異世界でもプロレスラーになれますか?

大牟田 ひろむ

第27話 開幕

「眠い……」

 昨夜、女神からの着信により俺は一睡も出来ずに大会当日を迎えてしまった。正直、コンディションはあまりよろしく無いんだが、まぁなんとかなるだろう。
 改めて気合を入れなおしていると部屋の扉がノックされムキムキなお兄さんと金髪美女———もといリースとシルフィがやってきた。

「おはよう竜平。寝坊しなかったみたいね。って何その顔、大丈夫?」

 いかにも寝不足な顔をした俺は酷い顔をしているらしい。

「ごめん……ちょい顔洗ってくる……」

 少しは眠気を冷まさないといざという時にボロが出そうだ。顔洗ってスッキリしよう。
 共同の洗面所へと向かうため、部屋を後にすると何やら騒がしい。

「お、お客様!そのような使い方をされると他のお客様にご迷惑になりますので……」

「がっはっは!固いこと言いなさんなお嬢さんよ、風呂行く金が無いんでちょいとここ借りとるだけじゃ」

 あのおっちゃんどっかで見たような……

「ん?おー、にいちゃんあんたか!メルクスで会ったなぁ!にいちゃんもここ泊まっとったんか!」

 あぁ、誰かと思ったら勇者領に着いた時話しかけてきたゴツいおっちゃんか。見た目通り豪快な人みたいだな。

「あーどもっす。昨日ぶりですね」

「なんやテンション低いのぉ、そんなんじゃあ大会勝ち上がれんぞ!気合入れんか!」

「いやぁ、顔洗おうとここに来たとこなんですがとりあえずそこ、使わせてもらっても良いっすか?」

 すまんすまんと言いながらおっちゃんは10分ほど退く事は無く、その後ようやく顔を洗うことができ部屋へと戻ろうとするが……

「にいちゃん!飯でもどうだ?せっかく会ったんじゃ仲ようしてくれや」

「あ、いやでも俺仲間のとこに戻らないと……」

「ほんじゃ行こうかの!」

 どうしよう、全く話聞かない系だ。シルフィとリースには悪いが、少しの間我慢してもらおう。出来るだけ早く済ませて宿に戻ることにするか。





 おっちゃんに半ば強引に連れられて来たのはこの王国にあるギルド———その中にある食堂だ。
 なんでもこの国では冒険者カードを提示すればタダで飯を食えるとか。そういえばさっき金が無いとか言ってたなこのおっちゃん。
 従業員のお姉さんに端っこの席へと案内され料理を注文する。

「がっはっは、それにしてもにいちゃん、よく鍛えとるのぉ。身体を見れば分かる。にいちゃん中々の鍛錬を積んできたようじゃな」

「いやぁそんな事無いっすよ、人並みには鍛えてるつもりな感じっす」

「そんな謙遜しなさんな、堂々としとればええんじゃ!」

 ぶっちゃけ人並みどころでは無い。生半可なトレーニングなんてやってたらプロレスラーなどなれるはずもない。毎日死ぬ思いでトレーニングを積んでようやくプロレスラーになったんだ。まぁデビュー戦で死んだんだがな。

「ところでおっちゃんは……」

「おう、そういやまだ名乗っておらんかったな、ワシはグラン・オーレンズ。職業は一応武闘家職じゃが普段は鍛治職人をやっとる。にいちゃんはなんて名前なんだ?」

 ん?オーレンズってどこかで聞いたような……まぁいっか。

「俺は八嶋竜平っていいます。職業は……一応武闘家職みたいなもんです。」

「ほぉ、なんか珍しい名前じゃな、ま、どうでも良いがにいちゃんはなんでこの大会に出るんじゃ?なんか欲しいもんでもあるんか?」

「……いえ、俺は欲しいものは無いんですが、別の目的があります。詳しくは言えませんが」

「そーか、まぁお互い頑張ろうや。ワシも詳しくは言えんが目的があってのぉ。優勝したら人探しをしてもらうつもりなんじゃ」

 てっきり金目的で出場してるもんだと思ってたけど違ったようだ。やっぱり悪い人ではなさそうで少し安心したな。
 その後は大会の話などをし、朝食を食べ終えギルドを出る。

「ほんじゃにいちゃん!いや竜平やったな!また後で会おうや」

 そういうとグランのおっちゃんは会場へと向かって行った。俺も早く宿に戻って2人と合流しないと。





 宿に戻るとムキムキお兄さんのリースと般若の形相で俺を睨みつける金髪の美女もといシルフィが待っていた。部屋に入るなり土下座させられ、「顔洗うだけでどこまで行ってたのよ!」と説教される羽目になってしまった。


 ようやくシルフィの説教が終わり大会の会場へと向かい始めたところで何やら視線を感じる。あたりを見渡すがすでに気配は消えているようだ。何が起きるか分からないし、一応警戒はしておくか。

「よし、着いたな。そんじゃシルフィ。行ってくる」

「絶対優勝してくるぜ」

 すっかり違和感なく喋れるようになったリース。本当に大丈夫だろうか。

「2人とも無理はしないでね。客席で見守ってるから」

「任せとけ、行くぞマスラオ!」

「おー!」

 こうして戦いの火蓋が切られた。

 


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