異世界でもプロレスラーになれますか?

大牟田 ひろむ

第6話 腕試し(前編)

「さて!昨日はゆっくり休めたかな?体調も万全のことでしょう!」

 誰がだ。休むとか言っておいて、メンバーみんな呼んで酒盛り始めたのはどこのどちら様でしたっけ?結局明け方まで飲む羽目になってほとんど睡眠は取れなかった。

「眠い……」

 というかシルフィはなんでそんなに元気なんだよ。お前もかなり飲んでたろ。多分俺よりも。

「まぁまぁせっかく冒険者になったんだし、腕試しに何か依頼でも受けに行こうよー。竜平の実力も見て見たいしさ」

「腕試しね、まぁ体も鈍っちゃうしトレーニングがてら何かやるのも悪くないか」

「決まりだね!そんじゃギルドにしゅっぱーーつ」

 朝っぱらからほんとテンション高いなぁ。 




 ギルドに到着するとカウンターでなにやら騒いでる人がいる。魔族のようだ。

「頼むよ!退治してもらわないとおちおち仕事もできやしないんだ」

 なにかお困りのようだな。魔族だが、大人しそうないかにも田舎のおじさんって感じの人だ。
 するとこちらに気づいたニアさんがなにやら困った表情でこちらに話を振ってきた。

「あ!竜平さん!ちょうどいいところに!今こちらの方から依頼がありまして、ぜひ竜平さんに受けていただきたいのですが」

 ついていきなり依頼か。まぁそのつもりで来たんだし断る理由は無いが。

「とりあえず依頼の内容を聞かせてもらっていいかですか?」

 依頼主に話を聞く。このおじさんの名前はボルスさんといって近くの農場で野菜などを作っているらしい。今までも農場に小さな魔獣が現れることも何度かあったみたいだが、今回は少し違うらしい。なんでも農場の少し先に行ったところに大きな岩が現れたそうだ。前までそんなものはなかったそうなので調べようと近づいていったところ、突如その岩が動き出したらしい。慌てて逃げ出したので魔獣の姿は良く見ていなかったそうだ。

「ということで、あんなものがいたんじゃ怖くて夜も眠れないし、仕事も出来ないんだ。なんとか倒してくれないか?」

 大きな岩か。それが動いたとなれば確かに怖いが、一体どんな魔獣なんだろう。

「ちなみにそれの正体が何なのか予想はつかないんですかニャーさん?」

「ニャーさんはやめて下さい!もう……」

 やっぱ可愛いこの人。

 表向きは一応ギルドなんだ。魔獣の生態なんかは情報があってもおかしくないだろう。

「そうですね。岩ということなので恐らくは岩に擬態するマッスルロックゴーレムなどが考えられます。しかし、マッスルロックゴーレムはこの魔王領には生息していないはずなんです」

 まぁどちらにしろこのままにはしておけないよな。シルフィもいるしなんとかなるだろ。ちらっとシルフィの方を見るとなんだか青ざめた表情のまま固まっている。

「どうしたシルフィ?まるで強敵を前にして腰を抜かした雑魚キャラみたいな顔をして」

「雑魚キャラって酷い!そ、そりゃ怖くもなるよ。竜平、マッスルロックゴーレムって何か知らないの?まさに岩の体で魔法耐性が非常に高く、武闘家の職業の人が10人がかりでようやく倒せるような強敵なんだよ!まぁその岩は貴重な鉱物で高く買い取ってもらえるんだけどね」

 そんな恐ろしい奴なんだ。でもここまで聞いといて今更断るってのもなぁ。お金も欲しいところだし、この際受けておくか。

「わかりました。この依頼受けます。倒した魔獣の素材は頂いても良いんですよね?」

「もちろんです!倒していただけるのなら素材なんていくらでも!当然報酬もお支払いいたします!」

 そうして俺は、この世界に来て初めて試合ーーーではなく魔獣討伐に繰り出すのであった。


 問題の農場まで来ると、確かに遠くに見える。大きな岩のようなものが。あれだよな、てか大きすぎないか?トラックくらいの大きさだぞあれ。

「お、大きい……あんな大きなマッスルロックゴーレム初めて見たよ。明らかに変異体だね」

 変異体。突然変異みたいなものか。
 どうやらシルフィは実物を見たことがあるらしい。それでもあれほど大きくはなかったようだ。とりあえず近づいてみるか。
 岩から10メートルくらいの距離まで近づくと急に大きな地震のように地面が揺れ、それは姿を現した。
 まさしく岩の怪物。人型をしたそれはゆっくりと立ち上がり、ゆうに15メートルは超えるであろうその全貌を露わにした。

「で、でけぇ……」
「無理無理!逃げようよ!こんなの勝てるわけないって!あっさりと踏み潰されてミンチにされて終わっちゃうって!」

 怖いこと言うなよ。ますます怖くなるだろ。

「逃げてどうすんだ?こいつがいたらきっとこの辺りに甚大な被害が及ぶぞ!バラッサの街に来ないとも限らないしな」
「それは……そうだけど」
「よし!やってやんぜ!」

 勢いよくマッスルロックゴーレムへと駆け出した俺。
 
「竜平……」

 それを見守るシルフィ。今の彼女の目に俺はどう映っているのだろう。勇気ある特攻か、無謀な愚か者か……

ドバァァン!!

「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

勢いよく突っ込んだ俺に容赦なくマッスルロックゴーレムの拳が炸裂し、遠くへと吹き飛ばされた。これは後者だな。

「あ、あわわわ……」

 完全に腰を抜かしたシルフィ。もうどうしようもないと悟ったのだろう。立ち上がることも出来ない。シルフィのすぐ目の前までやってきたマッスルロックゴーレムは彼女を踏みつぶそうと足を上げる。

「はぁ、こんなところで死ぬのか……、まだなんにも目的果たしてないのになぁ」

 マッスルロックゴーレムの足が彼女を踏み潰さんとする。同時に彼女は覚悟を決め、目を閉じる。
 今までの人生が走馬灯の様に見えたのか。笑みをこぼし、涙を流した。
 
 そんな彼女はふと気付いた。いつまでも潰される気配もない。おもむろに目を開くと、そこには信じられない光景がうつっていた。


なかなか戦闘シーンへ行けず、話をまたいでしまいました。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く