異世界のバハムート

ロマノフ

第4章 獣

ロビーに降りると。燈は付いていなかった。まだそんなに深夜でもないが、店員はいない。なんだろうな、この世界ではこれが常識なのだろうか。

結局黙ってきてしまった。
さっき窓から見た湖まで歩いてきた。蛍に似た虫が軌跡を描きながら浮いている。
風の音と湖に浮かぶ月と、光る虫。たったこれだけで心が満たされるとは。
こうやって毎日この世界に居続けるのだろうか、確かに元の世界では死んだはず、戻る確証なんてそう無いものだろう。
物思いふけっていると、後ろの茂みに物音。
物音を聞いて記憶が過ぎった、そう。人狼の噂である。

狼「ヴヴヴゥー。」
 「グルルルルルル。」

やっぱり!狼の群れだ。月明かりが彼らの目を黄金色に染め上げた。鋭い目が2つ、いや、もっとだ。
最悪だ。蛍が目の色と被っている。見分けがつかない。
まずい。僕は湖沿いに街中へ逃げようと試みたが、蛍と思っていた中に何匹か狼が紛れ込んでいる。

カエデ「そ、そうだ。魔法!海だ。海!海!海!」

だめだ。それどころじゃない。だめだ。弱気をさっきたのか、1匹の狼が牙を向いて飛びかかってきた。
いや、これは狼と言うにはあまりに巨大!馬より少し小さい。僕は確実な死を連想した。

カエデ「たっ、助けっーーーー」

並んだ牙が腕に食込んだ。激痛が走る。狼の歯はノコギリのように尖っていて、動く度肉に歯が深く刺さっていく。僕は咄嗟に、狼の目を突いた。

狼「キャイン!」

流石に効いたようだ。狼は口を開き腕から離れた。
安心も束の間、立て直した狼は僕の右足に噛みついた。
終わった。また死ぬのか、シーナ。シズク。。。

シズク「うがぁーーーー!」

口にまだ肉のタレがついているシズクが狼の土手っ腹に膝蹴りをお見舞いした。

狼は勢いよく吹き飛び、その後ピクリとも動かなかった。

カエデ「シ、シズク?!?」

シズク「カエデ、私にしばらく話しかけるな!本気になるから様子を見て隠れて!」

カエデ「そ、そんな!」

シズクの様子が変わった、いや体型も人間では無くなってきている。角が大きく伸び、腕が肥大化し、亀の甲羅のように装甲を纏っている。スカートの裾からは蛇のような尾が生えた。いつもの幼子からは想像も出来ない、獰猛な雄叫びと共に、力強い走りで、群れへと飛び込んだ。ピラニアのように噛み付いて離さない狼を容易くも千切り、顎から2つへ割いた。そこからは無双の限りを尽くした。

宿屋「おおい!そこにいらしたのか!さぁ、早くこちらの茂みへ!」

シズク「い゛げぇ゛!」

宿屋さん!何してるんだ?そこにいたら!

その時脳内にフラッシュが走った。
酒場の店員の言動と宿屋の言動の食い違い、なぜ宿屋は狼の餌食になっていない?人狼はまだ現れていない。

僕は静止した。

宿屋「何をしてらっしゃる!あちらでシーナ様がお待ちです!」

カエデ「あんたが人狼だな?」

宿屋が少し固まった。弁明は無理と悟ったか、目付きが変わった!

宿屋の姿は煙と共に二足歩行の狼のへと変わった。

人狼「ゥヴヴヴァァ!」

しかし、人狼は僕ではなくシズクへと襲いかかり、馬乗りになった人狼は動けないシズクの装甲を剥がし、噛みついた。

シズク「ぐっ、ォォアァァァァ!」

カエデ「シズク!くそぉ!」

動けない。狼の噛み傷から大量の血吹き出す。
知ったことか!せっかく出来た。友達を!殺させるか!

