英雄の終わりと召喚士の始まり

珈琲屋さん

1-4 入国審査


――――――

目前に聳え立つ城壁、城塞といっても差し支えない程の大きさを誇るグリトニルの東門。
大型魔物の襲来にも対応出来るようにと巨大かつ堅牢に造られたこの門は夜九の鐘が鳴り半刻後に閉門となる。
如何なる事情があろうとも、夜明け四の鐘が鳴るまでは開く事のない重厚な門扉。
防衛につく兵士の数も王都顔負けの数を誇る。

このような門が街の四方、東西南北と四箇所に造られ四ヶ国それぞれが各方角の門番を司っている。
ここはある種、国境線にもなるのだ、もしも魔物に落とされでもしたら合わせて他国の侵略行為が始まるかもしれない。
過剰気味な防衛も事情を鑑みれば仕方ないとも思える。
が、渦中にない人間にとってはそんなことは関係ない。
辿り着けたことは安堵すべき事なのだが、この後の門番の入国審査を思うと別の意味でため息が出る。

別に通行審査といっても初めて訪れる街ではない。
行商の荷物検査があるわけでもなく、ギルドにも所属しているので身分の保証もある。
身分証明さえ済めば、すぐに通ることは出来る……のだがこの男の表情は優れない。

「次の方どうぞ」

フルプレートメイルの騎士がそう声をかけ、いよいよ男の順番となった。
始まる前から辟易とした気持ちになりつつも、魔力を流し、薄く青色に光らせたギルドカードを提出する。

ギルドカードは偽造対策により本人の魔力を流さなければ持ち主の名前、所属ギルドなど身分を証明する文字が浮かび上がらないようになっている。
死亡した時には真っ黒に変わり、生存確認にも使われるのだが、今はそんなこと関係ない。


「待たせてすまない。冒険者だね。依頼の帰りかな?薄い青…Dランクに昇格したばかりか。
無事に帰れたようでなにより……だ。」

初めは穏やかな営業スマイルを浮かべていた騎士の目が、今や剣呑な怪しい光を孕んだ目に変わり、射殺すような視線を向けてくる。

残念……無事に街に辿り着けたまでは良かったのに、まだまだ厄介事は続くようだ。

「さて、一つ伺いたいのだが…君の名前はテュール・セイズ、彼の有名な裏切りの英雄様で間違いないね?」

最初から魔力を流した状態で渡しているのが分かっているくせに、こんな事改めて問いかける必要なんてない。
ただ周囲に知らせて自分が優位に立ちたかっただけだろう…イライラする…

わざわざ答えてやるのも億劫だ。
無言でカードを奪い取り改めて魔力を流してみせる。薄く青色に光ったカードは変わらない。しいて言うなら光が少し強まっただろうか?

感情に等しく魔力も昂ぶるようだ。
この後の展開も予想がつく…どうせ……

「……テュール…セイズっ…‼︎この裏切者がっっ!!」


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