異世界でもプロレスラーになれますか?

大牟田 ひろむ

第33話 盗賊職の戦い方

「オラァァァァ!」

 2回戦第1試合。俺は初戦を勝ち上がったグラヴィル・ロウと対戦していた。
 俺が武器を使わないと知ってか、グラヴィルは武器の棍棒をフルに使っている。だが武器の扱いはやはり素人同然なのでそこまで苦戦することもなく、俺は一瞬の隙をつき、グラヴィルの顔面にドロップキックを食らわせる。グラヴィルは闘技場の端の壁まで吹き飛んでいき、激しく壁にぶつかって失神した。

『勝者、ヤシマ・ドラゴン選手!強い!2回戦も難なく突破!間違いなく今大会の注目選手である事に間違いはありません!』

 グラヴィルは警備兵に担がれ、闘技場を後にした。うん、体術はなかなかのものなんだから武器に頼らず戦えばもう少しいい勝負ができたと思うんだけどなぁ。
 そんな事を考えながら俺も闘技場を後にした。

「2回戦も余裕の勝利やったな竜平!ま、こんなとこで負けられたらワシと闘えんからなぁ!はっはっは!」

 相変わらずのハイテンションで待機場所にて待っていたグランのおっちゃんに迎えられ俺は一息ついた。

「俺にも目的があるんですよ。こんなところで負けてるわけにはいかないっすから」

 俺は必ず決勝まで上りつめ、このエルフォード王国の現国王、また勇者の1人であるヴィルフリートを倒さなければならない。まぁもしかしたらリースが倒してしまうかもしれないけどな。

「あれ、そういえばマスラオはどこ行ったんですか?」

「おぉ、そういやちょうど竜平の試合が始まった時にふらっと何処かへ行ってしまったぞ。便所じゃないんか?おっとそんな事言ってたらワシも便所行きたくなってきたわ!ちょいと待っとってくれや!」

 グランのおっちゃんはそそくさとトイレへ向かった。まぁリースがトイレ行ったんならおっちゃんと会うかもしれないしな。
 それかリースの事だから男に変装してるの忘れたまま女子トイレに入った挙句、警備兵に追いかけ回されてるかも知れない。リースならあり得そうな事だ。
 ま、今は次の対戦相手を見ておくか。

『お待たせいたしました!2回戦第2試合を始めます!まず西ゲートから現れたのは、前大会覇者、ジャック・サマン選手と同じく隣国シュナイデル王国出身の冒険者!職業は盗賊!今大会初出場、エリオット・ガルム選手入場!』

 盗賊か。リースと同じ職業だな。職業が同じだとやはり戦い方も似た感じなんだろうか。
 正直、盗賊って言われてもピンとこないんだよなぁ。見るからに悪者って感じの職業だけど、ヒールみたいな感じなのかな。

『続きまして東ゲート!こちらも隣国!ヴァージェス王国出身!前大会において、準決勝に進むも、ジャック・サマン選手に敗れ、ベスト4止まりとなりましたが、確かな実力を秘めております!双剣使い、キース・ビアード選手入場!』

 双剣使いね。まぁそのままのスタイルだよな。2本の剣を使い俊敏な動きで相手を翻弄する感じだろう。
 
「盗賊かぁ……」

「教えてあげよっか?」

 突然背後から声がして振り返るとそこにはイケメンリースが立っていた。

「まじでいきなり現れんでくれ、心臓に悪いぞ……」

「ごめんごめん、職業柄ついね。竜平の反応面白かったよ」

「俺は面白くなかったぞ」

 全く気配もないんだからなぁ。

「そう、盗賊って職業は主に隠密な行動を得意とする職業なんだ。気配を消して潜伏し、隙あらば武器を使い相手を斬り捨てる」

「なるほど、でもあいつ武器持ってないみたいなんだが……」

「盗賊職の中にもたまにそういう物好きがいるんだよね、まぁ見てれば分かるよ」

 見てれば分かるとの事なのでとりあえず試合を見ることにした。
 攻めているのは双剣使い、キースだ。2本の剣を巧みに使いこなし、エリオットを翻弄している。エリオットの方はそれを間一髪で交わしている様だ。

「そろそろくるよ」

 リースがそう言うと、キースはエリオットとの間合いをつめ、横薙ぎに2本の剣を振るう。だが、エリオットはその剣の軌道を読んでいたのか、躱した瞬間、剣を1本、キースから奪い取ったのだ。

「なるほど、文字通り盗賊って事だな。敢えて武器を持ち込まず、相手から武器を奪いにいったわけだ。前半は相手の戦い方をよく見て対策を練っていく。そして隙を見つけたその時、相手から武器を奪う。そう言う事だろ?」

「正解。さすが竜平だな。こうなると双剣使いも剣は1本。もう決着はついただろうね」

 剣を1本奪われたキースの方は双剣使いとしてのスタイルを生かせず、最後はエリオットに斬り捨てられた。

『勝者!エリオット・ガルム選手!盗賊職としての腕は素晴らしいものです!次はどんな戦いを見せてくれるのか!』

 次の相手が決まったな。盗賊、エリオット・ガルム。上等だ。

「頑張ってねー竜平。盗賊が奪うのはなにも武器だけじゃ無いからね。気をつけなよ」

「大丈夫大丈夫。そもそも奪われるようなもの持ってないしな」

 というより、俺、何にも持ってないんだけどね。金もシルフィに預けっぱなしだし、何も怖いものはない。

「そういやマスラオ、今までどこ行ってたんだ?」

「んーちょっと野暮用でね。トイレに行ったら何故か警備兵の人に捕まりそうになったからとりあえず人混みの中を逃げ回ってた」

 結局俺の予想通りだったわけね。
 トイレは自分の姿をちゃんと確認してから入りましょうね。


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