異世界でデスゲーム~この世界で神になる~
対人
「てめぇ!! なにやってやがんだ!」
暗澹を切り裂く気高き咆哮。孝介の視界に広がるのは幾つも散らばる赤い水溜り、のみ。
その数を見るだけでも、かなりの数が殺されたと分かる。惨憺たる光景を見て感じたのは怒りよりも、違う何かだった。
「なのに、何も残りはしない……。くそっ」
眉頭を顰め、吠えた先に立つ元凶である人物を睨み、敵意を剥き出す反面、正直目の前の男性を見て孝介は安心をした。
たった一人である彼は、武将を模しているのか、兜は被らずも甲冑を纏っている。が、それ以外はこれと言って自分と対して変わらない。と言う見解に至ったからである。
所詮彼も、第一層で行動してきた自分となんら変わらない。
不思議と、答えを出した瞬間から緊張は解れ心にゆとりが生まれた。
故に、
「おんや? なんだ、なんだ、こんな場所にも人間がくるんかあ?」
殺意に満ちた眼光で突き刺し、狂気に満ちた声を聞いても平常心を保つ事が出来た。
「はははっ。人間ねぇ? そもそも、お前は人間の癌でしかないだろ。同じにされた俺や他の連中が可哀想だぜ」
込み上がる震え、高ぶる感情、滴る汗。それらが孝介に命を与える。
殺り取りを行なうしかない道が対価として生きていると体の内側から律動していた。
「ほう? なるほど……。そうか、そうか。貴様、死に急ぎたいらしいな。わかったわかった、なら殺してやるよ」
白狐に突き立てた刀を抜き、血糊を払い切っ先を孝介に向けて不敵に微笑む。
勝ち誇った、絶対的な自信にも思える表情を見ても尚、孝介は焦りの色は見せなかった。
あの時感じたこみ上げる力。それこそが、過剰な自信へと変化していた。
「やれるもんなら、やってみやがれ」
上がる息に、震える手が意味するものは何なのか。一瞬、頭の隅に過ぎるが、速すぎる男性の動きに思考は止まる。
「おせえ……。お前、実におせえよ。そんなんで、俺に勝てるとでも思ってんのッ──か!!」
男性との距離は二十メートルはあったはずだ。しかし、彼は地に足を密着させること無く、初手の踏み込みで孝介の背後へと回っていた。
「なっ……!?」
その事に気が付いたのは、遅れてやってきた強い風でも無く、男性の怪しい声でも無い。弧を描き繰り出された鋭い蹴りが孝介の無防備な腕にめり込み、内から聞こえた骨が軋む音を聞いてだった。
「吹き飛べや、雑魚が!!」
容赦無く腕に密着した足を振り切り、孝介はなす術なく岩肌へと叩きつけられた。
空を切り裂く音がネットリと鼓膜に残り、気が付いた時には全身を強く打ち、地を舐めている状況。
虚ろんだ瞳で迫り来る男性を写し、孝介は今やっと自分が頭に血を上らせていた事に気が付く。
(誰が、一層の転移者だと言った)
(白狐とやりあったこともないのに、勝手に戦闘能力を決めた)
(一対一なら対等だと誰が思った)
(ああ、そうだ……全部、おれだ)
たった、一撃を食らって感じたのは歴然とした力の差だった。
「俺は……俺は馬鹿だ……」
悔やむしか出来ず、無情にも強く握った土は意味なすことなく指の隙間から零れてゆく。
まるで、何も守れていないと知らしめるかのように、いつの間にか手のひらには、爪がくい込んでいた。
内から感じる痺れと吐き気に意識を手繰り寄せ、飛びそうになる視点を必死に定める。
刹那、絶望を切り裂く凛とした声が夢魔を射る。
「ああ、確かに馬鹿じゃな」
声の方角へと、動かない体、ではなく土に頬擦りしつつ顔だけを向けた。
