英雄の終わりと召喚士の始まり

珈琲屋さん

1-26 暗闇の恐怖




「タマ、頼む」

薄赤い光の球が暗闇を照らす。照らすといってもそこまで大した明かりではない。
まぁ俺がライトで照らすよりは明るいけど……

あれから三日が経った。

イーダフェルトに戻った時には日が暮れてしまったが、紫の噴火は村からも見えていたようだ。
暗闇の中で街道に出るのは危険が大きく、幸い噴火の影響は村にはなかった為、広場で火を焚き、誰もが身を寄せ合い起こりうる未知に備えていた。
調査連中や、ウルの連れてきた部隊もいたが、主に周囲の警戒、諜報に備えてくれており、お陰でパニックにならずに済んだようだ。

ウォーデンさんが村長や調査隊、精霊国部隊と、代表を集めて事情を説明し、これ以上の異変はしばらく起こらないと納得させ、なんとかその日の内に騒ぎは治まった。
勿論、あるがままに説明はしていないだろう……俺は知らない。余計な事を口走っても仕方ないのでさっさと宿で一休みさせてもらった。

そして翌日。
改めて村長とウォーデンさんにより、村人へ昨日の経緯を説明していたのだが、ニョルズの山は信仰の対象でもあった為、山が死んだ、という報告に泣き崩れる者も大勢いた。

ロプトのせいでこれだけの悲しみが生まれたのだ。非難する気持ちがなかったといえば嘘になるが、結果直接的な被害はなく、あの魔剣も葬れた。あれが何処かにあるだけで、より深い取り返せない悲しみも生まれていただろう…そう思うと単純にあいつだけを非難することは俺には出来なかった。

そして今、俺はイーダフェルト近くの採石場、鉱山内部にいる。

死んだ山の代わりに村に神殿を、その中に祭壇を作るとウォーデンさんが提案、村人たちは大変喜んでいたが、採石場には魔物が巣食っており、しばらく機能していなかった。
そこで再起動させられる程度に魔物を退治するのに選ばれたのが俺だ。報酬は減額された銀貨33枚。

……決して金に目が眩んだわけではない。勿論金の為もあるが、せっかく複数の召喚獣と契約したのだ。並列召喚と連携の練習の為にも魔物退治は丁度良かった。

「シルフィ、タマの近くで備えてくれ。ウニスケはいつも通りな」

光の球に小さな緑の妖精がふわふわと付いていく。
シルフィは自分で大きさを変えられるようで、今はタマと同じ位のサイズになっている。
そしてウニスケはいつも通り俺の肩へ。……一つだけ違うのは俺の左側、アゾットがいない。
何度呼び掛けても返事もない。水晶は真っ暗になり沈黙したままだ。
集中すれば呪いの繋がりは感じ取れるから消えた訳ではないのだが、まぁどこかへ出ているのはいつもの事だ。
もしかしたらこの採石場のボスを既に支配して、俺にけしかけているのかもしれない。
……適当に考えたが、十分あり得る。

「…シルフィ、罠とかあってもおかしくないから警戒して進んでくれ」

「罠ですか?そこまで知恵のありそうな魔物は見当たりませんでしたが……油断はいけませんね。注意しておきますマスター」

そういって振り返ったシルフィが前を向き直すと共に、タマが止まった。少し小刻みに震えている…これはタマの警戒の合図だ。今は鉱山内部の一本道。トロッコの線路の上で逃げ場もない。
まぁ元々退治に来てるんだ。逃げる選択肢なんてないんだけど…

タマが天井付近まで高度を上げ光を強くする。更にその上にシルフィ。蝙蝠のように逆さまに脚を天井につけている。

彼女は中・遠距離からの風の魔術が基本的な戦法だ。だがこの暗さと狭さだと後ろにいても十分に活かせれない。
その為、後衛というよりも前衛の上空へ控えさせている。タマは……電球代わりだ。まだ仕方ない。
それでも十分に力になってくれている。
今も光を強めた事で、奥の暗闇が照らされ獣の足が見えた。何か風を切る音も聞こえる…また群れか…

