ダンジョンを現役冒険者パーティーで経営、そして冒険者から金品+命を奪うのはアリですか?

ゴッティー

第9話 瞬殺。

「全員、逃げろーーー!!! ここは俺達が抑える! 全員、早く非難を!」

 そう叫び他の冒険者たちを誘導したのは先程ダンジョンボスへ挑もうとしていた若い剣士だ。周りには彼の率いるパーティーメンバーたちと先程、彼と話し合いをしていたベルク率いるパーティーメンバー。

「何をしている? お前たちも逃げろ!」

 その若い剣士はこちらへそう叫ぶが…琥珀たちは動かない。というより逃げた方が良いのはそちらなのでは…。と、思うがまだ琥珀の戦力も強さも知らない彼らが避難するよう呼び掛けてくるのは仕方のないことだ。

「おおおお゛お゛ーーーー!!!」

 彼の率いるメンバーの一人、盾を持った男がダンジョンボスに突進していった。しかしダンジョンボスはそれを見計らっていたかのように既に上空へ振り上げていた尻尾を盾使いに振り下ろした。

「うっ、嘘だろ…。セレナ、キュース! 魔法を放て! 連発で出来るだけあの化け物の進行を阻害しろ!!!」

 瞬殺。たったの一撃で通常の人よりも大きい盾を持っていた盾使いは潰された。

 若い剣士はセレナとキュースに命令を出し、二人は詠唱を唱え始めた。

「俺達もだ。ジジイは魔法連発でボスの視界封じ。ラクスは弱体化魔法を。そして
ヴァイス、お前はいつも通りだ!」

「「「了解、リーダー」」」

 ベルク側も動き出し、ジジイ呼ばわれの老人は魔法を1秒間に2、3回ほど放ち、指示通り魔法連発だがこれは驚異的な速さだ。そしてラクスとヴァイスはまだ詠唱を続けている。するとどうやら若い剣士側のパーティーの詠唱が終わったようだ。

「化け物め、硬すぎだろ! まあいい。セレナとキュース! 今だ!!!」

「オッケー!! 【ファイヤーキャノン】!」

「【セヴェラルアイス】」

 後方からセレナが火の玉を撃ち、キュースが多数の氷の槍のようなものを上空に作り出し、二人の魔法は先程から同じ場所を集中的に攻撃していた若い剣士と同じ場所に当たった。その場所とはダンジョンボスの前の右足であり、3人の攻撃によりダンジョンボスの足は粉砕した….ように見えたが、実際はあまり若い剣士の攻撃は効いていなかったような気がする。傷口からセレナの放ったファイヤーキャノンが中へ入り込み、効果が上がったという可能性もあるが、あの数十センチ程度の傷口では中に入り込めた火も少ないだろう。要は大して若い剣士の攻撃に意味は無かったように思う。

「やるな~! 俺達もそろそろ良いんじゃないか?」

 ベルクは先程からダンジョンボスの攻撃を避けてばかりで自ら攻撃を仕掛けに行きはしていないが、ダンジョンボスの気を自分に集め、後方で詠唱している魔法使いたちへダンジョンボスが行かないようにする技術はかなりのものだ。

 しかしベルクは後方を振り返り、ラクスとヴァイスが魔法の詠唱を終えたことを確認し、ダンジョンボスから離れた。

「【ランクドロップ】+【インクリーズヒット】」

 ラクスが魔法を発動した。彼の魔法によりダンジョンボスの巨体は少し小さくなり、その攻撃手段である尻尾の長さは半分にまで縮んだ。そしてダンジョンボスの身体からは紫のオーラが舞い上がりダンジョンボスの走る勢いが一気に弱くなりふらふらと体感バランスを崩している。

「【ストーム】!」

 その後すぐさまヴァイスがストームを放ち、その魔法名通りダンジョンボスの周りを取り囲むように巨大な竜巻が姿を現し天井まで吹き飛ばされたダンジョンボスは最後には数百メートルもの高さから地面に落ちた。

「か…勝ったのか?」

 動かない。ダンジョンボスはびくともしない。先日琥珀たちが戦ったダンジョンボス(巨大鼠)はこれほどまでに弱かったのだろうか。あの時の巨大鼠はまず視界を塞いだとしても容赦なく突っ込み、そして空中に浮かしたとしてもその尻尾を上手く使い時にはこちらの魔法を利用し、上空から攻撃を仕掛けることも出来たはずだ。バランス感覚も能力も全てが今、この場で戦っていたダンジョンボスより圧倒的に強かった。

「…もう、動かないよな…」

 若い剣士は恐る恐るダンジョンボスに剣で突き、ダンジョンボスの状態を確認した。

 いや、まだだ。次第にダンジョンボスの身体が膨張していき、その身体の中からは明るい太陽のような光が少しずつ放出されていきその姿は元の4倍以上の大きさまで膨張すると破裂した。

『―――――――――――――――――――』

 あまりの爆風で何も聞こえない。無音無色の真っ白な世界。この空間は白で覆われ今まで戦っていた二つのパーティーの魔法使いは結界と防御魔法などで自身のパーティーメンバーを守り逃げるのを辞めたようだ。琥珀側も同様にディアブルとメルが瞬時に防御魔法を発動し5人を守った。

