高一の俺に同い年の娘ができました。

村山 脈

五話 目覚ましと朝


「うぅ、ひどい、ひどいよお父さん」
「・・・・・・」
「出会って二日目の娘を相手にこんなことする?しちゃうの?お父さん、もしかして意外に鬼畜だったの?」
「・・・・・・」
「朝からいきなりこんな美少女に抱き着いて、しかもその子の体を傷物にするなんて……」
「おい、誤解を招くからちゃんと言っておくぞ。そもそも朝っぱらから抱き着いてきたのはお前のほうだろ」

ずずずっと味噌汁を飲みながら答える。

「でも、でも、私の体に傷をつけたのは本当じゃん!こんなんじゃあもうお嫁にいけないよ。しくしく……」
「あぁ、そうだな、確かに付けたな……立派なたんこぶを」

そう言って奏の頭を見てみると、そこには立派なこぶが確かにあった。確かに俺が今朝、奏につけたものである。
これをつけたのは今朝のこと……



ピピピッというとても不快な電子音で俺の意識は覚醒する。
俺の一日はこの悪魔の機械が鳴らす不快な電子音によって半ば強制的に始められる。枕もとで鳴り響く音が俺の意識を現実へと引き連れようとするが、そうはさせない。

毎日の激しい戦いのために半年ほど前に修得した洗練された動きをもって、パシッと、必要最小限の動きで目覚まし時計を止め、俺は早々に二度寝に移行する。

しかし、目覚まし時計とは本当に不憫な運命を背負っていると思う。
使用者を起こすために開発され、皆がそれをわかって買い、セットをしているのに悪口を言われるのである。自らもやりたくはないだろう、毎日、毎日決められた仕事を文句を言わずに行い勤勉な態度でふるまっているのにこの扱いである。

思い出してみてくれ、今まで君の見てきたドラマ、小説、漫画の中でのこれの扱いを。こんなこと自分が社会に出たときにされたら俺は切れるか、引きこもる自信がある。

あぁ。この世界にある全目覚まし時計たちよ、汝らの来世が怠惰で自堕落な生活ができる世界であることを祈っている……今日も君たちのその単純ながら正確無比な働きに賞賛の言葉を贈ろう。
「おやすみなさい」と。

おやすみなさい...

俺はうとうととまどろみかけていると、寝ぼけた頭に響く、ドンドンという足音が聞こえてきた。

足音は俺の部屋の前で一回止まり、今度は勢いよく扉が開いたかと思うとドスンと俺の腹目掛けて飛び込んできた。

「おっきろ~い!!」
「めざましっ!!」

どすっと鈍い音を立て俺の腹に何やら重いものが乗りかかってくる。

何だ!?何が起こった?

そう言ってお腹のあたりを見てみるとものすごい美少女が俺の腹のあたりに抱き着いていた。

どうやら夢を見ているようだ...

(いくら彼女がいないからってこんな夢を見るなんて結構重症だな、この夢は心の中にしまっておこう。)

そう言って再び布団にもぐると今度は声が聞こえてきた。俺ってそんなに飢えているのだろうか・・・?

「もう、お父さん、そろそろ起きないと遅刻するよ~?今日から高校始まるんでしょ?」

何どうやらお父さんに向かって言っているらしい。おい、そこの親父さんあんたの娘が起こしに来てるぞ。そろそろ起きたらどうだ?

「お~き~ろ~!!」

そう言って俺に抱き着く力が強くなる。

「早く起きないとイ・タ・ズ・ラ・しちゃうぞ~」

そう言って俺の目の前にいる美少女は軽く舌なめずりをしながら妖艶な笑みでまるで十八禁な雰囲気を醸し出してくる。

よし起きよう!

そうして体を起こし目の前の美少女の顔を見る。

「……おはよう、奏」
「は~い、おはようございます。お父さん」

俺の娘、奏と朝のあいさつを交わす。一見落ち着いて対応しているように見えるかもしれないが、頭は大パニックである。というか、パニックが一周まわって今の状態になっているといえる。

彼女の尻尾はワッシャワッシャと揺られ、俺の鼻に彼女の甘く、爽やかなにおいが伝わってくる。いかん、くらくらしてきた。朝っぱらから何やってんだこの子は...

「なぁ、娘よ。これは一体どういう状態なんだ?」
「充電中で~す!」

そう言って抱きしめる力を一層強くしてくる。何を充電してるんだ?

「おーい、離れてくれ、じゃないと起きれん」
「ちょっと待って!あとちょっとで終わるから!」
「おい、ちょっと待て。起きろって言ったのはお前だろ」
「そうだけど、もうちょっと、もうちょっとだけ~」

「いい加減離せ、遅刻するだろ」
「大丈夫、だいじょ~ぶ。お父さんがそう言うと思って目覚ましを三十分早めといたから!」 

なっ、馬鹿な・・・・・・俺の時計がいじられたのか・・・

時計を確認すると、確かに奏の言うとおり、予定の三十分ほど前を指していた。嵌められた……

もう一度寝ようかと思ったがこの状況で目が覚めてしまった。どうしようか。

「ごろにゃ~ん」

そう抱き着く力をもう一段階強めてくる。猫なのか……
そこである問題が発生していることに気がついた。
いや、この状況も大概問題だが、それを軽く超える大問題発生である。

