異世界破壊のファートゥム

蒼葉 悠人

63話 キテラVS俊哉

赤い髪をした女を俊哉はよく知っている。
だが、その女は俊哉の知っている女とは180度違っていた。
凛とした佇まい。目を合わせるだけで押し潰されてしまうような威圧感。
それは俊哉の知っているキテラではなかった。

 「いくよ!キテラ」

 または見たことがある。能力をコピーするという能力で戦っていたが、キテラの登場により戦いかたを変えた。
攻めていた恵里菜は後方へと下がりキテラを前衛とする。
その動きは一瞬で慣れているのだとすぐにわかった。

恵里菜が構える。
キテラが能力で周囲の景色をライブ会場へと変えた。
その瞬間、恵里菜が、透き通った綺麗で、よく響く聞く者を虜にしてしまうような歌声で歌い始める。
何が起きたのかわからず聞き入っているとキテラが動く。

手のひらから魔方陣が出現すると同時に炎が俊哉たちを襲う。
とっさに愚者の能力で無効化しキテラの動きを見ようとするが、甘かった。
矢澤とフードの男の戦いを見ていた俊哉からしたら魔法がどのような物かある程度知っていた。その知識から無力化した後でも対処できると思っていたが知っていた魔法よりはるかに強力だった。
火力、勢いが桁違いに違う魔法のせいで視界を奪われる。
目の前が炎だけになった事で周りをライブ会場に変えた能力まで無力化する事ができなかった。
初手にアルカナを使うことがわかっていたように次は身体強化の能力で距離を詰められる。
次の行動を知ろうと、魔術師のアルカナを使った。

 (近距離からの氷の魔法でこちらの行動を封じるつもりか。)

キテラの次の行動がわかり、対処しようとするが、やはり知っている魔法の威力とは格段に違った。
避けれる範囲まで離れたつもりだったが、半身を氷の魔法で凍らされてしまった。
何かがおかしいと思い俊哉の中にいるキテラに問いただす。

 「キテラ、お前の魔法ってこんなに威力あるのかよ。
フードの男の戦いの時なんで全力じゃなかったんだよ。」

 「あの時のが私の全力よ。目の前の私がおかしいのよ。何かカラクリがあると思う。どうにかしてそれを探って!」

言われるがまま考えているとキテラの次の攻撃が来る。凍っていないもう半身に小さな稲妻が落ちる。
それと同時に半身の感覚が麻痺し動かなくなった。
凍っていて動かない半身と麻痺した半身。
恵里菜が勝負が着いたと歌を止めたとき、凍っていた氷が砕け麻痺していた半身が治った。
考えるよりも先に手が動いた。
目の前のキテラに一撃でも与えようと拳を握る。
動揺するキテラはとっさに風の魔法を使い俊哉をぶっ飛ばした。

 「すまない!遅くなった。」
 「治りましたか?」

飛ばされた俊哉に近づいてくる颯真とリッカ。
どうやら颯真の治療は終わったらしい。

二人を加えてキテラを返り討ちにしようとした時、俊哉の中のキテラが話しかけてくる。

 「わかったよ。
あの女が歌ってる歌だよ。
おそらく歌うことで発動する支援系の能力ね。彼女が歌っている間は目の前の私の魔法の威力は強化されてると思った方がいい。厄介ね。」

俊哉の中のキテラが再びイライラしだす。

 「どうしたんだよ!」

 「範囲系なら、その範囲から動かせばいいんだけど、歌っている間となると。
聞こえないようにするか、歌を止めるしか方法がない。」

考えるまでもなく答えは出ていた。
目の前のキテラが他にどのような能力を持っているのかわからない状態で飛び込むのは自殺行為になる。それに加えて、キテラの強さ。歌を止めるための時間が作れないだろう。

