かつての最強ゲーマーコンビはVRMMOでも最強になるようです

ノベルバユーザー203449

第28話 今、決戦の舞台へ

《2025年9月21日 9:31 サウサル港》

 世界の中心にゲーム開始時より存在している大都会、セントラルエリア。そこから海に突き当たるところまで行ったところにその町は存在する。

 《ABVR》きってのリゾートエリア。自宅に居ながらリアル顔負けの海水浴が楽しめるがキャッチフレーズの超人気スポット。その名もサウサル港だ。
 リアルでは海水浴のシーズンを過ぎた9月だが、この近辺は南国のような気温になっているのでこの時期でもまだまだ海に入ることは出来る。今日も浜辺を見てみれば多くの人たちが遊んでいた。

「はえー初めて来たけどすごいもんね。夏の白浜とタメ張れるくらいの人の数じゃん」

 汽車を降りた莉央は辺りを見渡しながらそう呟いた。

「まあここには観光目的の人間も多いからな。ほら、浜辺に居るのは殆どがレベル1だ」

 世界初の家庭用フルダイブシステムVRゲームである《ABVR》には、クエストもせず、対戦もせず、果ては生産もしないプレイヤーが結構な数存在する。彼等の目的はVRを利用した観光だ。
 ABVRにはフダリオ山のような雪山もあればサウサル港のような海辺の街もある。他にも天然温泉や森林浴にうってつけの森があったりと自然を堪能するには充分過ぎるほどのものが揃っている。そして仮想現実の世界にある以上、自宅からゲーミングゴーグルを使用すればすぐにやってくることができる。
 一説にはABの売り上げを支えているのはそういう観光目的にゲームをプレイする者達と言われている。この景色を見ているとそれも冗談とは笑い飛ばせない。

「うーん、今日は試合終わった後に海で泳ぐのもありかな? いやそれだと明日に疲れが残りかねないからなあ。迷うなあ……」
「何だよ? もしかしてここは初めてか?」
「うん。だって用事無かったし」
「だよなあ……」

 どうやら根っからの対人勢である莉央にはこれまで縁は無かったようだ。かく言う俺も一度ここに来たときはボス攻略に参加するための移動中に少し立ち寄ったくらいで、ここでガッツリ遊ぶようなことはしていない。

 そして今回も俺達はこの場所に遊びに来たわけでは無かった。その目的はこのサウサル港にある駅から歩いて20分ほどの場所にあるアリーナ。そう、今回の地区予選の会場だ。 事前に莉央から説明していたとおり、このオンライン地区予選では全て仮想現実が会場となる。自宅やネカフェなどからゲームにログインして、仮想現実の中を移動。そして各ブロックごとに指定された会場に赴き、そこで試合を行うのだ。

 俺達が出場する関西ブロックの会場がこのサウサル港にあるアリーナというわけだ。

「うーんやっぱりいいなあ、この大会前の緊張感ってやつは! なんかこう身が引き締まるというかさ」
「お前でも多少なりとも緊張するんだな」
「そりゃ私はプロなワケだからまさに一試合ごとに命をかけなきゃいけないし。それに試合内容も結構見られちゃうからこれがまあ大変で」
「何よ。そんなプレイしてプロとして恥ずかしく無いのかよとか言われるの?」
「言われる言われる。一回あったのがクイーンが相手の煽りにぶち切れてマウント取ってからコマンド連発してボッコボコにした事件。あれの反響は凄かったよ」
「うわあ怖い」

 大会前だというのに俺達は随分とリラックスしていた。納得のいく事前準備ができたおかげか、はたまた大昔の話でも一度は優勝を経験しているからか。ともかく、精神状態としては最高と言っても過言では無い。

 ただし、このアリーナに向かう道の途中でこんな雑談をしているのは俺達くらいのもので、殆どのプレイヤーがピリついた空気を醸し出している。そしてその誰もが俺達の顔を見据えていた。

「プロゲーマーのLIOだ……」
「隣に居るのはクイーンを倒したミツルとかいう奴だぜ」
「あの2人だ組んでるってのは本当だったんだな」

 しかもこうして噂になっているというのだから始末が付かない。けれどあまり気にしたって仕方が無いだろう。まだ勝負は始まってすらいないのだから。

「やっぱり一日目は人が多いなあ。これも後半になるに連れて減っていくんだろうけど」
「そうなのか?」
「次のステージに上がれる見込みが無くなってくるとどうしても途中から試合をやめちゃう人って出てくるのよ。一勝ごとに商品がもらえる訳でも無いから余計にね」
「そうはなりたくないよな。上に上がれなかったら積み上げた勝ちも無駄になるわけだし」
「そう。まあ目標は全戦全勝だからね。一試合も落とさないようにがんばろ」
「そりゃもちろん」

