がんばれ、春宮さん!
第1話
 春も終わり新生活にも慣れてくる頃、1人の女の子は胸を踊らせながら校門を抜けて行く。
 ---私は春宮 一花。今年から晴れて高校生になりました。高校は地元の高校なので同級生は殆ど顔見知りばかり。中学時代の男子には全く恋愛感情なんか無かった私は今、『恋』をしてます!
 教室に入ると友達と話しをしていた女子達が軽く挨拶を交わしてくる。それに私も軽く返して自分の席に座る。私の席は教室の1番奥の1番後ろの席。ここの学校の出席番号は適当らしく噂ではクジとかで全部決められているらしい。職務怠慢もいいところよね。
 でも私はその怠慢さに感謝しなければいけない。なぜなら彼と知り合うことが出来たのだから。
 隣の席の安住 幸太君。私は彼に恋をしてます。
 彼との運命を感じたのは高校生活が始まって2週間、授業中の事だった。
 「あっ」
 ノートを取っているとうっかり消しゴムを落としてしまったの。消しゴムの落ちた先は彼の椅子の下。当時の私はその時『しまった!』と思ったわ。
 中学生時代の頃をフラッシュバックしたの。男子に消しゴムを拾われると『ハアハア、これ春宮の消しゴム?ハアハア』と鼻息荒くしたKD(キモい男子の略)が私の目の前で私の消しゴムをベロベロと汚らわしい舌で舐め回して渡してきたの。
 勿論そんなの使える訳も無く『私のじゃない!』と突っぱねたわ。あの時背筋がゾクゾクしたのを今でも覚えているわ。
 そんなKDのトラウマもあって私の背中に寒気が走ったの。
 「春宮さん」
 「…えっ?」
 トラウマがフラッシュバックしていた最中、私の目の前に差し出される手の平に私の消しゴムが乗っかっていた。
 「消しゴム、落としたよ」
 「………」
 私は沈黙したまま差し出した手の主の顔を見ると彼、安住君の顔が見えた。
 生気の抜かれたような目、貧相な顔立ち、寝癖のついた黒髪。正直なところあまりカッコいいとは思えない容姿だが私は不思議と手を差し伸べた彼の姿に惹かれていた。
 ---「HRはこれまて。1限目の準備忘れるなよ」
 先生は朝のSHRを終わらせると忠告だけしてすぐに教室を去って行った。私は先生が教室を出て行くのを見守った後、机に突っ伏した。
 別に眠る訳ではない。彼の様子を観察する為に寝たフリをするだけ。これが私の休み時間の過ごし方なの。
 「………」
 安住君はいつも通り次の授業の準備を早めに済ませると読書をし始めた。ライトノベルが好きみたいでいつもライトノベルばかり読んでいる。前に彼の鞄をチラッと見た事があるけど(と言いつつ本当は誰も居ない間にガッツリと鞄の中身を覗いたんだけど)、中にはライトノベルが何冊も入っていた。
 きっと彼はオタクなのよね。たまに他のKDの友達とアニメの話をしていたりするし。
 私はあんまりアニメとかは見ない方だけど、別に嫌いって言う訳でもない。もし安住君がオタク趣味な子が好きだと言うなら私は迷わずオタク道真っしぐらよ。
 (!?そうか、オタク趣味か)
 その時ふといい事を思い付いたわ。そうよ。オタク趣味を持てば安住君と少しは距離を縮められるかもしれない。
 彼は普段無口な人だが友達と趣味の話をする時は楽しそうに話している。つまり彼と話すきっかけを作れるのだ。
 (そうと決まれば、実行あるのみね)
 ---その日の放課後、私は真っ直ぐ本屋へと向かって行った。先ずはライトノベルを読む事から始める事にした。とりあえず安住君が今日読んでいたタイトルを買ってみることにした。これが私のオタク道への第一歩だった。
 「ふんふふんふ〜ん♪」
 私は足取り軽くスキップしながら家に帰って行く。それもそうよ。これさえあれば安住君と仲良くなれるんですもの。ああビバオタク、ああビバ青・春!
