ダンジョンを現役冒険者パーティーで経営、そして冒険者から金品+命を奪うのはアリですか?

ゴッティー

第2話 駆け出し冒険者

「水をくれ」

「はいよ」

 ここはエストと今まで琥珀が拠点としていたベルムヘイド王国の中間点に存在する町、エルド。一人でふらふらと歩いていた所をこのおじさんに拾ってもらったのだ。そして現在、琥珀は酒場のカウンター席で水をがば飲みしているのだった。

「それにしてもよく飲むな~。一体、何日間あそこで彷徨っていたんだ?」

「大体、2時間程といったところだ」

「って、二時間かい! 心配して損したわい! ところでお主、何故あんな所を歩いていた?」

「暗殺者に襲われた」

「暗殺者じゃと!? じゃあ、お前以外は全滅ってわけか」

「ああ。あの戦いで5人も死んでしまった」

 まあ、死んだのは敵4人と馬車のおっさんだがな。

「そりゃ、災難だったな…。だが安心しろ。ここまで来ればもう暗殺者は来れねえ。何故ならこの町へ入る為には住民票ってもんが必要だからな! まあ、仲間が殺されたことを病む気持ちもわからないことも無いが、これからちゃんと生きて行けよ? じゃあ、最後に一つだけ良い事を教えてやる」

 そういい、おっさんはとある人を指差した。

「あそこで飲んでいるやつがこの町、最安値の宿屋の女将だ。お前も一通り飲み終わったら女将に宿屋まで案内してもらえ。じゃあな」

 そう言い、おっさんは宿屋を出て行った。ちなみに酒代は無い。というわけで最終的に琥珀は一通り飲むと、さっきのおっさんの酒代も払いおっさんの言っていた女性、宿屋の女将に琥珀は話しかけたのだった。そしてこの日、琥珀はその宿屋で泊ることにした。

 次の日。
 琥珀は宿屋を出た。この町はエストとベルムヘイド王国の中心部に存在する町である為、案外町の規模は決して大きくはなくとも貿易がとても盛んのようだ。その証拠にこの辺りでは絶対に取れないであろう食材、アイテム、武器などが町中で売られている。

 宿屋を出て町を少し歩き回っていると、そこで琥珀はとある依頼を見つける。壁に貼り付けられているのは魔物の討伐とその魔物を倒した時にゲットできるアイテムだ。アイテム名はプロテクト。アイテムの能力はプロテクトの名の通り、使用者を一定時間だけ守るということだった。これだけだとあまり魅力的なアイテムには聞こえないが、琥珀が目に付けたもう一つの能力が再生能力。このアイテムには使用者を数秒だけ守り、一日一回使えるということだった。要は一日に一回しか使えないが、次の日はまた使えるようになっているということだ。これは使える。そう思った琥珀は勿論のこと依頼を達成しに行くのではなく、自分の為にその魔物を倒しに行くのだった。

 で、現在冒険者ギルドの前に琥珀は立っている。いざ冒険者ギルドの前に立つと本当に偽造ギルドカードはギルド員に見られてもバレないのかと心配になる。だが、入らないのも問題なわけで琥珀は冒険者ギルドの建物内へと踏み込んだ。そして奥に並ぶ冒険者宛ての依頼リストを見るとそこにはランク別に並ぶ依頼リスト表があり琥珀は必至にDランク用の依頼を探したが、そこに先程琥珀が見た依頼書は無かった。やはりあれはAランク以上のランク依頼だったか。諦めて冒険者ギルドを出ようとしたその時、出口のすぐ横の壁に先程琥珀が見た依頼と全く同じの依頼書が貼ってあり琥珀はそれを手にして受付人に手渡した。

「えっと…。すみません。これはもう終わった依頼です。回収をし忘れていたようですね。ありがとうございます」

「このベフモスって魔物はどこにいるんですか?」

「この町の北側にある山の洞窟にいます。念のためですが、ベフモスを一人で倒しに行こうなんて思ってはいないですよね? 前回の討伐は4か月前。Bランク以上の冒険者たち50人が討伐に行きましたが、帰ってきたのはたったの30人。その上、討伐は失敗に終わったみたいです」

「そんなことがあったんですね。勿論、僕一人では倒しに行こうとは思っていないですし、またその討伐隊が組まれるっていう日まで気長に待つことにします。情報ありがとうございます」

 そう言い、琥珀は速やかに冒険者ギルドから出て行った。
 では、ベフモスの居場所の情報も得た事だし、早速ベフモスの元へと向かいますか~。ギルド員からの忠告を完全無視してベフモスに挑む琥珀であった。

― ― ― ― ― ―

 受付人は一人で琥珀が行くことを未然に防ごうと忠告をしたようだが、琥珀にとってそれは何の意味もない。それに琥珀がベフモスに挑まない方が良い理由として上げられたのがBランク以上の冒険者が50人でベフモスの討伐に行き、見事返り討ちにされたという情報だった。そのため琥珀は余裕でベフモスを倒せると確信した。理由はBランク以上の冒険者50名が相手であろうがAランク50名が相手だとしても琥珀はそれらを全員抹殺する自信
がある。

