異世界でもプロレスラーになれますか?

大牟田 ひろむ

第21話 完成


 ヴォルケーノドラゴン———それは魔王領の最南端に位置するメテオマウンテンと呼ばれる山の山頂より溢れ出る溶岩の中に生息すると言われている伝説のドラゴンだ。ヴォルケーノドラゴンが火口から外へ出る時、その勢いで溶岩がまるで隕石群の様に山に降り注ぐことからメテオマウンテンと呼ばれているそうだ。
 そのヴォルケーノドラゴンを一目見ようとメテオマウンテンを訪れていた魔族が偶然にもヴォルケーノドラゴンの皮を発見し、持ち帰ったらしい。これはきっと高く売れる!と思ったセリエが買い取り、俺にさらに高く売りつけたというわけだ。

「なかなか頑丈な皮だな。マスクを作るには骨が折れそうだ」

 実はマスクを作る際、もう一つ使おうと思っている素材がある。先日セリエにヴォルケーノドラゴンの皮を買い取る代わりに頼んでおいたガーゴイルの素材だ。セリエの話によるとガーゴイルの中級種、つまり俺が倒したガーゴイル・ディザスターだが、その爪は強靭な硬さを誇るという。一説ではドラゴンを切り裂くほどの切れ味を持っているとかいないとか。まぁここはセリエを信じるとしよう。
 俺がやるのは裁縫だ。皮と爪の加工諸々は専門の職人に依頼した。頑丈に越したことはないが、俺的には見た目重視で考えている。


 ◆


「出来たー!」
 マスク製作を開始しておよそ1週間。遂にマスクが完成した。

「なになに?どうしたの竜平?」

 感動で大声を出しすぎたからかシルフィはバタンと俺の部屋のドアを開けてやってきた。

「おーシルフィ。遂に完成したぞ!これがマスクだ」
「どれどれ、ふーんなんか思ってたより普通だね」

 え、普通って……。俺の渾身の一作が普通って……。

「ドラゴンをモチーフにした感じなんだね、カッコいいじゃん」
「ん、そ、そうだろうそうだろうなかなかわかってるじゃないか」

 そう、俺のマスクはドラゴンをモチーフにし作ったものだ。まぁ素材がドラゴンの皮だからってのもあるけど理由はそれだけじゃない。

「なぁシルフィ、俺の名前はなんだっけ?」
「は?何言ってんのよ、竜平」
「そう!俺は竜平だ!だからドラゴンにしたのさ」

 シルフィは何言ってんだ?みたいな目で俺を見ている。

「いいかシルフィ。俺の名前は竜平だ。この竜平の竜っていう字はな、ドラゴンの事を指しているのさ。それでドラゴンにしたわけよ」

 よくよく考えてみたら日本の文字なんてこの世界じゃわからないもんな。

「ふーん、なんとなく分かったよ。それじゃちょっと被ってみてよ」

 言わずもがな。俺は早速被ってみたが……。正直見づらいな。ここまでとは思っていなかった。これは慣らしとかないとあとあと大変だ。しばらく被って過ごそう。

「竜平似合ってるよ!強そう!」
「お、おうありがとう」

 これは本気で慣らさないとダメだな。大会までずっと被ってるとしよう。

「そういやシルフィ、シルフィの国は武術が盛んな国とかなんかなのか?武器の使用も出来ないみたいだし」

 騎士団があるならみんな剣術も扱えるはずだ。それを許さないってことは何か理由があるんだろう。

「うん、私の国ではね、剣術・体術両方を兼ね備えて初めて騎士団への入隊が認められるの。戦場で武器が使えなくなった時、それでも自分の身を守れる様にね。まぁ戦いに関しては基本消極的で平和を重んじる国だったからほとんど戦争もした事無かったけどね」

 今までの勇者の話を聞いた感じ、勇者領の国はどこも同じ様なものだと決めつけていたが、そんな国もあったんだな。平和を重んじる。うん、平和が1番だ。

「それとシルフィ、マスクもそうなんだけど、コスチュームも作ったから良かったら見てくれ」
「へーそんなのもあるんだ、見せて見せて」
「おう、ちょっと待ってろ」

 俺はその場でズボンを脱ぎ着替えを始める。が、どうもシルフィはこういう事に慣れていないのか、俺がズボンを脱いだ瞬間、顔を紅潮させ「いきなり脱ぐな!」と言いながらボディブローを食らわしてきた。今のは効いたなぁ。

 そんなこんなで俺のコスチューム姿もシルフィには好評だった様で、皆んなにも見せてあげようという事になり、俺はその姿のままギルドへと連れていかれた。
 ギルドに入ると受付のニアさん改めニャーさんが掃除をしていた。

「シルフィさんその人誰ですか?」
「やだなぁニャーさん、竜平ですよ」

 それを聞くとニャーさんはいつもの様にシルフィと戯れ、そして俺に申し訳なさそうに謝ってきた。いや、正体を隠す目的でマスク被ってるから分からなくても気にしませんよ?涙目で謝ってくるニャーさん可愛いな。
 そして次にギルドの奥の方で雑談しているハイルさんとリースの姿があったので何気なく話しかける。

「こんにちわ、はじめまして」
「なぁにが初めましてだ竜平、馬鹿にしてんのか?」
「こんにちわ竜平〜似合ってるね〜」

 ん?なんで正体バレてんだ?

「2人ともなんで俺だって分かったの?」
「「そりゃ声で」」

 あぁ、ですよねぇ……。
 どうやら知り合いには身バレ対策は通じない様だ。


マスクマンは良いですねぇ。次は遂に勇者領へと渡ります。

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