ダンジョンを現役冒険者パーティーで経営、そして冒険者から金品+命を奪うのはアリですか?

ゴッティー

第3話 パーティーとの出会いと加入

「もしかしてそんな事も知らないでここへ来たんですか?」

「ああ。ちょっと通りすがったから潜ってみようと思ってな」

「えっと…。通りすがり...って、エルドにはダンジョンここしか無いですかど」

「んん….。で、ギルドには寄ったのだが、このダンジョンの情報を聞くのを忘れていた」

「何かさっきと話が全然違うわよ? 通りすがりじゃなかったかしら。まあ、良いわ。これからダンジョンは深夜タイプの今よりもっと厄介な魔物が出てくるから貴方も狩りはもう止めてダンジョンから出た方が良いわよ」

 女の子の隣から赤毛の女が途中から話しかけてきた。まあ、この女の言っていることは本当だろう。彼女は良い装備を装着している。つまりランクの高い冒険者だ。琥珀はこの女の忠告を素直に聞くことにした。

「で、貴方、名前は?」

「琥珀だ。お前は」

「お前はって…。私は貴方よりずっと上のランクの冒険者で年上なのよ? まあいいわ。私はエレガよ。こっちのジジイはエルク。で、この眼鏡はディアブル。そして今さっき、琥珀が戦っていた中型物理鼠を倒したこの子はメル」

「何故、自己紹介をする?」

「何故ってダンジョンを抜けるまで貴方と一緒に上まで上がるからよ。それにどうせその装備では帰れないでしょ?」

 薄いシャツに普通のズボン。腰に短剣を二つ下げ後ろには小さなポーチを一つ。茶色いフードの付いたマントも着ているがこれがより増して琥珀を弱く見せているのだろう。琥珀が思うにエレガは琥珀の全体的な装備を見て先程の中型物理鼠との戦闘で装備を失い、あまりアイテムも持ってはいないように見えているのだろう。

 装備はその冒険者がどのくらいの強さなのか、そしてどれ程金銭的に余裕があるのかという象徴でもある。また、魔法が使えず、自身が潜るダンジョンの情報を未然に集めていないことからして琥珀は一見、駆け出し冒険者と同じように見える。というより実際、琥珀は駆け出し冒険者なのだが...。

「まあ、帰るには何の支障も無いのだが―――」

「なら決定ね。こんなランクの高い冒険者パーティーにダンジョン外まで連れて行ってもらえるのよ。感謝しなさい」

 エレガはそう言い、上の階へと続く階段へ歩き始めた。歩いている途中で何度か魔物が現れたが、襲われる前にメルが全てを倒してしまった。結局、メル以外は地下4階からダンジョンの外へ出るまで一切魔物と戦うことは無かった。

 琥珀は知らなかった。冒険者で魔法を使えるというのはこれほどまでに楽で頼りになるのかと。単純な攻撃力や数ですら魔法の方が上だ。道理で冒険者は最初に相手の力を測る時、相手の魔力を先に見るのだな。琥珀は魔力が体内に一切無いため、そもそも魔力というものがどのようなものなのか、そして大抵の人がどのくらい魔力を持っているのかということを知らない。だから琥珀は魔力で人を測った事は無い。だが暗殺の世界でも大抵、暗殺者たちは暗殺対象の魔力を測ってから相手の力量を見て暗殺の計画を立てるらしい。

「で、あなたどこから来たの?旅…では無いわよね?」

 エレガは琥珀の服全体をチラチラと見ながらそう言った。まあ、この服装からして旅人とはまず思わないだろう。それに今まで冒険者をしていたようにも見えないはずだ。軽装というよりマントを被っただけで武器は短剣のみ。切り札やちゃんとした防具をはめずにダンジョンへ潜る人など冒険者、旅人、あるいは暗殺者でもあり得ない。他人から見ると自殺じみた装備だ。