 そうして琥珀はとにかく北側に向かって歩き続き、町を出てからは大勢の冒険者たちがとある大きな山へと向かっていた。恐らくあの山が受付人の言っていた山の事なのだろう。

『鼠ノ洞窟』

 洞窟の入り口には少しだけダンジョンっぽい名前の看板が立っているが良く見ればネズミの洞窟と書いてあるだけだ。あまりぱっとしないが鼠という言葉がダンジョンの名になっているほどだからベフモスも鼠系の魔物なのだろう。鼠なんかに負けるわけが無い。

 琥珀は鼠ノ洞窟へ入って行った。そしてその数時間後。

「なっ、何なんだこいつらは!?」

 序盤までは琥珀の攻撃が効いていた魔物もダンジョンを潜っていくにつれ剣筋さえもあまり通りにくくなっていた。そして琥珀はダンジョンの4階でもう、足止めを食らっていた。

 ダンジョンに初めて入る割には物凄くダンジョン奥深くまで潜れている方だが、ここはまだCランク冒険者が狩場とするエリア。冒険者ランクBは7階、Aは10階。そしてSは12階まで。
そう。琥珀はまだこのダンジョンの内の3分の1も進めていないのだ。しかし時間はもう昼の12時に近づいていた。そろそろ帰り道の計算も入れてCランクの冒険者たちは帰り始めている。だが、琥珀は諦めるわけにはいかない。光や結晶、クリスタルですら無いこのダンジョンではダンジョン内が真っ暗。先程までは周囲に冒険者たちが居た為、光に困ることは無かった。しかし今現在、やっと琥珀を残して最後のパーティーが4階から上へ上がって行った。

(さて、どうするかな~。俺は光が無くとも戦うことが出来るが、流石に休憩を取らなければまずい。その上、一体ですらこの数十分間、一ダメージも負わせる事が出来ていない。せめてこの一匹だけでも…)

 せめて今、自分と戦っているこの普通の十倍よりも大きい鼠を倒してから一旦このダンジョンから出て町に帰ろう。そう琥珀は決めていたのだが、それからまた2時間が経ち少し琥珀の体力も削れてきた頃、まだ琥珀は1ダメージすらもこの鼠に対して与えられていなかった。そのため、琥珀は2時間前と全く同じ場所でまだ戦い続けていた。魔物はダンジョンの力によって疲労での体力消耗はしないようになっているが、琥珀はやはり元はただの人間。流石に7時間以上の長期戦闘となってしまうといくら琥珀でも疲労感は半端ないのだ。もう諦めて地上へ引き返そうと琥珀が上の階の方向へと向かおうとした瞬間、琥珀が今まで戦っていた鼠はたった一つの光輝く矢によってあっさりと消滅した。まるで今まで琥珀が2時間もの長期戦闘を行っていたのが無駄だったと言わんばかりの一撃。

 琥珀は矢が飛んできた方向を向く。そこには4人パーティーの男女共に二人ずつがこちらへ歩いて来た。ここより深い階層からの帰りだろう。

「おい、少年。今、何時だと思っている!」

「剣筋を極めるのも良いけど居て良い時間ってものがあるでしょ?」

 こちらへ声を掛けてきたのは眼鏡を掛けた若い男と剣を持った若い女性が一人。もう二人は老人の盾使いと大きな杖を持った女の子。

「おい、お前。どうやってこの鼠を一撃でしとめた?」

 琥珀は声を掛けてきた二人を無視して女の子の目の前まで歩いて行った。
 先程の光の矢を放ったのは確かにこの杖を持った女の子。弓を使わなくても矢を飛ばせる魔法使いも暗殺者の中ではいたような気もするが、これほど強力な魔法を使える者がいたとは。周りで他の魔物を狩っていた連中でさえ避けていたこの魔物。琥珀の予想ではあの魔物はダンジョン内で2番目に強い魔物の内に入るのではないだろうか。そしてその存在ですらを一撃で倒す存在。

「あ、あの…」

「何だ」

「今さっき、戦っていた魔物は中型物理鼠ですか?」

「あれはそういう名前なのか? よくわからないが、あの魔物には俺の攻撃が全く効かなかった」

「えっと、それはあなたが短剣を使っているからではないですか?」

「ん? どういうことだ? 短剣を使うとあの魔物は倒せれないようになっているのか?」

「いえ、そうじゃありません。中型物理鼠には物理攻撃を全く受け付けない能力があります。そのため中型物理鼠は物理職が自分の技術を磨く為によく対戦する物理戦闘職用の無限サンドバックとして狩られることはありますが、大した経験値やアイテムも落ちないためあまり冒険者が中型物理鼠と戦っているのは見かけませんね」

 どうやら琥珀が物理職である短剣使いだったことがその中型物理鼠とやらを倒せない理由となっていたようだ。つまりは魔法では簡単に倒せるが、琥珀では一生倒せることの無い魔物。いくら強いとはいえ、琥珀には絶対に物理無効化の能力を持つ魔物には勝てない理由がある。その理由とは…琥珀が魔法を使えないからだ。琥珀は幼い頃から魔法の才能が無かった。そのため、こういう風に短剣の技術だけを極めてきたのだが彼が二十歳になった頃だった。琥珀は一度だけ冒険者ギルドからの冒険者適性テストを受けたことがあったのだ。だが結果は不合格になり、その理由は魔法が使えない上に魔力が体内に一滴も存在しないからだそうだ。



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