異世界でデスゲーム~この世界で神になる~
ドミヌス・ボア『前編』
「マスター……! マスター、起きてください!!」
良質の毛皮で出来た布団は暖かく、それでいて通気性がとても良い。加えて、ふわふわとした敷布団は体全体を程よく包む。つまり、寝心地が孝介とっては最適だった。
いつまでも寝ていたい、なんて葛藤に悩まされながらも朝という毎日を決して朝早くはないが自然と起きている。どうにか、こうにか、起きられている。
だが、今回に限っては自然と起きるものではなく他者からの行為によるものだった。
肩からは力が伝わり、それが原因で孝介の体は激しく揺れる。
頭がグワングワンと動くこの状況下で、眠り続けられる程鈍くはない。
故に、嫌々ながらも重たい瞼を持ち上げて薄暗い景色を取り込む。
「なんだよ……ララエル」
辺りを見渡すが、ランタンにも明かりが点っていない。
加えて、肩に触れた手は小刻みに震えていた。
孝介は、陽も射してないカーテンの外を一度見てから再度確認をする。
「まだ太陽も昇っていない深夜にどーしたんだ? 怖い夢でも見たのか?」
と、さながら子供を宥めるように優しく諭す。
ララエルは口をグッと結び、涙ぐみ不安を形にしたまま首を振るって否定をした。
一度目を閉じて、深く息を吐き出すと一呼吸置いてから目を開き孝介を写す。
「ち、違いますよ。私達は夢なんか見ません。前も言ったじゃないですか。そーじゃなくて、聞こえませんか?? 感じませんか?」
「聞こえる? 感じる? 何をだ?」
問いかけるとララエルは、導くかのように窓に視線を向ける。
不穏な空気だけが、ヒンヤリと冷える部屋に立ち込める。そう言えば、と、女将が昨日の今朝方に言っていた言葉を思い出し納得をした。
「なるほど……。日常会話に色々なキーワードが組み込まれてもいるッてことか」
だが、それ以上に、世界の時が止まったかのように生まれた沈黙は嫌な予感を否応なしに植え付ける。
孝介は頭が正常に機能しないまま、閑静な街へと意識を向けた。
「地鳴りか? ……いや、地震か?」
二階の部屋に居るにも関わらず、微かな振動がベッドの下から起きていた。
それには強弱があり、連動して窓や机等が微動する。
「おい……おいおい……おい。まさか、ルフの言っていたイベントって、こんな朝早くにおこなわれるのかよ……ッ?」
ゲームならば普通、日付を告知するものだ。
と、孝介は自分の固定概念で縛り付けていた事を後悔する。
上半身を起こし、手のひらで額を支え酷く落胆するのも仕方が無い。
散々、今後の事を考えておきながら、孝介は目の前の出来事に対して備えと言うものを一切していなかった。
「だが、取り敢えずやるしかねぇーだろ」
決意を固め、起き上がる。
そして、学ランに着替え歯を磨き、身支度を終えて孝介とララエルは外へと出た。
「今日は、外に出ない方がいいわよ? ボアは寒さに敏感で、大寒波が来るのを悟ると大移動をするのよ。
しかし、嫌だわ……。いつもなら、騎兵隊が進路を逸らしてくれているのだけれど……今回は間に合わないって言伝で聞いたのよ。下手したら、アルディアにまで進行が及ぶかもしれないわね……」
装飾が施されたボアの毛皮を肩から羽織、寒さに身を縮こませながら、顔色は不安を浮かべる女将。
「間に合わない……??」
「ええ……そーらしいのよ。どーやら、森淵ノ闇が慌しくなっているらしくてね? 先遣隊の護衛として向かっているらしいのよ」
「そーいった設定か……。中々凝ってやがる」
孝介は、解釈をすると親指を天に突き立て余裕を態と作り笑顔で言う。
「大丈夫ですよ! 俺には良きパートナーが居ますし!」
渋い顔を浮かべて、最後まで憂いてくれた女将を背に引き戸を引いて外へと踏み出した。
「行くぞ、ララエル」
「は、はい!」
色々な建物が並ぶ通路。赤煉瓦が埋め込まれた通路には幾重も足跡が微かに響く。
時折、遠くで聞こえる甲高い鳴き声の方向へと向かっているようだ。
辺りは可視化された冷気か、霧か定かではないが白いモヤが足首から下を覆い隠す程に濃い。
