異世界でもプロレスラーになれますか?
第47話 竜虎の戦い(後編)
俺は試合を決めるべく、再び石壁の方へと走り出した。1度は防がれたこの技———『ムーンサルトプレス』で決める。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
『でたでたでたぁぁぁぁ!!ヤシマ選手!先程は強烈な蹴りで防がれてしまったこの大技!次こそは決まるのでしょうか!?』
勢いよく石壁の上に足をつき、弧を描くようにバク宙。そのまま奴の上に……。
「なっ!?」
フクロの姿が先程の場所から消えていた。あれをくらって動いたっていうのか。
「くそっ!」
奴の姿が消えていた為、俺はそのまま地面に腹から落下する形となった。
「奴は……」
「ここだよ」
ドゴッ!
声が聞こえ、瞬時に振り向いたが、その瞬間、強烈な拳が俺の腹部に叩き込まれる。
「がっはっ!」
堪らず地面に倒れ伏した。
「いやぁさっきのは効いたぜ。まだ頭がクラクラしてやがる。咄嗟に蹴られた方向に首を捻って勢いを殺さなきゃ、意識は無かったかもな」
あの土壇場で蹴りの衝撃を流したってことか。そんな事、やろうと思ってできるもんじゃない。
「があっ!」
俺は右足で奴の左腕を蹴り飛ばし、さらに回転を加え、今度は左足で奴の右腕をソバットの要領で蹴るモーションを取った。
「ふっ!」
奴は俺の蹴りをすんでのところで躱す。
追撃を避ける為、俺は一旦後ろへ距離をとった。
「どうした?だいぶ息があがってるじゃねぇか?」
「そりゃお前もだろ?まともにとは言わなくても顎にあんだけの蹴りが入ったんだ。限界が近いだろ?」
「まあな。そろそろこの試合にもケリをつけねぇと明日の決勝に響く。だからよ、次の交戦で終わりにしようや」
「そうだな。終わらせるのは惜しいけど明日のためにもここで終わりにする」
「へぇ、もう勝った気でいやがるのか。お前が勝つ事はねぇがまぁここで終わりにしてやんよ」
「いや勝つのは俺だから俺が終わらせてやる」
「「…………」」
2人の沈黙と同時に会場には静寂が訪れる。
「「上等だぁぁぁぁ!!!」」
次の瞬間、俺とフクロは同時に叫び互いに走り出す。
「オラァ!」
「当たるかよ!」
フクロの左の拳が俺の顔面に向け放たれるが俺はそれを躱す。一瞬の隙をみて俺は逆水平チョップを奴の胸板めがけて叩き込む。
バチィーン!
「……くっ!まだまだぁ!こいやぁ!」
流石の耐久力だ。それなら……。
「うらぁ!」
バキィ!
エルボーが奴の左頰にヒット。しかし……。
「なっ!?」
クリーンヒットしたエルボーだが、奴は気合で耐えていた。
そして奴はこの一瞬の隙を見逃さない。
「や、やばい!」
咄嗟に後ろへ距離をとった俺だったが、時すでに遅し。奴は右腕に力を溜めていた。それが今放たれる。
ドン!
「がはぁ!」
見えない衝撃が俺を襲った。強烈な衝撃波の影響で俺の意識は朦朧とする。
そんな状況での奴の追撃。防ぐ事さえ出来ない俺への非情なまでのパンチの連打。
次第に意識が薄れていき、もはや痛みすら感じない程の状況の中、俺は1つの疑問が浮かぶ。
「もう終わりみてぇだな。楽しかったぜ?お前は強かったが、やはり俺の方が上だった。それだけだ。そんじゃ、これで終わりにしてやんよぉぉぉぉ!!!」
仰向けに倒れる俺に向かって、フクロは右の拳を振り下ろす。
(今だ!)
「何!?」
奴の拳をギリギリの所で躱し、足をかけ転ばせる。そのまま奴の背後に回り、首に片腕を回し、もう片方の腕の上腕あたりを掴み、そのまま締め上げる技———チョークスリーパーだ。
「っ!?このやろ……」
必死にもがくフクロは力ずくで抜け出そうとするが、俺は奴の体に絡みつくように足を絡ませる。
「かっ…………」
この技は相手の頸動脈を締め上げ、脳に血液が回らないようにする技だ。
したがって意識がだんだんと薄れていく。最悪意識を失うだろう。
最初は抵抗していたフクロも徐々に力が抜けていき、ついに動かなくなった。
「よっしゃ決めるぞぉぉぉぉ!!!」
フクロを離し、仰向けに倒れるところへ今度こそ。
『動かない!フクロ選手!強烈な絞め技の前になす術無し!ヤシマ選手!再び石壁の上に飛び乗ったぁぁぁぁ!!!そして!』
先程よりも勢いよくバク宙をし、そして先程よりも高く、より高威力なムーンサルトを食らわせる!
