血脈
第三話
政府の役所や学校などが多く集まるここ第八区では、そもそもとして店と呼べる場所が少ない。そして役所や学校が多いということはつまり、人も多く居住するということだ。
広大な駐車場と、最寄駅から徒歩五分という圧倒的な交通の便。生活用品店から娯楽用品店、多種多様な専門店や飲食店と、幅広い分野の店を構えており、いつ来てもここは賑わっている。
そう、ここが四人行きつけの大型ショッピングモールだ。
広大な敷地の上に聳え立つ七階建てのメインリッジは、西にあるウェストリッジと、その反対の東にあるイーストリッジに挟まれて建っている。
玲二たちの目的地は東のイーストリッジだ。メインリッジに比べると小さく見えるが、三分割にされたうちの一つであるにも拘わらず三階建てという並大抵の規模は誇っている。
その外見からも見て分かる通り、イーストリッジは円筒形の建物だ。一階の中央ホールをどの階からでも見下ろすことが出来るような吹き抜けの空間が作り出されている。
雫玖と梓紗に遅れてモールに到着した男二人は、中央ホールに設置されたベンチに腰掛けた。
「玲二、聞いたか? 昨日の」
和海は吹き抜けをぐるぐる回るホロスクリーンに目線をやりながら尋ねた。
スクリーンには昨晩玲二たちが立ち会った事件のニュースが映し出されていた。
「ああ。今朝のニュースでな」
「策略だと思うか?」
「助けられると分かっていたからおとなしく捕まったんだろ」
玲二は呆れたような素振りをし、
「誰に襲われたとか、聞いていないのか?」
「フラグナンスの奴らは相当な重傷で入院中、証言の得られる状態じゃないらしい」
「そうか……」
「なんだ、犯人に心当たりでもあんのかよ?」
玲二は少し考えて……、
「……いや、ないけど」
それから数分して、雫玖から玲二に連絡があった。クレープ屋に二人を迎えに行くと、店から出てきた二人はどこまでも満足そうな笑顔を彼らに向けた。
「うまかったか?」
「ん」
梓紗は先と同様の輝いた眼差しで答える。
「梓紗は甘いもの好きだもんね」
とても美味しかったのだろう。普段は見せないような満ち足りた表情が顔に出ている。
「次、どこ行こうか? みんな行きたいところとか――」
すると、言葉を遮りながら和海がすっと手を挙げた。
「珍しいな、どこだ?」
「お前の服だ、玲二。地味過ぎんだよ」
玲二は一瞬困惑の顔をし、次の瞬間ムッと表情を硬くした。
「別にいいだろ……」
「雫玖ちゃんがかわいそうなんだよ。彼氏の自覚が足りないんだよ、テメェは」
「私も、そう思う」
「彼氏じゃないし……」
「まーだそんなこと言ってんのか……。雫玖ちゃんはテメェのことが好きで、お前も雫玖ちゃんのことがだぁぁい好きで、何の問題があるってんだ、あ?」
「和海……お前な……」
「それに、もう同棲までしてんだ。否定の予知はねぇと思うが?」
「……………………」
和海の言う通り、同棲している以上恋人ではないと言い張るのは無理があるし、雫玖にも失礼だと思い、数秒の沈黙の中で体感時間数十秒ほどの思考を巡らせた。
しかし、
「じゃ、決定な」
「いや――」
結局、答えが出る事は無かった。
「――やった! 私が選んであげるね、玲二」
「はいはい、もう勝手にしてくれ……」
完全に玲二に対してアウェイな空気の中、四人は服屋へと向かうこととなった。
玲二が雫玖と梓紗に腕を引っ張られる姿を後ろから見ていた和海は「ムカつく野郎め……」と、微笑みをこぼしながら小さく呟いた。
「玲二、これなんかどうだ?」
「うん、いいね」
「いいねじゃなくて! 試着しろよ!」
「え、いいよ。和海が選んだやつならそれ買う」
「着てみるまで似合うかどうかわかんねぇだろ、いいから着てみろって」
「別にこれでいいのに……」
玲二は和海に背中を押され、いやいや試着室に入る。
「どうだ、着たか?」
「あと少し…………どう?」
扉を開け和海に見せる。
「良い感じだな、サイズも問題ねぇし」
「じゃあこれに――」
「――待った、これも着て」
