かつての最強ゲーマーコンビはVRMMOでも最強になるようです
第26話 委員長は見た
《8月26日 06:51 大阪 莉央の家》
莉央の家で一泊してデッキを組み続けた次の日の朝。俺が目を覚ました頃には莉央は既に目覚めて朝食を作っていた。相変わらず朝は早いようだ。
「おはよう」
「おはよう、寝癖凄いよ? あと寝汗も結構かいてるし。朝ご飯出来るまで時間あるしシャワー浴びてきたら?」
「ありがと」
俺は莉央に言われるがままにシャワーを浴びる。温かいお湯は夏には少し息苦しさを感じるが、同時に寝ている間にかいた汗やぼんやりした思考を洗い流してくれる。
おかげで昨日頭をフル回転させていた反動で全く回らなかった頭が徐々にだが回り始めた。
「ゲームのこと考えるってあんなに楽しかったっけなあ……」
疲れはあったがとても充実した時間を過ごしたのが昨日だった。
俺が7年前の型遅れの戦術の話をしては莉央が現代風にアレンジして俺が試すという方向で作戦会議は進み、昨日だけでもプロお墨付きの強戦術がいくつも誕生することになった。
クイーン戦の前の特訓はクイーンという一人のプレイヤーにだけ的を絞った特訓だったが、今回はそうはいかない。何せこの日本に住む全てのABプレイヤーが攻略対象といっても過言では無い。広く浅くを取れるように考えることも必要になってくる。
しかも今の環境は玉石混交の出たとこ勝負。まさに混沌を極めていることが昨日の莉央との話で分かった。なればこそこちらもその全てを漏らさない勢いで研究しなければあっさりと敗北しかねない。その辺りも考えないといけないが――
「これ学校の授業頭に入るかな」
頭の中を無限に飛び交うABに関するデータ。それは俺の意思と関係なく脳内でぶつかり暴れ狂う。ようは脳神経が全てABに使われているのだ。小さい頃も良くあったことだが今そうなると少し困ったことになる。
他のことが一切頭に入らなくなるのだ。学校の授業にしたって、簡単な日常会話にしたって、明日の予定にしたってそうだ。酷いときなんて5分前に食べたご飯の献立さえも忘れている。小学生ならバカにされる程度で済むが高校生だととんでもない悪印象を持たれかねない。つまり相当マズい状況に置かれているワケだ。強い刺激があればこの状態からも抜け出せるのだが――
「ミッチーシャワー長過ぎー。光熱費考えてー」
こうして考え込んでいる間にも時間と水を浪費していたようで莉央の声と脱衣所の扉を叩く音が響く。とまあこのように生活に支障が出てしまうのだ。
子供の頃はお化け屋敷やらホラー映画を刺激として抜け出していたのだが今ではそれらにも慣れてしまっている。効果はあまり期待できない。
「とりあえず出てから考えよう」
永遠に思考がループしかねないのでこういうときは無理にでも行動するに限る。もちろん極力ABのことを考えないようにしつつだ。
家から持ってきていた制服に袖を通してリビングへ。そこには莉央が作った朝食が並んでいた。ちなみに今日の献立はどちらかといえば洋食寄りのラインナップ。ベーコンエッグという食べ物の放つ魔力がとんでもねえ。
「食べていい?」
「尻尾があったら振りそうな顔してるわよ。もちろん良いけど」
「いただきます!」
かなり失礼なことを言われた気がするがこちとら花より団子の男子高校生。美味そうな飯があればがっつくのがこの世の道理である。自分でも何言ってんだよとは思うが。
そんな勢いのままに朝食を食べる俺を見ながら莉央も朝食に手をつけ始めた。
「ところで昨日は眠れた?」
「それはもう快眠。てか客室まで用意してるのは驚いたわ……」
「一応トレーニングルームと兼用なんだけどね。ただイベントとかでチームメイトが関西に来るってなったときの宿になれば良いなと思って。関東組はよく地方の大会とかイベントに駈り出されるのよ。実況とか解説で」
