異世界でデスゲーム~この世界で神になる~
自己犠牲
「んグッ……」
「大丈夫だからな、絶対に治してやるから」
耳元で囁かれる鼻息と吐息は、とてもじゃないが同情すら出来ない苦痛に満ちたものだった。
意識が、あるだけいいのかもしれない。
が、時折、寝言のように囁かれる言葉は耳を疑うモノだった。
ララエルは、ひたすらに謝っている。内容は定かではないが、何をそんなに自分を責めていると言うのだろうか。
「ララの具合は、どうじゃ?」
そこには、急いで来たのか狐の格好をした琉璃が居た。もう、平気なのか、と気になる部分もあったが、きっと彼女は平気だと言うだろう。
強がってとかではなく心配をかけまいと。本当にイイヤツだよお前は。
「悪化はしてないと思うけれど、好転もしていない。良くない方向で停止したままだな」
「そうか……。治癒術を使えればいいのじゃが……。それを使えるのはエルフじゃからな……」
まあ、獣人が居ればエルフも居るわな。
「で、エルフが何処に居るかは分かるのか?」
「すまぬが、分からぬ。取り敢えずは、リーフにて宿を探すんじゃ。乖離」
琉璃が急に先頭に立ち、言葉を紡ぐと目の前にある視界は歪む。
幻覚の一種というものだろうか。
「いきは良い良い帰りは怖いとは、良く言ったものだな」
「なんじゃ? それは」
「ん? ぁあ、前の世界である歌なんだ」
「前……か」
なんか、含みのある言い方だな。
「ああ、前……つか、やっとって感じだ」
目の前は開けた大地が広がっていた。
だが、街は見当たらない。まだ歩かなきゃ行けないのか……。あと、一体どれぐらい歩けば良いんだろう。
そんな、事を考えながら一歩を踏み出すと琉璃が口を開いた。
「さて。今日は、ここら辺で野宿をするかの。ぬしよ」
「──なっ!?」
何を言っているか理解したくなかった。鼓膜を通り過ぎた言葉は余りにも酷い。暫し思考が停止し、沈黙が生まれる中で琉璃は再び口を開く。
「なんじゃ?」
「なんじゃ? って……こんな状況で野宿なんか」
後ろめたいはずがないのに、見つめる瑠璃の視線から目を伏せてしまう。
「こればかりはどうにも、出来んじゃろ。うい達、動物の足ならば此処からでも時間を掛けずに行けるじゃろ。しかし、二本の足、加えて病人を抱えてじゃ何時間かかるか分からぬ。本来ならば、馬車等を用いて向かうものじゃからな」
ゲームならば、街から街なんかあっという間だ。だが、現実は違う。琉璃の言葉は夢が無さすぎて辛い。
確かに、辺りを見渡す限り街なんか見えやしない。日も暮れて、登りかけた月明かりが照らすのはボンヤリとバベルの塔が見えるだけ。
「それに、ぬしの体も限界じゃろ」
「え?」
琉璃の視線は、背負って支える腕を捉えていた。良く見ていると、思わざるを得ない。
だが、俺の事なんかどうでもいい、先にララエルを休ませてあげたいんだよ、俺は。
「だから、俺の事は気にしなくていいッ」
「あほう。そんな事出来るわけなかろう」
「けどっ……!」
「じゃから、馬車が通る近くで休めば良い。それで乗せてもらえばいいじゃろ。ういが言いたいのは体力もないままモンスターに襲われたらどうする気じゃって事よな」
まただ、またやってしまった。確かにそうだ、この状況で襲われたりでもしたら……。
「分かった。ごめん、琉璃」
「うんむ。謝る事ではない、ういも気持ちは一緒じゃ。あっちに、道が禿げとる場所があるじゃろ、あの近辺で腰を落ち着かせるかのっ」
「そう、だな」
二つの足音が寂しく響いて、いつもなら横で無邪気に笑うララエルの存在の大切さを訴える。
四ヶ月、そう四ヶ月も一緒に居たんだ。
「琉璃、俺はララエルが居なきゃ駄目なんだ」
