英雄の終わりと召喚士の始まり

珈琲屋さん

1-11悪意と敵意と幼女の涙



――はぐっ…!

一口、串焼きにかぶりつく――

――あぐっ…!

口の中に広がる濃い目のたれと焼けた肉の香りがもう一口…もう一口と俺を誘う。

「おっちゃん!!もう2本お願いっ!!」

あいよっ!毎度あり!!と威勢のいい声が帰ってきてすぐに肉の焼ける音が辺りに広がる。

宿を探していたのだが、美味そうな匂いに導かれついつい買い食いしてしまった。
しかし後悔はない。だって美味いもん。美味い物に罪はない。
銅貨を4枚渡すと何気なく屋台の店主に声をかける。

「おっちゃん、この辺でいい宿知らない?」

「おー?兄ちゃん冒険者かい?グリトニルは初めて?」

「いや初めてじゃないけど、ちょっと臨時収入があってね、一泊だしちょっと奮発しようかなって」

「なるほど。一山当てたってわけだ!景気のいいこった!
んじゃサウスイースト八番街にあるウンディーネの祝福って宿に行ってみな!
ぼちぼちいい宿だってちょこちょこ聞いた気がする!気に入らなけりゃまたそこで聞け!」

ガハハッと笑いながら串焼きをくるくる回し焼く。
行ったことないんかいっ…と思いながらも、そりゃそうか、と納得する。冒険者じゃないもんな。
まぁ当てもないし、とりあえず行ってみるか。

「わかった!おっちゃん、ありがとなっ!それとイーダフェルトって村に行きたいんだけど、
馬車ってどこから出てるか分かる?」

「イーダフェルト?あんなとこ行ってもなんもねーぞ?まぁ止めはしねぇけどよ。
教えてやりたいんだが兄ちゃんウチも商売でな…ほいっ串焼き2本おまたせっ!」

ニッと笑い、串焼きを2本差し出すおっちゃん。

ぬ…!商売上手め…!だがこの憎めない人柄。的屋の鏡だな、このおっちゃん。
うーん。うまいけど、正直そんなに串焼きばっかり食べれないんだけど…

「しょうがないなぁ……んじゃおっちゃんもう5本くれ‼その代わりうまく焼けよ、コノヤロー!」

銅貨をさらに10枚差し出して減らず口だけ残してやる。

「あっ!言いやがったな兄ちゃん!!いっつもうまいわっ!でも毎度ありな!
んでイーダフェルトだよな?もしそのウンディーネの祝福に泊まるんなら、そのまま八番街の南大通りに出れば乗合馬車の御者が客引きにいるはずだ!
たぶん11の鐘が鳴る頃には馬車が出るだろうからその前にはいけよ!」

「おー!色々助かるよ!ありがとな!」

もう焼かれていた串焼きを受け取って、お店に置かれたベンチの端っこへ腰を下ろす。

「ほらっ腹減ってるだろ?食うか?」

差し出した串焼きの先には幼女がいた。

「ウルのこと―?」

自分に指を差し、確認する幼女。

「いや他にいねーよ。腹減ってるだろ?おっちゃんに唆されて一杯買っちまったんだ。一緒に食おうぜ」

唆されてとはなんだーっ!と遠くから聞こえるおっちゃんの声に手を振って応える。
おもしろいおっちゃんだ。

「わーい、お昼食べてなかったからお腹ペコペコなんだー!お兄ちゃんいただきまーすっ!」

「いーえ、ゆっくり食べるんだぞ。で、君、名前は?」

「ウルはねーウルーっていうんだよー!」

「ん、ウルか。俺は…テュール!よろしくな!」

串焼きで乾杯する二人。
傍目には兄弟のように見えてほのぼのとした空間に見えるが、幼女の心情は落ち着かない。
まさか尾行対象から近付いてくるとは思ってなかった。
まぁ屋台のおっちゃんにも話しかけていたし人好きのする性格なんだろう。

「お兄ちゃん串焼き美味しいよーありがとー!」

串焼きを笑顔でほおばる幼女…かわいいな。
……いやいや俺はロリコンではない!断じて違う!これはあれだ!花が咲いていたら綺麗だなって思うそれと一緒だ!決して特殊性癖があるわけではない!!

