異世界でもプロレスラーになれますか?

大牟田 ひろむ

第51話 VSバンディ・アバラン


 ◆

『西ゲート、もはや説明の必要はないでしょう。これまで様々な技を駆使し、強敵を次々と打ち倒しついに決勝まで登りつめたマスクマン———ドラゴン・ヤシマ選手入場!』

 凄まじい歓声の中、俺は闘技場に歩みを進める。

『東ゲートより、同じく武闘家職。しかしその中でも稀に見る魔闘士というレアな職業であり、そして今大会準決勝にして優勝候補筆頭である我が国の国王ヴィルフリート様を打倒したこの男———バンディ・アバラン選手入場!』

「……来たな」

 ゆらりゆらりと焦らす様にゆっくりと歩くその様は相手に苛立ちを覚えさせるのだろう。
 だが、俺が感じる感情———それは怒りではなく喜び。
 この大会に出られた事、今日この日に戦える事、そして何より、この国を———シルフィを救う為の戦いが出来る事に。

『それでは試合……開始!』


 奴は動かない。俺の出方をうかがっているのか、自分から動く気は無いのか。
 どちらにしろこのままでは何も始まらない。
 ここは俺から行くべきか。
 そう思い仕掛けようとした時だった。

「いやはや君の戦い方は実に興味深い」

 不敵な笑みを浮かべながらバンディは口を開く。

「君は武闘家職なのだろう?凄まじい威力の打撃に加え、変型的な絡め技、あの様な見事な闘い方を私は見た事がないよ」

「そりゃどうも。んで?そんな事を言いたい訳じゃ無いんだろう?キール・ドクダリアス」

「おや、私の正体に気づいていたのか、これは予想外。それならば……『ミュート』」

 奴は何やら魔法を使った様だ。
 やはり中身はキールだった様だな。ということはバンディ自体は体を乗っ取られているだけという事。あまり強力な技で体に負担をかけるわけにもいかないか。

「そんなに警戒しなくても大丈夫さ、ここのモルモット共に聞かれる訳にはいかないのでね。消音の魔法を使わせてもらったよ。しかし、私の正体をご存知ということは……この国をチョロチョロ嗅ぎ回っているネズミ共の仲間という事なのかな?」

「ああ、俺はこの国を——シルフィを救う為にここに来た」

「ほう!そうかそうか!あの娘、生きていたのか、それは良かった!」

「……良かった、だと?」

「そうさ、私はあの娘が生きていると確信していたからね。どこぞでのたれ死んでいては困るのだよ。なぜなら——」

「……」

「この国を絶望に陥れる為に彼女には全国民の目の前で死んでもらわなければならないのだからね」

「……」

 ああ、駄目だ。

「そうだ、その前に彼女を捕らえ、私のモルモットとして色々実験をさせてもらおうか」

 これは、駄目だ。

「惨い拷問にかけ、仲間の居場所を吐かせ、生きる気力も無くなるまで弄んで——」

 抑えられない。

「殺してくれと懇願したら公開処刑といこうかねっぐふぉ!」

 頭の中で何かがプツンと切れ、俺は瞬時に奴との距離を詰めその顔を思いきりぶん殴っていた。
 不意打ちだったのでモロに入り、奴は吹っ飛んでいった。

「ぐっ……げほっ」

 血反吐を吐き出しながら奴はフラつきながらこちらに背を向け立ち上がる。だがまだ足りない。
 俺は奴の後ろに立ち、奴の腰に両腕を回し持ち上げ、そのまま後頭部から地面に叩き落とした。バックドロップだ。

「……っ!!」

 奴はあまりの痛みに耐え切れず、両手で後頭部を抑えながらのたうち回っている。
 それでもまだ足りない。
 うつ伏せに倒れ込んでいる所に背後から腰に両腕を回し、そのまま後ろにぶん投げた。
 これはジャーマンスープレックスという技だが、その中でも危険と言われる投げっぱなしのジャーマンスープレックスだ。

「とりあえず今の発言に対してはこのくらいで勘弁してやる。お前の体じゃないしな」

「……げふっ、ふ、ふふふふふ……」

 よろよろと立ち上がりながらも相変わらず気持ち悪い笑みを浮かべるキール。
 相当効いていると思うが何がそんなにおかしいのか。

「き、気持ちいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!これほどの痛み、今までに数える程しか味わったことのない極上の快楽!ああ、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと私を気持ちよくしてくれぇぇぇぇ!!」

 ……頭打って狂ったか、それともただのドMだったのか分からんが、体がバンディのものなだけに耐久力はあるみたいだな。
 あれほどの技を受けても体はまだ大丈夫そうだしもうちょいキツめの技を仕掛けても問題ないか。
 そう思い、次の技を仕掛けようと奴の方へ走り出したのだが突如足が止まった。

「なんだ!?」

ふいに自身の足を見てみると、地面の砂がまるで蛇の様な形で足に絡みついていた。

「ふふふ、これがレア職業『魔闘士』です。武闘家職でありながら魔法すら扱う事が可能なのがこのバンディ・アバラン。残念ながら土魔法の適正しか無いのが難点ですがねぇ」

 え?武闘家職って魔法使えないの?

「なぁ1つ聞いていいか?魔闘士って職業がレアな理由ってなんなんだ?」

「あなたは馬鹿ですか?たった今言ったばかりでしょう。武闘家職でありながら魔法を扱える、それこそがこの魔闘士という職業の最大の特徴なのですよ」
 
 ……まじか。武闘家職って魔闘士以外魔法使えないんだ。
 それじゃ俺ってもしかして武闘家職に分類されないって事か。

「そうか、感謝する気にはなれないが一応教えてくれたお礼に良いもの見せてやるよ」

「良いもの……ですか?」

 確か土魔法には風魔法が有効だったよな、それなら。

「ウィンドヴェール!」

「へっ?」

 風魔法を体に付与する魔法だが、それはまるで体に風を纏った感じだ。そのお陰で足に絡みついていた砂は霧散していった。

「な、な、な、まさか!あなたも魔闘士だったというのですか!?武闘家職で魔法を使うなど、魔闘士以外にありえない!」

「違うな」

 驚きを隠せないキールに向かい、俺は言う。

「俺は……『プロレスラー』だ」


お久しぶりです。
私、転職活動をしていまして、あまり書くことができない状況でした。
とりあえず転職し、GW明けから新しい職場に行くことになるので、これからの更新がどうなるのか分からない状況です。
誠に申し訳ありませんが、更新は少し長めの不定期になると思って頂けると幸いです。
 

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