 俺達のこんな会話にも周りに居る人間は聞き耳を立てており、一語一句に一喜一憂されている様はまるで不祥事をやらかしたあとの政治家のようだ。
 そしてここまで注目されているということは戦いの上でも対策を施されていると見ても良いだろう。にも関わらず負ける気がしないのはきっと、ここまで調整を手伝ってくれた人たちがこの世界でもトップクラスの人材ばかりだからだろう。そしてもう一度莉央とコンビを組めたことは正直嬉しかった。

「本当に恵まれてるよなあ、俺」
「ん? 何か言った?」
「言ってねえよ」

 思わず漏れたつぶやきをどうにかして誤魔化す。そりゃ照れくさいモノは照れくさいのだ。そりゃいつかは声に出して言うが、それはもっと先にするべきことだ。それこそ、全てが終わった後とか。

 そうやって喋りながら歩いている内に見えてきたのは大きな建造物。試合会場となるアリーナだ。
 まだ試合開始時間前なのでアリーナの前には人だかりが出来ている。まるで祝日の遊園地のようである。

「あれだな」
「うん。良い感じに盛り上がってるじゃ無いの」

 今か今かとその瞬間を待つ人々の放つ熱気はすさまじい。今日は日曜日なのでこんな時間でもログインできる人は多いはずだ。
 試合開始時間は午前10時。時計を確認すると、時間まであと10分を切っている。

「選手の皆様、大変お待たせしております! 開場までもう少しだけお待ちください!」

 そう言いながら出てきたのはGMアカウント、つまりは運営側の人間だ。事前に集めた情報によれば大会期間中はアクティブのGMアカウントをアルバイト含め増員し、彼等を大会運営スタッフとして、審判やこのような会場周辺の管理を行うらしい。

「事前にお伝えしていたように、大会期間中はアリーナの入り口と控え室を直結させているため、ロビーに入ることは出来ません! またマッチングが完了次第すぐにバトルフィールドに転移するよう設定してあるのでそちらでの待機時間も大変短くなっております! ですのでルールの最終確認等はこちらで行ってから入場ください! なお観戦希望の方はここから見て裏側に観客用出入り口を設けているのでそちらからお願いします!」

 これらは全て混雑を避けるための仕様だろう。事前にネット上で受付は完了しているのでわざわざいつものようにロビーでの受付は確かに不要。というかそうすると外に居る人間が全員流れ込んで人の勢いだけで何人かPKされてしまいそうだ。そのため今回の運営の判断は正しいと言える。

 あとアリーナは見た目ではバトルフィールドは一つだけに見えるが、実際は内部に無数とも言える数のフィールドを内包している。メモリさえあれば無限にマップを拡大できるVRの利点だろう。そういう都合もあって一次予選はどれだけ多くの人間が参加しても対応できるオンライン予選にしたのだという。

 現実の会場だと収容人数の都合があるのでこの一次予選でも多くの会場を必要とするだろう。もしくは抽選になる可能性もあるので参加者にも運営側にも嬉しい仕様だと言える。

「参加者は関西だけでもざっと2000人越えの見込み、その中で64人に入れなければ次へは進めない。決して楽な道のりじゃないわよ」
「それくらいのハードルの方が燃えてくるとか言うくせに」

 お互いに少しだけ意地の悪い笑顔を浮かべて、コツンと拳をぶつけ合う。カナと戦う前にもやったが、今回こそは絶対に負けない。その強い意志を拳に込める。

「大変長らくお待たせいたしました! ただ今より、2025年度、第20回アルテマブレイバーズ全国大会、地区オフライン予選を開始します!」

 そして時は来た。
 運営の声を戦いののろし代わりにして、押し出されるようにして一斉に会場へと入っていく選手達。俺と莉央もそれに続く。
 別に早く会場入りしたって分かりやすい特典は無いが、それでもこのはやる気持ちは自分でも抑えきれない。それほどまでの戦いたいという気持ちがこの場には充満している。

 アリーナの中に入れば運営の注意通りに即刻控え室に入れられ、間髪入れずにバトルフィールドに転送される。今はきっと参加者の半分以上はアリーナに入り込んでいる筈だ。マッチングも即座に終わる。

 そうして俺達はバトルフィールドに転送された。これから対戦することになる相手も一緒にだ。
 目の前に立っているのは筋骨隆々な男の2人組。手に持っている武器は2人とも大剣だ。

「当然といえば当然だけど、いきなりカナと当たったりはしないか」
「そこまでの豪運は無いでしょ。まあ気にしなくても良いんじゃない? 勝ち続けたらいつかは当たるんだし」

 その莉央の発言に対戦相手はあからさまなまでの殺気を放っている。確かに俺達が対戦を始める前から、勝利の先を見ているとなればプライドを刺激されたとしてもおかしく無い。怒りに震えてもおかしく無い。

「でも、それでも俺はこんなところで立ち止まってなんかいられない」

 ガンブレードを構えて、視界に映り込んだリザーブのコマンドを確認する。
 悪くは無い組み合わせ。勝機は十二分にある。

「さあおっぱじめようか!」

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