カエデ「ゥヴヴヴぁぁぁぁぁああ!」

怒りとは裏腹に、僕はなにかに繋がった気がした。
その瞬間。
後ろの湖から、モ○ハンのガ○トトスの様な龍と魚が合体したようなケモノが勢いよく飛び出し、そっと僕を見た。

水のケモノ「オケアノスの眷属よ、ご命令を。」

カエデ「は、はぁ?」

驚いた。これがオケアノスの権能なのか。

カエデ「あ、アイツだ!あの人狼を殺せ!」

水のケモノ「承った。」

水のケモノは、僕が1度だけ放った水魔法を1発、とても短く放った。

高圧洗浄機の様な音がなり、シズクと人狼の動きが止まった。その水弾は一瞬しか捉えられなかった。

人狼は地響きと共に倒れた。水のケモノ、人狼の事より先にシズクの安否が過ぎった。

カエデ「シズク!大丈夫か?」

シズクは先程の姿ではなく元の幼子に戻っていた。

シズク「いってて!あんまり動かさないで!」
カエデ「ど、どこか痛いのか?」

水のケモノ「そのものなら無事だ。怪我など、我が力を持っても傷一つ与えられぬ。」

でも、確かに人狼に。

シズク「食いすぎてるから。吐きそう。」
カエデ「な、なんだよー。ビビったよー。良かったぁ!マジで!」

安堵の極み笑いが出た気がつけば狼達はどこかへいなくなっていた。

シズク「そこ狼さん見てみてよ。」
シズクはひょいと起き上がり、人狼を指さした。

人狼は後から水弾により、心臓を貫かれて死んでいる。
牙を見ると、その強固な牙は全て折れていた。

すっげえなこの子。

水のケモノ「では用は済んだな。」

カエデ「待ってくれ。どうやったら、魔法を打てるんだ?」

水のケモノ「なんと。愚かな!魔法の鍛錬もしていない者が打てるか!では、さらばだ。」

カエデ(な、なんか怒られた?)




翌朝

シーナ「そ、そんなことがぁーー?あぁ!私ったら!そんな一大事になにを。はぁ!」

カエデ「まぁ気にするなよ。てか、服、ハレンチだぞ?」

シーナ「わぁぁ!なんでこんな格好を?」

シズク「自分で脱ぎ捨てたんだぞ?もう!寝てたら凄いいびきで起きちゃったじゃない!」

カエデ「あー!それで僕のところに来てくれたのか!」

シズク「そうだよ?不幸中の幸いってやつだね?」

カエデ「いやでも!あん時はありがとうね!ほい!では、ご褒美のカルパスをば!」

シズク「うわーい!きゃっきゃっ!」


シーナ「旅1日目そうそう、私の酒癖を晒してしまうとはぁ。とほほ。」

カエデ「お前は、禁酒だな。」

シーナ「くぅーーー。」


兎も角、新しい1日の始まりだ。まずは、村から少し離れた集落に訓練所が、あるそうな。そこで僕らのジョブを決めて、武器を貰うらしい。

シズク「うわーい!私バーサーカー!バーサーカーがいいの!」

カエデ「そ、そうだな。昨日の騒ぎを見たら、それが適任かもな。」

シーナ「なんですか?昨日のって。」

シズク「んー。でもお兄ちゃんは、なんだろうね。遠くから見てたけど、身のこなしも磨けば光るんじゃない?せっかく大きい体なんだし!でも昨日の奴は完全に魔法だよね~。」

シーナ「だからなんですか?昨日の昨日のって!仲間はずれにしないでください。」

カエデ「まぁまぁ、あとの秘密さね。ところでシーナはジョブはなんなんだ?」

シーナ「私はクレリックよ?回復魔法が得意なの!ヒーラーの二階級ジョブなのよ!」

カエデ「ほえー。んなら、パーティとして、作戦バッチリだな。認めざるおえないが、シズクが前衛、中衛で僕が何とかするから。回復はシーナだな!」

シーナ「待って?それはいいけど、貴方、狼に噛まれたんでしょ?その傷は?」

カエデ「ん?あぁ、そういえば、いつの間にか治ってる!」

シーナ「そんな!貴方自然回復も素で付いてるの?貴方も前衛よ!前衛!」

カエデ「そしたらどうやってお前守るんだ?」

シーナ「えっ?そ、それは。」
シーナ(し、しまったぁー。この男に不覚にもキュンと来てしまったわ。)

