異世界賢者は世界を弄ぶ

神無乃愛

お握りは手軽


 あっさりと謁見室に通され、二人は開いた口が塞がらなかった。
「いいのかよ、これで」
「よくはないだろう」
 異世界の素人ですら、この対応はないと分かるレベルである。
 しかも犯罪者(?)と思われる入り方をしてきたのだ。一国の王に会わせようと思う方が不思議である。
「我が国は現在人手が足りぬ。余所で多少犯罪を行っていようが、理由次第では咎めぬ」
 尊大な口調で玉座に座った男が言う。
 相変わらず残念な男だ、そう稔憲は思った。都合のいいようにしか物事を見ないのである。評価しないのは、周囲が悪いと本気でそう思っているし、そう思わせた周囲に対して呆れてしまう。
「私たちはとある冥界神の神殿に仕えておりました。神殿長から命じられたとおりにしたところ、冥界神の逆鱗に触れ追い出されたのです」
「どのようなことをしたのだ?」
「冥界神に捧げる供物を変更しただけなのですが……どうやら神殿長が天空孤てんくうこを捧げものにしてしまったらしくて」
「何と!? 天界神の眷属天空孤を捧げものにしただと!? どこの神殿だ?」
「アガウス王国のシュルメールという都市にある神殿です」
 アガウス王国というのはあるが、シュルメールという都市は既にない。遥か昔に滅んだ都市だ。一部は現在、稔憲が町として有効活用している。
「……そ、それは難儀であったな」
 歴史や地理に精通しているのならすぐわかる嘘である。気づかないあたりで、一国の王としてどうなのだ。

 その辺りは愚鈍を装っているのか、だとしたら厄介である。
 今の話を信じたのなら良し、信じていないのであれば召喚された二人を無理矢理連れ出すしかないだろう。
「本日のところは休むがよい。客室を用意いたす故」
「ありがたき」
 そういうことにしておこう。

 食事は何を盛られているか分からないため、食べたふりをして無限収納へと閉まっていく。あとで隆文の作った飯を食べればいい。

「……やはり握り飯は日本産のコメに限るな」
 日本で作ってきたお握りを食べつつ、稔憲はぼやいた。現在、周囲には誰もいない。
「インディカ米でお握りをする気にはなれんぞ」
「漬物を食えればよかったんだが」
「匂いの問題があるからな。今度また作るから」
「助かる」
 人が来る前に食べなくてはならないため、味わう暇がないのが辛いところである。

 結局夜まで誰も来ず、翌朝「勇者」とやらを紹介されることになるとは思いもしなかった。

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