英雄の終わりと召喚士の始まり

珈琲屋さん

1-15 山中の魔物




「ウォーデン様でしたら今朝早くに出立なされましたよ?お客様が訪ねられたら『遅いから先に行く』と言伝を預かっております」

……やっぱりだ……先に行くってどこにだよ……
山の中捜し回れってか?
というか遅いも何も予定通り着いたのに……

「山の調査の方ですか?でしたら村を出て北にある山道を登っていけば、ようやく5合目辺りに拠点を築けたと聞いておりますよ」

5合目…結構進んでるんだな。他に当てもないし行くしかないよなぁ……

「わかりました。ありがとうございます。ちなみに山の異常については何かわかった事とかありますか?」

「いえ、特に新しい事はなにも。
ただ日に日に魔物の数が増えてきているようで、警備が少しずつ厳重になっていますね…地鳴りのような音も増えています。
村の者も不安を覚えておりますので、早く解決して頂けると助かります」

「わかりました。出来る限り早く解決出来るよう尽力します」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

そういって頭を下げる店主に背を向け宿を出る。

「ウル、ウォーデンさんは先に行ったようだ。
北の山道が拠点に通じてるみたいだから、とりあえず行こうか」

「はーい!貴女達は村の人から情報収集と警護をお願いするの〜!」

「はい!お二人ともどうかご無事で。テュール様、ウル様をお願い致します」

見かけによらずこの幼女は上の立場にあるようだ。
信頼も厚そうだし、本当に人は見かけによらない……

「あぁ、ヤバそうだったらすぐ引き返す。魔物も増えてるみたいだから皆さんも気をつけて」

「うにぃ!」

ウニスケの鳴き声を残し、山道へと向かう。



――――

――

山道といっても道なんてあるようでないようなもの。
踏み潰された木の枝が辛うじて道を成し、生い茂る木々が視界を塞ぐ。

「大体3合目ってとこか……ウル!大丈夫か!?」
 
「まだまだ余裕なの〜!…お兄さんっ!」

後ろを歩くウルが警戒の声を上げると、俺の首を落とす勢いで上から鎌が迫ってくる、と同時に剣を抜き迎撃する。

キンッ!と硬質な音が辺りに響くと、降りてきた枯れ木色の物体はすぐに羽を広げ上昇、木の枝に飛び乗る。

キラーマンティス。名前の通り殺し屋カマキリ。
新人殺しとも呼ばれ、両手の鎌を武器に藪の中や木の上から人を襲う昆虫型魔物だ。

抜いた剣を構え、威圧する。

後ろではウルが弓を構えているが、すぐに背後へと気を回す。
ゴブリンが3匹、後ろから漁夫の利を狙っているようだ。

剣を一閃し、注意を引く。
片腕の俺の方が御し易いと考えたのか、魔物の視線が俺を射抜いた。
次の瞬間、キラーマンティスは両断され地面へと落ちてくる…
枝の上ではウニスケが鋭い爪を振り抜いていた。

