ダンジョンを現役冒険者パーティーで経営、そして冒険者から金品+命を奪うのはアリですか?

ゴッティー

第1話 暗殺稼業、退職。

 時は中世時代後半、この世界には魔法という概念が存在する。時が遡り数百年前、とある魔法使いが膨大な種類と威力の魔法を生み出したことにより魔物や魔人など空気中に漂う魔力の影響で生き物が突然変異し、人間を襲ってくるその生き物たちにより世界は一時混乱状態に陥った。次第にその突然変異体は世界の半分を占めるほどまで生息地を増やしていき、種類も膨大なものへと膨らんでいった。

 時はその20年後。人間はその身を守る為、魔物を倒し様々な依頼をこなす当時の人間が一番必要としていた職業を思いついた。その職業の名は―――――冒険者。

― ― ― ― ―

『黒カフェ』

 路地裏に位置する普通なら誰からも見つかることのないひっそりと建ち構えたカフェ、黒カフェ。カフェ内に人の気配は無く、とてもしんみりとしたカフェ。だがよく見ると店内で唯一客としてカウントされないオーナーを除いて一人の男性が店内の角の席に座っていた。

 チリンッ、チリンッ

 ドアの鈴が鳴った。琥珀が店内に入ると一瞬、奥に座る男性がこちらを少し窺った。しばらくすると店奥からウエイトレスが一人出てくると、琥珀を空いている席まで誘導した。しかし、琥珀はそれを断り奥側の席に座っている男の前の席に座った。

「遅刻だ。最後まで時間通りに来なかったな」

「たったの2分だぞ」

「これでよく依頼がこなせたものだ。ところで本当に辞める覚悟はできたのか?」

「ああ。俺はもう十分、依頼をこなしてきた。今後の蓄えもある。最初にこの仕事をやり始めたのは金銭的問題が原因だった。しかしもう俺はこの仕事を続ける必要は無くなった」

 琥珀のその言葉を聞き彼は手元の飲みかけのブラックコーヒー再び口へ運んだ。少し間が空きため息を少し漏らした彼は琥珀に言った。

「この数年間、君のおかげで収入は上がり周りからの僕の評価も上がった。今はまだ僕も君もこの業界では信用があり、依頼も多い。しかし今、やめてしまうと上昇していた信用度も落ちて0へと変わってしまう。勿論、僕をここまで支えてくれた君を止める資格は僕には無いが、もう一度考え直すことは出来ないのだろうか?」

「ヨミスさん。俺も貴方には感謝している。だが俺に暗殺者は合っていなかったようだ。それにもう決めたことだ」

「わかった。君がこの業界から消えてしまうのはとても残念に思うが、君がそう言うのであれば止めると良い。また何から問題が出来たらまた僕に連絡してほしい」

 再びため息をついてヨミスさんは琥珀へ別れを告げた。

「感謝する。ではもう俺は行く。長い付き合いだったが今までありがとう。ではまた機会があれば…」

「ああ。機会があれば…」

 ヨミスさんはそう呟き琥珀の背を見送った。

 カフェを出た琥珀は通りすがりの男とぶつかり、より細い路地裏へふらつきながらも入って行った。フードを被っていた通りすがりの男からは一通の封筒を受け取っており、琥珀は中身を確認した。中身は予想通り、琥珀の依頼した偽造ギルドカードだった。

『Dランク』

 冒険者ギルドという施設の利用、そして依頼の受け取りを行う際に必要なカード。偽造の理由は冒険者登録をする時にはどれだけの力量を持っていたとしても避けて通ることの出来ない雑用系の依頼の対象となるFランクから冒険者として始めるのを嫌い、二つ上の魔物の討伐やそのドロップアイテム収集の依頼を受けられるランクから冒険者を始めたいという琥珀の思いからだ。

 琥珀は馬車を借りると隣国、エストへ向かった。琥珀はこの国を拠点とした冒険者にはなりたくなかったのだ。冒険者のこなす依頼や狩りなどは行ったことが無いものの、この国ではどの場所も琥珀は行きつくしていた。どこの町も暗殺依頼で一度は訪れたことがあり、つまり琥珀はどこの地でも最低一人は人を殺っていることになるのだ。

 ガンッ

 町を出て間もない間に馬車は突然何者かの爆撃により急停車したのだった。

「旦那、どこからか火属性魔法が降ってきやがった! さっさと逃げましょう! ちっ、最近の盗賊はこれだから嫌になる! 馬車に人が乗っている時点で金品は無いということが何故分からないんだか!?」

 馬車を出ると空からは数十の火属性魔法がこちらへ放たれており、琥珀と馬車の主は慌てて馬車から離れるよう走った。魔法が放たれたと思われる場所には5人の人が空で浮かんでおり、全員顔を隠すように深くフードを被り、装備を隠すためと思われるマントは外見からしてあまりマントそのものに能力は無いようだ。