『飛んだぁぁぁぁ!!!ヤシマ選手!空を舞っている!まさにドラゴン!飛竜の如く!』
「おおおおおおおおおおおお!!!」
ドォォォォン!!!
『決まったぁぁぁぁ!!!ヤシマ選手の技がついに!フクロ選手をとらえたぁぁぁぁ!!!フクロ選手、動く様子が見られません!したがってこの試合!ドラゴン・ヤシマ選手のしょ……』
「まだだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
まだ終わってない。
『えぇーっと、ヤシマ選手。フクロ選手は既に再起不能かと思われるのですが……』
一応実況兼審判をしているであろうなんとかさんの言葉を無視し、俺は仰向けに倒れているフクロの上に体を覆いかぶせるように自身の体を背中から重ね体重を乗せ、奴の片足を両腕で抱き込むようにとる。
「カウントを取ってくれ!」
『カ、カウント?どういう事でしょうか……』
「カウントだカウント。いいか?ワン!ツー!スリー!と3カウントを取ってくれ!」
こんな熱い試合、中途半端に終われるか。
『よ、よくわかりませんがわかりました。それでは会場の皆様!私に合わせてカウントをお願いします!いきますよぉ?』
すると会場中の観客が全員立ち上がる。
『せぇの、ワン!ツー!』
会場の観客が一体となっている。そして……。
『スリィーーーー!!!』
ウオォォォォォォォォ!!!
3カウントがとられると会場は凄まじい熱気に包まれた。
『勝者、ドラゴン・ヤシマ選手!!!両者共に素晴らしい戦いを見せてくれました!惜しくも敗れてしまったフクロ選手も驚くべき強さです!会場の皆様!両選手に今一度盛大なる拍手をお願いいたします!!!』
拍手喝采の中、俺はフクロのもとに歩み寄った。
「おい猫マスク、意識はあるか?」
「はっ……うるせぇ当たり前だろ……」
「ははっ、そんだけ憎まれ口叩けりゃ大丈夫そうだな」
俺はフクロに左手を差し伸べる。
「楽しかったよ。お前はおっちゃんの仇だったけど戦っていて分かった。言動は荒いが悪い奴じゃ無いってな」
フクロは手を掴み、俺は奴を立たせる。
「はっ、なんだそりゃ。別に悪人を名乗った覚えはねぇがな」
「そうか……」
「そんじゃあな。せいぜい決勝で無様に負けねぇ事を祈ってるぜ」
相変わらずカチンとくる言い方をしながら退場していくフクロ。見ると右腕を抑えている。
「やっぱりそうだったか……」
あの衝撃波を打ち出す技。腕に相当の負担がかかるのだろう。
2度目のムーンサルトが失敗に終わった後、俺は奴の左腕に蹴りを入れたが、右腕に仕掛けた蹴りは避けていた。
瞬時に危ないと悟り、カウンターに移ろうとしたが腕にダメージがあったため、止むを得ず避けるという選択をしたのだろう。
相手の攻撃は避けないと言ったアイツが避けたんだ。あの時既に右腕は限界に近かったんだろう。
やっぱりアイツ、根っからのファイターだったな。
感傷に浸りながら俺も退場するべく出口へと向かった。
◆
「あぁくそ痛え……」
右腕を抑えながら通路を歩くその男はふらりふらりとしながら歩みを進める。
「ミスターフクロ選手!大丈夫ですか?今すぐ治療所に……」
「ああ?いらねぇよ。こんなもん唾つけときゃ治る」
そう言い衛兵を払いのけ、1人歩くこの男は左腕で被るフクロに手をかけ、破り捨てた。
「ったく竜平の野郎、この短期間でどんだけ成長してやがんだ全く。お陰で賞金はパーじゃねぇか。アイツが優勝したら俺の借金返済してもらうか。はっはっは……」
そう言う男———ハイル・ゴランドは満足げな笑みを浮かべながら、会場を後にしていった。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
『でたでたでたぁぁぁぁ!!ヤシマ選手!先程は強烈な蹴りで防がれてしまったこの大技!次こそは決まるのでしょうか!?』
勢いよく石壁の上に足をつき、弧を描くようにバク宙。そのまま奴の上に……。
「なっ!?」
フクロの姿が先程の場所から消えていた。あれをくらって動いたっていうのか。
「くそっ!」
奴の姿が消えていた為、俺はそのまま地面に腹から落下する形となった。
「奴は……」
「ここだよ」
ドゴッ!
