かつての最強ゲーマーコンビはVRMMOでも最強になるようです

ノベルバユーザー203449

第32話 ある街での出来事

  《2025年10月19日 兵庫県川西市》

 人口約15万人、大阪と兵庫県の県境に位置する町。それが兵庫県川西市だ。

 俺の家から電車で1時間弱もかかる上に場合によっては2回の乗り換えを必要とするこの町には正直来たことは一度しか無かった。その時も初詣の帰りに駅の中にあるハンバーガーショップに入るためだけに来たようなものなのでこれといった用事があるわけでは無かった。

 なのでこの街にこうして目的があって降り立つのは生まれて初めてだ。

 俺と莉央が今居るのは川西能勢口駅。私鉄の乗り換え駅だけあってそれなりに大きい駅だ。

「ここが川西かあ……初めて来たけど良い町っぽいじゃない」
「まあなんつうかあれだよな、丁度良いよな。派手すぎず地味すぎずって感じで」

 個人的には駅から直結でショッピングモールに行けるのは良いと思う。ただ駅の周りにパチンコ屋が多すぎる気がするがその辺りは言わぬが花というヤツだろうか。

「まあ突っ立てる時間ももったいないしさっさと行くか」
「それもそっか。カオルさん待たせるわけには行かないし」

 俺達が今日ここに来た理由はこの間誘われたようにカオルさんとご飯に行くためだ。関西に来るとだけ聞いていたのでてっきり難波か梅田か、はたまた京都かと思ったが思わぬ所を突かれた気分だ。

 理由を聞いてみると、仲の良い知り合いから聞かされていた美味い店がこの川西にあるのだとか。それで是非とも俺達と一緒に行きたいと言うことで今回誘ってくれたらしい。

「美味い店って何の店だろうな」
「ガッツリ肉食えるなら私はそれがいい」
「相変わらず肉食かよお前」
「仕方ないじゃん。好きなんだから」

 そういえば昔から莉央は肉がとにかく好きだった。本人が太りにくい体質なもんだからガツガツ肉を食べても太ることは無かったので一緒に外食に行ったらとりあえず焼き肉食べ放題を所望するのだ。

 7年経って成長してプロゲーマーなんて肩書きを背負ってもその辺りは変わりないらしい。

「そういえばご飯で思い出した話なんだけどさ」
「うん?」
「覚えてる? 全国大会の決勝が終わったあとの運営が用意してくれた打ち上げでミッチーがずっとユウスケさんと話してたの」
「忘れるわけないだろ」

 7年前、全国大会終了後には気前の良いことに運営が打ち上げの席を用意していてくれた。

 会場は都内の大会参加者が宿泊していたホテル。どこにそんな金があるんだというようなかなり豪勢な食事が用意されていたのは未だに忘れない。なんせ後ろの方の小さなスペースとはいえ、新聞に載ったくらいだ。

 まあそういった積み重ねがABの注目度を上げていき、今では世界最大級のコンテンツとなっているので無駄な出費では無かったのだろう。

 さてそんな記念すべき場所で俺が何をしていたかだが、ずっとユウスケさんとABの話をしていたのだ。

 決勝戦の話はもちろん、それ以前の過去3回の大会のユウスケさんの話を聞き出そうとしたり、挙げ句の果てにはもう一度対戦しようとせがんでいた。

 もちろん今想い返してみれば決勝で負かした相手に無礼を働きまくるどうしようも無いクソガキだったわけだがあの日の俺にとっては4大会という時間を積み上げたユウスケというプレイヤーは憧れの対象に他ならなかったのだ。

 確かに莉央が居なければこの世界に足を踏み入れていなかったであろう俺だが、そんな半端ものの俺をも引きつける魅力があの人にはあった。

「でも今考えても凄い人だったよな。誰に対しても敬意を払って、負けても取り乱すことは無かったし。あと常に優しいし」
「そうそう。今だから言えるけど私会場で迷子になったところをあの人に連れて行ってもらったのよね」
「ごめんそれ知ってる」
「うそぉ!?」

 大会控え室にユウスケさんと手をつないで半泣きの莉央が入ってきた逸話は関係者の間ではあまりにも有名だ。皆武士の情けというヤツで誰にも言わなかったのだが、多分誰一人忘れることは無い事件だろう。

「でも正直信じられないわ。あの通り魔みたいなカナがユウスケさんの妹ってのが」
「そりゃ俺もそうだけどさ。兄妹で似てなさ過ぎるって言うか」

 というか今のところ兄妹っぽい要素がプレイスタイルくらいしか見つかっていない。

 いや、そもそもの話、話題には上がり続けているものの実際にあったのはあの8月の日本橋が最初で最後だ。そこまで交流も無いのであれこれ決めつけるのは良くないことだ。

「そういや、次の予選はオフラインなんだろ? ってことはその時にはまた莉央と顔を合わせることになるんだよな」
「そうそう。今回の会場は大阪の南港ホールね」
「よくイベントとかやってる場所か」

 南港ホールはその名の通り大阪の南港にある展示場で、見本市やイベントなんかもよく開かれている。大規模の同人即売会なんかも行われているし、デジタルカードゲームの西日本予選の会場なんかも開かれている。

 ちなみに7年前の関西予選は京都の河原町で行われた。俺の家からすると終点から終点への移動だったのでとにかく疲れたことは覚えている。

「カナとの二度目の対面は南港かあ」
「でも関西住み同士、たまたま街中でばったり会ったりしてね」
「流石に無いだろ。関西って一言で言っても広いんだし。それに淡路島在住とかだったらぜってえ街中でばったりとかはねえよ」
「そりゃそうだ」

 そう言って俺達は馬鹿笑い。さすがにあり得ない話なものだから冗談にもなっていない気もするがまあそこはそれ。高校生の話なんて8割は無意味だ。

 と、そんな無意味な話をしているときに俺は歩いていた人に肩をぶつけてしまった。そしてぶつけられた人はそのまま倒れてしまう。

「あ、大丈夫ですか!」

 俺はすぐに手を差し出す。今のは前を見ていなかった俺が圧倒的に悪い。なのでもめても俺が悪いから仕方ないと思っていたのだが――問題はそれ以前のものだった。

「――――《MAX》?」
「――――《カナ》?」

 そこに倒れ込んでいたのは紛れもなく、ボーイッシュな格好に身を包んだカナだった。

 カナは訳が分からないような顔をして俺をじっと見てくる。そしてワケが分かっていないのは俺も同じ。

 困惑の嵐が渦巻く中で莉央だけがただ狂ったように爆笑していた。

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