「あいつら馬車を壊しやがった! 目的はアイテムじゃねえのか?…まさか、俺の命!?」

 いや、違うと思うぞ。
 狙いは琥珀。予想するに理由は琥珀が暗殺業を抜けたからだ。要はヨミスが口封じに琥珀を暗殺するよう他の暗殺者に依頼したのだ。

「お、お前ら、誰の差し金だ! 何故、俺を狙う!!!」

「お前じゃねえよ!!おっさん」

 5人の中の一人が即答した。暗殺者が口を開くとは珍しい。丁度、ここはベルムヘイド王国とエストの中間くらいだ。周りは木や丘が多く、この近くに人の気配は無い。たとえ何があったとしても琥珀を殺すことさえ出来れば何とでもなると思っているのだろうか。

「私達が狙っているのは貴方のお客さんよ?」

 一人の女性らしき声の主がわざと自分の口を見せるように微笑んだ。あと少しで顔全体が見えるという所で彼女はまた下を向いた。最低限の情報では彼女は女で口や肌質から見て20代。声質からも年齢が一致している。これではどの暗殺者でどこの依頼提供者の下に付いているのかはわからない。色々と上手く隠している。

「え? 俺じゃないのか? は~、安心した! 実はだな、そいつはただの客なんだ。はっきり言ってどうでも良い。もしそいつを殺るんだったらやってくれても構わないが、俺には何もしないでくれよ? じゃあ、な」

 何という手のひら返し。さっきは「さっさと逃げましょう!」てな感じで琥珀を馬車から助け出そうとしていてくれてかっこよかったというのに。暗殺依頼は受けていないが、琥珀に差し向けられた暗殺者たち5人を倒した後、あのおっさんも絶対に殺すと琥珀が心に決めた瞬間だった。

「あら、案外簡単に裏切るのね。まあ、普通は皆そうか。じゃあ、君を暗殺すとしましょうか」

 女は指を鳴らした。すると両側にいた4人の暗殺者たちが琥珀へ一斉に魔法に撃ち始めると、琥珀は後ろへ下がると空中から何かを取り、4人から放たれた魔法を全て防いだ。

「なっ、お前。今、何をした」

 女は琥珀をひどく睨むと今、琥珀が持っているを見て目の色を変えた。

「敵人盾~。って、俺が後ろからの特攻に気づかないはずがないだろ??」

 いくら暗闇でも音は聞こえる。後ろからの特攻は暗殺の基本だが、こいつは音を立てすぎだ。それに空を飛んでいる5人もとてもわかりやすい。複数で一人を狩る時は大抵、魔法からの遠距離攻撃と剣や盾などの近接戦闘を基本とする。例外はあるが、3人以上で一人だけを狩る時にはある程度仲間に余裕が持てる。すると必然的に近距離攻撃と遠距離攻撃でチームを分ける。だから近距離攻撃を送り込んでくるのは読んでいたし、5人が近接戦に持ち込んで来なかったのも後ろから攻撃してくる奴の邪魔をしないようにするためだろう。

「じゃあ、今度は俺の番だ。案外、面白く無い奴らが送り込まれてきたな。俺も舐められたものだ」

 一撃。それだけでこいつらは片付けられる。だが、琥珀はそうはしない。先程、琥珀が魔法を防ぐ為の盾にして死んでしまった暗殺者を琥珀は空中、高くに投げると琥珀はそれを踏み台にし、5人全員を地面へ叩き落とした。

 女、一人を除き4人全員を始末すると、その女は泣き叫び、死を恐れた。

「君、僕から暗殺依頼を受けてもらえないかな? 暗殺依頼は今回、君達に暗殺依頼を出した依頼主を暗殺すること」

「依頼主は裏切れない」

 彼女は琥珀を睨み、そう言った。

「だが君に選択権は無い。依頼主を裏切らないのであれば、君はここで死ぬ。要はどのみち依頼が俺の暗殺なのであれば君達は依頼失敗だ。まあ、心配しなくてもそれなりの報酬は出させてもらうから心配しないでくれ」

 琥珀は剣を彼女の喉先に付きつけながらそう言った。彼女にこの暗殺依頼を否定することは出来ない。彼女がスパイのように自害しなければの話だが。そもそも人の為に死ぬなど馬鹿馬鹿しい。それに暗殺依頼主は大抵クズだ。そんな奴らに命を捧げるなんて正気の沙汰ではない。

「その暗殺依頼、承った」

 彼女は琥珀の依頼を引き受けた。お蔭様で彼女の始末と一旦町まで帰り琥珀の暗殺依頼主であるヨミスさんを自ら暗殺する手間が減った。まあ、最初からヨミスさんが琥珀を裏切りさえしなければこんな面倒な事にはなかったのだが。

「あ、あと町へ帰る途中でさっきのおっさんがいると思うからそのおっさんも消しといて」

「承知しました」

 あの程度のおっさんなら始末とは言っても金を取るほどでもないだろう。彼女は琥珀の二つ目の暗殺依頼を受け、町へ帰っていった。いくら長い付き合いだったとはいえ、ヨミスが牙を剥いた瞬間から彼はもう琥珀の敵なのである。裏切りは許さない。暗殺の業界ではよくあることだが、琥珀は絶対に許さない。少なくとも琥珀は今までで一回も裏切った者を逃したことは無い。

 そして琥珀はエストへと歩き始めた。馬車は壊れてしまい、馬はもう既にどこかへと逃げてしまっていた。こういう時に頼りになるのはやはり自分の足だけなのである。


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