ダンジョンを現役冒険者パーティーで経営、そして冒険者から金品+命を奪うのはアリですか?

ゴッティー

第6話 武器屋と宿屋

 ボス攻略後、琥珀は武器屋へ来ていた。他の4人はダンジョンボスを倒したことによる疲労ですぐさま各自帰宅していった。本当は武器屋へ来る前に今まで泊まっていた宿屋を再び借りなければならなくなった。理由はダンジョンボス攻略後、琥珀はすぐにエストへ向かうつもりだったため、宿屋の部屋の鍵を返してしまったからだ。しかし新しい武器を得て案外充実した日々をエレガたちのお蔭で過ごせていた琥珀にとって、エストへ向かう必要は既に無くなっている。それにこの町の冒険者ギルドでの功績も高く、現在琥珀の所属しているパーティーのメンバーたちも信用の出来る者達のようだ。エストへ行き新しいパーティーを探す手間も省くことが出来るのだからますますエストへ行く必要は無い。

 ちなみに琥珀はダンジョンボスへ挑むまでの数週間でなんと冒険者ランクがDからC-へと上がっていた。これは駆け出し冒険者が普通の冒険者として認められるほどになったということだ。そしてパーティーメンバーの4人全員もが冒険者ランクC+からB-へと上がったようだ。これほどまでに成長の早く、そして前衛と後衛のバランスのとれたパーティーにダンジョンへ入ったばかりの時に誘われたのは幸運なのだろう。

「お客さん、いらっしゃい~!!」

 店に入ると出入口の真正面にカウンターがあり、その場で立っていた男がこちらへ歩き寄ってくる。エレガによると店主はハゲで背のとても高い筋肉ゴリラだという情報だが、この男はまさしくそれに当てはまる。つまりこの男がこの店の店主であるグリードなのだろう。店内には高価格の武器が数百種類と置いてあり、エレガによるとこの店はエルドで一番安く、そして強い装備の揃った武器屋とのことだ。しかし琥珀の目的は武器ではない。

「今日が初めてか? 安くするぜ」

「ああ。今日が初めてだ。ちなみにエレガの紹介で来たんだが、生憎目的は武器じゃない。鑑定だ」

「鑑定??? エレガの紹介と聞いて期待したが、鑑定かよ! で、どんな武器だ?」

 琥珀は短剣を渡すとグリードは目の色を変えて真剣な表情でその短剣を見始めた。

「ダンジョンドロップアイテムか…。素材は不明。作りもまるで柄と刃がはじめから繋がっているような感じだな。で、この武器の何を鑑定したい?」

「武器能力」

「武器能力は最初に武器に触れた時、頭の中にその武器の情報が流れ込むと思うのだが…」

「ああ。確かに流れ込んできたには流れ込んできたが…たったの一文字しか現れなかったんだ」

「ん? そんなわけないだろ?」

「ん~。まあいいからさっさと武器能力、鑑定してくれ」

 店主は詠唱をし始めた。鑑定魔法は鑑定する事を事前に決めておかなければならない為、一度に対象の情報を全て調べ上げることは無理なのだ。そのため、グリードは詠唱前に琥珀から何を調べるのかと聞いたのだ。それはともあれ、グリードの右目の周りには緑色の光を放つ円陣が現れ、次第に彼の鑑定魔法対象物である琥珀の短剣はより一層黒いオーラを放っていたが、グリードが詠唱を終えるとそのオーラも止まった。

「で、武器能力。一文字以上の情報、分かったか?」

「….。わからないな。俺が調べられたのはお前さんの言う通り能力が『裂』だって事と、それと武器能力に耐久値無限とあったが、これはつまり絶対に鈍ることも刃こぼれをすることも無い能力という意味だな。一体、この短剣どこから手に入れたんだ?」

「耐久値が無限? なるほど。そんな能力も付いていたとは。あとこの短剣を手に入れた場所も方法も教えるつもりはない。悪いな。それとこの短剣の武器能力とこの存在は他言無用だ」