「帝都から来た。旅人というのは嘘じゃない。まあ、ベルムヘイド王国からエストへ行く途中だ」

「ベルムヘイド王国からエストって…物凄く遠いじゃない!」

「もしかしたら琥珀殿はとても裕福な家の子なのかもしれないのう」

 まあ、エルクの言う通り、ベルムヘイド王国からエストへ行けるのは裕福な家庭の子か商人だけ。何故ならこの二国の間にはこの町しか栄えた場所は無いのだ。それ以外の場所は魔物が多く存在し、人がほぼいない森や草原になってしまい、眠ることも出来ない。勿論そんな場所で寝てまで国を渡ろうとする人は国から指名手配されている犯罪者や強盗だけであり、琥珀の年齢からしてそれは無いと推測したのだろう。

「まあ、二人が思っているように俺は直行でエスト行きの馬車に乗ったんだが、途中でちょっとした問題が起きて馬車でエストまで行けられなくなった。で、丁度この町の近くで降ろされたからこの町で一日泊まったってわけだ。」

「なるほどね。ちょっとした問題っていうのが気になるけど話をぼかしたってことは聞いてはいけないことなのよね。きっと」

「ああ。聞かないでくれると助かる」

「まあ、いいわ。ところで貴方、冒険者ランクはどのくらい?」

「Dランク」

「Dランク? なら貴方なりに頑張っていたのね! Dランクは普通、パーティーでも最高地下三階までしか潜らないのが基本よ!」

「ああ、まあな。ここら辺の魔物は斬ってもあまりダメージが入らない。短剣のみ使える俺にはここまでが限界だろう」

 あまりというより地下4階へ辿り着いた頃には魔物にほぼダメージを与えられず、魔物の肌に刃が触れる前にシールドの様な何かに防がれていたのだ。同じ場所を連続で斬ればそのシールドの様な何かを割り、魔物の肌まで刃が届いたこともあるが、ほぼこの辺りの魔物は短剣が効かないようだ。

「え? 貴方、短剣がメインの武器なの?」

「ああ、そうだが」

「変わっているわね。短剣は剣より射程も威力も低いし何より刃物類のみ使える技や戦術が無い。それなのに何故、短剣を?」

「まあ、簡単に言うとこれの方が扱いやすいからな。剣や槍は一つ一つの動作が大きくて攻撃した直後、隙が生まれやすい。その分、短剣は両手を使うことが出来て攻撃と防御を一度に出来る唯一の武器だからな」

「案外、色々と考えているのね。でも短剣は止めた方が良いわよ。短剣には技や剣術といえるものが無い。技も無しに短剣を振るっていてもすぐに体力の限界が出てくるわ」

「そうなのかもしれないが、俺にはこれしかない。短剣以外は使う気が無い。アドバイスありがとな、エレナ」

「ま、まあ、いいわ。貴方が短剣を磨いてきたのなら今後、可能性だってあるかもしれないものね」

「そうだな。短剣ではないが昔、君と同じように技の全く無い弓のみを鍛え上げて高ランクの冒険者たちと冒険をしていた冒険者が一人いる。そいつはかなりの手練れで技は無いものの、どこから撃っても必ず的に当てる凄腕だった。もしかしたら短剣だけを鍛えるとそいつの様な凄腕になれるようにもなるのかもしれないな」

「無理よ、そんなの」

「何故だ?」

「だって弓の場合は魔法使い以上の超長距離からの射撃が出来るけど、短剣の間合いは凄く短い。いくら技や腕が良くても相手の攻撃に耐えきれないのならそこまでの進化は出来ないわ」

「なるほど。まあ、こういう風に短剣と弓、どちらにも色々な意見があるが君が短剣を極めたいと言うのなら自分の最高まで極めてみると良い。そこでもしかしたら短剣の新たな可能性を見つけられるかもしれないからな」

 なんかどうでも良い抗議の果て、最終的に琥珀が使う武器は短剣のみでも良いという事になったようだ。全く、何故この人たちに自分の武器についてこれほどまでに熱く語られなくてはいけないのだろうか。まあ、上のランクの冒険者ということで自分の事での話題だが、話に突っ込まないようにしていたが勝手に武器を無理やり変えさせられそうな展開にはならなくて良かった。時々、自分の理想を他人に押し付けるような奴がいるから警戒はしていたが、どうやらこの人たちはそういう類の人間ではなかったようだ。

