異世界でもプロレスラーになれますか?
第18話 復讐
シルフィが17歳になる頃、国王は病に倒れ、ベットの上から動けずにいた。国王不在では国民に不安と動揺を与えてしまう。そう考えた国王はヴィルフリードに王位を継承する話を出した。
貴族の間では賛成する者もいれば正当な王家の血筋ではないヴィルフリートが国王になるのをよく思わない者もいる。意見が割れてしまい、なかなか後継が決まらずにいた。
結果、次期国王に王位が継承される前に国王はこの世を去ってしまった。国を挙げての国葬が催され、国中が悲しみに包まれる中、ヴィルフリートは1人高らかに宣言をした。
「私はこの王国の王位を継承し、亡き義父の思いを引き継ぎ、必ずこの国を豊かな国にすると約束する!どうか皆私についてきてくれ!」
ウォォォォォォ!!!
歓声に包まれヴィルフリートを批判する声は聞こえなくなっていた。
しかしシルフィとリースはこの時、微かな違和感を感じていたそうだ。この日からヴィルフリードは王位に君臨し、様々な異変が起こるようになる。
貴族の失踪、疫病の蔓延、そしてシルフィの母である王妃も前国王の父と同じ病でこの世を去っていった。
明らかにおかしい。そう思ったのはシルフィとリース、そして現王妃である姉のミリエルであった。
ミリエル王妃は隠密にヴィルフリートを調べ始め、遂にヴィルフリードのしてきた事を知った。
前国王と王妃には毎日のように食事に少量の毒を混ぜ、少しづつ弱体化させていった事、未だにヴィルフリードの王位に反発を続ける貴族を裏で殺し、あたかも失踪したと公言、自ら国に病を蔓延させ、それを自ら解決する事で国民の支持を得る。完璧な計画だった。
それを知ったミリエル王妃はシルフィとリースに全てを打ち明け、王族しか知らない隠し通路を使い、2人を逃したのだという。
それを後から知ったヴィルフリートはこれまでの悪事を全てミリエル王妃とシルフィ、使用人のリースの企みだと国民に公表し、ミリエル王妃は処刑された。
この日からヴィルフリートは勇者として讃えられるようになったという。
これを知ったシルフィとリースは復讐を決意したそうだ。
「でもなんで武道大会に?わざわざそんな目立つ事をして何かいい案でもあるの?」
武道大会なんていう大きな催しなら多くの国民が見ているだろう。そんなところで闘えばたちまち正体がバレ、恐らくは拘束され処刑されてしまうのがおちだ。
「うん、実はね〜、私最近、固有スキルが使えるようになったんだ〜。ちょっと試してみようか〜」
固有スキルか。それが何か役に立つものならいいんだけどな。このままじゃシルフィは殺されてしまうかもしれないし、そんなの放っておけない。
『ミラージュ』
突如リースが淡い光に包まれたと思ったらそこにはシルフィがいた。
「シ、シルフィ!?あ、あのさっきはそのごめんな、いきなりあんな事言って本当悪かった。何の事情も知らずに俺は……」
「竜平?私だよ〜リースだよ〜?」
………………ん?このおっとりした感じはリースなのか?声は確かにシルフィなんだが。
「これが私の固有スキルの『ミラージュ』だよ〜。1度見たことのある人なら誰にだって変身できちゃうんだ〜」
なにそれ凄い!欲しいそのスキル!羨ましい……
「このスキルはね〜、私が触れている人も同様に変身させることが出来るの。だから私もシルフィも別の誰かに変身して参加しようと思ってるんだ〜」
なるほどそれなら身バレの心配はないな。というか俺もちょっと変身してみたい。
「なぁリース。俺も誰かに変身させてみてよ!」
「いいよぉ〜、んーとね〜、それじゃこの人で」
リースは俺の手を握りミラージュのスキルを使った。俺の体が先ほどの淡い光に包まれる。
「できたよ〜はい」
リースは鏡を取り出し俺の顔の前に出した。ってこれまんまハイルさんじゃないか!何このいかつい顔!
「よく似合ってるね竜平〜」
やめてくれなんか恥ずかしい……
「変身してみてわかったと思うけどね〜?変身してもステータスなんかは元のままなんだ〜。だから強さは変わらないの」
確かに顔も体もハイルさんだが強さは全く変わった気はしない。恐らくは盗賊というリースの職業からこういう変装系のスキルが出たんだろうな。
「リースのスキルはよく分かったよ。確かにこのスキルがあれば身バレの心配はなさそうだな。でも……俺はやっぱり2人にそんな危険な事をして欲しくない」
「そっか〜それじゃしょうがないね〜。私はどっちでもいいんだよ〜。シルフィが行くって言うなら行くし、行かないって言うなら私も行かない。あとは竜平次第だね〜。頑張ってシルフィを説得してね〜」
そう言うとリースはご馳走さまと言って店を後にした。
それから何時間考えただろう。どうすればシルフィは救われる?どうすればシルフィは闘わなくてすむ?
ずっと考えていたが俺にはやはり1つの答えしか思い浮かばなかった……。
俺はカフェを出て宿へと帰り、夕食をとる。いつもならシルフィが夕食を食べに降りてくる時間だが今日は食べに来ることはなかった。
俺は自室に戻りベットへ横になる。
そしてある1つの決意を胸に眠りに落ちた。
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