「シルフィは風刃用意。ウニスケも備えろよ?タマ、思いっきり光れっ!」

まるで真昼間のように明るくなり潜む魔物を照らす。
ここの魔物は暗視能力があるようだが、それが災いして目眩しとなる。

「蝙蝠が3、ロックウルフが2、ゴーレム1だ!シルフィ!」

テュールが呼ぶよりも早くシルフィが風の刃で蝙蝠を3匹とも切り裂き地に落とす。
ウニスケも同時に駆け出すとロックウルフの足元から飛び上がり首元を切り裂いた。
もう1匹のロックウルフはまだ目が眩むのか後ろへ飛び下がりゴーレムの影に隠れる。

テュールもウニスケに続きゴーレムと相対、飛び上がりながら持っていた槌を思いっきり振り下ろした!
鈍い衝撃音が響き、砕かれた岩が辺りに飛び散る…だがゴーレムは左腕を犠牲に右腕を振り絞っていた。

ちっ…!振り下ろした槌を強引に向かってくる右腕に合わせ振り上げる。
なんとかゴーレムのパンチは上へ弾いたが両腕が痺れて力が入らない……そこへ隠れたロックウルフがチャンスとばかりに大口を開けて俺に飛びかかってきた!
上空から風の刃が撃ち落とそうと飛んでくるが、背中に生えた岩が削られただけで勢いは止まらない。

小さな影が足元から光り、がら空きの腹を十字に切り裂いた。

「助かったウニスケ、シルフィ!一旦引くぞ!」

ゴーレムから距離を取り態勢を立て直す。
腕の痺れもようやく治ってきた。

ここの魔物は俺たちと相性が悪い……岩の魔物が多く、切り裂けない事はないが普通の剣はもう二本も折れ、そのせいで使い慣れない槌で戦っている。
ウニスケもシルフィも斬る系だし、一戦毎に時間がかかって仕方ない。

ぼやきたい気持ちを抑え、ゴーレムに向き直る。

ゴーレムには核がある。いや、魔物はなんでもあるのだが、このゴーレムは胸元に核が見えている。

頭を砕けば少しの間動けないのでその隙に核を砕くのが定石なのだが、それは失敗した。

…しょうがないか……槌を投げ捨て短剣に魔力を込める。

本音を言えば、特に苦戦する程の相手でもない。消耗を気にしなければだが。
ただでさえ複数召喚という魔力を垂れ流しにした状態なのだ。少しでも温存しながら進みたかったが、そうも言ってられない。

身体にも魔力を循環させ、一気に詰め寄る。
鈍重なゴーレムが動きについてこれる訳もなく簡単に間合いに踏み込むと、短剣を一突き、核が割れゴーレムは動きを停止した。

「お見事です、マスター。格好良かったです」

「いや、消耗が激し過ぎる。こいつらくらい楽に倒せないと…シルフィもありがとうな。ウニスケもタマも助かったよ」

ウニスケは定位置へと駆け上り、俺の周りをタマが嬉しそうに飛び回る。
シルフィは人間サイズに戻っており、笑顔で俺に駆け寄ってきた。

「まだまだ向上心を忘れないなんて…さすが私のマスターです!感激です!そんなマスターが私……」

頬を染めながらくねくねと自分の世界に酔いしれるシルフィ……一緒に戦うようになってわかったが、この子はなんというか…尊敬が重たいというか…恋愛脳というか……やりにくい。

始めの頃は謙遜していたが、終わりの見えないベタ褒めに、今では軽くスルーするようになった。
それはそれで「クールなマスター…痺れます…」なんて言っているが放置だ。

まぁ可愛い女の子にそんな風に言ってもらえて嫌な気にはならない。
アゾットなんかに言われた日には有無を言わさず逃げ出していただろうけど……

「お呼びですかな?主殿」

「うわぁあぁっ!!!」「きゃああーーっ!!」

暗闇に浮かぶ顔。タマの明かりを無駄に上手く使って顔だけが浮かぶように前屈みに現れるアゾットがいた。



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