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英雄の終わりと召喚士の始まり

珈琲屋さん

1-13 影


――――


「そう……無理言ってごめんなさいね。ウルは悪くないわ。相手が悪かっただけ。
だってウォーデンってあのウォーデン・ヴォルトよね?
そんな人と一緒に行動していたなんて……行方を掴めない筈だわ。
だから気にしちゃダメよ?テュール様も普通じゃないんだから」

議長執務室。
ウルはテュール達を宿まで見送ってから、グリトニル南門 精霊国駐屯地へ戻り、今日の顛末をシフに包み隠さず報告していた。

「むしろ仲良くなれたならよかったわよ。王国との会談さえなければ私が行きたかったのに……」

うーん、と頭を抱える若き議長様は腕を組み、その豊かな膨らみを持ち上げ思案している。

もしも、シフ様ファンクラブの会員がいたらこぞってシャッター音が鳴り響いていただろう。
それほどまでに彼女の肢体は悩ましげで、メリハリのある体と均整の取れた顔立ち。
尚且つ誰に対しても屈託のないその人柄は多くの人を魅了している。

思い悩む姿というものでも、美女がするなら絵になるものだ。ファンクラブ会員がいればとびきり喜んでいただろう。
ただその悩みの内容は不穏であったが…

「うーん。今さら、辞めます!なんて言えないよねぇ…立場もあるし……はぁ…ミイラ取りがミイラになっちゃった気分だよ……」

溜息をつくシフ。

職務中は凛とした姿で、弱みなんてカケラも見せないのだが、今は一人の女性として素を曝け出している。
仕事も終わり、幼馴染のウルしかいないから、という事もあるのだが。

「シフちゃんはやっぱりお兄さんが好きなのー?」

「す、好きとかそんな!そんなんじゃないわよ!」

「でもシフちゃんお兄さんのお話するとき嬉しそうだよー?」

「そっ!そんな事ないわ!ウルの考え過ぎよっ!」

んーー…?と首を傾げながら、シフの顔をまじまじと覗き込むウル。
なにもやましい事なんてないはずなのに思わず目を逸らしてしまう。
すると、不意にシフは笑い、ウルの頭を撫でる。

「ふふっ。ウルはいっつもまっすぐだよね!……ん、嬉しいのは嬉しいよ?」

昔から変わらないまま、色眼鏡で見ずに接してくれる存在に胸が暖かくなる。

「ずっと探してたの。憧れの人でね?あの人に会いたくて…同じ世界を見てみたくて、軍人になったのよ。
…けど、ちょっと自由の効かない立場になっちゃったからねー…」

憂いを帯びた表情を浮かべるシフにウルは――


――立場なんて…知らない。
貴女が国を敵に回すなら、喜んでその盾になる。
私は貴女の影。
貴女の幸せの為なら、悪魔にでも魂を売ってやる……
だから――

――

ウルは剣呑な瞳を向けながら問いかける。

「…シフちゃんはどうしたいの?」

「そうだね……まずは会って話したい、かな?その為にも今できることをやるだけ、だね!
ウル、ありがとっ。引き続きテュール様と行動できる?」

先ほどまでの思い悩む姿など影もなく、健気に前に進もうと、明るさの滲ませた声音につられて思わずウルも嬉しくなる。

「ん、大丈夫ーっ!一緒にいればいいんだよねー?」

「うん!私は王国議長との技術交渉があるから、今は動けないの。だからニョルズ山には貴女が一緒に行って頂戴?精霊国としてもあの山の異常は早く解明したいわ」

「はーい!いってきまーす!」

「ちょっ…!待ちなさいっ!今から行ってどうするのよ…!明日の朝、テュール様の宿に迎えに行って。
それまでにニョルズの異常、今のうちに調べ直すわよ!」

やる気を出したこの少女は厄介だ。
妥協を許さず、納得のいくまで調べ尽くすだろう…
悲しむ姿なんて見たくなかったが、ここまで必死になられるとそれはそれで困る。
ウルも休みたいのだが…しょうがないか。

「うー…一緒に寝たかったのにー…」

ピシッと空気の凍る音が聞こえた。

「…ウル……どういうつもりかしら……?」

幼馴染で妹の様な存在とはいえ、今の発言は聞き捨てならない。なんせたった今憧れの存在だと話したばかりだ。
青筋を立てながらも冷静な口調を心懸けるシフ…少しばかり冷気が漂い始めている。

「…?」

首を傾げながらこちらを見つめ返すウルの瞳は、キラキラと一切の淀みなく正に純真。
邪な感情など欠片も写していない。
むしろ『どうゆうことー?』とばかり疑問符を浮かべている。

(他意はないのかしら…?だとしたらホントに…っ!やられた!)

ニヤリと緩む口元。


「シフちゃん、かわいいー」


からかわれている事に気付いたシフは顔を真っ赤に染め憤慨する。

「ウルーっ!早くニョルズの資料取ってきなさいっ!」

「はいはーい!すぐ行ってきますー!」

急ぎ足で出て行こうとするウルに背中を向けるシフ。

「それと…!任務中の過剰な接触は禁止ですからね!
破ったらただじゃ起きませんからね!」

「…やっぱりかわいいー」

飛んできた分厚い報告書を避けながら逃げるように去って行くウル。
シフは嘆息し、椅子に腰を下ろした。


ニョルズの異常。

精霊に合わせて魔物まで活性化していると聞いた覚えがある。
ただでさえ魔物の多い山なのに…

ましてSランク冒険者が出張ってくるのだ。

ただの魔物退治で終わるとは思えない。


――女神ノルン様。ウルを、テュール様をお守りください。





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