 「どうしたらいい。」

俊哉の中のキテラに聞くと一つの答えが出てきた。

 「方法が無いわけではない。でも、成功する可能性はほぼゼロ。賭けになる。
俊哉くんしだいになるけどいい?」

再び恵里菜が歌い出す。
それと同時に作戦を練る。

 「颯真、アルカナでキテラの放った魔法を消したりはできないか?」

 「リッカは俺がかすり傷でもしたらすぐに治してくれ。」

 「距離が離れると治すのに時間がかかりますがいいですか?」

動き出すキテラに何も考えずに飛び込む俊哉。
再び威力の強力された魔法が魔方陣から放たれる。一撃目を左に避け、できる範囲で交わす。が、威力が強すぎるため右手を犠牲にしてしまう。
それでも構わず走っているとリッカの能力で少しずつ右手が治っていく。
再び魔方陣が現れる。
現れたと同時に颯真が能力で魔方陣を消滅させる。
それを何度か繰り後少しでキテラに手が届きそうな距離になったとき、今まで一つしか出していなかった魔方陣が、俊哉をドーム状に覆い被せるほどの数へと変わる。

 「こんなことも出来るなんて聞いてないぞキテラ!」

俊哉の中のキテラに話しかける俊哉。

 「私だって知らないわよ。こんな量の魔方陣出せるなんて。できて五つなのに。
いったいいくつあるのよ!」

一瞬戸惑ったが俊哉は足を止めることはしなかった。

 「颯真ー!気張れー!」

俊哉が大声で叫ぶと同時に颯真がアルカナと能力の二つを使いなんとか全ての魔方陣を消滅させる。

俊哉の左手がようやくキテラに届く。
と、同時にキテラを透明でスライム状の何かで包む。

即席で作り上げた結界。
俊哉の中のキテラが言っていた、どうにかする方法とはこの結界の事だった。

構成もむちゃくちゃ。強度すらない。
そんなひどく脆い結界だが俊哉にはそれでよかった。
音を遮断しゃだんしてくれるものが一瞬できればよかった。
キテラが結界を簡単に壊す。
それと同時に愚者のアルカナで全ての能力を無力化した。

ライブ会場は消え辺りは元の景色へと変わった。

 「さて、仕切り直して、第三ラウンドといこうか!」

ようやく最悪だった状態から解放された俊哉が調子に乗る。が、その気分はすぐに壊される。

キテラの回りから凄まじい殺気が感じられた。
攻撃するタイミングを一つ間違えたら首が飛ぶ。そんな重たい空気へと変わる。
その異様な殺気に恵里菜は違和感を感じたらしくキテラに問う。

 「どうしたのよキテラ?
そんな本気になって。
ただの力試しのはずでしょ?」

だがキテラには聞こえていないらしい。
ぶつぶつと何かをいっている。
よく耳を澄ますとかすかに聞こえてきた。

 「気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。いろんな魔力が混じっていたから勘違いだと思ってたのに。今の結界に使った魔力はどう考えても私と同じ魔力。どうしてあの男が私と同じ魔力を。
気持ち悪い。気持ち悪い。」

 「もういい!キテラ一度戻りなさい。」

明らかにおかしいキテラを自分の中に引っ込めようとする恵里菜の言葉を無視し。
小さな声で、気持ち悪い。と繰り返しながら魔力を上げていくキテラに恐怖し戦意を失うリッカ。
どう止めるべきかと考える颯真。
そして、なす術がないと絶望する俊哉。

高まっていく魔力は徐々に黒いゲートへと形を変えていく。

 「俊哉くん、早くアルカナを使いなさい!」
俊哉の中のキテラが焦る。
言われるがまま愚者のアルカナを使うが何度使ってもゲートは消えない。
そうこうしていると、再びキテラが話かけてくる。

 「そっかー、ごめんね。俊哉くん。
あれはただの魔力の塊だから能力に入らないのか。あのゲートがゲートとして完成したと同時にアルカナで無力化して。
少しでも遅れると取り返しの着かないことになるよ。」