「まだだ」

半分にされ落ちてきたキラーマンティスの両鎌と頭を更に切り落として動かなくなるのを確かめる。

「よくやった、ウニスケ。
ただ昆虫型の魔物は特に半分にされたり頭を潰したくらいではすぐに死なない。武器を奪い四肢を落として動かなくなるまでは油断したらダメだぞ」

「うにぃ…」

「大丈夫!怪我もなかったんだ。次に活かせばいいんだよ。勝ったのには間違いないんだから」

少し落ち込んだ様子のウニスケを慰めるように頭を撫でてやる。

「ウニスケちゃんすごいです〜!あの新人殺しを簡単に倒したです〜!うにぃにあすです〜!」

そう言いながら近づいてくるウル。ハマってるのか…?
背後では矢の刺さったゴブリンが五匹事切れている。増えてた…ウルも短い時間で大した奴だな。

「ウルもありがとうな。5合目まであと半分くらいだと思うんだけど…どうする?一回休憩挟むか?」

「いいえ〜お兄さんも気付いてたみたいだし、余計なお世話だったかな〜。ウルはこのままで大丈夫だよ〜?」

「ん…じゃあとりあえず5合目まで急ぐか!ウニスケまたよろしくな!」

うにぃっ…!と鳴き声とともに木の上へ消えていく。
 

――

「ウルっ!ハーピーの群れがこっちに来る!目視で8匹!狙い打てるか?!」
「3匹までは余裕なの~!それ以上は迎え撃つしかないの~」
「了解だっ!」「うにぃっ!」

――

「しっ……オークの分隊だ…数は5匹…俺が突っ込むから援護頼むぞ!」
「任せてなの~!1匹も逃がさないの~」

――

…ズズズ…ズゥン……ズゥン……

「…地震~?」

「いや……やばいっ…!!ウル!ウニスケ!一旦引くぞっ!フォレストワームだっ!!呑まれるぞ!」

「うにぃ~!」「っ!わかったの~!急ぐの~っ!」

――――


「はぁはぁ…もうちょっとだと思うんだけどなぁ……」

「さすがに数が多いですー…」

あれからも出るわ出るわ、多種多様な魔物の数。しかも登れば登るほど厄介になってきている…
現れる魔物は倒し、時には逃げ、ようやく5合目付近に来たテュール達。

「あぁ…想像以上だな……っ!あれ、拠点じゃないか?」

テュールが示す先は谷を越えて約100メートルほど先。
木々がはげ、岩石地帯が広がっており、幾つか大きなテントのようなものと焚き火の煙も見える。

「きっとそうなの~!あそこなら魔物も少ないはずなの~!」

「よし!じゃあこの森を抜けて向こう…っ!?ウル!伏せろっ!」

さっと身を伏せるテュールに習い、身を屈めるウル。

「どうしたの~?」

「……アラクネだっ…」

「…っ!?まずいの~!拠点も近いの~…」

視線の先にある小さな小川の更に奥の茂み。
ちょうど拠点との中間あたりに青白い裸の女の姿があるが、よく見るとその下半身は蜘蛛だ。

「…お兄さんどうする〜?ウルがやろうか〜?」

矢を握り締めながら話すウル。

「そう…だな。念の為もう少しだけ近づこうか。俺も備えておく。そーっとだぞ」

…倒すこと自体は難しくない。

アラクネはB+ランクの魔物だが、本体だけなら恐らくC−ランクが妥当だろう。
一人前の冒険者でCランク扱いされるので、どちらかといえば弱いといっていい。

ただ厄介なのがその知性。
高い知能で人型の部分は人語を解することもでき、罠や魔物を支配することに長けている事が、アラクネをB+ランクまで高めているのだ。

先程から動かないのは恐らく、獲物がかかるのを待っているのだろう。
つまり罠が仕掛けられている…

「ウル…アラクネの討伐経験は?」

「…あるの〜。討伐は出来たけど、100匹以上の魔物が付いてきたの〜…」

「そうか…俺もおんなじようなものだ。緊急事態でな、怪我人は出なかったが村が一つ壊滅した」

拠点も近い。ここで逃げる訳にも見過ごす訳にもいかない…

「…ウル、この辺りから届くか?」

弓を違え構えると首を縦に振るだけで答える。
集中しているのだろう。
ウルもこれを失敗したらどうなるか、わかっているのだ。

「よし。ウルが矢を射れば、どうなるにせよ俺とウニスケが特攻する。最悪の場合はウルは拠点に向かって襲撃の危険を伝えて備えていてくれ。いいか?」

「…死ぬつもりなの?」

いつもの呑気な様子は影を潜め、獲物から目を逸らさずに真剣な声色だけを向けてくる。

「そんな訳ないだろ。生きる為に戦うんだ。それにまだやらなきゃいけない事があるんだ。俺は死ねない」

数秒の沈黙。

「…わかったの〜。お兄さんにウルの精霊術教えるの〜」

「…いいのか?」 

自分の手札を晒すという事は命にも直結する。
昨日までの味方が今日は敵になっているような時代だ。
背に腹は代えられない状況とはいえ、そこまでする義理はウルにはないはずだ。

「お兄さんを守るのがシフちゃんとの約束なの〜。その為ならなんでもするの〜」

そう言ってウルは一度構えを解くと、俺に向き直り一言、唱える。

「精霊よ〜顕現せよ〜」

不意に周囲から影が集まりその姿を包むと後にはウルの姿は一つもなかった。

『ウルの精霊は影なの〜。姿を、気配を隠してくれるの〜』

…驚いた…!確かに姿も見えなければ気配も感じれない。
ウルの居た場所に手を伸ばすと、柔らかい感触が手に当たる。確かに存在はするようだ。

「あっ…お兄さんのえっち〜。シフちゃんに言いつけるの〜」

「…ごめん。わざとじゃないんだ。言いつけるのは勘弁してください…お願いします」

見えないウルに向かって頭を下げる…はたから見れば山の中で一人で土下座しているヤバいヤツだ。
こんな所でそんなラッキースケベは要らないのに……

クスクス…と微かに笑い声が聞こえる。

本当に大した奴だ、ウルは。シフ・アースの影、忠臣か……
どこぞの変態執事にも見習わせたい。

「その状態ならもっと近づけるか?」

『この半分くらいは近づけるはずなの〜。そこから二射。頭と胴体の顔に射るから後はお兄さんの予定通りするの〜』

「よし。それじゃウルのタイミングでやっていいぞ。せっかくだから俺も一つ披露してみせよう」

『なんの合図もなくていいの〜?』

「あぁ、大丈夫だ。ここで仕留めれるなら一番いいし、任せたぞウル!」

『わかったの〜。いってくるの〜』

そういったきりウルの声はしなくなった。
恐らくこの場を離れたのだろう。

さて、俺も準備しようか。
「ウニスケ、お前は北側から回り込めるか?魔力は心配するな。もう少し多く

「うにっ!」

鳴き声を一つ上げ、アラクネとは別の方向に消えていくウニスケ。
同時にウニスケに繋がっている魔力回路に更に魔力を込める。

そして魔力回路にも魔力を流す。

こっちの準備は出来た…後はウルを待つだけだ…


静寂…


森の木々が揺れる音だけが聞こえ、鳥や動物の音は一切聞こえない…


どれほど経っただろう…

眼下に潜むアラクネを見つめ続けた…


事態は一瞬…

風を切るような音が聞こえたと共にアラクネは仰け反り、その頭部には矢が刺さっていた。


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