 -「アレ?春宮、ラノベとか読むんだ」
 「あ、安住君!うん。私、ライトノベル好きなの」
 「それ俺も今読んでるとこなんだ」
 「へ〜、奇遇だね」
 「奇遇っていうより運命かもしれないね」
 「う、運命!?」
 「うん。実は俺、春宮となんか運命的なものを感じる気がしたんだ」
 「じ、実は私もなの…」
 「春宮」
 「安住君」
 「今度、お前の心を読んでもいいかな?」
 「わ、わた、」
 ---私の心も読破してーー!!
 「ハア…ハア…ハア…」
 やだ私ったら、何を考えてるのかしら。私の顔が火照ってるのが伝わってくる。どうやら私はルンルン気分の中、明日の未来予想図を妄想していたらしい。最近になってそういう妄想をよく見るようになった。
 「いけないいけない」
 私はそう自分に言い聞かせて再び家路へと向かって行った。
 ---そして次の日、
 「なっ…」
 いつも通り休み時間に読書を始める安住君を見て私もライトノベルを見せつけるように読書を始めた、のだが。
 安住君が今日読んでいたのは昨日と同じタイトル…の下に『3』と書かれていた。昨日は無印だったハズ。ひょっとして私が浮かれてその本の1巻を買っているうちに彼は2巻まで読み終わったってこと!?私はまだ1巻すら読み終わっていないというのに!?
 (これじゃあ安住君と話しがついていけないじゃない)
 1巻すら読み終わっていない私はただのにわかオタクに過ぎない。話をしてもついていける自信がない。
 (ダメよ一花!ここで諦めてたまるものですか!)
 私はその日の放課後、再び本屋へと行き同じタイトルのシリーズをあるだけ買い占め家に帰るなりその本の続きを読み始めた。
 ---そしてその次の日、
 「………」
 昨日は夜遅くまで読み耽り何とか5巻まで読み終えた。しかし一方の安住君は6巻を読んでいた。それは昨日行った本屋には置いていなかった。どうやら最新巻である6巻はその本屋では売り切れていたようだ。
 (ま、まだまだよ!)
 その日の放課後は違う本屋で6巻を探す事にした。なんか主旨が変わっているような気がするけど、私は諦めない!彼に追いついてみせるわよ!
 ---その後、春宮は安住君を追いかけるように読書に耽り気づかないうちにオタク道への道を一歩一歩進んでいくのであった。
 ---私は春宮 一花。今年から晴れて高校生になりました。高校は地元の高校なので同級生は殆ど顔見知りばかり。中学時代の男子には全く恋愛感情なんか無かった私は今、『恋』をしてます!
 教室に入ると友達と話しをしていた女子達が軽く挨拶を交わしてくる。それに私も軽く返して自分の席に座る。私の席は教室の1番奥の1番後ろの席。ここの学校の出席番号は適当らしく噂ではクジとかで全部決められているらしい。職務怠慢もいいところよね。
 でも私はその怠慢さに感謝しなければいけない。なぜなら彼と知り合うことが出来たのだから。
 隣の席の安住 幸太君。私は彼に恋をしてます。
 彼との運命を感じたのは高校生活が始まって2週間、授業中の事だった。
 「あっ」
 ノートを取っているとうっかり消しゴムを落としてしまったの。消しゴムの落ちた先は彼の椅子の下。当時の私はその時『しまった!』と思ったわ。
 中学生時代の頃をフラッシュバックしたの。男子に消しゴムを拾われると『ハアハア、これ春宮の消しゴム?ハアハア』と鼻息荒くしたKD(キモい男子の略)が私の目の前で私の消しゴムをベロベロと汚らわしい舌で舐め回して渡してきたの。
 勿論そんなの使える訳も無く『私のじゃない!』と突っぱねたわ。あの時背筋がゾクゾクしたのを今でも覚えているわ。
 そんなKDのトラウマもあって私の背中に寒気が走ったの。
 「春宮さん」
 「…えっ?」
 トラウマがフラッシュバックしていた最中、私の目の前に差し出される手の平に私の消しゴムが乗っかっていた。
 「消しゴム、落としたよ」
 「………」
 私は沈黙したまま差し出した手の主の顔を見ると彼、安住君の顔が見えた。
 生気の抜かれたような目、貧相な顔立ち、寝癖のついた黒髪。正直なところあまりカッコいいとは思えない容姿だが私は不思議と手を差し伸べた彼の姿に惹かれていた。
