異世界でもプロレスラーになれますか?

大牟田 ひろむ

第36話 ドラゴン・ヤシマVSエリオット・ガルム

 試合が終わり、おっちゃんは治療を受けるべく、救護室に運ばれていった。さぞ悔しかった事だろう。仇は絶対うってやるからな。


 ◆



 その後、2回戦も順調に進み、リース、そしてちょうど2回戦最終試合のヴィルフリートが3回戦へと駒を進めた。

「やっぱ勝ち上がってきたな、ヴィルフリートのやつ……」

「そうでなきゃ面白くないよ竜平。あいつは俺が完膚無きまでに叩きのめさなきゃならないんだから……」

 物騒なことを言うリース。本当にやりそうだから怖いな。おっちゃんの試合を見てからはさらに気合が入っているように見える。

「さて、次は第3試合だな。俺は盗賊職のエリオットと対戦。リースはヴィルフリートとだな。負けんなよ?ボコボコにしてやれ」

「竜平もね、なんかアドバイスいる?」

「そんなもん必要ない。なんたって俺は取られるようなもん持ってないしな。サクッと勝ってくるよ」

「そ、じゃ頑張ってね」

 武器も持たない俺からしたら大して怖い相手でも無いしな。と言うことはエリオットは最初から武器を持ってくるだろう。それさえ気をつければ問題ない。

『お待たせいたしました!これより3回戦第1試合を行います!』

「おし!そんじゃ行ってくるわ」

 リースと別れ、俺は入場待機場所へと向かった。

『西ゲートより、今大会ダークホースの1人!武器は使わず、素手でここまで勝ち上がってきたこの男、ドラゴン・ヤシマ選手の入場です!』

 俺に対しての歓声もだいぶ大きくなってきたな。サインの練習でもしておこうかな。なんてね。

『そして東ゲート、隣国シュナイデル王国出身。初出場にして3回戦まで勝ち進んできた盗賊、エリオット・ガルム選手入場です!』

 近くで見て初めて分かったが、エリオットはまだ若い。俺よりも年下のようだ。まぁそれでも手は抜かないけどな。ここは開幕速攻を仕掛けて一気に決めてしまおう。次のフクロ戦の為にも体力は温存しておきたいしな。

『それでは試合開始!』

 試合開始の合図とともに俺はエリオットに向かって駆け出す。俺のパワーなら軽い技でも充分倒せるだろう。
 だが、1つ気掛かりな事があった。エリオットは武器を持ってくると思っていたのだが、それはどこにも見当たらない。気配を消して相手の隙を突くっていうのが盗賊職の戦い方ってリースは言っていた。もしかしたらどこかに武器を隠し持っているのかもしれない。
 俺は警戒を緩めず、エリオットの動きに気を配りながら技を仕掛ける。

「オラァァァァ!!」

 俺は右腕を横に突き出し、エリオットの胸板めがけ叩きつける体勢。つまりはラリアットだ。プロレス界では最早使われない試合がない程、広く使われている技の1つ。俺のパワーならこれでも充分勝ち目はあるだろう。
 ラリアットがエリオットに直撃する瞬間、俺は勝利を確信していた。だが、その瞬間、エリオットの姿が消え、ラリアットは空振りに終わる。

「どこ行った!?」

 俺は辺りを見渡すがエリオットの姿は見当たらない。

「ここだよ」

 不意に背後から声が聞こえたかと思うとエリオットは俺のすぐ後ろにいた。
 俺は瞬時にエリオットに逆水平を繰り出すがそれも避けられ再び姿を見失う。

「またか、まるで気配を感じないな」

「それは僕のスキル『潜伏』の能力だよ?一定時間気配を殺し、人や魔物から認識出来なくなるんだ」

「へぇ、便利な能力だな。覗きとかに使ってんじゃ無いだろうな?」

「つ、使ってないよ!少ししか……」

「使ってんのかよ!」
 
 冗談で言ったつもりだったのにとんだムッツリスケベなガキンチョだな!

「いいだろ別に!お年頃ってやつだよ!お兄さんだってどうせ毎日綺麗な女の人とあんな事やこんな事してるんでしょ!」

 どんな事だよ……。そもそも俺はプロレスラーになる為にずっと体を鍛えてきたんだ。女遊びにうつつを抜かしている暇なんてなかったんだよ!あぁそうさ俺は未だ童貞だよ、悪いか!

「そんな奴にはこれだ!くらえぇぇぇ!」

 相変わらず気配は無いが、そんだけ喋ってくれれば大体の方向は分かってしまう。
 何をしようとしたのか分からないが、俺は横に避けエリオットの攻撃を躱す。だが、甘かった。

「へへへ、捕まえた!」

「お、おい何してやがる!?」

 エリオットは俺が攻撃と思って躱した所を見計らい、背後から俺に絡みつくように飛びついてきた。

「これ盗っちゃうとどうなっちゃうのかなぁ」

 そういうとエリオットは背後から絡みついたまま、俺の命とも言えるマスクに手をかけた。

「ま、待て!それはいかん!いかんぞ!反則だ反則!おい!レフェリー!レフェリー!見ろ!反則だぞ!」

 テンパってしまって俺はそんな事を口走ってしまったが、レフェリーなんてこの世界にはいなかった。

「何言ってんのお兄さん?別に盗賊職なんだから相手の物を盗るのは当たり前でしょ?別にそんなのルールに無かったしね。さぁ!会場のみんなに顔を晒されたく無かったら早く棄権して!」

 ぐっ……、言われてみればその通りだ。むしろマスクなんて物をこの世界で知ってる人はまずいない。マスクを剥いだら反則なんてルールが存在するはずが無いんだ。
 俺は必死にマスクを剥ごうとするエリオットに抵抗するのがやっとだった。
 くそ、こんなったらヤケだ!

「オラァァァァ!」

 俺はそのまま後ろに飛び跳ね、エリオット諸共、地面に倒れこんだ。
 流石にヘビー級を目指していただけあって、体重も100kg近くまで増やしたからなぁ。これだけでも結構効いただろう。
 エリオットの拘束が解け、俺は即座にエリオットの上に馬乗りになり動きを封じたのだが。

 ———むにゅん

「ひゃうっ!」

 ……あれ?なんだろうこの感触。視線をエリオットの顔から下へと向けると、俺の手はエリオットの胸をがっしりと掴んでいた。
 うーん、これが女の子の胸の感触なのかぁ。
 大きいとまではいかなくとも、程よいサイズでなかなか柔らかい。あまりの柔らかさにそれは俺の思考を鈍らせていた。
 数秒の沈黙の後、ようやく現状を理解した俺。

「ってお前、女だったんかーい!!!」

「いやぁぁぁぁ!!!」

 顔を紅潮させたエリオットは物凄い速さで退場していった。
 というかあいつ女の子だったって事は一体あのスキルを使って何を覗いているんだろう。俺の疑問は深まるばかりだった。

『な、なんと鬼畜!ドラゴン・ヤシマ選手!うら若き乙女の体を弄び、棄権に追い込みました!勝者、ドラゴン・ヤシマ選手です!』

 おい!言い方!俺が誤解されちまうだろうが!
 闘技場を後にし、リースと合流すると、リースは白い目で俺を見つめていた。ちくしょう!

 

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