異世界でもプロレスラーになれますか?

大牟田 ひろむ

第20話 シルフィの涙

「それともう一つ、頼みがあるんだが聞いてくれるか?」
「……何よ」

 グスッと涙を拭きながらシルフィは答える。

「なぁシルフィ。俺はシルフィの気持ちがよくわかる。リースから話を聞いた時、正直、はらわたが煮えくりかえりそうだったよ。だが戦ってみてわかった。シルフィの拳には怒りしかない。そんなんじゃいくら訓練を積み重ねても本当の戦いなんてできやしない」

 ぐうの音も出ないのか、シルフィは黙ったまま拳を握りしめる。怒りに任せて戦っても結局は結果はついてこない。

「だからシルフィ。俺がシルフィの思いを受け継ぐ。両親の仇、国の仇、俺に取らせてくれないか?」
「……え?でも、竜平には何も関係ないんだよ。これは私個人の復讐であってそんな関係ない人を巻き込むなんてこと……」
「俺はシルフィの仲間だ!仲間をこんなに苦しめ、泣かすような輩を許しておけるかよ!」
「……竜平」
 
 シルフィは膝をつき、今まで我慢してきたことを吐き出すように泣いた。俺はそっとシルフィを抱きしめる。

「竜平……私を助けて……」
「あぁ、任せておけ」

 それからどのくらい時間が経っただろう。シルフィが泣き止むまでの間、俺はシルフィを抱きしめ続けていた。
 流石に疲労がでたのか、シルフィは俺の膝で眠りについた。

「いやぁかっこよかったよ竜平〜」

 そういやリースもいたんだったな。シルフィの事で頭がいっぱいだったからすっかり忘れてた。

「それでどうするの〜?竜平は武道大会に出るの〜?」
「あぁ、俺が武道大会に出場し、優勝してやる。確か優勝者にはなんでも1つ願いを聞いてもらえるって言ったよな?俺はそこで、勇者———ヴィルフリートに一騎討ちを申し込む」

 そう、奴は武道大会に出場し、優勝する事で今の地位に登りつめた。ならば俺も同じことをさせてもらう。
 リースの話によると大会中の怪我や死亡については事故扱いとなり、罪には問われないらしい。
 ならば最悪、ヴィルフリートの奴を殺してしまったとしても問題は生じない筈だ。いや国王を殺したって事自体大問題だがこの際しょうがない。まぁ俺は殺す気でやってやるけどな。

「なるほどね〜、それなら誰にも邪魔されることなく戦えるって訳だ〜」
「そういう事。俺がシルフィの代わりに仇をうつ!」
「でも仮にヴィルフリードを倒せたとしたら恐らく竜平は他の勇者全員から目をつけられちゃうだろうね〜」

 そうか。仮にも奴は勇者。さらに武道大会が行われるのも勇者領なのだ。俺がヴィルフリードを倒したら晴れてお尋ね者になるかもしれないのか。できればそれは避けたいところだ。

「そうだな。そこは何か対策を考えるよ。とりあえず宿に戻ろう。シルフィを運ばないと」

 俺は膝で寝ているシルフィを背負い、宿へと戻った。

 



 宿に着いてから数時間、ちょうど夕食時になった頃俺は一階の食堂へと向かった。さいわいいつもより時間が少し早かったのか、ほとんど人はいなかった。
 そんな中、店の端にある席で1人、思い悩む少女———シルフィがいた。散々泣いてたし、疲れたろうからな。今日は起きないと思っていたがどうやら杞憂だったようだ。

「よっ、もう起きて大丈夫なのか?」
「……うん、もう大丈夫。ごめんね、宿までおぶってもらっちゃって」
「気にするな。伊達に体鍛えちゃいないよ。シルフィなんて小枝みたいに軽かったぞ?」
「表現下手すぎよ…ふふっ」

 確かに下手な表現だ。なんだ小枝って。自分でも言ってて恥ずかしいな。

「やっと笑ってくれたな。やっぱりシルフィは笑顔が似合うよ」
「な、何言ってんのよバカ……」

 顔が真っ赤になって照れるシルフィ。なんか日常に戻ったって感じだな。問題はまだ解決されていないがとりあえず安心した。今のシルフィは初めて会った時からで1番いい笑顔をしている。
 この笑顔を見るだけでなんでもやれる気がしてきた。

「それでシルフィ。1つ相談なんだが、俺が身バレしないようにする方法って何か無いかなぁ?」

 流石に指名手配は困るな。なんだかいつも見られているような気がしてならないだろう。まぁ指名手配された事ないからわからんけど。懸賞金とか賭けられたらそれこそ大変だ。四六時中狙われかねない。

「うーんそうだなぁ、兜とか被ってみたらどう?」
「流石に兜はなぁ、動きづらそうだし、そもそもプロレスラーだからなぁ」

 というか兜って武闘家職全般当てはまらないだろ。プロレスラーなんか基本ズボンに上半身裸だからな。たまに服着たりマスク被ったりする選手もいたが……。
 ちょっと待てよ……それだ!

「ナイスシルフィ!それだよ!マスクを被ればいいんだ!」

 そうだよ、マスクマンは正体を隠している。まんまその通りじゃないか!なんでもっと早く気が付かないんだよバカか俺!そもそも日本にいた頃マスクマンに憧れてたじゃないか。

「え?何?マスクってなんなの?」
「マスクっていうのはな、頭に被って顔を隠すアイテムなんだよ。それを作れば身バレせずに存分に戦えるぞ!」

 幸い、日本にいた頃、将来マスクマンになろうとしてたからか裁縫スキルだけは一流だった俺だ。

「そんなのがあるんだ。でもそうなるとその辺の素材じゃすぐダメになっちゃうんじゃない?」
「心配無用さ。あるじゃないか、最高の素材が……」
「……あっ!」

 シルフィはすぐに思い出した。伝説級の素材がある事に。


次回、遂にマスクが完成します!

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