「ははは。雰囲気もバッチリだな」
賑わっていた昨日が嘘のように背徳する街並に孝介は固唾を飲み込み、足音の方へと駆け足で行き急ぐ。
静寂に呑み込まれた街の空気は重く、今から行う行為の是が非を激しく孝介に問う。
他の異世界転移者に任せて逃げるか戦うか。
外で戦う以上、決闘を申し込まれるかもしれない。
命のやり取りを行う際の手順として、互いの承諾が必要ではあるが半殺しにして無理矢理に戦わせている奴を見たりもしていた。
今までは、逃げてきたが矢面に立てば全員が敵である。
自分で決めた決意すら揺らぐ意思の弱さに嫌悪を抱きながら答えも出さず足を前に運ぶ。
最中に隣を走るララエルから下品な笑い声が聞こえた。もはや、怪しいの一言に限る笑い声に似合った恐ろしい表情。手を使い口元を隠しているのだが脇からイヤらしく吊り上がった口角が覗かせていた。
「デュフフフ……フフ」
「うわ……んだよ、気持ち悪い笑いしやがって……」
「えへへ。すいません、つい思い出しちゃって」
「思い出す? 何をだ? 昨日の晩飯か?」
「あ、確かに美味しかったです! あー、お腹がす──ッて、違いますよ! もう! 何言わせてるんですかあ!」
眉頭に皺を寄せ、前を向き走りながらもララエルは口を尖らせて不服の意を示す。
「じゃ、なんだよっ」
他にいい事が、あったとは思えない。寧ろ朝から最悪だ。これが週の始まりだったのなら、その先の六日間が億劫でしかないだろう。
「さっき、マスターが言ってくれたじゃないですか! 良きパートナーって!! 私、とても、とおーっっても嬉しかったんですよ!!」
「良きパートナー……。ぁあ、そうだ。そうだった……!!」
ララエルの素直な喜びに曇っていた視界は晴れ渡り、暗い未知なる道に光が差し込んだ。
自分が向かうべき道。
「この街を護る!! 頼りにしてるぞララエル!」
「はい! 私も、マスターを信じてます! 行きましょう!」
****
西と東にある街の入口、森淵の闇があり、リーフへと繋がる東口には既に、ボアの群れが入り込み異世界転移者達は鎬を削りあっている最中だった。
「シークレットは俺のもんだ!!」
「私が貰うわ!!」
「騎兵隊はNPC。コイツらは、死んでも何もならねぇ、きにするこたねぇな! オラオラオラッ」
最後にトドメを刺したものが報酬を貰えるゲーム性がより人間を貪欲にしていた。
分かりきっていた光景だが、見るに堪えない。
中には、体当たりをして相手を吹き飛ばし報酬を横取りする者。
NPCを突き立て、囮にする者。もはや、どちらが悪魔か見分けもつかない。
皆の顔は欲に塗れ、眼光は不気味だ。
こんな中に、自分も混ざるのか。刀身が三十センチ程あるナイフの柄を強く握る。
「だが……少しでも数を減らさなくてはならない。報酬よりも、この街の人には良くしてもらってる。これは、俺が決めた等価交換だ!!」
口の端を噛み締め、向かい来るボアに切っ先を向け叫ぶ。
強く、気高く、そして自分に言い聞かせる為に。
「かかってこい! 易々と、ここから先には行かせねぇ!!」
赤い瞳で孝介を写し、顎を引き彎曲した角にも似た鋭利な牙二本を胴へと向け猪突猛進をしてくる。
豚と猪の鳴き声を掛け合わせたような、歪のある声はいつ聞いても慣れるものでは無い。
間近へと来た瞬間、左足を半歩後ろへ流し、それを軸にボアの突進を避けるのと同時に首へとナイフを突き立てる。
赤い吐血と共に喉を貫いたナイフでボアは地に縫われた。
「なんだか、体が軽いな。日頃の狩りが功を奏したってとこか?」
ぴょんぴょんと、数回跳躍して自分の絶好調ブリに思わず疑心をした。
だが、愉悦に浸る暇も無く、第二、第三とボアが突進を繰り返す。
「ララエル! そっちにいっ──」
「はい! 折りゃぁあ!!」
「た……ぞ?」
それは、わかり易く言えば掌底だ。
腰を落とし、半歩前に足を踏み出すのと同時に腰を捻り気合いの名の元ララエルは、ボアの顔面を粉砕。
 
音から遅れてやって来た強い風圧に髪や服が淫に靡く。それは思わず絶句をしてしまう程の勇敢さだ。