 そう言い、琥珀は30万をグリードに手渡した。

「ん? なんだこれは?」

「鑑定代と口止め料だ」

「なるほど。口止めは安心しろ。元から他言する気は無い。ところでお前さん、その短剣売らないか?」

 商売人の顔だ。琥珀の予想ではグリードは500万前後の金額で買い取ろうとしてくるはずだ。

「500万はどうだ? これから最低10年は遊んで生きていられる金額のはずだ」

「売る気は無い。悪いな。あとその金額はぼったくり過ぎだと思うぞ。」

 琥珀なら1000万以上で取引をするべき代物だと思うのだが…。特に耐久値が無限というのは大きい。かなりの高値で取引させるはずだ。なんせ何万年と月日が経ったとしてもこの短剣だけは絶対に鈍ることは無いのだから。しかし1000万もの大金での取引となると最終的にこの短剣を手にするのは確実に冒険者では無く、貴族か商人。冒険者でも無い戦闘とはかけ離れた奴らにやるほどこの短剣の価値は低くない。つまりどのみち琥珀は誰かに売るつもりなど一切ない。

「バレたか。流石、エレガに紹介されて来たほどの冒険者だ。その短剣は諦めるが、何か武器関係でまた用事があれば俺の所へ来てくれ! 安くしとくぜ!?」

「ありがとうグリード」

「お前さん、何故俺の名を…。って、エレガが教えたのか。まあ、また来てくれ!」

 琥珀は店を出た。そして琥珀は再び昨日泊まった宿屋へともう部屋が埋まっていないことを祈り、向かったのだった。

― ― ― ― ― ― ― ― ― 

「あの、部屋は空いているか?」

 琥珀が宿屋の受付に再び現れると宿屋の女将さんと宿屋内では言われている彼女が料理室であろう場所から出てきた。彼女からはこの宿屋で出されていて一番人気のポテトクリームスープの香りがしており、どうやらスープを作っている途中だったようだ。

「あ、今日出て行った人だね? 部屋は丁度一部屋、だけど前より全然大きい部屋だけが空いちゃっているけど大丈夫かい?」

「ああ。ならその部屋を借りる。」

「はいよ。じゃあ、一泊2000よ」

 今まで泊まっていた部屋より2倍も高くなっている。

「では一か月頼む」

「一ヶ月? 正気かい? 一ヶ月って言ったら30日×2000で6万よ?」

「ああ。それで大丈夫だ。金はある」

 と、琥珀は1万と刻まれたコインを6枚ズボンの中から取り出した。すると宿屋の女将は驚き言った。

「驚いたわ! まさか自分のズボンからまるで小遣いを取るように6万を出してくるなんて。貴方、もしかして物凄く有名な冒険者とか?」

「いや、そこまで有名ではないと思うぞ」

「いや~。そんな謙遜を~。そういえば名前を聞いていなかったわね。本名でも冒険者名でもいいわ。どちらか有名な方を教えてくれる?」

 悩む。非常に悩む。本名を教えるべきか冒険者名を教えるべきか。本名はもう暗殺者を辞めている身。名前を隠す必要など無い。冒険者名を持っていない琥珀は正直に本名を言えば良いのだが、冒険者名というものに冒険者を始めた今となって憧れている琥珀にとっては例え相手がただの宿屋の女将だとしてもこのどちらを教えるべきなのかという問題は非常に難しい。冒険者名を名乗るということは今瞬時に冒険者名を名乗る必要がある。さてどうしたものか。

 宿屋の女将にこの質問を得てから数十秒、やっと琥珀は決断を下した。結果・・・

「俺の名は琥珀だ。冒険者はまだ持っていない」

 諦めた。やはりこれから一生身に付きまとってくるであろうこの冒険者名は決して今この時だけの気持ちで決めてはいけない。冒険者名は時間を掛け、どのような名が自分に相応しいのかを自分以外の人にも相談し、決めた方がいいだろう。というわけで琥珀は冒険者名を考えることを止め、自分の本名を伝えることにしたのだが実際、ただ考えるのが面倒であり単に何も思いつくことが出来なかったのである。

「琥珀…ね…。本当ね。聞いたことないわ。以前、商人だったとか?」

「いや、まあそんな感じだ」

 暗殺者だったので今までの蓄えがあるとは当然言えるわけも無く、女将になんとなくだが同意してしまった。

「そうなのね。じゃあ裕福だった商人には少し物足りない部屋かも知れないけどこれから一ヶ月よろしく、琥珀」

「ああ。よろしく頼む」

 こうして琥珀はこの町で一ヶ月を過ごすことを決めたのだった。

 ところであの暗殺者はどうなったのだろうか? 顔を隠すように以上に長いフードを被り、琥珀を数週間前に集団で襲い、その後敗北しベルムヘイド王国にいるであろう琥珀の暗殺依頼を出したであろう依頼提供者、ヨミスの暗殺へと向かったあの女の暗殺者は…。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品