今、俺は寝起きというわけで……すなわち、男子特有の生理現象というものがあるわけで……娘は今、俺の上に乗って抱き着いてきているというわけで……
非常に言いずらいのだが、その要するに……俺の俺が俺になろうとしているわけで。(謎)

「いい加減離れろ!」
「はうっ」

そう言って、デコピンをしてやると、とりあえず抱き着くのはやめてくれた。

「娘よ、早くそこをどきなさい。さもないと大惨事が起きることになる」
「大惨事って?」

きょとんとした顔で聞いてくる。くぅ、なんてピュアなんだうちの娘は。穢れを知らない、まさに天使!!
なんて馬鹿なことを考えていると本格的にまずくなってきた。いかん気づかれる。
娘にこんなこと知られたらいろいろまずい!!

「あれ?」
「!!??」
「もしかして大惨事ってこれのこと?」

そう言うと再び妖艶な顔つきとなり、彼女の膝が俺の...

※ここからは割愛いたします。




「大体な、あれだって、原因はお前にあるじゃねーか。俺は悪くないぞ」
「あー、そんなこと言ってー!それが愛しの愛娘に対する物言いなのー?」

ぷりぷり―と可愛らしく怒る奏はそう言って箸で俺をさしてくる、いかんな、マナー違反だ。

「奏、人に向かって箸をさすのはやめなさい」
「はーい。もぐもぐ。それで、まだ15歳なのに実の父親に体を傷物にされた愛娘に何か言うことは無いの?」
「お前その言い方、絶対悪意があって言ってるだろ。そうだろ。やめろよ、こんなんでも俺だって端くれとは言え父親なんだから。娘に悪意をぶつけられるとか、メンタルブレイクするぞ」
「だったら!なにも頭をぶつことないじゃん!」

そう言ってたんこぶを見せつけてくる。最近、ギャグマンガの表現ですらなかなかない、超ビックサイズだ。

「いててっ、もう私、お父さんにすらぶたれたことなかったのに……」
「いや、お父さん俺じゃん。さっきのは?」
「あー、えーと、それはその、あれだよ!……」
「どれだよ」

「そ、そんなことよりもこれのせいで私がお嫁に行けなかったらどうすんのさ!」
「行かせてなるものか!!」
「わっ!?」

そう言って立ち上がり、俺は宣言する。さっきから言いたかったんだ!

「誰が...誰がどこぞの馬の骨にかわいい俺の娘を渡すかってんだ!」
「えーと...」
「娘に近づく害虫駆除は父親の義務であり、宿命だ!!娘にちょっかいをかける、生きてる価値のなくなったうじ虫どもは俺が、父親の端くれとして全員一匹残らず駆除してやる!!!」
「は、はぁ」
「だから、安心してていいぞ奏!お前はずっと俺の(娘)だ!」
「えっ!?」

そう言うと、バキッと持っていた箸が折れた。はっ、俺は何言ってんだ?

まずい、やっちまったか...?

いくら父親だろうと、いや、父親だからこそ、いきなりこんな話をされたら困るだろう。思春期の娘に「嫁にいくな」、「もし彼氏ができたら、そいつはしっかり痛めつけたうえでぶっ殺す」宣言だからな。
これじゃ子離れできないダメ親みたいじゃないか。もしかたら嫌われてしまったかもしれない。

恐る恐る奏のほうを見ると、奏は顔を赤らめて明後日のほうに顔をそむける。もしかして怒らせてしまったか。気持ち悪がられてしまったりしてないだろうか……

しかし、尻尾を見てみると尻尾は機嫌がよさそうにゆっくりとフリフリ~っと左右に揺れている。どうやら怒っているようではないようだ。よかった。
しかし、娘の感情判断が尻尾もとい、ポニーテールでできるとは、なんとも便利だな。犬みたいでなんともかわいらしい。

まぁ、娘とはいえ、会って二日目の、しかも同年代の女子にすることではなかったな。

「まぁたしかに、少しやりすぎたのかもしれんな、すまん」
そう言って、軽くぺこりと頭を下げる。

「次からはチョップにする」
「あれ!?やめないんだ!?」
「当たり前だろ。娘が馬鹿なことをやってたら叱るのが父親の責務だ」

「俺相手だからよかったものの相手がどこぞのバカだったら……俺は殺人を犯すことになる」
「さっきから思ってたけど、過保護過ぎない?」

過保護なものか!俺の娘に(以下略)

「まぁ、私も悪かったです。ごめんなさい」
「そうだな、うん。これからは気をつけろよ」

うん、これは両者反省というわけで終わりっと。

食事も終わり学校に行く支度をする。今日は入学式だ、気合を入れていかねば。

「お父さん、今日入学式だよね?高校生活の始まりだね!」
「おう、そうだな」
「お父さんの行く高校って確か……」
「星空高校だよ」
「やっぱり、じゃあ気を付けてね、大丈夫だと思うけど事故とかしないように」
「わかってるよ」
「お父さんがいないと、ラブコメが始まらないんだからね」
「父親より、ラブコメの心配かよ」
「ごめんって。お父さんが無事ならラブコメはから」
「?わかった」

そうしているうちに支度ができた。

「それじゃあ行ってきます!」

そうして俺の高校生活が始まった。

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