そこに立っていたのは、紛れも無く琉璃とララエルだ。助けに来てくれた事実に産まれた安堵。
しかし、寄せて返す波が如く孝介は掠れた声で叫ぶ。
「だ、ダメだ……。来ちゃ……ッ」
琉璃は、孝介と目を合わせるがスグにソッポを向いた。
「ふむ。まあ、良い。ういも、一族を殺されて、むざむざと逃げる事など叶わぬようだ」
尻尾を天に突き立て、頭を落とし威嚇をしてみせる琉璃に、男性は笑いで迎える。
「ははは。お前みたいなチビに何ができ……。いや、待てよ? ククク……クク……ハーッハッハ!! なるほど、お前だったのか? クソチビが、手間ー取らせやがってよ?」
「コイツの……狙い……は、琉──」
「マスター!! マスター!! 大丈夫ですか?!」
ぷつり、と糸は切れ孝介の瞼は静かに綴じた。ララエルは、仰向けに体制を変え、心音を耳を当てて確認して短い息を吐く。
「良かった……。ただ、気を失ってるみたいですね……」
「と、その前に、まず異世界転移者であるコイツを倒してカードの許容範囲を拡大すっかな」
じりじりと近づく男性の前に、ララエルは大の字で立ちはだかる。
自然と手は震え、膝は笑う。意思に反して本能は彼を恐れていた。
しかし、ララエルにはマスターと約束した事がある。故に、如何なる時も尻尾をまいて逃げるなんて選択肢はない。
「私が、私が……御守りするんだ!!」
マスターには、一切見せた事の無い敵意だけを剥き出し拒絶し睨む冷めた瞳。
「ほー、なるほど。貴様は、天使だな? それに見た所レア度もHRのハズレじゃねぇか。なら、せめて鈍らな武器にでもすれば良かったものを……な?ククク」
嘲笑い、下卑た目で見下す。
分かっていた、凡そ察しは共に過ごす中で分かっていた。
「でも! それでも、私に居場所をくれた!! だから、私の居場所はマスターのお側なんだ!!」
翼は、凛々と煌めき、いつぞやの艶やかさを発揮する。
「そか? じゃー先に死ねや」
炎を纏った刀を間合いの外から振り下ろす。
届きはしない刀身の切っ先からは炎が巻き起こり一瞬にしてララエルと孝介を飲み込む。
「──絶対にッ!!」
「ララ! コウ!! ……凡愚が!余所見をするでないわ!!」
琉璃は、背を向けて歩く男性に向け口から蒼い炎の玉を現出させた。
林檎程の大きさをした玉は数にして九つ。遠隔し、歩き二人に近寄る男の四方を囲む。
「燃え尽きるが良いわ! 狐火ッ!!」
炎は一気に襲いかかり、男性を包む。一瞬の内に出来た青い火柱は、禿げた森から天に伸びる。
「ララ、コウ! 無事かッ!?」
隙を見計らい、琉璃が近寄ると羽を用いて防いでいたララエルが煤汚れた笑顔で答える。
「はい、どーにかこうにか……無事、です」
凛々とした神々しい羽は綻び、パラパラと朽ちていた。
「それより、倒したのですか?」
瞳に蒼い炎を写しながらララエルが問うと、数秒間黙考し、
「いや、この程度で死ぬのなら父様が殺られるはずがな──ッ?!」
禍々しいくも、不吉な強い風が男性中心に吹き荒れる。
「ククク。まだ、甘い」
「まさか……無傷じゃ、と……」
「あー、もう飽きたわ。じゃーな御三方」
「なっ!?」
たった一蹴りで、琉璃の背後に迫り頭を掴み岩に叩きつけ、同時に刀をマスターに振り翳す。
「がハッ……」
「さ、させません!!」
マスターに覆いかぶさり、まだどうにか硬度を保つ翼で護りに徹した。
飛び散る火花に、背中から伝わる激痛に、奥歯を噛み締め耐える。
薄れる意識を、思い出で縛り付け今なお眠る孝介の温もりを感じる。
「私は、絶対にマスターを……ッ」
