英雄の終わりと召喚士の始まり

珈琲屋さん

1-23 檻の中


「やっぱりウロボロスか。この山の異常はお前の仕業だな?」

無言を貫いていた男がようやく口を開いた。

「そうだよ。僕がやった」

「正直者だな。なにを企んでる?」

「そこまで話す義理はないよ。まだ向こうに義理はある。
それにしても隙がないね、さすが伝説の召喚術師ウォーデン・ヴォルト。
そして千人斬りのテュール・セイズ。力を失くしたって聞いてたのに、そこそこ戦えるじゃない。でももう無理しない方がいいんじゃないの?」

「どうかな、まだ奥の手の一つや二つはあるかもしれないぞ?」

嘘だ。朝から戦いっぱなしでもう魔力がない、シルフィを送還して多少魔力は戻ったがそれもさっきまでの戦いでなくなった。
それでも弱みは見せれない。最悪アゾットをもう一度、命を削るしかない。

「それは恐い。さすが英雄様だね」

笑いながらナイフを収め両手を上げて近寄ってくる。

「どういうつもりだ!」

「そんなに怒鳴らなくていいよ、僕も奥の手の一つや二つはあるけど、さすがに君たち二人を相手に怪我をしないとは思えない。
それにもう仕事は終わったんだ。これ以上争っても意味はないよ。だから見逃してもらいたくてさ」

こいつ本気で俺とウォーデンさん二人に勝てると思ってる…
確かに底の見えない不気味さがあるけど…

「見逃すかどうかは交渉次第だな。」

ウォーデンさんまで剣を収めそんな事を言う。

「ウォーデンさんっ!」

「逸るな、話を聞いてからでも遅くはない。なにから話そうか…そうだな、まず名前を教えてくれないか?」

さっきまで命のやり取りをしていたとは思えないほど無警戒に手頃な岩へと腰を下ろしながら尋ねるウォーデン。

「ふふ、いいね。僕はロプト、ただのロプトさ」

そんなウォーデンに合わせるかのように地面に座り込むロプトと名乗る男。

なんだこれ。殺し合いしてたよな。なんで友達みたいになってんだ。

「ロプト。仕事とはなんだ?なにをした?」

「直にわかるよ。もう少し待ってくれないか?見た方が早い。僕からもいいかい?君が呪縛陣を解いた本人だね?」

「もう因果は覆せないと。成る程、これ以上争っても無駄か。
そうだ、俺が解いた。やはりあれは呪いか。となると…ウロボロスはなにを企んでる?」

呪い、こいつがシルフィを。思わず剣を握り締めてしまう。

「さっきも言ったよ?そこまでは話す義理がない。僕はただ面白い事がしたいだけだよ、僕はね。」

「そうか。長生きするのも考え物だな」

「あははっ!わかっちゃうんだっ!そうでもないよ!難しく考えるから疲れるんだ、気の向くまま、風の向くまま、鳥のように自由に生きればいい。世界は広いんだから」

「蛇に囚われたお前がそんな事を言えるのか?」

「蛇なんて関係ないよ。僕たちはずっと檻に囚われたままだ。
知ってるかい?檻の中で生まれた生き物は自分が囚われているなんて知らないんだ。檻の中が全てなんだよ」

そう言って左頬に手をかざすとあったはずの刺青がなくなっている。
剣を握ったまま、一挙手一投足に注意を払っていたテュールは遠い目を浮かべるロプトの横顔を見て、ようやく剣を納めた。

「やっとわかってくれたかい。僕が今さら君たちに危害を加えるつもりなんて、いや必要なんてないんだよ」

何もわかってなんかない。ただ余りにも無邪気で毒気が抜かれただけだ。

「いつ気が変わるとも思えない。お前を信用したわけじゃない」

「うんうん!当然だよ!君も誰かを信じてはいけない!
やっぱりいいねぇ…テュールちゃんはまだまだ可愛いし、ウォーデン君も面白い。気に入ったよっ」

「テュールちゃん……?」

悪寒を感じ、剣を抜き放つテュール。ロプトが怪しい目つきでこちらを見つめている。
こいつやっぱやばい奴だ!!!

ケタケタと笑うロプト。怯えるテュールもまた気に入ってしまったようだ。
だが短剣を見るとまた遠い目を浮かべた。

「その剣の悪魔はいないのかい?」

「アゾットの事か?なんでそんな事まで知ってる?」

「剣の…そうか――は伝わらないのか。つくづく腐っている……」

初めてロプトが怒りを露わにする。

「…?お前はさっきから何を言ってる?何を知ってるんだ?」

「……うーん。今はまだ教えられそうにないなぁ、もう二つ三つ上に上がってからね。ウォーデン君はもういけると思うんだけどね」

「そんなつもりはない。分別はわきまえているさ。それよりウォーデンでいい、というよりもそう呼べロプト。これでも40越えてるんだ」

「その若さで!まさしく天才だね。いや、根源に……そうか。断言するよ。君は必ず行く、上の世界にね。その時は僕も力を貸すよ、ウォーデン」

「…お前は天か?地か?」

「元々は天だよ。でも今は違う」

「そうか。ウロボロスの目的がそこにあるのなら、それしかないかもしれんな」

ニヤリと笑いあう二人。
もうなんか意味わかんない…頭痛い……

俺が二人の世界に入れず頭を抱えていると剣が鳴きだし、大地が揺れた。



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