「自分が出ないからってことか?」
「そうそう。逆もまた然りで地方の選手は東京によく呼ばれてたりするわね」
ということはクイーンやハノなんかもこちらに来たりするのだろうか。何となくあの二人とはリアルで会っておきたいような気がする。まあ全国まで勝ち進むことが出来れば出会うのは出会うのだが、どうせならもう少し気楽に話せる場で先に会っておきたいものだ。
「つかこんな広い家一人暮らしじゃ持て余さねえの?」
「色々と必要なモノが多いもんだから意外と持て余さないのよね。これが一人暮らし向けワンルームとかだったら足の踏み場が無くなる……」
「なるほど……」
多分まともに家としての体裁を保とうと思えばこれくらい広くないと不可能なんだろう。その瞳には苦悩の色がありありと浮かんでいる。俺には想像も出来ない苦悩というのが少し複雑な気分になるが。
「あ、今日学校終わったらABVRで集合ね。場所はエクシードマウンテンで。今日はみっちり鍛え直すからそのつもりで。VRフィードバックも大会までには克服して欲しいし。それにクイーンも今日は空いてるみたいだからせっかくだし何試合か練習試合やりたいしね」
「了解。今日もここに来た方が良いのか?」
「自宅でお願い。今日の夜はガッツリ筋トレとかしたいから誰かを泊めるのはちょっとね」
そう言われて無理矢理人の家に押しかけるほどの人間にはなれないのが俺だ。というかここで『俺は構わないけど?』なんて言えば俺の行き先はもれなく法廷か警察、もしくはその両方だ。ここは紳士になって黙っておこう。
そんな決意をしたせいか俺は余計な口を滑らせないようにとすっかり無口になってしまいその後は静かに飯を食べて静かに片付けて静かに学校へ行こうと玄関を出た。俺がいつも家を出る時間と比べれば結構早いのだが、莉央が早く行くと言っているのをわざわざ止める理由も無く、また家主が居ない家に居座るなんてこともできるはずがないので、一緒に家を出ることに。
莉央の大阪遠征の時同様に相も変わらず何も無かったお泊まり会。しかしながら大会の準備という意味ではとても有意義な時間が過ごせたので不満は無い。そんなわけで平穏無事に終わった。
だがしかし。次なる事件の火種は思わぬ所に潜んでいた。
「あれ? 牧原君? なんでこんなところに――」
横合いから声がした。しかも聞き覚えがある、というか聞き慣れた声。
俺はゆっくりと首を回してそちらを確認する。ついでに莉央も同様に首を回した。
そして見てしまったのだ。手に持った鞄を落として狼狽する我らが学級委員長、皆城響子の姿を。
「牧原君と蘭道さん……? なんで二人が私の家の隣に? というかどうして同じ家から一緒に出てきたの? こんな朝早くに?」
俺はこのとき気付いてしまった。全国の高校生にとって朝帰りの男と女が何を表しているのか。奴らにはただの異性の友人という概念が存在していないことに。
「あの委員長? どうしてそこまで狼狽えてるの? なんか良くない勘違いしてませんか?」
思わず敬語になる俺。顔を真っ赤にして更に震える委員長。もはや第3者モードで笑いをこらえ始めた莉央。
全員が全員様子がおかしくなっている中、委員長が最も気が動転していた。
「二人ってもしかして同棲してたの?」
「いやしてない」
「じゃあ付き合ってるの?」
「付き合ってない」
「じゃあセ――」
「それは無いから!! 落ち着け皆城!!」
流石に早朝なので周囲に配慮したボリュームで叫ぶ。はたしてそれを叫び声と呼ぶかはかなり怪しかったがそれでも俺の心ははち切れんばかりに絶叫していた。ちなみにこのとき莉央は大爆笑。ここまで来ると全てがどうでも良くなってくる。いや良くないけれど。
「俺までおかしくなりそうだよクソ……!」
「じゃ、じゃあどういう関係?」
「ただの幼馴染み。ついでに言うと今日は泊まりでゲームしてただけ。やましいことは何も無いから安心して」
