異世界でデスゲーム~この世界で神になる~

流転

ドミヌス・ボア「後編」

「君は、実に勇猛果敢だ。それに、義理硬いというかなんと言うかッ。いやー気に入ったぜ! 名前は?」
「名前……です、か?」
「ああ、名前だ。親しむにしろ、何にしろ名前と言う命を聞かなきゃ駄目だろ?
 俺は、カリュハ。ラハンド=カリュハっつーんだ。宜しくな小僧」

 気さくに孝介に話をかける男性はNPCだ。
 プレイトメイルを纏っている事や、大剣の扱いに慣れている事から手練れだというのは分かる。
 しかし、先程の騎兵隊と違うのは無飾だと言う事から分かってくるモノ。
 どこぞの傭兵か、なんなのかは分からないが勇ましいさは他を圧倒していた。

「えっと、俺は相葉孝介ッ……です」

 短く黒い髪の毛。茶色をした力強い右目に左の隻眼。戦いの負傷、いや名誉の傷は三本の爪痕?が生々しい。それだけではなく、頬にすら傷跡が有る。一体彼は、ラハンド=カリュハは、どれだけの激戦を生き抜いてきたのだろうか。と、思った時に産まれたのは敬意だった。
 それに値する舞を踊って見せていた。
 手足の如く振り回す大剣は、微風を仰ぐ扇のごとく可憐でありしなやか。
 それでいて、描く一閃はけたましい音と共に命を削ぎ落とす。
 孝介が初めて武人を目の当たりにした瞬間、抱いたのは憧れ・尊敬・感動。
 十分に敬意を示すには事足りた。しかし、カリュハは不満そうに鼻頭をかきながら言う。

「なんだ、その、ホラ。同じく街を守る者同士堅苦しいのはやめよーぜ?俺は苦手なんだよなッ」

 男らしい笑みを浮かべて肩を叩く。
 日本じゃ、考えられない初対面への対応に正直孝介はビックリと言うより恐怖を感じた。
 故に、少し頬を引き攣らせて笑いを合わせる。

「ははは、すいませんッ」

「だあから、謝るんじゃねぇだろ?ッて、今はそれどころじゃねぇか。俺は違う場所を見てくる。此処はお前等に任せたぞ!
 俺は、この街が好きだからよ。何としても守りてぇんだ」

 背を向けて、走り出したと思えば急に立ち止まり振り返りカリュハは言った。

「そーや、俺らの事をエヌピーシーとか言う言葉で括りつけている奴が居るが……。俺達は列記とした人間であり、エヌピーシーなんて種族じゃない。それだけは勘違いすんなよな」

 ──そうだ。当たり前の事だよ、な。
 誰しもが、自分の世界で創られた偽物だなんて思はない。そんなのを決めつけるのはいつだって他所の生き物。

 女将さんの事や食堂のオバチャンだったりと、親しんではいたが、何処か孝介は創られた偽物だと言う距離があった。
 それが、逆に居心地の良くもあったのだがカリュハは物の見事に本心をたった一矢で射抜き見抜いた。

「すまなかった。門が閉じるまで此処は俺達が何としても……護る!!」

 ナイフを構え、闘志を瞳奥底から燃やす。
 罪悪感もあった。後ろめたさもあった。

「だが、それ以上に……この街は暖かったんだ」

 行く宛もさ迷い、異世界転移者同士は慣れ合える状況でも無かった。そんな中、アルディアの人達はとても暖かく、本当の笑顔を孝介に振りまいてくれた。
 それは、自分がいた世界、地球と呼ばれる惑星でも感じる事の無かった繋がり。

「マスター!! 右翼から、一体突進してきます!!」

 ララエルは、ボアを相手にしながらも孝介を視野に入れて現状把握に務めていた。

「ああ! 大丈夫だ。淵炎の衣フラム・エポス現出ライズ!!」

 孝介の胸が淡い光を放ち、粒子は収集、収縮し塊は黒く燃える狼が描かれた一枚のカードを生成した。

 NR・淵炎の衣フラム・エポス

 第一層に棲息する、真っ赤な毛皮と二本の枝分かれした尻尾が特徴モンスター・フラムウルフから入手出来たカード。

 孝介が、自分のナイフに突き刺すとドス黒い炎がナイフを包む。
 禍々しい程の炎は、持ち手である孝介に危害を加えることは無く、しかし視界は蜃気楼によりボヤけていた。

「これが、ララエルをカードに変換し武器として使わない俺の特権だな。と、言ってもカードの上限を拡張してる奴なら使っている事か」

 孝介は、炎に照らされ光った瞳でボアを射ると、大気を燃やしながら切っ先を向けた。

 刹那、力強く踏み込み何も無い空間を貫く。

「燃え尽きろ」

 空気には一直線の風穴が空き、大量の炎はボア目掛けて流れ込む。
 波打ち、うねりくねり、炎と炎が喧嘩し激しくぶつかり低く鈍い音は、嘲笑う声か悲痛に苦しむ声か、将又、死を歓喜する声か。
 それはまさに、

「淵に生まれる煉獄の炎だ」

「次、来ます!!」

「ララエルも無理はするなよ!!」

 ****

 それから、門が閉まるまでひたすらに、迫り狂う
 ボアを討伐し続けた。

 十は倒したか、百は倒したか、五秒を過ぎれば粒子となり消える為に荒れた街しか目の前には広がでっていない。

「これであらかた終わったな? ララエルは、大丈夫か?」

 クローズと唱え、淵炎の炎を解除しナイフを鞘にしまい込みつつ孝介は言った。
 ララエルは、若干息が上がってはいるもののニコッと無垢な笑顔で頷いて答える。

「は、はい! 大丈夫です。少々疲れましたが……」

「ああ、確かに連戦はもうゴメンだなッ」

 笑った膝を誤魔化すように孝介は地べたに座る。

 力の入らない手は、激しかった戦闘を物語、そんな中を生き抜いた孝介は自身に安堵と賞賛を心の中で送る。
 だが、同時にボア如きに対しての有り様に不安も覚えていた。

「カリュハさんは、こんなの御茶の子さいさいなんだろーな」

 ふとカリュハが向かった道を目だけで見つめて孝介は咄嗟に叫んだ。

「なっ!! 取りこぼしがあんな所に三体も……。それに、あそこには」

 赤い皮でできたローブを纏い、顔全体が隠れるフードを被り逃げている人の姿があった。

「だが、俺じゃ間に合わない……。ララエル、飛べる……か?」


「私は、飛ぶのが苦手……いいえ」

「飛べます!!」

「よし、頼んだ!! 飛べ、ララエルーッ!! 俺の代わりに、あの子を助けるんだ!」

「はい! マスターが望のならば、私はマスターに従います!!
 うぉおおおぉ!!」

 中屈みになり、翼を上下に一振りして助けるべき子とボアを写す。
 そして、天使には似合わず、ララエルには似合う気合いの入った叫び声と共に折り畳んでいた翼を伸ばす。

「なっ! んだ?」

 ララエルの翼が輝き、光が収束した時、孝介は言葉を無くした。

 いつもは一枚一枚が柔らかそうな翼が豹変。

 端から端まで二メータはある翼は、氷の如く凛々しい燐を成し、光に輝くそれは正にダイヤモンドの翼。

 神秘的で、神々しくて、煌びやかで、だが逆にそれが恐ろしくもあった。

 羽ばたく度に、さながら雪のように舞い散る粒子はララエルの足元に落ちては静かに消える。

「これなら……ッ!! 行ける!!」


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