「どういたしまして。で、ウルに聞きたかったんだけどさ、なんで尾けてたの??」

「……え?」

「いやギルド出てからずっと尾けてただろ?入る前もつけてたみたいだったし。
でも敵意とか悪意みたいなの?感じないからさ、なんだろうなーって思ってたんだけど、わかんねぇからもう直接聞こうと思って」

串焼きを咥えたまま固まる幼女。よく見ると次第に涙が溜まってきている。


「ぅっ…なん、で……ひっ、く…わかるの…?ひっ、く」

「ちょ、ちょっと待って!泣くのダメ!大丈夫、怒ってないよー?なんでかなって思っただけだよー?
だからとりあえず泣くのやめようねー?」

「ひっ…ぐす…泣いて…ない…もんっ。」

一日で二人、しかも尾行対象とその師匠という絶対にばれてはいけない相手に気付かれてしまい、ウルのプライドはボロボロだ。

「うーん…ごめんな。そんなつもりじゃないんだけど……ちょっと特殊なんだ俺。例えばさ…」

食べ終えた串を指でつまむと、不意に後方の路地へと投げつける…!
ぐぁっ!と小さな悲鳴が聞こえると同時、ガシャン…と大きな金属が床を叩く音が響いた。

「たぶん王国騎士だろうな、ちょっと今日絡まれちゃってさ、もう一人いるよ。通りの向かい側。左の路地の男。ちょっとここからじゃ通行人が危ないから手は出さないけどさ。
視線には敏感なんだ、俺。視線に込められた感情とか特にね……で、ウルからは敵意とかそんなのがなくてさ、なにかなーと思って気になってたんだ」


…ひっ…シフちゃんごめんなさいー。ウルはもう引退しなきゃいけないみたいですー……ぐすん…


――――――――――――

ようやく落ち着いてくれた……
今は元気になってまた串焼きに夢中になってくれている。

あれからウルについて教えてもらったのだが、なんと!
あのシフ・アースの隠密で自分がいない所で絡まれるかもしれないと護衛につけてくれたらしい。
何故そこまでしてくれるのか疑問だったが、それはウルに聞いたところで分かる訳がない。
まぁ害にならないなら別にいい。また話す機会があれば聞いてみよう。
恐らくそんな機会ないと思うが…

「ありがとな、護衛についてくれて。でももう十分だからさ、主人の所に戻っていいよ」

「だめなの~お兄さんについてるってシフちゃんに言われたの~
途中で辞めちゃったらそれこそシフちゃんに怒られるの~ちゃんと見送るの~」

「えーっ…そう言ってもなぁ…」

敵意はないとはいえ、あんまり付き纏われてもいい気はしない。

「あっ!じゃあさ、ちょっと街の案内してくれない?俺サウスイースト知らなくてさ!もうあと尾けてても仕方ないし!」

さらっと幼女の傷に塩を塗るような発言をするがテュールにはまったくもって悪気はない。 
言外に居ても意味がないと言われたようで眉を吊り上げる幼女だが、反論の余地がないのだ。
不貞腐れつつも頷き了承の意を示す。

「わかったの〜。どこか行きたい所あるの〜?」

「剣が欲しいんだ。安くて丈夫ならそれでいいかな」

「剣…?こっちなの〜着いてくるの〜」

シュタッとベンチから立ち上がると手を引き歩き出す幼女。

その様子を伺う路地の男には気付けても、屋根の上にいた一つの存在には気付かないままに、
テュールは大通りを引きずられていく――――


……路地の男が闇に消えていく理由を知らないまま……

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