ここで一頻り笑い終わった莉央が鮮やかなアシスト。ここまで失点を重ねていなければ本日のMVP確定だった。
「げ、ゲーム?」
「そうそうABVRってやつ。今度ミッチーと一緒に大会出るからその作戦会議」
「大会に……二人が?」
「まあこれも何かの縁って感じでな。てか莉央の隣に住んでいるのが委員長とはな。いくらなんでも驚いたわ」
「う、うん私も驚いた」
こんな短い受け答えだったが委員長は何故か凄く動揺している様子だった。それも最初の対面を引きずっているような様子では無く、一度気持ちを切り替えた上でもう一回動揺しているようなそんな違和感。
「じゃ、じゃあ私は学校に行くから!」
「あ、ちょっと委員長!?」
委員長はどういうわけか猛ダッシュで行ってしまった。どうせなら一緒に行こうなんて言える空気でも無かったがそれでも違和感が残る行動だった。
ただ何にせよ俺がある意味求めていた、思考が吹っ飛ぶほどの大きな刺激はこうして得られた。失うモノが大きかったような気もしたがそこは目を瞑らなければやってらんない。
ただそんな落ち着きが消し飛んだ俺に対して、莉央は何かを悟った様子で俺にこう尋ねてきた。
「あの子ってABやってるの?」
「いややって無い。自分には向いてないとかで」
「フーン……」
「なんだよその真実に気付いた探偵みたいな思わせぶりな口調」
「当たらずとも遠からずってとこかしら」
「は? どういうことだよそれ」
俺へとビシッと人差し指を突き出す。そして今度は思わせぶりな笑顔を浮かべる。
「来月には全部分かるわよ。きっとね」
なんとなくムカついたが、俺はそれを口にはしなかった。莉央の言うことが正しいように思えてならなかったから。
そして現実は奇妙なことに莉央が言った通り、委員長の動揺の理由を俺は9月に知ることになったのだ。
あとこれは余談だが莉央と俺が幼馴染みなのは委員長が口を滑らせたせいでバレた。口止め忘れてたから仕方ないね。
莉央の家で一泊してデッキを組み続けた次の日の朝。俺が目を覚ました頃には莉央は既に目覚めて朝食を作っていた。相変わらず朝は早いようだ。
「おはよう」
「おはよう、寝癖凄いよ? あと寝汗も結構かいてるし。朝ご飯出来るまで時間あるしシャワー浴びてきたら?」
「ありがと」
俺は莉央に言われるがままにシャワーを浴びる。温かいお湯は夏には少し息苦しさを感じるが、同時に寝ている間にかいた汗やぼんやりした思考を洗い流してくれる。
おかげで昨日頭をフル回転させていた反動で全く回らなかった頭が徐々にだが回り始めた。
「ゲームのこと考えるってあんなに楽しかったっけなあ……」
疲れはあったがとても充実した時間を過ごしたのが昨日だった。
俺が7年前の型遅れの戦術の話をしては莉央が現代風にアレンジして俺が試すという方向で作戦会議は進み、昨日だけでもプロお墨付きの強戦術がいくつも誕生することになった。
クイーン戦の前の特訓はクイーンという一人のプレイヤーにだけ的を絞った特訓だったが、今回はそうはいかない。何せこの日本に住む全てのABプレイヤーが攻略対象といっても過言では無い。広く浅くを取れるように考えることも必要になってくる。
しかも今の環境は玉石混交の出たとこ勝負。まさに混沌を極めていることが昨日の莉央との話で分かった。なればこそこちらもその全てを漏らさない勢いで研究しなければあっさりと敗北しかねない。その辺りも考えないといけないが――
「これ学校の授業頭に入るかな」
頭の中を無限に飛び交うABに関するデータ。それは俺の意思と関係なく脳内でぶつかり暴れ狂う。ようは脳神経が全てABに使われているのだ。小さい頃も良くあったことだが今そうなると少し困ったことになる。