 ---「HRはこれまて。1限目の準備忘れるなよ」
 先生は朝のSHRを終わらせると忠告だけしてすぐに教室を去って行った。私は先生が教室を出て行くのを見守った後、机に突っ伏した。
 別に眠る訳ではない。彼の様子を観察する為に寝たフリをするだけ。これが私の休み時間の過ごし方なの。
 「………」
 安住君はいつも通り次の授業の準備を早めに済ませると読書をし始めた。ライトノベルが好きみたいでいつもライトノベルばかり読んでいる。前に彼の鞄をチラッと見た事があるけど(と言いつつ本当は誰も居ない間にガッツリと鞄の中身を覗いたんだけど)、中にはライトノベルが何冊も入っていた。
 きっと彼はオタクなのよね。たまに他のKDの友達とアニメの話をしていたりするし。
 私はあんまりアニメとかは見ない方だけど、別に嫌いって言う訳でもない。もし安住君がオタク趣味な子が好きだと言うなら私は迷わずオタク道真っしぐらよ。
 (!?そうか、オタク趣味か)
 その時ふといい事を思い付いたわ。そうよ。オタク趣味を持てば安住君と少しは距離を縮められるかもしれない。
 彼は普段無口な人だが友達と趣味の話をする時は楽しそうに話している。つまり彼と話すきっかけを作れるのだ。
 (そうと決まれば、実行あるのみね)
 ---その日の放課後、私は真っ直ぐ本屋へと向かって行った。先ずはライトノベルを読む事から始める事にした。とりあえず安住君が今日読んでいたタイトルを買ってみることにした。これが私のオタク道への第一歩だった。
 「ふんふふんふ〜ん♪」
 私は足取り軽くスキップしながら家に帰って行く。それもそうよ。これさえあれば安住君と仲良くなれるんですもの。ああビバオタク、ああビバ青・春!
 -「アレ?春宮、ラノベとか読むんだ」
 「あ、安住君!うん。私、ライトノベル好きなの」
 「それ俺も今読んでるとこなんだ」
 「へ〜、奇遇だね」
 「奇遇っていうより運命かもしれないね」
 「う、運命!?」
 「うん。実は俺、春宮となんか運命的なものを感じる気がしたんだ」
 「じ、実は私もなの…」
 「春宮」
 「安住君」
 「今度、お前の心を読んでもいいかな?」
 「わ、わた、」
 ---私の心も読破してーー!!
 「ハア…ハア…ハア…」
 やだ私ったら、何を考えてるのかしら。私の顔が火照ってるのが伝わってくる。どうやら私はルンルン気分の中、明日の未来予想図を妄想していたらしい。最近になってそういう妄想をよく見るようになった。
 「いけないいけない」
 私はそう自分に言い聞かせて再び家路へと向かって行った。
 ---そして次の日、
 「なっ…」
 いつも通り休み時間に読書を始める安住君を見て私もライトノベルを見せつけるように読書を始めた、のだが。
 安住君が今日読んでいたのは昨日と同じタイトル…の下に『3』と書かれていた。昨日は無印だったハズ。ひょっとして私が浮かれてその本の1巻を買っているうちに彼は2巻まで読み終わったってこと!?私はまだ1巻すら読み終わっていないというのに!?
 (これじゃあ安住君と話しがついていけないじゃない)
 1巻すら読み終わっていない私はただのにわかオタクに過ぎない。話をしてもついていける自信がない。
 (ダメよ一花!ここで諦めてたまるものですか!)
 私はその日の放課後、再び本屋へと行き同じタイトルのシリーズをあるだけ買い占め家に帰るなりその本の続きを読み始めた。
 ---そしてその次の日、
 「………」
 昨日は夜遅くまで読み耽り何とか5巻まで読み終えた。しかし一方の安住君は6巻を読んでいた。それは昨日行った本屋には置いていなかった。どうやら最新巻である6巻はその本屋では売り切れていたようだ。
 (ま、まだまだよ!)
 その日の放課後は違う本屋で6巻を探す事にした。なんか主旨が変わっているような気がするけど、私は諦めない!彼に追いついてみせるわよ!
 ---その後、春宮は安住君を追いかけるように読書に耽り気づかないうちにオタク道への道を一歩一歩進んでいくのであった。
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