いつも逃げ回っているララエルはそこに居ない。
「いや……。何でそんなのを?」
未だ、吹き飛ばしたままのモーションで止まるララエルに、若干、声を震わせて質問を問うた。
すると、体制を変えて恥ずかしそうに頬をポリポリかきながらララエルは言う。
「いやあ、やれるものですね! 早朝に街の人達がやっている体操をアレンジしたんです!」
「いや、そーじゃなくて……」
「あ! すいません……。何か、今日はやれる気がして!! なんて言ったらいいのか……そうですね! 良きパートナーの力ですかね?」
病は気からとはよく言ったものだが、いやこの場合は豚もおだてりゃ木に登るって所だろうか。
非常にララエルは落ち着いており尚且つ明るい声だった。
「門を閉じろ!! 統べる王・ボアがきやがった!!」
白い馬に跨った鼻白む騎兵隊の一人が焦りで声を上擦らせながら叫びアルディアへと帰還をした。
「おい! 詳しく教えろ!」
竦然しきった騎兵隊に問いただす異世界転移者。
威圧した言い方は、立場を弁えてすらいない。
「簡単に言えば……体長が十メータはある、ボアのリーダーだ」
ボアが大体、一メータ。その十倍となれば誰もが怯えるにきまっているが、明るい声が何故か鼓膜を叩く。
「それだ!! よっしゃぁあ! シークレットは頂きだ!!」
我先にと異世界転移者は、街の外へと向かい出す。
孝介は、誰に触れるわけでもない手を伸ばし、
「いや、まだボアがこの街に!」
「は? お前馬鹿か? 街なんか、何もしなくても俺達には関係ないだろ? それにNPCにかまけてる時間自体が惜しい。お前も異世界転移者なら分かるだろ? 力が必要な事ぐらいよ?」
「それは……けれど……俺は、この街に」
「あーそうかい? ま、ライバルが一人減るにこしたこたーねぇな!」
嘲笑い、鎧と槍を装備した男性は孝介を見ながら言うと、鉄を軋ませる音と共に街の外へと去っていった。
「マスターは良いんですか?」
「ん? ぁあ、言ったろ? 俺はこの街を護るってな」
良質の毛皮で出来た布団は暖かく、それでいて通気性がとても良い。加えて、ふわふわとした敷布団は体全体を程よく包む。つまり、寝心地が孝介とっては最適だった。
いつまでも寝ていたい、なんて葛藤に悩まされながらも朝という毎日を決して朝早くはないが自然と起きている。どうにか、こうにか、起きられている。
だが、今回に限っては自然と起きるものではなく他者からの行為によるものだった。
肩からは力が伝わり、それが原因で孝介の体は激しく揺れる。
頭がグワングワンと動くこの状況下で、眠り続けられる程鈍くはない。
故に、嫌々ながらも重たい瞼を持ち上げて薄暗い景色を取り込む。
「なんだよ……ララエル」
辺りを見渡すが、ランタンにも明かりが点っていない。
加えて、肩に触れた手は小刻みに震えていた。
孝介は、陽も射してないカーテンの外を一度見てから再度確認をする。
「まだ太陽も昇っていない深夜にどーしたんだ? 怖い夢でも見たのか?」
と、さながら子供を宥めるように優しく諭す。
ララエルは口をグッと結び、涙ぐみ不安を形にしたまま首を振るって否定をした。
一度目を閉じて、深く息を吐き出すと一呼吸置いてから目を開き孝介を写す。
「ち、違いますよ。私達は夢なんか見ません。前も言ったじゃないですか。そーじゃなくて、聞こえませんか?? 感じませんか?」
「聞こえる? 感じる? 何をだ?」
問いかけるとララエルは、導くかのように窓に視線を向ける。
不穏な空気だけが、ヒンヤリと冷える部屋に立ち込める。そう言えば、と、女将が昨日の今朝方に言っていた言葉を思い出し納得をした。
「なるほど……。日常会話に色々なキーワードが組み込まれてもいるッてことか」
だが、それ以上に、世界の時が止まったかのように生まれた沈黙は嫌な予感を否応なしに植え付ける。
孝介は頭が正常に機能しないまま、閑静な街へと意識を向けた。
「地鳴りか? ……いや、地震か?」
二階の部屋に居るにも関わらず、微かな振動がベッドの下から起きていた。