玲二の言葉を遮り梓紗は服を持ってきた。今着ているのよりも少しラフさが増している。
「おお、それいいじゃん。着てみろよ」
「……わかった」
玲二はしぶしぶ試着室へと入り、服を着替える。
「まあ、サイズは問題ないけど……」
扉を開けて二人に見せる。
「まあ、悪くねぇけど……玲二には似合わんな」
「ちょっと、兄さん寄りだった……」
「だな……。ま、せっかく梓紗が選んだんだ。俺が買う」
「(おー、キッモ)」
「なんか言ったか玲二?」
「え、なにが?」
「雫玖、どこ?」
三人は店内を見渡す。
「ん、いた」
「お、決まったみたいだな」
視線の先には駆け寄る雫玖の姿が見えた。その手には服を持っており、その服は先ほどのようなラフさは全く無く誠実感のある服だ。
「おまたせ。はいこれ、玲二」
嬉しそうに服を手渡す。
「うん」
玲二は初めて面倒くさがらず試着室へ入った。
「どう?」
言うと同時に扉を開けた。
「おお、いいな!」
「ん」
「でしょでしょ、自信作なの!」
全会一致で称賛を浴びたその服は、髪の色、表情、足の長さや胸囲からウエストまでの引き締まりかたまで計算されたように整っており、玲二の第一印象をガラっと変えた。
「玲二どう?」
「うん、これ気に入ったよ。ありがとう雫玖」
「はい、どういたしまして」
雫玖はとても嬉しそうに笑った。
四人は店を出ると宛てもなく足を進めていた。
「次、どうするー?」
「ご飯が食べたい」
「――は?」
あまりに的外れな梓紗の言葉に玲二は思わず呆れたような声を漏らす。
「ご飯食べたいって言った」
「いや聞こえたけど……さっき食べたばっかりだろ」
「あれはおやつ」
「玲二よ、わが妹は食いしん坊なのだ――」
「――ん!」「――ぐはッ!?」
和海は鳩尾に妹の鉄拳を食らい悶絶する。
「食いしん坊って言わないで」
「だからって、殴ることないだろ……ッ! てか加減しろよ!!」
「駄目ですよ、和海さん。女の子はデリケートなんです」
「……あ……はい」
「じゃあ飯、食いに行くか……」
玲二は半ば諦めたような声で呟くように言った。
広大な駐車場と、最寄駅から徒歩五分という圧倒的な交通の便。生活用品店から娯楽用品店、多種多様な専門店や飲食店と、幅広い分野の店を構えており、いつ来てもここは賑わっている。
そう、ここが四人行きつけの大型ショッピングモールだ。
広大な敷地の上に聳え立つ七階建てのメインリッジは、西にあるウェストリッジと、その反対の東にあるイーストリッジに挟まれて建っている。
玲二たちの目的地は東のイーストリッジだ。メインリッジに比べると小さく見えるが、三分割にされたうちの一つであるにも拘わらず三階建てという並大抵の規模は誇っている。
その外見からも見て分かる通り、イーストリッジは円筒形の建物だ。一階の中央ホールをどの階からでも見下ろすことが出来るような吹き抜けの空間が作り出されている。
雫玖と梓紗に遅れてモールに到着した男二人は、中央ホールに設置されたベンチに腰掛けた。
「玲二、聞いたか? 昨日の」
和海は吹き抜けをぐるぐる回るホロスクリーンに目線をやりながら尋ねた。
スクリーンには昨晩玲二たちが立ち会った事件のニュースが映し出されていた。
「ああ。今朝のニュースでな」
「策略だと思うか?」
「助けられると分かっていたからおとなしく捕まったんだろ」
玲二は呆れたような素振りをし、
「誰に襲われたとか、聞いていないのか?」
「フラグナンスの奴らは相当な重傷で入院中、証言の得られる状態じゃないらしい」
「そうか……」
「なんだ、犯人に心当たりでもあんのかよ?」
玲二は少し考えて……、
「……いや、ないけど」
それから数分して、雫玖から玲二に連絡があった。クレープ屋に二人を迎えに行くと、店から出てきた二人はどこまでも満足そうな笑顔を彼らに向けた。
「うまかったか?」
「ん」
梓紗は先と同様の輝いた眼差しで答える。
「梓紗は甘いもの好きだもんね」
とても美味しかったのだろう。普段は見せないような満ち足りた表情が顔に出ている。
「次、どこ行こうか? みんな行きたいところとか――」