他のことが一切頭に入らなくなるのだ。学校の授業にしたって、簡単な日常会話にしたって、明日の予定にしたってそうだ。酷いときなんて5分前に食べたご飯の献立さえも忘れている。小学生ならバカにされる程度で済むが高校生だととんでもない悪印象を持たれかねない。つまり相当マズい状況に置かれているワケだ。強い刺激があればこの状態からも抜け出せるのだが――
「ミッチーシャワー長過ぎー。光熱費考えてー」
こうして考え込んでいる間にも時間と水を浪費していたようで莉央の声と脱衣所の扉を叩く音が響く。とまあこのように生活に支障が出てしまうのだ。
子供の頃はお化け屋敷やらホラー映画を刺激として抜け出していたのだが今ではそれらにも慣れてしまっている。効果はあまり期待できない。
「とりあえず出てから考えよう」
永遠に思考がループしかねないのでこういうときは無理にでも行動するに限る。もちろん極力ABのことを考えないようにしつつだ。
家から持ってきていた制服に袖を通してリビングへ。そこには莉央が作った朝食が並んでいた。ちなみに今日の献立はどちらかといえば洋食寄りのラインナップ。ベーコンエッグという食べ物の放つ魔力がとんでもねえ。
「食べていい?」
「尻尾があったら振りそうな顔してるわよ。もちろん良いけど」
「いただきます!」
かなり失礼なことを言われた気がするがこちとら花より団子の男子高校生。美味そうな飯があればがっつくのがこの世の道理である。自分でも何言ってんだよとは思うが。
そんな勢いのままに朝食を食べる俺を見ながら莉央も朝食に手をつけ始めた。
「ところで昨日は眠れた?」
「それはもう快眠。てか客室まで用意してるのは驚いたわ……」
「一応トレーニングルームと兼用なんだけどね。ただイベントとかでチームメイトが関西に来るってなったときの宿になれば良いなと思って。関東組はよく地方の大会とかイベントに駈り出されるのよ。実況とか解説で」
「自分が出ないからってことか?」
「そうそう。逆もまた然りで地方の選手は東京によく呼ばれてたりするわね」
ということはクイーンやハノなんかもこちらに来たりするのだろうか。何となくあの二人とはリアルで会っておきたいような気がする。まあ全国まで勝ち進むことが出来れば出会うのは出会うのだが、どうせならもう少し気楽に話せる場で先に会っておきたいものだ。
「つかこんな広い家一人暮らしじゃ持て余さねえの?」
「色々と必要なモノが多いもんだから意外と持て余さないのよね。これが一人暮らし向けワンルームとかだったら足の踏み場が無くなる……」
「なるほど……」
多分まともに家としての体裁を保とうと思えばこれくらい広くないと不可能なんだろう。その瞳には苦悩の色がありありと浮かんでいる。俺には想像も出来ない苦悩というのが少し複雑な気分になるが。
「あ、今日学校終わったらABVRで集合ね。場所はエクシードマウンテンで。今日はみっちり鍛え直すからそのつもりで。VRフィードバックも大会までには克服して欲しいし。それにクイーンも今日は空いてるみたいだからせっかくだし何試合か練習試合やりたいしね」
「了解。今日もここに来た方が良いのか?」
「自宅でお願い。今日の夜はガッツリ筋トレとかしたいから誰かを泊めるのはちょっとね」
そう言われて無理矢理人の家に押しかけるほどの人間にはなれないのが俺だ。というかここで『俺は構わないけど?』なんて言えば俺の行き先はもれなく法廷か警察、もしくはその両方だ。ここは紳士になって黙っておこう。
そんな決意をしたせいか俺は余計な口を滑らせないようにとすっかり無口になってしまいその後は静かに飯を食べて静かに片付けて静かに学校へ行こうと玄関を出た。俺がいつも家を出る時間と比べれば結構早いのだが、莉央が早く行くと言っているのをわざわざ止める理由も無く、また家主が居ない家に居座るなんてこともできるはずがないので、一緒に家を出ることに。