「その気持ちは大事じゃよ。ういにも居たんじゃけどな」
居た? 何で、過去形なんだろうか。
「今は、生きておるのかも分からぬ。ういが、アルディアに居た理由もそれじゃ。頭では分かっていながらも体は言う事を効かぬ」
探していてアルディアに? と言う事は人間なのか。
「ま、ういの昔話は今度ゆっくりするとして、ぬしよ、火を焚けるか?」
琉璃は、人の形に変化すると表情一つ崩さずに質問をする。
「えと、ああ。出来なくもない」
気がつけば、薄茶色に禿げたリーフに続くであろう道の脇へと着いていた。
此処で馬車が通るのを待つと言う事なのだろう。
「そうか? じゃあ、頼めるかの。ういも、出来なくはないが蒼炎と言うのは忌み嫌われとるからの」
「そう、なの、か? まあ、淵炎の衣、現出!!」
柄を土に立てたナイフに使用し、燃える火柱を作り上げた。
その炎を見つめる琉璃が、少し寂しい目をしているようでかける言葉に戸惑う。
「よし、これで馬車からも目立つの」
体育座りをして言う琉璃は、下手な笑顔を作りながら言った。
だが、それ以上の事は分からない。何故、笑を零したのか、悲しそうな表情を浮かべていたのか、それが分かっていたのなら俺は気の利いた言葉一つ掛けることが出来たのだろうか。
全ては、過去を見た可能性。結果論。即ち、意味が無いのも分かっている。
けれど、知りたいと思った気持ちも事実なんだ。
「……? また通知音? ……ゲネシス」
どうやら、新たなスキルを習得しているようだ。
いや、違う。スキルのレベルが上がっている?
・オートスキル、悠遠の先に得たモノ・χ
遥か彼方で巡り会い、互いが互いを思う事で能力は早熟しさらに向上する。
知らぬ間に、スキルを使っていた? つか、知らぬ間にスキルが増えているぞ。
オートスキル・贖罪ノ鎖。
・全てを受け入れ、自分と向かい合い、己が運命を受け入れた時扉は開かれん。
・覚醒へと至らす為の試練
オートスキル・王足る権利
・罪を受け入れ、罰を受けた時、王成る権利は受諾される。
・覚醒へと至らす為の試練
「どうしたんじゃ? 小難しい顔をしよって」
「え? あ、いや。何でもない、つか説明の仕方が分からねぇ」
「ふむ? まあ、よい。馬車が来たようじゃ。じゃ、始めるとするかのッ」
琉璃は、腰を持ち上げ立ち上がると白狐の姿になり、そして二メートル程の大きさとなった。
これが、呪文か何かの類だとは理解出来たが、何故今行ったのかは理解ができない。
「何をしてるんだ?」
「何をって、ぬしがういを退治するんじゃ。無論、演技じゃけどな?」
「は!? 意味がわかんねぇよ」
「いや、分かっておるじゃろ。ぬしも言っていたじゃろ?『等価交換』とな。なら、馬車に乗るための何かを持っておるのか?」
言葉が見当たらなかった。見当たるはずもない。
今の俺には、何も無いのだから。琉璃は、最初からこうするつもりだったに違いない。
もし自分が蒼炎を出し辺りを照らしていたのなら、馬車は進路を変えるかもしれないと。
自分よりも、俺達を優先してくれた。
けど、こんなので良いのか? 少女一人を犠牲に俺達だけ、街に……。
「マス……」
悶え苦しむ声が聞こえた。ここにも居たんだ、自分を犠牲に救ってくれた奴が。
本当に俺は弱い……。
「必ずだぞ」
「なんじゃ?」
「必ず、リーフに来てくれ。俺は絶対に待ってる」
「うぬ、約束じゃ。あと、ぬしよ。これを持ってゆくが良い。役に立つはずじゃからな」
眩い玉が手元に届いた瞬間、琉璃は蒼い炎に包まれた。
「じゃあ、ゆくぞっ!」
琉璃の言葉がそよ風に攫われて小さく響く。
優しく暖かい残り火で一閃を描き、無理矢理に作っているであろう雄叫びと共に馬車へと走っていった。