すると、言葉を遮りながら和海がすっと手を挙げた。
「珍しいな、どこだ?」
「お前の服だ、玲二。地味過ぎんだよ」
玲二は一瞬困惑の顔をし、次の瞬間ムッと表情を硬くした。
「別にいいだろ……」
「雫玖ちゃんがかわいそうなんだよ。彼氏の自覚が足りないんだよ、テメェは」
「私も、そう思う」
「彼氏じゃないし……」
「まーだそんなこと言ってんのか……。雫玖ちゃんはテメェのことが好きで、お前も雫玖ちゃんのことがだぁぁい好きで、何の問題があるってんだ、あ?」
「和海……お前な……」
「それに、もう同棲までしてんだ。否定の予知はねぇと思うが?」
「……………………」
和海の言う通り、同棲している以上恋人ではないと言い張るのは無理があるし、雫玖にも失礼だと思い、数秒の沈黙の中で体感時間数十秒ほどの思考を巡らせた。
しかし、
「じゃ、決定な」
「いや――」
結局、答えが出る事は無かった。
「――やった! 私が選んであげるね、玲二」
「はいはい、もう勝手にしてくれ……」
完全に玲二に対してアウェイな空気の中、四人は服屋へと向かうこととなった。
玲二が雫玖と梓紗に腕を引っ張られる姿を後ろから見ていた和海は「ムカつく野郎め……」と、微笑みをこぼしながら小さく呟いた。
「玲二、これなんかどうだ?」
「うん、いいね」
「いいねじゃなくて! 試着しろよ!」
「え、いいよ。和海が選んだやつならそれ買う」
「着てみるまで似合うかどうかわかんねぇだろ、いいから着てみろって」
「別にこれでいいのに……」
玲二は和海に背中を押され、いやいや試着室に入る。
「どうだ、着たか?」
「あと少し…………どう?」
扉を開け和海に見せる。
「良い感じだな、サイズも問題ねぇし」
「じゃあこれに――」
「――待った、これも着て」
玲二の言葉を遮り梓紗は服を持ってきた。今着ているのよりも少しラフさが増している。
「おお、それいいじゃん。着てみろよ」
「……わかった」
玲二はしぶしぶ試着室へと入り、服を着替える。
「まあ、サイズは問題ないけど……」
扉を開けて二人に見せる。
「まあ、悪くねぇけど……玲二には似合わんな」
「ちょっと、兄さん寄りだった……」
「だな……。ま、せっかく梓紗が選んだんだ。俺が買う」
「(おー、キッモ)」
「なんか言ったか玲二?」
「え、なにが?」
「雫玖、どこ?」
三人は店内を見渡す。
「ん、いた」
「お、決まったみたいだな」
視線の先には駆け寄る雫玖の姿が見えた。その手には服を持っており、その服は先ほどのようなラフさは全く無く誠実感のある服だ。
「おまたせ。はいこれ、玲二」
嬉しそうに服を手渡す。
「うん」
玲二は初めて面倒くさがらず試着室へ入った。
「どう?」
言うと同時に扉を開けた。
「おお、いいな!」
「ん」
「でしょでしょ、自信作なの!」
全会一致で称賛を浴びたその服は、髪の色、表情、足の長さや胸囲からウエストまでの引き締まりかたまで計算されたように整っており、玲二の第一印象をガラっと変えた。
「玲二どう?」
「うん、これ気に入ったよ。ありがとう雫玖」
「はい、どういたしまして」
雫玖はとても嬉しそうに笑った。
四人は店を出ると宛てもなく足を進めていた。
「次、どうするー?」
「ご飯が食べたい」
「――は?」
あまりに的外れな梓紗の言葉に玲二は思わず呆れたような声を漏らす。
「ご飯食べたいって言った」
「いや聞こえたけど……さっき食べたばっかりだろ」
「あれはおやつ」
「玲二よ、わが妹は食いしん坊なのだ――」
「――ん!」「――ぐはッ!?」
和海は鳩尾に妹の鉄拳を食らい悶絶する。
「食いしん坊って言わないで」
「だからって、殴ることないだろ……ッ! てか加減しろよ!!」
「駄目ですよ、和海さん。女の子はデリケートなんです」
「……あ……はい」
「じゃあ飯、食いに行くか……」
玲二は半ば諦めたような声で呟くように言った。
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