異世界でもプロレスラーになれますか?

大牟田 ひろむ

第38話 リースVSヴィルフリート(前編)




『お待たせいたしました!これより3回戦最終戦を行います!』

 会場からは黄色い声援が飛び交う。もはや当たり前であるイケメンの国王ヴィルフリート。その対戦相手である男に姿を変えたリース。その姿もヴィルフリートに負けず劣らずのイケメンぶりだ。これは観客の女性からしたらたまらないだろう。

『西ゲートより、今大会初出場にしてとんでもない魔法の才能を披露してきたこの男!怒涛の勢いでそのまま決勝へと駒を進めるのでしょうか!?マスラオ選手の入場です!』

 リースの実力はなかなかのものだろう。実際俺は魔法を使う相手とは戦った事がない。いままでの相手は典型的な剣士や武闘家特化の相手だった。リースの実力を信じていない訳ではないが勝負に絶対なんて事はない。一応ヴィルフリートの戦い方も見ておこう。

『続きまして東ゲート!圧倒的な剣術、体術、魔法センスを併せ持つ我らが国王!パーフェクト超人、ヴィルフリート様入場です!』

 パーフェクト超人ね。そんな二つ名が付けられてさぞかし気分はいいだろうな。
 まぁ今の時代、ヒールも応援される時代な訳だ。何も知らない観客は悪人だとはおもってもいないだろうがね。

『それでは試合、開始!』



 ようやくこの時がきた。親友のシルフィの仇をとるこの時が。
 ヴィルフリートと対峙して初めて解る。自分の中から溢れ出る抑えきれない怒りの感情が。

「やはり勝ち上がってきたな、マスラオ殿。さぁ心ゆくまで楽しもうではないか」

「勿論だ。俺だってあんたと戦うのを楽しみにしてたんだからな」

 シルフィと一緒にこの国を出てからずっとこいつを倒す為だけに頑張ってきたんだ。それがようやく叶う。絶対に負けない。絶対に……。
 
「ファイヤーランス!」

 火属性の魔法で槍を生成し、相手に放つ技だけど勿論、そんな単純な攻撃が通用する相手とは微塵も思ってない。

「ミストブラスト!」

 土属性魔法のミストブラストは粉塵を撒き散らし、相手の視界を遮る!

「なるほど、目くらましか。良い手ではあるが些か攻撃が単純だな」

 そう言ってヴィルフリートは長剣を横薙ぎに振るい、ファイヤーランスごと粉塵を吹き飛ばした。

「さて次はどうでるか……む?」

 私の姿は既にそこにはない。撒き散らした粉塵の中、私はヴィルフリートの背後に回っていた。長剣で粉塵を搔き消すのは私の推測通り。長剣を振るったその瞬間、ヴィルフリートには一瞬の隙ができる。そこを狙う。私は2本の短剣を持ち、即座にヴィルフリートへと間合いを詰め、斬りかかった。

「転瞬」

 私の斬撃は空を斬る。
 やはり瞬間移動を使ってきたな。でもそれも推測通り!これでヴィルフリートは30秒間、スキルを使用できない。

「砂地獄(サンド・ヘル)!」

 1回戦の私の試合を見ていたからか、ヴィルフリートは即座に反応し、後ろに跳ぶ。だけど私が作った流砂は一つじゃない!
 跳んだ先に再び流砂が現れ、ヴィルフリートの足は流砂に引き込まれる。

「なるほど動けないな。なかなか良い魔法だ。それならば……」

 ヴィルフリートは長剣を地面に突き刺す。

「衝破砕撃!」

 ドン!という音とともにヴィルフリート付近の地面が吹き飛び、流砂が全て無くなっていた。
 
「マスラオ殿、小細工はやめたまえ。そなたの実力はこの程度では無いだろう?もっと私を楽しませてくれたまえ」

 小細工ね。まぁ様子見程度に仕掛けてみたけど全然効いてないみたいだしやっぱりやらないとダメか。30秒経っちゃったしまた仕切り直しだな。

「分かったよ。お望み通り本気で行かせてもらうからな!」

 私は後ろに大きく跳び、ヴィルフリートと距離を取る。

「炎蓋(フレイムドーム)!」

 ヴィルフリートを閉じ込めるように巨大な半球体の炎を作り出す。さらに
「ファイヤーヴェール!」

 私の持つ、2つのダガー。これらに火属性の効果を付与する。それをヴィルフリートを閉じ込めている炎蓋の中に投げ込む。

「ほう、逃げ場を無くしたようだね。転瞬を使えば逃げる事も可能だが、騎士として私は真正面からそなたの全力に答えよう!」

「後悔するなよ!炎刃(ファイヤーブレード)!」

 投げ入れた炎の刃がヴィルフリートを斬り裂かんと炎蓋の中を縦横無尽に飛び回る。
 長剣で炎刃を防ぐヴィルフリートだが、私の作った炎蓋の中では自由自在。どれだけ防いでもすぐに復活する。

「なかなか良い技だ。私がこの炎の刃を防いでも炎の壁の中では永遠と私を襲い続けるわけだね」

「そういう事。さらに炎刃は防げば防ぐほど速くなっていくわけさ。逃げ場は無いぞ!」

 絶え間なく襲い来る炎刃をことごとく防ぎ続けるヴィルフリート。だが次第に炎刃の速度に押されつつある。そしてついに炎刃がヴィルフリートの腕を掠る。

「くっ……!」

「消耗が見てとれるな。いくらあんたとはいえ、体力は無限じゃない。少しづつ削らせてもらうよ!炎蓋(フレイムドーム)!焦熱!」

 ヴィルフリートを取り囲む炎がより一層熱く、強くなる。

「……凄まじい熱だ。流石の私も堪える暑さだよ。いつまでもここにいるわけにはいかないな。まずはこの炎刃を止めさせてもらおう」

 私の炎刃は炎蓋の中では止まらない限り動き続ける。すでに常人では捉えることなどできぬ程の速度へとなっているが、さすがは勇者の称号を得たヴィルフリートだ。掠りはしたが未だ、致命傷にはなっていない。
 
「……ここだ!」

 ヴィルフリートは炎刃の軌道を読み、2つの刃を衝突させ、それを地面へと叩き落とし突き刺した。

「これで炎刃は無効化した。あとはこの炎のドームを消し去るだけっ……!?」

 突如ヴィルフリートが力が抜けた様に膝を地につく。

「効いてきたみたいだな?言ってなかったっけ?俺の武器はポイズンダガーって言ってな。掠っただけで毒が回る特注品さ。まぁほんの少量の毒だからすぐに動けるようになるよ。その前に終わらせるけどな!」

 動けないヴィルフリートにもはや情けなどかけない。私の最大の魔法を繰り出す。

「炎蓋(フレイムドーム)!大焦熱!」

 とんでもない質量の炎が上がり、今までとは比べ物にならない熱を発している。

「これで終わりだ!」

 身動き1つ取れないヴィルフリートを取り囲む炎蓋は一気に収縮し、そのままヴィルフリートを焦熱の地獄へと飲み込み、最後には爆発を起こした。


途中からリース(マスラオ)目線に変わっています


 



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