シーナ「そ、それは問題ねぇ。あなたのジョブ次第って事じゃない?私回復魔法以外にもバリアはったり、攻撃も出来るし。」

カエデ「そうかぁ。んならなんだろうなぁ。」

シーナ「私たち、お茶してくるから。貴方は色んなジョブの取得クエストでもしてくるといいわ!ま、どれかひとつでも出来ればいいわ。それどころかどれかひとつやっとでしょうけどね。」


このシーナのフラグ地味だ何気ない一言が、シーナのプライドを傷つけた。




シズク「美味しかったね!お団子!」

シーナ「そ、そうね。(この子食費がシャレにならないわ。そろそろクエストで賞金貰わないと。)」

シズク「あ!カルパスおにーちゃーん!」

カエデ「おお!って、カルパスは要らないよ。ところでジョブクエストなんだが、こんなもんでいいのか?」

ジョブクエストをクリアすると、ジョブを示した免許証をくれるらしい。

シーナ「そう。貴方はウィザード当たりが似合ってると思ーー、っぶふ!」

カエデ「うえ。汚ねぇな、おい。なんだよ。本試験みたいなのがどうせあるんだろ?教えてくれよ。」

カエデの手には、溢れんばかりのジョブカードが。

ローグ
アークウィザード
バーサーカー
クレリック
ランサー
ライダー
アーチャー
アサシン
ナックラー
デスサイズ
ネクロマンサー

この訓練所にて、獲得できる全てのジョブを取得しているのである。

シーナ(こ、こいつぅ。間抜けズラの癖に!器用?器用なんてレベルじゃないわよ、万能よ!)

シズク「すっげえ!お兄ちゃん!いんや!アニキ!」

カエデ「お、おう。慣れるまで頑張ろう。
それで?本試験はー」

シーナ「ないわよ!」

カエデ「ええ!?」

シーナ「貴方が聞いたのは二次職の試験よ!ってアークウィザードって!ウィザードの二次職じゃない!」

カエデ「あぁ!アークウィザードはちょっときつかった。もうあれ以上上は行ける気がしねぇな。」


彼の器用さには右に出るものはいなかった。学生時代では、生徒会長も任されながらも、他の部活に助っ人として参加し、全ての部活動を全国大会へ導いたという。
さらに運動系だけでは飽き足らず軽音部ではギターボーカルで人気を集め、美術部においては、彫刻、油絵、風景画において、多くの特賞、金賞を獲たという。

だか、そんな万能人がなぜニートになったのか、それは又別の話である。

カエデ(前の世界より、断然と調子がいい。死を経験してからというもの時の流れが遅く見える。)

シーナ「そんないっぺんにジョブ取ってどうするのよ。うまく扱えなければただの飾りなってしまうわよ。」

カエデ「それもそうだな。飽きないようにしないと。」

シーナ「あんた、今なんつっ。まぁいいわ!とにかく実践よ。そこに大きな看板があるでしょ?そこからクエストを受けて、受付で受領するのよ。」

シーナ「ふーむ。そうねぇ。最初はこれがいいんじゃない?''オーク退治''オークは小人の様なサイズで、ペルセポネの眷属なのよ。最近は子供攫いなんかもしているようだから、退治依頼がきてるみたいね。」

カエデ「子供を攫うなんて、平和のように見えるけどやっぱりどこも危険なんだなぁ。」

シズク「怖いよ!アニキ!」

カエデ「シズクは大丈夫そうだ。」

シズク「アニキも危険な目にあったの?」

カエデ「そうだぞ~?後から10トンの鉄の塊に猛スピードでぶつかったりしたんだ。」

シズク「うわお!アニキどうなったの?」

カエデ「ん?死んだ。」

シーナ「なーに馬鹿なこと言ってるんですか!さっさと行きますよ!」

カエデ、シズク「あーーい。」


続く



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