莉央の大阪遠征の時同様に相も変わらず何も無かったお泊まり会。しかしながら大会の準備という意味ではとても有意義な時間が過ごせたので不満は無い。そんなわけで平穏無事に終わった。
だがしかし。次なる事件の火種は思わぬ所に潜んでいた。
「あれ? 牧原君? なんでこんなところに――」
横合いから声がした。しかも聞き覚えがある、というか聞き慣れた声。
俺はゆっくりと首を回してそちらを確認する。ついでに莉央も同様に首を回した。
そして見てしまったのだ。手に持った鞄を落として狼狽する我らが学級委員長、皆城響子の姿を。
「牧原君と蘭道さん……? なんで二人が私の家の隣に? というかどうして同じ家から一緒に出てきたの? こんな朝早くに?」
俺はこのとき気付いてしまった。全国の高校生にとって朝帰りの男と女が何を表しているのか。奴らにはただの異性の友人という概念が存在していないことに。
「あの委員長? どうしてそこまで狼狽えてるの? なんか良くない勘違いしてませんか?」
思わず敬語になる俺。顔を真っ赤にして更に震える委員長。もはや第3者モードで笑いをこらえ始めた莉央。
全員が全員様子がおかしくなっている中、委員長が最も気が動転していた。
「二人ってもしかして同棲してたの?」
「いやしてない」
「じゃあ付き合ってるの?」
「付き合ってない」
「じゃあセ――」
「それは無いから!! 落ち着け皆城!!」
流石に早朝なので周囲に配慮したボリュームで叫ぶ。はたしてそれを叫び声と呼ぶかはかなり怪しかったがそれでも俺の心ははち切れんばかりに絶叫していた。ちなみにこのとき莉央は大爆笑。ここまで来ると全てがどうでも良くなってくる。いや良くないけれど。
「俺までおかしくなりそうだよクソ……!」
「じゃ、じゃあどういう関係?」
「ただの幼馴染み。ついでに言うと今日は泊まりでゲームしてただけ。やましいことは何も無いから安心して」
ここで一頻り笑い終わった莉央が鮮やかなアシスト。ここまで失点を重ねていなければ本日のMVP確定だった。
「げ、ゲーム?」
「そうそうABVRってやつ。今度ミッチーと一緒に大会出るからその作戦会議」
「大会に……二人が?」
「まあこれも何かの縁って感じでな。てか莉央の隣に住んでいるのが委員長とはな。いくらなんでも驚いたわ」
「う、うん私も驚いた」
こんな短い受け答えだったが委員長は何故か凄く動揺している様子だった。それも最初の対面を引きずっているような様子では無く、一度気持ちを切り替えた上でもう一回動揺しているようなそんな違和感。
「じゃ、じゃあ私は学校に行くから!」
「あ、ちょっと委員長!?」
委員長はどういうわけか猛ダッシュで行ってしまった。どうせなら一緒に行こうなんて言える空気でも無かったがそれでも違和感が残る行動だった。
ただ何にせよ俺がある意味求めていた、思考が吹っ飛ぶほどの大きな刺激はこうして得られた。失うモノが大きかったような気もしたがそこは目を瞑らなければやってらんない。
ただそんな落ち着きが消し飛んだ俺に対して、莉央は何かを悟った様子で俺にこう尋ねてきた。
「あの子ってABやってるの?」
「いややって無い。自分には向いてないとかで」
「フーン……」
「なんだよその真実に気付いた探偵みたいな思わせぶりな口調」
「当たらずとも遠からずってとこかしら」
「は? どういうことだよそれ」
俺へとビシッと人差し指を突き出す。そして今度は思わせぶりな笑顔を浮かべる。
「来月には全部分かるわよ。きっとね」
なんとなくムカついたが、俺はそれを口にはしなかった。莉央の言うことが正しいように思えてならなかったから。
そして現実は奇妙なことに莉央が言った通り、委員長の動揺の理由を俺は9月に知ることになったのだ。
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