「で、貴方はパーティーに入っていないの?」

「いや、まだこの町に来たばかりだからな」

「なら私達のパーティーに入りなさいよ。私達なら色々とダンジョンの事を教えてあげられるわよ?」

 確かに琥珀自身の事だけを考えればそれはもっともな提案なのだが、琥珀は昨晩依頼した暗殺依頼の報酬を渡さなければならないのだ。まだ取引先を決めてはいなかったが、暗殺者である彼女ならエストへ行く予定だった琥珀がこの町で冒険者をする事もいずれ気づくだろう。でなければ渡す必要も無い。その程度の情報すら集められないような暗殺者なら依頼提供主のヨミスを暗殺することなど出来ない。情報を集められないということは暗殺にとても不利な状況を作り、共に暗殺目標を捉えられる可能性もまた低くなる。それにヨミスは特に情報収集の上手い暗殺依頼提供者だ。実際、琥珀は彼女にヨミスの暗殺依頼を出したが、依頼達成はあまり期待していない。それほどヨミスは暗殺対象にしては難しすぎる男なのだ。

「ああ、ならお言葉に甘えてパーティーに入れてもらうことにしよう」

「素直に年齢相応のお願いの仕方をすればいいのに。そうね~、”僕をパーティーに入れてください”(ニコッ)ってな感じで言ってくれたら入れてあげてもいいわよ?」

「何でだよw」

 こうして琥珀はエレガのパーティーに入ることになった。そしてその時、冒険者ギルドの酒場では琥珀の事が密かに話題になっていた。

「見たか? あの短剣の動き! あれは相当な凄腕だぜ」

 酒場全体で賑わう冒険者たち。その角でひそひそと話をする4人の男たち。

「何を騒がしくしている? お前たち、今日は朝まで地下2階で狩りをするんじゃなかったのか?」

「お! おやっさん!いや~、やっぱりいくら地下2階と言っても深夜タイプの魔物はBランクの俺達じゃあ相手にならないぜ」

 ひそひそと話を進める4人の話の中へ強引に入ってきた中年男性は近くのテーブルから椅子を1台持ってくると4人の輪の中に入り座った。

「そうか。やはり深夜タイプの魔物はお前たちの手にはあまる相手だったか。ところで今、お前たちが口にしていた男の話、俺にも聞かせてくれないか?」

「はい、おやっさん。実は今日、昼までいつものように地下6階で狩りをしていて夕方になって地下2階までたどり着くと丁度、一人のガキが俺達と逆方向へ歩いて行っていたんですが、そのガキの剣技がめちゃくちゃ凄かったって話っす」

「一番大事な所をぼかすな! その技っていうのはどんな感じだったんだ?」

「すみません、おやっさん。そのガキは短剣を使い魔物を一瞬にして狩りつくし、地下3階へ降りて行きました。剣技が凄いってことはわかったんですけど早すぎて俺達にはさっぱりガキの手も剣すら見えませんした。ありゃ、確実にSランク相当の腕だったと俺は思う。って言ってもまだ一回もSランクの冒険者なんて実際には見たことは無いんだがな! はっはっはっはっはっげっげほっぐっは…….」

 男は自分の言ったことで大きくウケた後、ひどく咳をしてむせてしまった。男はむせた後、テーブルにもたれつくと手を大きく伸ばしテーブルに上半身を任せ、寝てしまった。

「おい、こんな所で寝るなよ!」

「ぐが……。zzzzzz」

「もう酔い潰れてやがる。悪いなおやっさん。俺達はもう帰るわ。それに俺達は明日地下7層まで潜る装備とアイテムの準備もこれからしなくちゃならないからな。また明後日、飲みに来るからまたその時にな!」

「おう。また明後日な」

 あまりたちの悪い輩に琥珀の噂は広まっていないようだ。だが、噂というものはすぐに広まっていく。もし彼らが黙秘したとしても琥珀がダンジョンへ潜る限り、他の目撃者によってこの噂は広まっていくことだろう。琥珀は自分の噂がごく一部の冒険者たちには広まっていることを感じ、自身の剣技があまり知られない方法を考えるのであった。

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