声が聞こえ、瞬時に振り向いたが、その瞬間、強烈な拳が俺の腹部に叩き込まれる。
「がっはっ!」
堪らず地面に倒れ伏した。
「いやぁさっきのは効いたぜ。まだ頭がクラクラしてやがる。咄嗟に蹴られた方向に首を捻って勢いを殺さなきゃ、意識は無かったかもな」
あの土壇場で蹴りの衝撃を流したってことか。そんな事、やろうと思ってできるもんじゃない。
「があっ!」
俺は右足で奴の左腕を蹴り飛ばし、さらに回転を加え、今度は左足で奴の右腕をソバットの要領で蹴るモーションを取った。
「ふっ!」
奴は俺の蹴りをすんでのところで躱す。
追撃を避ける為、俺は一旦後ろへ距離をとった。
「どうした?だいぶ息があがってるじゃねぇか?」
「そりゃお前もだろ?まともにとは言わなくても顎にあんだけの蹴りが入ったんだ。限界が近いだろ?」
「まあな。そろそろこの試合にもケリをつけねぇと明日の決勝に響く。だからよ、次の交戦で終わりにしようや」
「そうだな。終わらせるのは惜しいけど明日のためにもここで終わりにする」
「へぇ、もう勝った気でいやがるのか。お前が勝つ事はねぇがまぁここで終わりにしてやんよ」
「いや勝つのは俺だから俺が終わらせてやる」
「「…………」」
2人の沈黙と同時に会場には静寂が訪れる。
「「上等だぁぁぁぁ!!!」」
次の瞬間、俺とフクロは同時に叫び互いに走り出す。
「オラァ!」
「当たるかよ!」
フクロの左の拳が俺の顔面に向け放たれるが俺はそれを躱す。一瞬の隙をみて俺は逆水平チョップを奴の胸板めがけて叩き込む。
バチィーン!
「……くっ!まだまだぁ!こいやぁ!」
流石の耐久力だ。それなら……。
「うらぁ!」
バキィ!
エルボーが奴の左頰にヒット。しかし……。
「なっ!?」
クリーンヒットしたエルボーだが、奴は気合で耐えていた。
そして奴はこの一瞬の隙を見逃さない。
「や、やばい!」
咄嗟に後ろへ距離をとった俺だったが、時すでに遅し。奴は右腕に力を溜めていた。それが今放たれる。
ドン!
「がはぁ!」
見えない衝撃が俺を襲った。強烈な衝撃波の影響で俺の意識は朦朧とする。
そんな状況での奴の追撃。防ぐ事さえ出来ない俺への非情なまでのパンチの連打。
次第に意識が薄れていき、もはや痛みすら感じない程の状況の中、俺は1つの疑問が浮かぶ。
「もう終わりみてぇだな。楽しかったぜ?お前は強かったが、やはり俺の方が上だった。それだけだ。そんじゃ、これで終わりにしてやんよぉぉぉぉ!!!」
仰向けに倒れる俺に向かって、フクロは右の拳を振り下ろす。
(今だ!)
「何!?」
奴の拳をギリギリの所で躱し、足をかけ転ばせる。そのまま奴の背後に回り、首に片腕を回し、もう片方の腕の上腕あたりを掴み、そのまま締め上げる技———チョークスリーパーだ。
「っ!?このやろ……」
必死にもがくフクロは力ずくで抜け出そうとするが、俺は奴の体に絡みつくように足を絡ませる。
「かっ…………」
この技は相手の頸動脈を締め上げ、脳に血液が回らないようにする技だ。
したがって意識がだんだんと薄れていく。最悪意識を失うだろう。
最初は抵抗していたフクロも徐々に力が抜けていき、ついに動かなくなった。
「よっしゃ決めるぞぉぉぉぉ!!!」
フクロを離し、仰向けに倒れるところへ今度こそ。
『動かない!フクロ選手!強烈な絞め技の前になす術無し!ヤシマ選手!再び石壁の上に飛び乗ったぁぁぁぁ!!!そして!』
先程よりも勢いよくバク宙をし、そして先程よりも高く、より高威力なムーンサルトを食らわせる!
