転移してのんびり異世界ライフを楽しみます。

深谷シロ

24ページ目「されど僕は光に誘われる」

 一言で言うと僕達は歓迎された。既に情報が回っていたらしい。王女様がいないことについて、誤魔化しつつ後でくると報告しておいた。

 勿論これは嘘である事もあるし本当の事もある。

 相手を信用させる時は嘘に事実を混ぜる。これ大事。

 という事で僕は今コワウルヌの領主の前にいるんです。

「えっと……。」

 僕は領主の手前緊張していた。僕は転生前にも転生後にもこのような面会や面接などと言った類のものに経験がない。初めてだから当然緊張する、と言う訳だ。

「緊張しなくてもよろしい。私はこのコワウルヌの領主をしている。ようこそおいでなさったコワウルヌへ。王女様はハーメリアルで起こったトラブルの処理に追われているそうだね。」

「……はい。ですがあくまでも公式では王女様共々こちらに来ていることになっております。めすのでハーメリアルの領主には伝えないようにして下さい。」

「分かった。それとお前達に街の者から宴会の支度が整ったと話がきた。どうするか?」

 僕はそのままリルとエレナに尋ねた。リルとエレナはどちらでも良いようだ。

「では、有り難く参加させて頂きます。その宴会はどちらで?」

「この家を出れば少年が案内してくれる筈だ。王女様が来るまででもゆっくりしていってくれ。」

 僕達は領主に甘えることにした。領主とその後にたわいの無い話を少しばかりすると、別れを告げて、領主の家から出た。

「タクト様……ですか?」

 領主が言った通り少年が話し掛けてきた。

「あっ、はい。そうです。」

 そう僕が答えると少年の顔が目に見えて分かるほどに明るくなった。

「じゃあ、こちらですっ!!」

 その少年は元気よく案内を始めた。子供は元気な方が良いよね。子供が案内するのだから当然、酒場などでは無い。大衆食堂のような場所だった。

 そこには様々な料理が並び、およそ100人ぐらいの人々が楽しく話しながら食べていた。無論、その全員が森人エルフ族である。

 僕達がその大衆食堂に入ると、中で食べていた森人エルフ族全員がこちらを見た。そして一気に騒がしくなる。何故か殆どが僕達に対する歓声だ。

 一体、僕達は何をしてあげたのだろうか?

 僕が必死にその答えを探している間に例の少年は皆の前に立っていた。

「みんな!!この人はみんなが知ってる通り様々な盗賊達を退治してくれた人だ! 」

 僕は納得した。このコワウルヌの森人エルフ族の人達が僕達を歓迎していた理由は王女様の護衛であるから。そしてもう一つが来る途中で幾人もの盗賊達を討伐したかららしい。

「勝手な事をしましたが大丈夫でしたか?」

「勝手だなんて言わないで下さい。盗賊はこの都市が前より悩まされてきた案件でした。それを瞬く間に解決して下さった皆さんには感謝しきれないほどですよ。」

 一人の男性が言った。見た目は若いが年齢はどうなのだろう?……〈情報〉スキルによると304歳らしい。さすが森人エルフ族……。

 僕達は宴会に参加した。宴会ではコワウルヌでの暮らしを聞かせてもらった。冒険者の憩いの場という名前からも分かるようにのんびりとして平和な都市であるそうだ。

 聞いていると僕もここでの暮らしが羨ましくなってしまった……。老後にでも住居をここに構えさせてくれないかな?

 宴会も終わり僕達は宿屋へ案内された。

 その宿屋は〈月森の宿〉という名だった。宿の付近にある森が月森と言い、夜になると月の光で森がうっすらと光るのだ。これには精霊が関係しているそうだ。

 僕達は明日か明後日辺りに〈妖精魔法〉の〈極致魔法〉を使う大魔法使いを尋ねる予定だ。運が良ければ〈極致魔法〉を覚えたいと思っている。

 宿屋で休んでいると外は徐々に暗くなってきた。このコワウルヌは森の中にある都市であるが、コワウルヌの都市の中央のみ木が茂っておらず、光が差し込む仕様となっている。

 陽光に照らされた森の木々は生命の美しく力強さに満ち溢れていた。今は夕方だが、夕方は夕方で美しく映える。

 コワウルヌは一部だけにしか光が差し込まないので日が暮れるまでが早い。見る見るうちに日は暮れてしまった。

「タクトー。外に行かない?」

 エレナが部屋にやって来て言った。月森がそろそろ光始める頃合いだろう。楽しみだな。

 僕とエレナはリルも誘って宿から出た。宿の裏に月森はある。僕達が宿から出た頃には外は既に真っ暗。しかし、宿の裏は微かに光っていた。あれが月森だろう。

「綺麗。」「美しいわ。」

 リルとエレナがそれぞれの感想を述べていた。どちらも感動しているようだ。この蛍が光っているような儚くて美しい光景から目を離せていない。

 個人的な感想だけどここはデートスポットだと思う。うん。また来たいな。

 僕達は自然と奥へと歩んで行った。それは必然だっのかもしれない。無意識の内に光に誘われて森の奥まで来ていた。

 森の奥には一軒の小屋が建っていた。小屋の中からは音が聞こえる。誰かが住んでいるようだ。その音は徐々に扉へと近付いてきた。

 僕達は森の光景を眺めているばかりで気付いていなかった。

「おぬしらは……」

 僕はそこで漸くその男性の存在に気付いた。その男性も口調は老人風だが顔は若く美しい。他の森人エルフ族と同じだ。

「どうしてこの小屋を見つけれた?」

「不思議と足がそちらへ向いていました。」

 僕はそう言った。

「そうか……。お主はどうやら妖精に好かれているようじゃな。」

 僕は不思議に思った。何故か僕はこの人を知っている気がした。どこかでこの人の事を聞いた事が……。

「すみませんが、あなたは大魔法使いですか?」

 エレナが尋ねた。それだ。僕が人づてに聞いた大魔法使いの特徴と全く同じだった。

「……ふむ、ワシの事を知っておるのか?そうじゃ、ワシは〈極致魔法〉を使える大魔法使いの称号を得ている存在じゃ。」

 探していた存在が目の前にいた。

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