英雄の終わりと召喚士の始まり

珈琲屋さん

1-19 山の主




ようやく山頂近辺の拓けた場所に辿り着いた…
ウルが座り込んでいる。その横で倒れ込む一つの人影。俺だ。


「全部で銀貨28枚、だな。お前、なんのために雇ったか分かっているのか?」

息を切らし立ち上がれない俺に容赦なくこの男は言い放つ。その横ではアゾットが満足そうに微笑んでいる。
周りには100匹以上の魔物の屍が山積みになっていた。

こいつら…!わざと魔物の多いとこ選びやがった……!

確かに山道の方が距離は近かったのだろう。だが群れで待ち構える魔物の群れが容赦なく俺たちを襲った。
余りの物量差に陣形も意味を成さない…結局、身体強化とウニスケへの魔力供給の強弱。ウル・アゾットとの連携、目まぐるしく変わる戦況に俺の脳はフルに酷使され、余力を残す余裕もなくひたすら暴れ続けようやく襲撃は治まり、現在に至る。

うにぃ…

弱々しい鳴き声が俺の上から聞こえてくる…
心配してくれてるのか…俺の味方はお前だけだウニスケ…だから一旦降りてくれ。そこ怪我してるんだ……

「魔力の回復はまだかかるか…しょうがない。少し火口を覗いてくるからここで休んでろ」

そういって精霊光が起きると、でっかい鳥が現れる。ガルーダ……ウォーデンさんの召喚獣だったのか。
騎乗するとすぐに山頂へと飛び立っていった。

すげぇな、召喚士。不便な面は多いが、長所を生かせば十全以上に戦える。俺もいつか…
っていうか最初からガルーダでいけばよかったんじゃないの?
モヤモヤした気持ちが沸々と沸き上がるが、今さらどうしようもない。
とにかく、休もう。

「ウル、よくやったな。まじで助かったよ」

この幼女は本当に見かけによらず大した強さだ。目立つことはなくても確実な援護と立ち回りを演じて見せた。ウルがいなかったらもっと悲惨な目に合っていただろう。
すると目にいっぱいの涙を浮かべたウルが、溜まっていたものを吐き出すように俺にぶちまける。

「鬼なのーっ!あれは人間じゃないのー!やっぱり悪い人だったのーっ!!
あんな近くに魔物がいて棒立ちだったのー!なのに無傷で…!危害がある時だけ動いてー!頭おかしいのーっ!」

…ウルの心からの叫びが胸に痛い……
ごめんな、巻き込んで。そういう人なんだ、あの人。

「まぁ本当にやばい時は助けてくれるからさ、ただ本当にぎりぎりまで追い込んでくるってだけで……」

「ぎりぎりすぎるのー!お兄さんいつか死んじゃうの―…」

「そうならないように戦ってるんだよ。力がなければ奪われる…だから強くならないと駄目なんだ」

今の俺は弱い…そこら辺の奴にやられる気はしないが、それでも俺より強い奴らなんてゴロゴロいる。
もっと強くならないと……そしてあいつらに……

暗い思考を浮かべる俺を、ウルは何も言わず見つめ続けていた。



――――


「戻ったぞ、予想通りだ。少し山を下れば洞窟がある、そこまで行くぞ」

「予想通りって……着いてからか。わかりましたよっ。魔力はもう大丈夫。ウルもいいか?」

なにも語る気がないのは目を見れば分かった。ここで無駄なやり取りをするよりも早く行った方がいい。
また魔物の群れに遭遇しても面倒だ。

「いつでもいいのー!」

「さっさと行くぞ。急いだ方がよさそうだ、ここからは俺もやる」

そういって大剣を肩に担ぎ、ガルーダを送還すると山を下っていくウォーデンさん。

後に着いていくが、急いだ方がいい、か。何が起きてるか知らないが大事になりませんように…


――


洞窟はすぐに見つかった。5人は並んで入れるような大きさの洞窟だ。
なんとか槍は振れるか…真っ暗な洞窟の先を見つめながら、いざという時に備えておく。

ウォーデンさんが光の球を浮かべると俺もウルも同じように球を浮かべる。

生活魔法ライト。

光で照らすだけの魔法だ。
召喚士だからといって丸っきり魔法が使えない訳ではない。
これくらいの魔法なら俺でも出来る…二人よりも一回り小さな球ではあるが……くそ。


洞窟を進むと、次第に空気が熱を帯びてくるのがわかる。
火口に繋がっているのだろう。
現れる魔物も火蜥蜴や、フレイムウィスプ…火の力を持つ奴が増えてきた。


「精霊様ー…?」

ウルが何かに気付いたように呟く。

「そうだ。ニョルズの山はもともと活火山。この山の主が力を蓄える為に休火山となっていたが、異常が起きたようだ」

「異常って?」

「恐らくこの土地に不適合だったのだろう。力の強い精霊を山の主になれるよう置いてきたが本質が違ったようだ」

置いてきたって……じゃああんたの仕業ってことじゃないのか。

「俺はただこの山の主と契約して連れてっただけで、そのあと問題が起きるとまずいから代わりになる精霊を見繕ってやっただけだ。
アフターフォローまでしてやった。それ以上は管轄外だ」

「精霊様、悲しそうなのーなんとかしてあげたいのー」

用意した言い訳のような気がするが…まぁよくわからないしいいや。

「それで、俺たちはどうすればいい?」

「精霊を解き放つ。この山から出たくて暴れてるんだろう。また代わりの精霊を定着させてしばらく様子を見るしかない。
魔物が集まってるのは山の主の座を求めてだ。主が決まれば少しずつ元に戻るだろう」

そんな理由だったのか……魔物も強くなりたいんだな。

「土地に縛られた精霊を解放する方法は二つ。力づくで抜け出すか、契約するかだ。お前が召喚契約しろ」

なるほど。そんなことなら文句はない。むしろありがたい事だ。
山の主となれる精霊なら非常に強力だろう。

「素直に言う事を聞けばいいがな……この先だ」

洞窟の先、明らかに熱量の違うその空間は恐らく火口なのだろう。
真っ暗な空間に差し込む紅い光が物語っている。

近づく程に熱を増す空間はじりじりと体力を奪っていく。
こみ上げる汗を拭いながら先へ進むと、ぽっかり空いた空間と眼下では広がる溶岩が煮え滾っていた。

「あつすぎる…落ちたら終わりだよな、これ」

溶岩に呑み込まれた落石がどろどろと溶け、地獄の様相を晒し出している…

「いたぞ。あいつだ」


ウォーデンさんの示す先には、光り輝く人型の何かが炎に縛られ叫び声をあげていた。



「英雄の終わりと召喚士の始まり」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く