異世界のバハムート

ロマノフ

第6章 無頼

シーナ「な。なに?今の音!?」

シズク「雷みたいだね。」
シズクは神妙な顔でそう呟いた。

シズク「カエデになにかあったのかも。
シズク「助けにいこう!」

シーナ「ええっ?でもでも、あと少しで最深層よ?」
シズク「カエデ兄ちゃんに何かあってからじゃ遅いよ。」

シーナは我に返り、答えた。

シーナ「そうね。私ったら。ごめんなさい、すぐに行きましょう。」

シズク「ここから思いっきりジャンプすれば、たどり着ける。ちょうど真上みたい。」


シズクの顔はひどく引きつっていた。彼女にしか感じ取れないものがあるのだろう。

シズク「いくよ!」

シズクは地面をねじ伏せるように踏ん張り、力を込めた。シズクはあの時のように甲羅のように皮膚を硬化させ、その姿はまるで亀のような、龍のようなたくましい姿へと変わっていた。

大きな力が作用した。シズクは数階層に渡る壁を貫いた。

数刻前。


カエデ「ええっと、ああ。もう一回言ってくれませんか?」

アルエ「失せろと言っている。」

カエデ「あー、あの。アルエさんでしたか?1つよろしいですか?あなた方急に現れて、理由も言わず出ていけと言われても納得出来かねますが。」

アルエ「理由なぞどうでもいいだろう。さっさと仲間を連れ、失せろ。」

カエデ「はぁー。あの、アルエ殿?貴方大層なご身分と見受けましたが、本当に権威のあるご身分か?」

アルエ「それがどうした?」

カエデ「いやいや!大した事ではありませんが、この世界の大層なご身分達はそれほどの教養がないようなのかと。なにせ話が通じないもので。ははは。もっとも大した事ではありませんが。」

アルエ「ふん。貧相ななりの割にはひどく大言壮語だな。もう口は開かんで良いぞ。それが貴様の最後の言葉だ。」

カエデ「やれるものならやってみろよ。」

カエデはニタニタとした笑い顔から、鋭い目付きに変わった。

アルエ「やれ。」

先程まで停止していた騎士達が一切に動き出した。
騎士達は体格が、細長く、しかし身長はおよそ2、3mはあろうかという巨体、白い肌、白い鎧、表情は鎧でうまく伺えない。そこが不気味だった。全員同じ格好で、波打つような奇妙な剣を携えている。


一体目の白い騎士が、カエデに襲いかかる。

カエデは槍を構え力を込めた。


鍛冶屋のおっさんが言っていた。この槍は霊樹から作られた槍で、魔力が通りやすい材質らしい。イメージは少しでいい。

カエデの槍の構えは少し特徴的だった。クラウチングスタートのような前傾姿勢。今にも飛びかかりそうな猫。

白い騎士はその動きを察したのか、思わず距離を詰めつつその加速を緩めた。

それがカエデの思う壷。少し離した間合いは第一撃の一手だった。

無重力状態の槍は反発し、物理条件を無視した高速の斬撃と化した。オークの時とは違い一切の手加減はなかった。鎧は大きく凹み。白い騎士は瞬く間に吹き飛ばされ、続く白い騎士を巻き込み転倒した。

白い騎士に囲まれたカエデは、尚も優勢に戦った。人間の腕で武器を振れる範囲は限られているが、浮遊魔法を活用することで、その遠心力や、慣性は失うこと無く。周囲一帯をなぎ倒した。

居合切り。とでもいうべきだ。

アルエ「不思議な槍の使い方をするんだな。面白いぞ!」

アルエはなぜかしらその目を輝かせていた。
先程の威厳のある顔とは相反していた。

戸惑いながらカエデは。

「まだ仲間が洞窟の中にいる!撤退を考えるから二人が戻るまで待ってくれ。」

アルエ「おいおい!至って友好的な考えじゃないか!それを早く言え!てっきり1人でいるのかと。。。」

アルエ「強きものには礼を尽くす。私の流儀だ。良かったら救出を手伝わせてくれ。」

カエデ「お、おう。いいのか。初対面なのにすまない。」

アルエ「いいや。いいのだ。それより私も急に攻撃してすまない。」

カエデ(あるよねー。たまに。さっきまで雰囲気悪かったのに急に仲直りしちゃうパターン。和解できて嬉しいけどこの後がすっごく気まずいパターンだよこれ。すれ違ったりした時ものすごいぎこちない挨拶交わすパターンだよこれ。)

アルエ(うわー。この人めっちゃ強いじゃない。威厳を見せたくてはりきってぼこぼこにしてやろうと思ったのにでしゃばりすぎちゃったわこれ。でもいい人そうだし私の側近にしてしまおうかしら。あー、無理だわこれ。めっちゃ神妙な顔してるわこれ。変な人って思われてるわこれ。)

そこへシズクとシーナが入口から上がってきた。

シーナはたちまち顔つきが変わり、叫んだ。

シーナ「こっ、」

皆「こ?」

シーナ「この浮気者ーーーーーーーー!」

言い放ちざまに、シーナは魔法を繰り出した!

カエデ「ってえ?おれぇーーー?」

アルエ「あぶない!」

アルエはカエデを庇うために、駆けた。



カエデとアルエはモロにシーナの魔法を喰らった。

シズク「どどどどーしたの?!?シーナ!」

シーナ「なんでアルエがいるのよ!」

シズク「おお、落ち着いて!シーナ!」

カエデ「っててて、何が起こったか教えてくれないか?」
土埃が舞う中、咳き込みながらカエデは言った。

アルエ「なにかと思えばシーナか。突然魔法を放つんじゃない!」

シーナ「なぁに次は私の手下に手を出してるのかしら?」

カエデ(手下?)

アルエ「パーティのメンバーとは貴様のことであったか。それはもったいないな。尚更我が側近に起きたくなったぞ。」

カエデ(側近?)

カエデの頭には沢山のハテナが溢れていた。

カエデ「お二人は知り合いかね?」

アルエ「ああ、そうだ。シーナと私は同期でな。お互い切磋琢磨しあった仲だ。まぁ、結果的に私が王宮の戦士で、シーナはルーキー冒険者の手助けという立場だがな。」

シーナ「なによ!貴方が私の邪魔をしてるだけじゃない!」

アルエ「ははは!その鈍い思考こそがまさに差の理由ではないか?」

シーナ「今度は私の手下も奪うつもりね?そうはさせないわ!今日こそその牛の尻尾みたいな髪を切り落としてくれるわ!」

カエデ「ま、まぁ待て待て!過去にどんな因縁があるか知らないがお互い敵じゃないだろ?ここは平和に行こうじゃないか!」

アルエ「全くだ。貴様らの戯れ言に付き合うつもりは無い。さて、帰るぞ。カエデ。」

カエデ「おう。そうだな。って、はぁぁ?」

アルエ「何を言っている。私の手下にしてやると言っているのだ。」

シーナ「ふーん。やっぱりそうきたわね?予め魔法をかけていて良かったわ?」

アルエ、カエデ「はぁ?」

シーナ「さっき受けた魔法はね。呪縛の魔法なのよ。私が魔法を解かない限り、アルエとカエデとそれから私。3メートル以上ははなれられないわよ!」

カエデ「なぁーーーんでそんなめんどくさい魔法をかけたんだぁぁぁ!!!!」

シズク「えええー?いいなぁ!私も私も!」

シズクはカエデに抱きついた。

カエデ(おいおいおい。お決まりだと思っていたが、いざそうなると中々面倒なんだなぁ。)


彼らの旅はまだまだ続くのであった。




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