―I weave with you―【第四回・文章×絵企画作品集】
この真っ白な哀しい世界の中で
少女いつもああして、骸に水を注いでいる。
渇いた表面を潤し、ひび割れた部分を繋ぐように。少女がそうすると、いつも水は不思議と皮膚のように渇きを包んでしまう。
特別な水なのだろうか。それを聞いたことはない。少女は骸の声しか聴かないからだ。しかし、翼を持つ少女は、俺とは何か違う存在なのだろう。だからきっと、水も特別なものなのだ。
少女が水を注ぐと、骸は芽を生む。新しい命が、失った命を種に芽吹いていく。
「ああして初めて、ここで夢を見られる」
俺の隣で、老人はいつも同じことを言う。大きな生き物の骸で作った、粗末な弦楽器を鳴らしながら。がりがりに痩せた身体で、垂れ下がった瞼の隙間に涙を溜めながら。
ここで夢を見る者は、すぐに塵になってしまう。ただ、地面の一部になって、そこかしこで蹴れば散る小さな山を作る。
ここには何もない。そう老人が教えてくれたように、ここには時間だけがある。
老人の鳴らす音を聞く時間。変わり映えのしない景色の中を歩く時間。少女が水を注ぐのを眺める時間。
そんな時間だけがあり、他には何も、感情さえ小さく息をするたけだ。
優しい夢が殺すのだ、と老人は言った。
塵になって、俺や老人や少女を支えている者たちは、みな優しい夢に殺された。
ここには何もないから。優しい夢が喜びを与えたから。必要ないからなかったのに、喜ぶということを思い出させたから。
骸として残るのは、夢を見ることなく、迎えるべき決められた終わりをつつがなく終えた者だけだ。
だから、少女は水を注ぐ。見ることのできなかった夢を見せるために。
もうすぐ、あの骸には、美しい花が咲く。
この真っ白な哀しい世界の中で、それだけが色を持つことを許される。
美しい花が咲く度、俺は、声にならない声で叫んだ。
すべてを脱ぎ去って、取り去って、花を咲かせたいからだ。
少女が注ぐ水を受けながら、優しい夢の音を聞きたいからだ。
俺の花が咲く時、老人はまた泣くのだろう。
「ああして初めて、ここで夢を見られる」と。
俺ではない誰かに、ここでの生き方を教えながら。
渇いた表面を潤し、ひび割れた部分を繋ぐように。少女がそうすると、いつも水は不思議と皮膚のように渇きを包んでしまう。
特別な水なのだろうか。それを聞いたことはない。少女は骸の声しか聴かないからだ。しかし、翼を持つ少女は、俺とは何か違う存在なのだろう。だからきっと、水も特別なものなのだ。
少女が水を注ぐと、骸は芽を生む。新しい命が、失った命を種に芽吹いていく。
「ああして初めて、ここで夢を見られる」
俺の隣で、老人はいつも同じことを言う。大きな生き物の骸で作った、粗末な弦楽器を鳴らしながら。がりがりに痩せた身体で、垂れ下がった瞼の隙間に涙を溜めながら。
ここで夢を見る者は、すぐに塵になってしまう。ただ、地面の一部になって、そこかしこで蹴れば散る小さな山を作る。
ここには何もない。そう老人が教えてくれたように、ここには時間だけがある。
老人の鳴らす音を聞く時間。変わり映えのしない景色の中を歩く時間。少女が水を注ぐのを眺める時間。
そんな時間だけがあり、他には何も、感情さえ小さく息をするたけだ。
優しい夢が殺すのだ、と老人は言った。
塵になって、俺や老人や少女を支えている者たちは、みな優しい夢に殺された。
ここには何もないから。優しい夢が喜びを与えたから。必要ないからなかったのに、喜ぶということを思い出させたから。
骸として残るのは、夢を見ることなく、迎えるべき決められた終わりをつつがなく終えた者だけだ。
だから、少女は水を注ぐ。見ることのできなかった夢を見せるために。
もうすぐ、あの骸には、美しい花が咲く。
この真っ白な哀しい世界の中で、それだけが色を持つことを許される。
美しい花が咲く度、俺は、声にならない声で叫んだ。
すべてを脱ぎ去って、取り去って、花を咲かせたいからだ。
少女が注ぐ水を受けながら、優しい夢の音を聞きたいからだ。
俺の花が咲く時、老人はまた泣くのだろう。
「ああして初めて、ここで夢を見られる」と。
俺ではない誰かに、ここでの生き方を教えながら。
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