 爆発による衝撃波、爆風、地響きが収まると琥珀たちはお互いの生存を確認した。しかし消費魔力は多く、ディアブルとメルは地面に倒れ込んでしまった。

「やはりダンジョンボスの攻撃に耐えるにはレアアイテムがいくつあっても足りないな…」

「そうですね…。すみません。私達、もう魔力が限界なので少し休みます…。そういえばあの二つのパーティーの冒険者たちは…無事ですか…?」

 辺りを見るとダンジョンの壁まで追いやられた二つのパーティーの姿があった。各パーティーごとに最低1人は重症者がおり、その他はポーションを飲めばすぐに治るほどのものでしかない。あれ程の爆発で生き残れるだけでも凄い事だというのに重傷者が総合2人しか出ていないのは両方の魔法使いはかなり優秀な証なのだろう。

 エレガ、エルクは立ち上がり各パーティーへ向かった。

「飲みなさい。回復ポーションよ」

「お前ら、何故生きて――」

「今はそんな事どうでもいいわ。さあ、早く飲むのよ。貴方たちも」

 エレガは疑問を口にする若い剣士の口に体の傷を治す治癒能力のある液体、回復ポーションの入ったボトルの飲み口を押し込んだ。

「おい、お前たち、大丈夫か? 早く飲め」

 そしてエルクもエレガと同じように回復ポーションをベルク側に配っていた。

「ああ。助かる。ボスは?」

「自爆して消滅した」

「良かった。なら安心して飲めそうだ…」

 煙が完全に収まり、ボス部屋まで見通せるようになった時、この場の全員は唖然として先程爆発した場所を見た。

 咆哮。

 その場には先ほどと同じように前進の黒い鼠が立っていた。しかしその鼠は巨大というよりは大型鼠ほどの大きさになり以前より小さくなっていた。巨大鼠はこのダンジョン内に多数存在しておりその大型鼠が地下7、8階で出現する単なる魔物なのであれば苦労はないのだが…。この鼠は別物だ。体からは黒よりも黒い暗黒のオーラが滲み出ており、両手両足が普通の巨大鼠より1.5倍ほど長い。

「に、逃げろ!」

 数人は足を引きずりながらも回復途中の二つのパーティーのメンバーたちはその場から一刻も早く逃げようとボス部屋とは逆方向へと走り出す。回復薬は一人二つずつ渡している為、足りながらも飲んでいるがあまりの勢いでそのほとんどが口に入らず地面にこぼれ落ちてしまっている。

 だがそれでも遅かった。あっという間にその暗黒のオーラに染まった鼠、いやダンジョンボスは彼らの後ろへ接近し、その尻尾を彼らに振り落とした。しかし…。

 ガキンッ…グググ…

「はああーーーーーーーー!!!」

 エルクが盾でそれを跳ね返し、ダンジョンボスは跳ね返された尻尾に吊られ後方へ飛ばされた。案外胴体より尻尾の方が重たいのかもしれない。それはともかくダンジョンボスはバランスよく地面に着地し、即座に体勢を整え再びエルクに突進。だがダンジョンボスの突進した場所はエルクではなく、地面だった。

 ダンジョンボスが突進する時、ダンジョンボスは一瞬だが後ろ脚を深く地面に付きそうな所まで曲げてから突進攻撃に入っていた。つまりその一瞬の内に突進攻撃の機動となる後ろ脚を二足ともエレガが切り落としていたのだ。そしてダンジョンボスはそれに気づくことも無く、まんまとエレガの狙い通り地面に激突した。

 驚いてダンジョンボスは振り返り自身の足を見たが、そこに自身の足、いや、もうそこには自身の下半身すらも残ってはいなかった。

「キュㇽㇽㇽㇽ….」

 そしてダンジョンボスは一瞬で消滅した。確かに突進力と速さは琥珀たちが戦った時とは段違いだ。しかし、その分攻撃前の溜めが大きく、突進の前後の隙で容易く片付けることが出来た。

「なっな、何なんだお前ら….」

 (おいおい、そんな目で俺達を見るんじゃないw 助けたの、俺達だぞw)
 と、思った琥珀だが、逃げ出していた冒険者たちは変化した暗黒のオーラを放っていたダンジョンボスを見る時以上の恐怖の目でこちらの顔を窺う。まさかこれほどまでに簡単にダンジョンボスを倒せるとは…。

「琥珀! 凄いじゃない、貴方! 今のどうやってやったのよ!?」

「今の…?」

 そういえば丁度、ダンジョンボスで人間の横っ腹にあたる柔らかそうな部分をいつも通り斬っただけなのにもかかわらず、琥珀の攻撃はその部分だけでは収まらずダンジョンボスの下半身と上半身が真二つになったような気がする。この短剣の刃の長さは精々22cm程度でありその長さがこの短剣の攻撃範囲となる。普通ならあれほどの巨体を斬ることは出来ないし、そこまで斬った覚えも無い。本当ならダンジョンボスは消滅せずに起き上がるための横っ腹にある筋肉を使えず、苦しみ、そして最後にエレガが倒せるようにという計算だったが、一振りで一刀両断してしまったようだ。

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