「大丈夫だからな、絶対に治してやるから」
耳元で囁かれる鼻息と吐息は、とてもじゃないが同情すら出来ない苦痛に満ちたものだった。
意識が、あるだけいいのかもしれない。
が、時折、寝言のように囁かれる言葉は耳を疑うモノだった。
ララエルは、ひたすらに謝っている。内容は定かではないが、何をそんなに自分を責めていると言うのだろうか。
「ララの具合は、どうじゃ?」
そこには、急いで来たのか狐の格好をした琉璃が居た。もう、平気なのか、と気になる部分もあったが、きっと彼女は平気だと言うだろう。
強がってとかではなく心配をかけまいと。本当にイイヤツだよお前は。
「悪化はしてないと思うけれど、好転もしていない。良くない方向で停止したままだな」
「そうか……。治癒術を使えればいいのじゃが……。それを使えるのはエルフじゃからな……」
まあ、獣人が居ればエルフも居るわな。
「で、エルフが何処に居るかは分かるのか?」
「すまぬが、分からぬ。取り敢えずは、リーフにて宿を探すんじゃ。乖離」
琉璃が急に先頭に立ち、言葉を紡ぐと目の前にある視界は歪む。
幻覚の一種というものだろうか。
「いきは良い良い帰りは怖いとは、良く言ったものだな」
「なんじゃ? それは」
「ん? ぁあ、前の世界である歌なんだ」
「前……か」
なんか、含みのある言い方だな。
「ああ、前……つか、やっとって感じだ」
目の前は開けた大地が広がっていた。
だが、街は見当たらない。まだ歩かなきゃ行けないのか……。あと、一体どれぐらい歩けば良いんだろう。
そんな、事を考えながら一歩を踏み出すと琉璃が口を開いた。
「さて。今日は、ここら辺で野宿をするかの。ぬしよ」
「──なっ!?」
何を言っているか理解したくなかった。鼓膜を通り過ぎた言葉は余りにも酷い。暫し思考が停止し、沈黙が生まれる中で琉璃は再び口を開く。
「なんじゃ?」
「なんじゃ? って……こんな状況で野宿なんか」
後ろめたいはずがないのに、見つめる瑠璃の視線から目を伏せてしまう。
「こればかりはどうにも、出来んじゃろ。うい達、動物の足ならば此処からでも時間を掛けずに行けるじゃろ。しかし、二本の足、加えて病人を抱えてじゃ何時間かかるか分からぬ。本来ならば、馬車等を用いて向かうものじゃからな」
ゲームならば、街から街なんかあっという間だ。だが、現実は違う。琉璃の言葉は夢が無さすぎて辛い。
確かに、辺りを見渡す限り街なんか見えやしない。日も暮れて、登りかけた月明かりが照らすのはボンヤリとバベルの塔が見えるだけ。
「それに、ぬしの体も限界じゃろ」
「え?」
琉璃の視線は、背負って支える腕を捉えていた。良く見ていると、思わざるを得ない。
だが、俺の事なんかどうでもいい、先にララエルを休ませてあげたいんだよ、俺は。
「だから、俺の事は気にしなくていいッ」
「あほう。そんな事出来るわけなかろう」
「けどっ……!」
「じゃから、馬車が通る近くで休めば良い。それで乗せてもらえばいいじゃろ。ういが言いたいのは体力もないままモンスターに襲われたらどうする気じゃって事よな」
まただ、またやってしまった。確かにそうだ、この状況で襲われたりでもしたら……。
「分かった。ごめん、琉璃」
「うんむ。謝る事ではない、ういも気持ちは一緒じゃ。あっちに、道が禿げとる場所があるじゃろ、あの近辺で腰を落ち着かせるかのっ」
「そう、だな」
二つの足音が寂しく響いて、いつもなら横で無邪気に笑うララエルの存在の大切さを訴える。
四ヶ月、そう四ヶ月も一緒に居たんだ。
「琉璃、俺はララエルが居なきゃ駄目なんだ」
「その気持ちは大事じゃよ。ういにも居たんじゃけどな」
居た? 何で、過去形なんだろうか。