 「あれはなんなんだよ。」

 「ニコラスとの戦いの時に見たでしょ。あれは黒魔術の一つ。
私と、私とは別の魔女のみが使える冥界をこちらの世界に繋げる魔法。」

その言葉だけで、どれ程ヤバイものなのかは想像ができた。
どうしたものかと立ち尽くしていると、颯真が動いた。
発動する前に止めようとキテラの近くに向かう。
それを見た俊哉が颯真に続いてキテラの近くに向かおうとしたその時。

 「おい、キテラ!今なにされたかわかるか?
何で颯真が倒れたか俺には分からなかった。」

キテラの近くに近づいたとたんに颯真は意識を失ってしまった。
よく見ると回りの冒険者も皆意識を失っていた。
リッカ含める後ろの三人も例外ではなかった。

 「言ったでしょ。冥界だって。
普通の人間が冥界に近づくのは無理なのよ。意識が耐えられなくなる。
むしろ颯真はよくあそこまで近づけたよ。
耐えられるかはその者の力に比例する。
当然目の前の私より強い者だったら倒れることはない。」

そんな話をしているとゲートが完全に完成してしまう。
アルカナを使うタイミングを逃した俊哉。
ゲートが開き何かが出てこようとしたその時、俊哉の中の何かが共鳴したかのようにざわつき始めた。

俊哉を中心にドロドロとした何かが姿を表す。

開かれたゲートから骸骨が出ようとする。

 「誰の許可で出てきてる。失せろ!」

俊哉のその一言でゲートが自ら閉まる。
その状況に納得できないキテラがさらに激怒。

 「閉じたのなら、自ら開いて引きずり出すだけよ。」

自ら閉じた門を開こうとするキテラ。
その異様な光景を見ながら冷静に大鎌を具現化させる俊哉。

大鎌を具現化したと同時にキテラに切りかかる。
まだ門を開く寸前のキテラに大鎌が触れそうになったその時、その場を沈めるには十分なほど大きな、パチンという音がなる。

手を叩いたのはミアだった。
キテラと俊哉の動きが止まる。

 「そろそろ止めてくださいませんか?
他の人も巻き込んでいますし。
力試しですよね?」

普段のように笑ってはいるがその笑みの奥には不気味なものを感じた。

恵里菜は冷静になったキテラをすぐに自分の中に戻しこの力試しは終了を迎えた。

冷静になった俊哉と恵里菜はミアに説教されながら倒れた者たちの回復を待った。
子供に説教される高校生というのは実に見るに耐えないものだった。

 「恵里菜さん、俊哉さん。
少し…。いや、だいぶ!やりすぎです。」

素直に謝る二人を見てひと安心するミア。
二人をおいて一足先に戻ろうとるするミア。

 「ミアちゃん。すまない。回りのことも考えずに。
えっと、これから同じクエストを受けるわけだろ。
仲直りってのは可笑しいかも知れないけど、仲直りの印に、自己紹介でもしないか?
俺の名前は、鴻上 俊哉。」

 「恵里菜、久我くが 恵里菜よ。
私もやり過ぎたと思ってる。
これからは仲良くやりましょ。」

そうこうしてるうちに倒れた皆が目を覚ましたらしい。
先に戻ったミアから呼び出され、二人で戻ると、そこにはなんと沢山いた冒険者の姿はなく。
颯真、リッカ、沙羅と明美だけになっていた。
理由を聞くと、どうやら俊哉と恵里菜が暴れすぎたらしく着いていけないとの事で皆辞退したらしい。
ミアに謝罪をすると思いがけない言葉が帰って来た。

 「気にしないでください。
きっとあの人たちがいても足手まといになっていたでしょうから。
俊哉さん達くらいの実力者でないと。」

その言葉を聞き、ただの護衛だけでは終わらないと察する颯真。
颯真が理解したとわかり話始めるミア。

 「やはり颯真さんは話が早くて助かります。
颯真さんが思っている通りですよ。
この依頼、国絡みの戦争に発展します。
相手国は東の国、ブラッドの納めるウェザーロード。」

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