異世界でもプロレスラーになれますか?

大牟田 ひろむ

第8話 ゴーレム出現の謎

「ふぁぁぁ、よく寝たなぁ」

 この世界に来て初めての戦いの相手がまさかあんな怪物になるなんて思ってもいなかった。結果、自身の攻撃、耐久、スキルや魔法など、色々知ることは出来たわけだ。魔法に関しては散々なものだったが。

「しっかし今日は静かだな、昨日は朝っぱらからシルフィに叩き起こされて最悪の目覚めだったからな。ゴーレムの素材で結構金も入ったし、今日は部屋でトレーニングでもしてるかな」

 なんて事を言っているとまるで待ち構えていたかのようなタイミングでそいつは現れた。

「おっはよー!よく眠れた竜平?よし、ご飯行こご飯!もうお腹空いちゃって〜」
「わかったわかった。準備するから少し待っててくれ」

 そう言うと、シルフィは1階の食堂で待ってると言って部屋を後にしていった。



 支度を終え食堂へと向かうと、待っていたシルフィとそこにはリースの姿、そしてもう1人、同じく『グラジオラス』に所属しているメンバー。見た目はいかにも武闘家というか、とにかく闘いが好きそうな男である。

「おっ、きたな〜。ゴーレムハンターの登場だ」

 ゴーレムハンターって。確かに倒したのは事実だけどあんまり嬉しくない称号だ。

「一昨日の宴会以来だな。改めて自己紹介しとくぜ、俺はハイル・ゴランド。『グラジオラス』では唯一の武闘家職だ」

 あー、一昨日冒険者登録した後の宴会の時にいたような気がする。酒の飲み過ぎであの日のことは記憶が曖昧なんだよな。

「ハイルさんですね、よろしくお願いします。八嶋竜平です」
「おいおいそんなにかしこまるな。俺らはもう仲間なんだからよ。上だ下だっていうのは無しにしようぜ!敬語もいらねぇ!」

 見た目と違って絡みやすい人だな。怖い人じゃ無くって良かった。でも一応敬語は使っておこう。と思っていると……

「ところで少し金貸してくんねぇか?」

 いきなりのカツアゲキタァァァ。この世界に来て3日目。たった3日の間に2回もカツアゲにあうとは。そんなチョロそうに見えるんだろうか。これでもかなり鍛えてるつもりなんだがな。

「ほらハイルさん。いきなり新人にたからないの!そんな事しに来たんじゃないでしょ?」

 横からシルフィが助け舟を出してくれる。ナイスシルフィ。助かったよシルフィ。ここのご飯代は俺が出してあげよう。

「ハハッ、冗談だよ冗談!俺がそこらのチンピラみたいに見えるか?」

「「「見える」」」

 俺、シルフィ、もれなくリースまでハイルさんをチンピラ認定していた。

「まぁ本題に入るんだけどよぉ」

普通にスルーしやがったな。この人都合が悪くなると絶対逃げるタイプだ。借金とかめっちゃありそう。いつもいつも金が入るたび借金取りに追われている姿が想像できる。

「昨日お前さんが倒したマッスルロックゴーレムのことだ」

 急に真面目な話になったな。あのゴーレムどもがどうかしたのだろうか。

「ギルドで話は聞いたよな?あいつらは魔王領には生息してないんだよ。それがなぜ、この魔王領の街の近辺に現れたのか。それが今回の謎だ」
「えっ?でもニャーさんの話じゃ確か……」

そう、ニアさんの話ではこの街は比較的勇者側の領地に近いところにあって、そこから迷い込んでくるってことも考えられるって言ってたな。

「そう、ここは勇者領から近いんだよ。そこから迷い込むことも考えられる……わけがねぇんだ」

 ん?どういうことだろうか?

「確かにこの街は勇者領からは近い。が、この街と勇者領の間には大きな川があってな。たとえ15メートルを超えるようなマッスルロックゴーレムだろうとあの大河を超えることは出来ねぇ」

 そうだ、シルフィが言っていた。マッスルロックゴーレムは魔法耐性が非常に高いが、弱点は一応水属性だと。そんな魔獣が大きな川を超えるなんて果たして出来るだろうかーーーまず無理だろう。
 
「つまり、何者かが意図的にこの魔王領にマッスルロックゴーレムを放ったということですか?」
「それは分からねぇ。だが俺はこの一件、勇者が関わっているとみている」

「!?」

 勇者ーーー昔から魔王を悪と決めつけ、一方的に魔王領を攻め続けているという馬鹿ども。そいつらが今回関わっている可能性があるのか。

「まぁ確証はねぇがな、あくまで俺の推測に過ぎねぇ。一応今回のことで勇者領との境の川へ調査に行くつもりだ」

 へー、そりゃ大変だ。何もなければ良いなー。

「てことで竜平、お前俺について来い!」

 やっぱりか。そんな気はしてたんだよな。
 今回のことで1番絡んでいるのはどう考えても俺だろう。何せ、本題であるマッスルロックゴーレムを倒してしまったんだから。
 しかしあれは爽快だったなぁ。ドロップキックで粉々になるわ、チョップで真っ二つになるわで今でも信じられないや。

「行くのは構わないんですけど良いんですか?俺、まだ駆け出しですよ?ハイルさんみたいな強そうな人と一緒だと足手まといになっちゃうんじゃないかと……」

 確かに自分の強さ、耐久力は身にしみてわかったつもりだ。それでも俺は一昨日冒険者になったばかりのレベル1の駆け出しだ。長年冒険者をやって来たであろうハイルさんには遠く及ばないんじゃないだろうかと思う。

「心配しなくても大丈夫よ。竜平の強さは私が1番よく分かってるから!目の前で見てた私が太鼓判押したげる」

 そんなシルフィが俺の背中を押してくれる。目の前であんな光景を見ていたんだ。そんな子が認めてくれているならなんの問題も無いだろう。

 するとリースが口を開く。

「へぇ〜、シルフィがそんなに他人を評価するなんて相当竜平のこと気に入ったんだねぇ〜」

 するとシルフィの顔がみるみる赤くなっていく。

「な、ななな何言ってんのよリース!わた、私はただ竜平の強さを認めたってだけで、別に深い意味なんてないんだから!」

 明らかに動揺を見せるシルフィ。慌てた様子は可愛いな。

 そんなこんなで出発は明日の朝ということになった。とりあえず今日は予定もないので部屋でトレーニングをし、ゆっくり明日のために備えよう。



今回新たな組織のメンバー登場回でした。
見た目チンピラのような感じですが、組織の中ではかなり古株のような設定です。

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