異世界でもプロレスラーになれますか?

大牟田 ひろむ

第11話 隷属の宝玉

 ゆっくりと歩くその男はまるで品定めをするかのように俺たち3人を見る。明らかな敵意を向けるその男は俺たちと向き合うと足を止めた。

「よぉハイル。出会って早々逃げ出すなんてらしくねぇじゃねえか。ま、無理もねぇか。俺と戦うのが怖くて国から逃げ出した腰抜けだもんな。今じゃどこぞの賊をやってるってこっちじゃ有名だぜ?」

「は!俺がどこで何をしようがおめぇにゃ関係ねぇだろ。しかしやっぱりおめぇだったか、今回の首謀者は」

 話を聞く限り、どうやらハイルさんの知り合いのようだ。昔の仲間とは少し違うように聞こえるが……

「なんの話だ?」

 とぼけたようにこの男は言うがハイルさんは確信しているようだ。

「あのハイルさん、あの人は?」

「あぁ、あいつはエルド・ヴァージェス。俺の昔の……まぁ腐れ縁って奴だ。そして現在、勇者の1人でもある」

「!?」

 ハイルさんの知り合いが勇者?つまりあのエルドって男が魔王領を脅かしている奴らの1人ってことか。しかしなんでハイルさんは今回の首謀者が分かったんだろう。今回の調査でもとくにおかしな点は無かった。しかし、ハイルさんはまるで調査の前から分かっていたような感じだ。

「竜平。お前、マッスルロックゴーレムの体内に赤く光る宝玉があったって言ってたよな?あれはな、隷属の宝玉と言ってな。魔獣を操ることの出来る代物なのさ。そしてヴァージェス王国にしか作る事が出来ねぇ」

 国宝とはまたぶっ飛んだ単語が出てきたな。隷属ーーー奴隷ということか。魔獣を意思に関係なく無理やり従わせているのだろう。ハイルさんはあの宝玉について知っていた。だから今回の首謀者があのエルドだと予想したのだろう。

「しかし、魔獣を従わせるには一定範囲内に置かなきゃならねぇ。それを超えると魔獣は隷属の宝玉の強制力に逆らい、ただの魔獣に戻るってわけだ。今回、街の近くに現れたマッスルロックゴーレムはこいつの隷属効果の範囲外に逃げ出した事で暴れていたんだろ」

 冗談じゃない。魔獣を従わせているならちゃんと管理しとけってんだ。まぁゴーレムどもも好きで従っているわけじゃ無いだろうしなかなかそんなわけにはいかないと思うが。

「流石はハイルだな。見事な推理だ。だがちっとばかし違うな。俺はあいつらに逃げられたんじゃない。わざとお前らの街の方へ逃してやったんだ」

 てことはつまりあれか?俺たちの街を襲わせるためにわざと逃げようとするゴーレムを見逃したと。流石にちょっと頭にきたな。

「あんたがあのゴーレムどもを放ったのはわかった。でもなんで水に弱いあいつらがこの川を渡ることができたんだ?」

 いくら水に弱くても足が沈むくらいじゃゴーレムは死なないだろう。しかし、それも長時間続けば弱るのは目に見えている。俺の戦ったゴーレムはとても弱っていたようには見えなかった。

「くくっ、俺が一体何体のゴーレムを従わせていたと思ってんだ?川の方をよく見てみな。運が良けりゃまだ生きてる奴もいるかもな」

 俺は川の方を目を凝らしてよく見る。すると微かに沈みかけている岩のようなものがちらほらあるように見えた。まさか……

「従わせてたゴーレムを足場にして他のゴーレムを渡らせたのか?」
「正解!よく分かったじゃねぇか!あいつらはただの道具だ。使い捨てなんだよ。無くなりゃまた新しいのを従えらせりゃいい!」

 とんでもないクズだな。こんな奴が勇者?笑わせる。
 俺が昔見たアニメの勇者はどうだった?国のため、民のため、そして好きな人のために戦っていた。
 こいつには目的も何もない。ただの遊び感覚。そんな事で今までどれだけの魔族たちが犠牲になったのだろう。
 あのゴーレムたちもそうだ。あいつに従わされなければ山奥でひっそりと暮らしていたかも知れない。冒険者と戦えば倒されることも、逆に冒険者を殺すことだってあるかもしれない。冒険者という仕事をしている以上そこは仕方のないことだ。
 だがこれはいくらなんでも間違っている。命をなんだと思っているんだこの男は。
 
「こういう奴なんだよあいつは。自分以外はどんなもんだろうが利用する。利用し、使えなくなったら捨てる。ま、産まれながらのクズってやつだ」
「はっは、ひどい言われようだな俺は!まぁその通りなんだけどよ。だがハイル、お前も似たようなもんだったろうが!俺と組んで裏町仕切ってた時はよぉ?」

 ハイルさんがあいつと組んでた!?腐れ縁って言ってたがつまりは仲間だったってことか。

「昔の話だ。俺はガキの頃、荒れに荒れてた。両親が事故で死に行く当てもなく、気がついたら裏町で暴れまわってたのさ。そん時出会ったのがあいつだ」

 ハイルさんにそんな過去があったのか。でもなんで国を出たんだ?あいつと対立する理由も無い気がするが。

「最初のうちは楽しくやってたんだよ。ところがある時王国の騎士団から声がかかったんだ。その強さを王国の為に使わないかと。俺は正直乗る気はしなかったがあいつはやる気でな。結局俺も騎士団に入る事になったんだ。俺らはどんどん強くなり、ついに勇者候補として名前が挙がった」

 ハイルさんが勇者候補とは驚きだ。あの強さを目の当たりにしたら納得がいくな。

「勇者になれるのは1人だけ。俺とエルドは戦う事になった。が、その前日俺は聞いちまったんだ。騎士団とエルドの話を。俺の両親を殺したのがあいつの父親ーーーつまり現国王であるアルダール・ヴァージェスであることを」

「えっ……」

「そして未だにヴァージェス王国国王の座でふんぞり返ってるアルダールが俺を殺すためにエルドを裏町に行かせたこともな。最終的に俺とあいつを勇者候補として戦わせ、そこで俺を殺すつもりだったわけだ」

 その事実を知り、ハイルさんは国を出たんだろう。
 しかしなぜハイルさんの両親は殺されたのだろうか。

「しかしハイル、お前の母親も馬鹿だよなぁ。大人しく親父の妾になっときゃ死ぬこともなかったのによ。親父に逆らったんだ。当然の報いだよ笑えるぜ」

 突如、空気が変わった……

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