暗澹を切り裂く気高き咆哮。孝介の視界に広がるのは幾つも散らばる赤い水溜り、のみ。
その数を見るだけでも、かなりの数が殺されたと分かる。惨憺たる光景を見て感じたのは怒りよりも、違う何かだった。
「なのに、何も残りはしない……。くそっ」
眉頭を顰め、吠えた先に立つ元凶である人物を睨み、敵意を剥き出す反面、正直目の前の男性を見て孝介は安心をした。
たった一人である彼は、武将を模しているのか、兜は被らずも甲冑を纏っている。が、それ以外はこれと言って自分と対して変わらない。と言う見解に至ったからである。
所詮彼も、第一層で行動してきた自分となんら変わらない。
不思議と、答えを出した瞬間から緊張は解れ心にゆとりが生まれた。
故に、
「おんや? なんだ、なんだ、こんな場所にも人間がくるんかあ?」
殺意に満ちた眼光で突き刺し、狂気に満ちた声を聞いても平常心を保つ事が出来た。
「はははっ。人間ねぇ? そもそも、お前は人間の癌でしかないだろ。同じにされた俺や他の連中が可哀想だぜ」
込み上がる震え、高ぶる感情、滴る汗。それらが孝介に命を与える。
殺り取りを行なうしかない道が対価として生きていると体の内側から律動していた。
「ほう? なるほど……。そうか、そうか。貴様、死に急ぎたいらしいな。わかったわかった、なら殺してやるよ」
白狐に突き立てた刀を抜き、血糊を払い切っ先を孝介に向けて不敵に微笑む。
勝ち誇った、絶対的な自信にも思える表情を見ても尚、孝介は焦りの色は見せなかった。
あの時感じたこみ上げる力。それこそが、過剰な自信へと変化していた。
「やれるもんなら、やってみやがれ」
上がる息に、震える手が意味するものは何なのか。一瞬、頭の隅に過ぎるが、速すぎる男性の動きに思考は止まる。
「おせえ……。お前、実におせえよ。そんなんで、俺に勝てるとでも思ってんのッ──か!!」
男性との距離は二十メートルはあったはずだ。しかし、彼は地に足を密着させること無く、初手の踏み込みで孝介の背後へと回っていた。
「なっ……!?」
その事に気が付いたのは、遅れてやってきた強い風でも無く、男性の怪しい声でも無い。弧を描き繰り出された鋭い蹴りが孝介の無防備な腕にめり込み、内から聞こえた骨が軋む音を聞いてだった。
「吹き飛べや、雑魚が!!」
容赦無く腕に密着した足を振り切り、孝介はなす術なく岩肌へと叩きつけられた。
空を切り裂く音がネットリと鼓膜に残り、気が付いた時には全身を強く打ち、地を舐めている状況。
虚ろんだ瞳で迫り来る男性を写し、孝介は今やっと自分が頭に血を上らせていた事に気が付く。
(誰が、一層の転移者だと言った)
(白狐とやりあったこともないのに、勝手に戦闘能力を決めた)
(一対一なら対等だと誰が思った)
(ああ、そうだ……全部、おれだ)
たった、一撃を食らって感じたのは歴然とした力の差だった。
「俺は……俺は馬鹿だ……」
悔やむしか出来ず、無情にも強く握った土は意味なすことなく指の隙間から零れてゆく。
まるで、何も守れていないと知らしめるかのように、いつの間にか手のひらには、爪がくい込んでいた。
内から感じる痺れと吐き気に意識を手繰り寄せ、飛びそうになる視点を必死に定める。
刹那、絶望を切り裂く凛とした声が夢魔を射る。
「ああ、確かに馬鹿じゃな」
声の方角へと、動かない体、ではなく土に頬擦りしつつ顔だけを向けた。
そこに立っていたのは、紛れも無く琉璃とララエルだ。助けに来てくれた事実に産まれた安堵。
しかし、寄せて返す波が如く孝介は掠れた声で叫ぶ。
