転生して邪神になったのでとりま世界滅ぼします

白猫ゼロ

37話 エルフの国その三

少年は裕福だった


父親は若くして自分の商店を大成功。いくつもの支店出して、エルフ界の中でも片手で数えて入るほどの大金持ちになった。長男である少年は店や財産を継ぐため、父親から毎日商人の心構えからお金の使い方などを教えこまれていた。


「レン、お前は将来この大きな商店と財産を受け継ぐことになる。だが、商店の経営は大きければ大きいほど大変だ。経営できる程の人望と頭脳は勿論のこと、商人の心構えも忘れてはいけない」


「はい!お父様、僕がいつかこの店を継いだら必ず今よりもっともっともーーーっと大きくして、世界で一番大きな商店にして見せます!」


「うむ、期待しておるぞ。お父さんも必ずお前を立派な商人にしてあげるからな!」


少年とその父親はそれぞれ片手を目の前に持って行き、お互い小指だけを立ててそれを絡めさせた。


「「指切りげんまんウソついたら針千本のーます!!」」


少年は父親と湖のほとりの花畑で約束をして眩しい笑顔を見せて、また、父親はそんな息子の様子を見て、穏やかな笑顔を見せた。


「レ~ン、おとーさ~ん」


すると双子の妹が、昼食が出来たことを伝える。


それは少年の大切な思い出。しかし、その鮮やかな思い出は少年を闇に落とす鍵となる。



◆❖◇◇❖◆

「おい、朝だぞレン!起きろ!」

布団を練習用の木剣でつつかれ、くるまっていた彼は「んー」と唸りをあげて上半身を起こすと、目を擦ってベットから這い出る。


王国騎士団近衛第三部隊副長  レン・グラフィティは夢を見ていた。かつて父親と約束したあの夢だ。湖のほとりの花畑で眩しい笑顔をしていたあの可愛い少年は、すっかり顔つきの良い青年になっていた。


「.....そいえば、あれから笑ったことないな」


「ん?どうしたんだ?」


「いや、なんでもないすぐ着替えるから待っててくれ」


「おうよ!たとえ、何分何時間遅れようとも俺はお前の戦友であり、親友!待ってるなんて当たり前よ!」


「ああ、そいつはありがたい」


ふっとここで彼はなにが違和感を感じる。普段自分が、お互い新入りの頃から毎日遅刻ギリギリになっても起きないので、呆れながら起こしているルームメイトが逆に自分を起こしている。嫌な予感がして、咄嗟に左腕に着けている腕時計を見た。7を過ぎた針を見た彼は、頬を引き攣らせて青ざめる。(近衛騎士団の早朝訓練は午前5時から7時まで各部隊合同で行われる)


「全くお前が寝坊なんて珍しいこともあるもんだな」


「ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!」


断末魔に近い悲鳴を上げて、急いで身支度を済ませた彼は、それはもう急いで練習場へ向かった。


「なぁ、なんでそんな急いでんだ?どうせ早く行こうがもう終わっているのは変わりないんだから急がなくてもいいじゃないか」


「こんな時に何言ってるんだよ!」


髪の寝癖も治さず、急いで走っている自分に理解できないとでも言っている親友の顔が後ろから見えて苛立ちを覚えるが、一理あると一瞬思ってしまったが、首をブンブン振って雑念を振り払う。


寮から一時間ぐらいの練習場まで着いた時二人は息をあげて門を眺めていた。複数の意味でドクンドクンとなっている心臓の部分に手を当てて、落ち着かせる。そして覚悟を決めると


「い、行くぞ」


「お、おう」


練習場の門を開く。二人を迎えていたのは、冷たい目と失笑と嘲笑と微笑ましい目。そして最後に目を細めて、上部に影がある笑顔。二人はガタガタブルブルチビチビしながら笑顔を向けているポニテの女性もとい団長の元に向かう。


「二人とも昨日はぐっすり眠れたかい?」


確かに笑っているのだが、その目は明らかに笑ってない。その笑顔に異常な威圧を感じ取った新人は小刻みに震え、数年前からいる騎士も「やっちゃったね」と言わんばかりの同情の眼差しを敬礼している副長二名に送っている。


「え、えぇまぁ...」


「んで?まだ入団して半年の新人ですらちゃんと来ているのに副長が揃いも揃って遅刻とはよっぽどの理由があったんだよね?」


「「...」」


「ねぇ?」


「「...」」


「んーどうしたのぉ?」


「その────寝坊しました(小声)」


「ん?今なんて」


「寝坊しました...」


「へぇ...副長が寝坊ね、しかも二人とも」


「「すみませんでした!!」」


「ちょっと、ホント何やってるのよアンタ達!!『副長が二人とも朝練に来てないなんて過去一度もない』って近衛大隊長にも言われたんだけど!ねぇ?散々他の隊から馬鹿にされて、総隊長からも『第三部隊は指導がちゃんと行き届いてないのでは?』って言われた私の気持ち分かる?ねぇ?それでも副長!?」


普段凛々しい彼女が、ヒステリックに怒る姿を見てドン引きしている新人は置いといて、副長に巻き込まれて残されていることに不満げな視線も数多く感じられるので今度一杯奢っておかないとなと溜息を着くのだった。


「全く...もうすぐ私引退なのにちょっと、というかかなり心配だわ」


隊長の年齢は20歳でまだまだ若いのだが、この世界ではもとの世界から見たら早婚で、男女共に平均的に20歳前後で結婚し、女性は結婚したら直ぐに子供を産む人が多い。彼女やレン達は、かつてかずとと剣を交えた獣人族の騎士団副団長を務めているステフなど比べると昇進が遅いような気もするが、ステフの剣の才能が天才的かつ圧倒的で、獣人界の全体な風潮として完全な実力主義なので、長く所属しているものほど重役に着きやすいエルフ界との風潮との違いもある。故にエルフ界の風潮からすると小隊とはいえ、20歳で隊長に抜擢されている彼女は昇進が早い方なのだ。しかし、いくら剣と共に生活している彼女とはいえもう20歳。そろそろ結婚の事を本気で考えなければならない年になっている。しかし、夫より強い妻というのは面倒だと言うことで中々上手く行かない。故に同じ騎士と結婚することが多いのだが、彼女と同じまたは、上の隊長クラスは全員既婚だ。いくら一夫多妻制が認められているとはいえ複数人妻を養えるほど騎士団の給料は良くない。(騎士団の制度として、妻の保証手当は一人分までしか貰えない)かと言って一夫多妻制が実現できるぐらいの役所の人は大概貴族で農民の出の彼女にはおこがましいと感じられてしまう。そして彼女と同年代の男は大概、平の騎士だから逆に腰が引けてしまって上手くいかない。


「でも、隊長の相手って今のところ見つかりそうに無いですよね?」


その場の空気が凍りつく。そうレンの親友は龍の逆鱗に触れでしまったのだ。


「そうかそうか、お前らそんなに訓練がしたいのか、それはいい心掛けだな」


もはや口すら笑って居らず、恐怖で竦むレン達を他の騎士は、合掌をして冥福を祈っている。その後夜10時から次の日の朝練まで訓練場を周回させられたレン達の目は死んだ魚の様な目だったという。


その日の昼休み彼は王城の花畑にいた。ここにはあの湖はないが、花たちを見ているだけでレンは落ち着く。ただ、見る度に思うのだ。


─── 大商人を継ぐはずだった俺がいつの間にか剣を学んでいるとは皮肉なものだ───






_:(    _ ́ω`):_もう勉強したくない……(o_ _)o パタッ

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