それには強弱があり、連動して窓や机等が微動する。
「おい……おいおい……おい。まさか、ルフの言っていたイベントって、こんな朝早くにおこなわれるのかよ……ッ?」
ゲームならば普通、日付を告知するものだ。
と、孝介は自分の固定概念で縛り付けていた事を後悔する。
上半身を起こし、手のひらで額を支え酷く落胆するのも仕方が無い。
散々、今後の事を考えておきながら、孝介は目の前の出来事に対して備えと言うものを一切していなかった。
「だが、取り敢えずやるしかねぇーだろ」
決意を固め、起き上がる。
そして、学ランに着替え歯を磨き、身支度を終えて孝介とララエルは外へと出た。
「今日は、外に出ない方がいいわよ? ボアは寒さに敏感で、大寒波が来るのを悟ると大移動をするのよ。
しかし、嫌だわ……。いつもなら、騎兵隊が進路を逸らしてくれているのだけれど……今回は間に合わないって言伝で聞いたのよ。下手したら、アルディアにまで進行が及ぶかもしれないわね……」
装飾が施されたボアの毛皮を肩から羽織、寒さに身を縮こませながら、顔色は不安を浮かべる女将。
「間に合わない……??」
「ええ……そーらしいのよ。どーやら、森淵ノ闇が慌しくなっているらしくてね? 先遣隊の護衛として向かっているらしいのよ」
「そーいった設定か……。中々凝ってやがる」
孝介は、解釈をすると親指を天に突き立て余裕を態と作り笑顔で言う。
「大丈夫ですよ! 俺には良きパートナーが居ますし!」
渋い顔を浮かべて、最後まで憂いてくれた女将を背に引き戸を引いて外へと踏み出した。
「行くぞ、ララエル」
「は、はい!」
色々な建物が並ぶ通路。赤煉瓦が埋め込まれた通路には幾重も足跡が微かに響く。
時折、遠くで聞こえる甲高い鳴き声の方向へと向かっているようだ。
辺りは可視化された冷気か、霧か定かではないが白いモヤが足首から下を覆い隠す程に濃い。
「ははは。雰囲気もバッチリだな」
賑わっていた昨日が嘘のように背徳する街並に孝介は固唾を飲み込み、足音の方へと駆け足で行き急ぐ。
静寂に呑み込まれた街の空気は重く、今から行う行為の是が非を激しく孝介に問う。
他の異世界転移者に任せて逃げるか戦うか。
外で戦う以上、決闘を申し込まれるかもしれない。
命のやり取りを行う際の手順として、互いの承諾が必要ではあるが半殺しにして無理矢理に戦わせている奴を見たりもしていた。
今までは、逃げてきたが矢面に立てば全員が敵である。
自分で決めた決意すら揺らぐ意思の弱さに嫌悪を抱きながら答えも出さず足を前に運ぶ。
最中に隣を走るララエルから下品な笑い声が聞こえた。もはや、怪しいの一言に限る笑い声に似合った恐ろしい表情。手を使い口元を隠しているのだが脇からイヤらしく吊り上がった口角が覗かせていた。
「デュフフフ……フフ」
「うわ……んだよ、気持ち悪い笑いしやがって……」
「えへへ。すいません、つい思い出しちゃって」
「思い出す? 何をだ? 昨日の晩飯か?」
「あ、確かに美味しかったです! あー、お腹がす──ッて、違いますよ! もう! 何言わせてるんですかあ!」
眉頭に皺を寄せ、前を向き走りながらもララエルは口を尖らせて不服の意を示す。
「じゃ、なんだよっ」
他にいい事が、あったとは思えない。寧ろ朝から最悪だ。これが週の始まりだったのなら、その先の六日間が億劫でしかないだろう。
「さっき、マスターが言ってくれたじゃないですか! 良きパートナーって!! 私、とても、とおーっっても嬉しかったんですよ!!」
「良きパートナー……。ぁあ、そうだ。そうだった……!!」
ララエルの素直な喜びに曇っていた視界は晴れ渡り、暗い未知なる道に光が差し込んだ。
自分が向かうべき道。
「この街を護る!! 頼りにしてるぞララエル!」
「はい! 私も、マスターを信じてます! 行きましょう!」
****
西と東にある街の入口、森淵の闇があり、リーフへと繋がる東口には既に、ボアの群れが入り込み異世界転移者達は鎬を削りあっている最中だった。
「シークレットは俺のもんだ!!」