「だ、ダメだ……。来ちゃ……ッ」
琉璃は、孝介と目を合わせるがスグにソッポを向いた。
「ふむ。まあ、良い。ういも、一族を殺されて、むざむざと逃げる事など叶わぬようだ」
尻尾を天に突き立て、頭を落とし威嚇をしてみせる琉璃に、男性は笑いで迎える。
「ははは。お前みたいなチビに何ができ……。いや、待てよ? ククク……クク……ハーッハッハ!! なるほど、お前だったのか? クソチビが、手間ー取らせやがってよ?」
「コイツの……狙い……は、琉──」
「マスター!! マスター!! 大丈夫ですか?!」
ぷつり、と糸は切れ孝介の瞼は静かに綴じた。ララエルは、仰向けに体制を変え、心音を耳を当てて確認して短い息を吐く。
「良かった……。ただ、気を失ってるみたいですね……」
「と、その前に、まず異世界転移者であるコイツを倒してカードの許容範囲を拡大すっかな」
じりじりと近づく男性の前に、ララエルは大の字で立ちはだかる。
自然と手は震え、膝は笑う。意思に反して本能は彼を恐れていた。
しかし、ララエルにはマスターと約束した事がある。故に、如何なる時も尻尾をまいて逃げるなんて選択肢はない。
「私が、私が……御守りするんだ!!」
マスターには、一切見せた事の無い敵意だけを剥き出し拒絶し睨む冷めた瞳。
「ほー、なるほど。貴様は、天使だな? それに見た所レア度もHRのハズレじゃねぇか。なら、せめて鈍らな武器にでもすれば良かったものを……な?ククク」
嘲笑い、下卑た目で見下す。
分かっていた、凡そ察しは共に過ごす中で分かっていた。
「でも! それでも、私に居場所をくれた!! だから、私の居場所はマスターのお側なんだ!!」
翼は、凛々と煌めき、いつぞやの艶やかさを発揮する。
「そか? じゃー先に死ねや」
炎を纏った刀を間合いの外から振り下ろす。
届きはしない刀身の切っ先からは炎が巻き起こり一瞬にしてララエルと孝介を飲み込む。
「──絶対にッ!!」
「ララ! コウ!! ……凡愚が!余所見をするでないわ!!」
琉璃は、背を向けて歩く男性に向け口から蒼い炎の玉を現出させた。
林檎程の大きさをした玉は数にして九つ。遠隔し、歩き二人に近寄る男の四方を囲む。
「燃え尽きるが良いわ! 狐火ッ!!」
炎は一気に襲いかかり、男性を包む。一瞬の内に出来た青い火柱は、禿げた森から天に伸びる。
「ララ、コウ! 無事かッ!?」
隙を見計らい、琉璃が近寄ると羽を用いて防いでいたララエルが煤汚れた笑顔で答える。
「はい、どーにかこうにか……無事、です」
凛々とした神々しい羽は綻び、パラパラと朽ちていた。
「それより、倒したのですか?」
瞳に蒼い炎を写しながらララエルが問うと、数秒間黙考し、
「いや、この程度で死ぬのなら父様が殺られるはずがな──ッ?!」
禍々しいくも、不吉な強い風が男性中心に吹き荒れる。
「ククク。まだ、甘い」
「まさか……無傷じゃ、と……」
「あー、もう飽きたわ。じゃーな御三方」
「なっ!?」
たった一蹴りで、琉璃の背後に迫り頭を掴み岩に叩きつけ、同時に刀をマスターに振り翳す。
「がハッ……」
「さ、させません!!」
マスターに覆いかぶさり、まだどうにか硬度を保つ翼で護りに徹した。
飛び散る火花に、背中から伝わる激痛に、奥歯を噛み締め耐える。
薄れる意識を、思い出で縛り付け今なお眠る孝介の温もりを感じる。
「私は、絶対にマスターを……ッ」
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