

 私を抱きしめる力を弱めたハルトさんからは、半端ない威圧感を感じた。その声も、その瞳も、先ほど私が感じた暖かさは抜け落ちて、冷たく鋭いものになっていた。近くにいるからこそ、その変化はより敏感に感じられた。

「あなた方が階級を盾にとって彼女たちを責めるなら、私も階級を使い、あなた方を責めましょう。この身に宿った太陽にかけて、不当な裁きを裁きましょう」

 ハルトさんはスーツの襟につけているバッジに視線を移した。

「ちょっと落ち着きなよ、ハルトくん。彼らは横暴だったけど、太陽ソレイユに睨まれて少しは懲りたんじゃないかな?」

 その軟派な声は、アンリさんのものだった。先生たちの後ろから、アンリさんはゆっくりと歩いてくる。その歩き方は、場違いなほど優雅だった。

「ソレイユのハルト……白の神子ハルト・アヤサキか! 12歳でこちらに来て、6階級のソルから0階級のソレイユに駆け昇った天才!」

 誰かがそう叫んだら、場は一斉にうるさくなった。ハルトさんはすごい人で、有名人のようだ。

「そうだよー、そのハルト・アヤサキだから逆らわないように。みんな、大人しくしてねー」

 アンリさんは大人たちに向かって笑顔を浮かべているが、その笑顔は冷たい笑顔だった。でも私に向かって笑ったときは、心からの優しい笑顔だと思えた。

「リンカちゃん、初めての魔法なのに頑張ったね。ハルトくんが手を出さないといけない魔法を使えるなんて、正直ビックリしたんだ。君が大輪の花を咲かせることを、待っているよ」

 アンリさんは投げキッスとウインクを、私に向かってやった。うわあ、キザな人だ!

 そしてアンリさんは、ブリジットちゃんに向き直った。

「勇気あるお嬢さん、君もよく頑張ったね。花は様々な種類があるからこそ、種特有の美しさが輝くもの。君が咲かす花も間違いなく美しいものになるに違いないね」

 アンリさんは指を鳴らして、綺麗な紫色の小さな花をだした。私には何の花か分からないけど、小さくて可愛い花だった。

 ボウっとアンリさんを見ていると、後ろから頭を小突かれた。犯人はハルトさんだった。

「おい、こっち見ろ」

 ハルトさんは先ほどまでの威圧感はどこに行ったのか、ちょっと不貞腐れた感じだった。私を抱きしめくれていた腕は解かれ、少し寂しい気分になった。

「ハルトさん、さっきはありがとうございました」

 お礼に照れたのか、ハルトさんは後ろ首を掻いて、そっぽを向いた。

「ああいうのも、おれの仕事だから気にすんな」

 そしてハルトさんは思い出したかのように、胸元から名刺入れを取り出して、その中の1枚を私に渡してくれた。

「これ、おれの名刺だ。困ったことがあったら、すぐにおれを呼べ。繋がりがあるもん持ってたら、因子が繋いでくれる」

 その名刺には“ソルシエール・クラン 総合雑務員 ハルト・アヤサキ”と書いてあった。

「ソルシエール・クラン? 総合雑務員?」

「魔法使い国家、なんでもやる公務員だ。きっとお前とは長い付き合いになるだろうから、渡しとく」

 言い方が少し面白くて、クスリと笑ってしまう。

「なんでもやる公務員ってなんですか? なんか、すごそうですね」

「いつか誰かがやる仕事だとか、人には難しい仕事が、おれらの仕事だ。アンリさんも、ああ見ては実は、ってタイプなんだぜ?」

「褒めてくれてありがとう、ハルトくん。いつも通りのハルトくんで安心するねー。そういうところが、モテない理由なんだけど知ってた?」

 ブリジットちゃんと話していたアンリさんが、ハルトさんを煽る。アンリさんはハルトさんをからかうのが楽しいのか、良い笑顔だった。

「おれはアンリさんと違って、不特定多数にモテなくていいんですよ。たった1人、その人におれのことをわかってもらえれば、それだけでいいんです」

 ハルトさんはウンザリとした顔で言った。このやり取りに慣れているようだ。というか、かっこいいことを普通に言うんだな、ハルトさん。

「ハルトくんのそういうところ、かっこいいと思うよー」

 アンリさんはニヤニヤと笑った。絶対に思ってないよね?

「おれを見習ってくれても構いませんよ」

 ハルトさんは苦い笑顔で対抗しようとするけど、あからさまに不利に見えた。

 またアンリさんが笑顔でハルトさんをからかおうとして口を開いたとき、耳に手を当てた。

「はーい、了解です。ハルトくん、次の現場に行くよー」

「うっす」

 あ、ハルトさんが私から離れていく……って、なんで寂しく思うんだろう。消え去れ、乙女思考!

 アンリさんはこの間と同じように胸元から鍵を取り出して、何もないところに扉を出した。

「それじゃまたね、まだ蕾の子猫ちゃんたち」

 アンリさんはまた投げキッスを投げた。ブリジットちゃんは目がハートの形になっている。

「またな、リンカ。なんか会ったら、絶対、連絡しろよ」

 ハルトさんはアンリさんを押しながら、私の顔を真面目な顔で見つめた。

「絶対来てくださいね、ハルトさん。約束ですよ」

「おう、じゃあな」

 ハルトさんは真面目な顔を一転させ、優しい笑顔を浮かべて、頷いてくれた。そして2人は扉の向こうに消えていった。

「あれが空間魔法のスペシャリスト、アンリ・デュフォーか。噂には聞いていたが、あんな因子の使い方は初めて見たな」

 ホッチナーさんが私に近寄りながら、ポツリと言った。アンリさんって、ハルトさんと同じで有名人なんだ。そう思っていると、ホッチナーさんに小さな薄紫色のキューブを渡された。

 そして、これは何?

 小さなキューブを太陽にかざす。中には何かが蠢いていて、少し不気味なキューブだった。

「アヤサキさまが忘れていったもんだ。次、会うときに渡してくれ」

「これ、なんですか? なんだか不気味なんですけど……」

 ホッチナーさんは威圧感たっぷりの顔で、ニヤリと悪そうに見える笑みを浮かべた。でも、悪そうに見えるだけで、ただ笑っただけなのだろう。

「あんたの魔法を封じた箱さ。ここいる誰にも処理できない高等魔法だから悪用されないよう、あんたが持っておきな」

 人差し指と親指で持っていたキューブを、両手で抱える。そんな危ないものなのか!

「とんでもない攻撃魔法を、とんでもない防御魔法で封じた箱が、これだ。悪いやつらに奪われないように、攻撃魔法を生んだ因子の使い手であるあんたが、ちゃんと管理するんだよ。それが責任ってもんだ」

 ホッチナーさんの言い方は難しかったけど、私がなんとかしなきゃいけないってことはわかった。

「わかりました、ちゃんと管理します」

 ホッチナーさんの目を見て言うと、ホッチナーさんの雰囲気が少しだけ柔らかくなった気がした。顔が怖いから、よくわからないけど、私はそう思った。

「わかったら、昼飯に行ってこい。急げば、まだ間に合うだろう」

 ブリジットちゃんも聞いていたようで、あっと声を上げた。

「急ごう、リンカちゃん! ここのご飯は美味しいから、オススメなんだよ」

「そうなの!? うわあ、楽しみ!」

 美味しいご飯に逆らえる、成長期の子供はいないだろう。

「ありがとうございます、ホッチナーさん。また学校で!」

 そして私は食堂目指して、ブリジットちゃんと一緒に走り出した。めっちゃ楽しみ!

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