『飛んだぁぁぁぁ!!!ヤシマ選手!空を舞っている!まさにドラゴン!飛竜の如く!』
「おおおおおおおおおおおお!!!」
ドォォォォン!!!
『決まったぁぁぁぁ!!!ヤシマ選手の技がついに!フクロ選手をとらえたぁぁぁぁ!!!フクロ選手、動く様子が見られません!したがってこの試合!ドラゴン・ヤシマ選手のしょ……』
「まだだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
まだ終わってない。
『えぇーっと、ヤシマ選手。フクロ選手は既に再起不能かと思われるのですが……』
一応実況兼審判をしているであろうなんとかさんの言葉を無視し、俺は仰向けに倒れているフクロの上に体を覆いかぶせるように自身の体を背中から重ね体重を乗せ、奴の片足を両腕で抱き込むようにとる。
「カウントを取ってくれ!」
『カ、カウント?どういう事でしょうか……』
「カウントだカウント。いいか?ワン!ツー!スリー!と3カウントを取ってくれ!」
こんな熱い試合、中途半端に終われるか。
『よ、よくわかりませんがわかりました。それでは会場の皆様!私に合わせてカウントをお願いします!いきますよぉ?』
すると会場中の観客が全員立ち上がる。
『せぇの、ワン!ツー!』
会場の観客が一体となっている。そして……。
『スリィーーーー!!!』
ウオォォォォォォォォ!!!
3カウントがとられると会場は凄まじい熱気に包まれた。
『勝者、ドラゴン・ヤシマ選手!!!両者共に素晴らしい戦いを見せてくれました!惜しくも敗れてしまったフクロ選手も驚くべき強さです!会場の皆様!両選手に今一度盛大なる拍手をお願いいたします!!!』
拍手喝采の中、俺はフクロのもとに歩み寄った。
「おい猫マスク、意識はあるか?」
「はっ……うるせぇ当たり前だろ……」
「ははっ、そんだけ憎まれ口叩けりゃ大丈夫そうだな」
俺はフクロに左手を差し伸べる。
「楽しかったよ。お前はおっちゃんの仇だったけど戦っていて分かった。言動は荒いが悪い奴じゃ無いってな」
フクロは手を掴み、俺は奴を立たせる。
「はっ、なんだそりゃ。別に悪人を名乗った覚えはねぇがな」
「そうか……」
「そんじゃあな。せいぜい決勝で無様に負けねぇ事を祈ってるぜ」
相変わらずカチンとくる言い方をしながら退場していくフクロ。見ると右腕を抑えている。
「やっぱりそうだったか……」
あの衝撃波を打ち出す技。腕に相当の負担がかかるのだろう。
2度目のムーンサルトが失敗に終わった後、俺は奴の左腕に蹴りを入れたが、右腕に仕掛けた蹴りは避けていた。
瞬時に危ないと悟り、カウンターに移ろうとしたが腕にダメージがあったため、止むを得ず避けるという選択をしたのだろう。
相手の攻撃は避けないと言ったアイツが避けたんだ。あの時既に右腕は限界に近かったんだろう。
やっぱりアイツ、根っからのファイターだったな。
感傷に浸りながら俺も退場するべく出口へと向かった。
◆
「あぁくそ痛え……」
右腕を抑えながら通路を歩くその男はふらりふらりとしながら歩みを進める。
「ミスターフクロ選手!大丈夫ですか?今すぐ治療所に……」
「ああ?いらねぇよ。こんなもん唾つけときゃ治る」
そう言い衛兵を払いのけ、1人歩くこの男は左腕で被るフクロに手をかけ、破り捨てた。
「ったく竜平の野郎、この短期間でどんだけ成長してやがんだ全く。お陰で賞金はパーじゃねぇか。アイツが優勝したら俺の借金返済してもらうか。はっはっは……」
そう言う男———ハイル・ゴランドは満足げな笑みを浮かべながら、会場を後にしていった。
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