「今は、生きておるのかも分からぬ。ういが、アルディアに居た理由もそれじゃ。頭では分かっていながらも体は言う事を効かぬ」
探していてアルディアに? と言う事は人間なのか。
「ま、ういの昔話は今度ゆっくりするとして、ぬしよ、火を焚けるか?」
琉璃は、人の形に変化すると表情一つ崩さずに質問をする。
「えと、ああ。出来なくもない」
気がつけば、薄茶色に禿げたリーフに続くであろう道の脇へと着いていた。
此処で馬車が通るのを待つと言う事なのだろう。
「そうか? じゃあ、頼めるかの。ういも、出来なくはないが蒼炎と言うのは忌み嫌われとるからの」
「そう、なの、か? まあ、淵炎の衣、現出!!」
柄を土に立てたナイフに使用し、燃える火柱を作り上げた。
その炎を見つめる琉璃が、少し寂しい目をしているようでかける言葉に戸惑う。
「よし、これで馬車からも目立つの」
体育座りをして言う琉璃は、下手な笑顔を作りながら言った。
だが、それ以上の事は分からない。何故、笑を零したのか、悲しそうな表情を浮かべていたのか、それが分かっていたのなら俺は気の利いた言葉一つ掛けることが出来たのだろうか。
全ては、過去を見た可能性。結果論。即ち、意味が無いのも分かっている。
けれど、知りたいと思った気持ちも事実なんだ。
「……? また通知音? ……ゲネシス」
どうやら、新たなスキルを習得しているようだ。
いや、違う。スキルのレベルが上がっている?
・オートスキル、悠遠の先に得たモノ・χ
遥か彼方で巡り会い、互いが互いを思う事で能力は早熟しさらに向上する。
知らぬ間に、スキルを使っていた? つか、知らぬ間にスキルが増えているぞ。
オートスキル・贖罪ノ鎖。
・全てを受け入れ、自分と向かい合い、己が運命を受け入れた時扉は開かれん。
・覚醒へと至らす為の試練
オートスキル・王足る権利
・罪を受け入れ、罰を受けた時、王成る権利は受諾される。
・覚醒へと至らす為の試練
「どうしたんじゃ? 小難しい顔をしよって」
「え? あ、いや。何でもない、つか説明の仕方が分からねぇ」
「ふむ? まあ、よい。馬車が来たようじゃ。じゃ、始めるとするかのッ」
琉璃は、腰を持ち上げ立ち上がると白狐の姿になり、そして二メートル程の大きさとなった。
これが、呪文か何かの類だとは理解出来たが、何故今行ったのかは理解ができない。
「何をしてるんだ?」
「何をって、ぬしがういを退治するんじゃ。無論、演技じゃけどな?」
「は!? 意味がわかんねぇよ」
「いや、分かっておるじゃろ。ぬしも言っていたじゃろ?『等価交換』とな。なら、馬車に乗るための何かを持っておるのか?」
言葉が見当たらなかった。見当たるはずもない。
今の俺には、何も無いのだから。琉璃は、最初からこうするつもりだったに違いない。
もし自分が蒼炎を出し辺りを照らしていたのなら、馬車は進路を変えるかもしれないと。
自分よりも、俺達を優先してくれた。
けど、こんなので良いのか? 少女一人を犠牲に俺達だけ、街に……。
「マス……」
悶え苦しむ声が聞こえた。ここにも居たんだ、自分を犠牲に救ってくれた奴が。
本当に俺は弱い……。
「必ずだぞ」
「なんじゃ?」
「必ず、リーフに来てくれ。俺は絶対に待ってる」
「うぬ、約束じゃ。あと、ぬしよ。これを持ってゆくが良い。役に立つはずじゃからな」
眩い玉が手元に届いた瞬間、琉璃は蒼い炎に包まれた。
「じゃあ、ゆくぞっ!」
琉璃の言葉がそよ風に攫われて小さく響く。
優しく暖かい残り火で一閃を描き、無理矢理に作っているであろう雄叫びと共に馬車へと走っていった。
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