「私が貰うわ!!」
「騎兵隊はNPC。コイツらは、死んでも何もならねぇ、きにするこたねぇな! オラオラオラッ」
最後にトドメを刺したものが報酬を貰えるゲーム性がより人間を貪欲にしていた。
分かりきっていた光景だが、見るに堪えない。
中には、体当たりをして相手を吹き飛ばし報酬を横取りする者。
NPCを突き立て、囮にする者。もはや、どちらが悪魔か見分けもつかない。
皆の顔は欲に塗れ、眼光は不気味だ。
こんな中に、自分も混ざるのか。刀身が三十センチ程あるナイフの柄を強く握る。
「だが……少しでも数を減らさなくてはならない。報酬よりも、この街の人には良くしてもらってる。これは、俺が決めた等価交換だ!!」
口の端を噛み締め、向かい来るボアに切っ先を向け叫ぶ。
強く、気高く、そして自分に言い聞かせる為に。
「かかってこい! 易々と、ここから先には行かせねぇ!!」
赤い瞳で孝介を写し、顎を引き彎曲した角にも似た鋭利な牙二本を胴へと向け猪突猛進をしてくる。
豚と猪の鳴き声を掛け合わせたような、歪のある声はいつ聞いても慣れるものでは無い。
間近へと来た瞬間、左足を半歩後ろへ流し、それを軸にボアの突進を避けるのと同時に首へとナイフを突き立てる。
赤い吐血と共に喉を貫いたナイフでボアは地に縫われた。
「なんだか、体が軽いな。日頃の狩りが功を奏したってとこか?」
ぴょんぴょんと、数回跳躍して自分の絶好調ブリに思わず疑心をした。
だが、愉悦に浸る暇も無く、第二、第三とボアが突進を繰り返す。
「ララエル! そっちにいっ──」
「はい! 折りゃぁあ!!」
「た……ぞ?」
それは、わかり易く言えば掌底だ。
腰を落とし、半歩前に足を踏み出すのと同時に腰を捻り気合いの名の元ララエルは、ボアの顔面を粉砕。
 
音から遅れてやって来た強い風圧に髪や服が淫に靡く。それは思わず絶句をしてしまう程の勇敢さだ。
いつも逃げ回っているララエルはそこに居ない。
「いや……。何でそんなのを?」
未だ、吹き飛ばしたままのモーションで止まるララエルに、若干、声を震わせて質問を問うた。
すると、体制を変えて恥ずかしそうに頬をポリポリかきながらララエルは言う。
「いやあ、やれるものですね! 早朝に街の人達がやっている体操をアレンジしたんです!」
「いや、そーじゃなくて……」
「あ! すいません……。何か、今日はやれる気がして!! なんて言ったらいいのか……そうですね! 良きパートナーの力ですかね?」
病は気からとはよく言ったものだが、いやこの場合は豚もおだてりゃ木に登るって所だろうか。
非常にララエルは落ち着いており尚且つ明るい声だった。
「門を閉じろ!! 統べる王・ボアがきやがった!!」
白い馬に跨った鼻白む騎兵隊の一人が焦りで声を上擦らせながら叫びアルディアへと帰還をした。
「おい! 詳しく教えろ!」
竦然しきった騎兵隊に問いただす異世界転移者。
威圧した言い方は、立場を弁えてすらいない。
「簡単に言えば……体長が十メータはある、ボアのリーダーだ」
ボアが大体、一メータ。その十倍となれば誰もが怯えるにきまっているが、明るい声が何故か鼓膜を叩く。
「それだ!! よっしゃぁあ! シークレットは頂きだ!!」
我先にと異世界転移者は、街の外へと向かい出す。
孝介は、誰に触れるわけでもない手を伸ばし、
「いや、まだボアがこの街に!」
「は? お前馬鹿か? 街なんか、何もしなくても俺達には関係ないだろ? それにNPCにかまけてる時間自体が惜しい。お前も異世界転移者なら分かるだろ? 力が必要な事ぐらいよ?」
「それは……けれど……俺は、この街に」
「あーそうかい? ま、ライバルが一人減るにこしたこたーねぇな!」
嘲笑い、鎧と槍を装備した男性は孝介を見ながら言うと、鉄を軋ませる音と共に街の外へと去っていった。
「マスターは良いんですか?」
「ん? ぁあ、言ったろ? 俺はこの街を護るってな」
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