かつての最強ゲーマーコンビはVRMMOでも最強になるようです

ノベルバユーザー203449

第4話 VSストリバ ~かつての最強、その実力~

《2025年8月13日 22:35 エクシードマウンテン第1アリーナ》

 現在俺がいるのは選手控え室。ランクマッチやフリーマッチでのマッチングを待ったり、自分キャラの装備やステータスの最終確認をするための部屋である。部屋の中にはマイルームのものと直結のアイテムストレージと休憩用の椅子とテーブル。それから他人の試合を観戦するためのモニターが置かれているだけなのでとてもシンプルだ。

 さてここで《ABVR》における戦闘システムについておさらいしよう。
 そもそもABシリーズはアクションゲームとカードゲームを融合させた戦闘システムが人気で昨今まで続いているのだ。ゆえにその戦闘システムは少々独特である。

 このゲームには武器や素手による攻撃の他に、コマンドカードを使用したアクションコマンドというものが存在している。他のRPGに例えるなら魔法や特技、スキルに相当するものだ。
 例えば≪スラッシュ≫という攻撃コマンドが存在しているのだが、その効果は威力80の斬撃を放つというもの。ここにややこしいダメージ計算式を当てはめて割り出されたものが命中したときに相手に与えるダメージとなる。

 さてこれがABシリーズの特徴とも言える点だが、このコマンドの使用にMPの消費も無いし、クールタイムというものも存在しない。代わりに1度コマンドを使用してしまえばそのバトル中、そのコマンドは使用不可になる。
 こういう説明をほとんどのプレイヤーがしてしまうので初心者は「どんな技も一回きり!? なんだそのクソゲー!」と声を荒げるのだがそういうわけでもない。

 このゲームでのコマンドはよくTCGでのカードに例えられる。というのもプレイヤーはコマンドカードをアイテムとして持っている訳だが、一度に持ち歩けるカードは合計30枚。これをプレイヤーの間ではデッキと呼ぶ。

 そしてデッキ編成の大まかなルールは3つ。
・同一カードは4枚まで
・マスターコマンドと呼ばれる強力なカードは合計3枚まで
・レジェンドコマンドと呼ばれる一発逆転も狙える超強力なカードは合計1枚まで
 このルールの意味することは何度も使いたいコマンドは4枚突っ込んでおけばバトル中に最大4回は使用できるし、逆に超限定的な局面でしか使わないコマンドは1枚に留めておけば腐りにくくなるということ。
 そして他のアクションゲームやRPGのように威力の高い技を無限に打ち続けることは不可能であることだ。
 プレイヤー達はデッキに組み込んだコマンドカードを使って戦う訳だが、その中でも一度に使えるようになっているのはランダムに選別された5枚のみ。この5枚をリザーブカードと呼ぶ。使ったカードは消滅し、代わりにデッキに残っているコマンドから1枚ずつリザーブに即座に補充される。
 対人戦の場合、一度消滅したコマンドはその対戦中には復活しない。30枚全てを使い切って、相手を倒せなかった場合、通常攻撃での戦闘を強いられることになる。
 これが対人戦以外だと30枚全て使い切ったあと、3分のインターバルの後デッキのコマンド全てが復活する。

 ちなみに余談だがそのバトル中に消滅したコマンドカードを復活させる効果やコマンドをシャッフルする効果を持つコマンドカードは≪ABVR≫には存在しない。詳しい説明はしないが、第1作目の公式大会がこれらのカードを利用した無限ループ戦術に蹂躙された苦い過去が原因となっている。TCGならともかくアクションゲームのループは本気で友達が消える。理解者も全くいないし。

 ともかくこの《AB》ではコマンドカードで作ったデッキが対戦において大きな意味を持つ。
 それこそVR慣れしていない人間が経験の差を覆すことが出来るくらいに。

 そして重要な要素は他に3つ。ステータス振りと、装備選択、そしてクラス選択。この3つでどんなスタイルで戦うか、そしてアバターの性能が決定する。

「《AB》は事前の準備で勝敗が7割決まる。初代チャンピオンは良いこと言ったよな」

 俺が生まれる前の名言が今でも生きている。その点からも≪AB≫というコンテンツの息の長さが再確認できる。

 俺は以前から理想としているステータス振りを行い、お気に入りのガンブレード≪スペリオル≫を装備する。ソフトは違えど7年前の全国大会でも使った武器だ、結局これが一番なじむ。
 
 ガンブレードは簡単に言うと癖の強い武器だ。剣と銃、二つの機能をノータイムで切り替えられるのであらゆる局面に対応できるという強みを持つが、その代わり銃として使った場合は射程が銃の4分の3になり、剣として使った場合は3分の2の攻撃力となる。つまり器用貧乏になりがちなのだ、この武器は。

 それでも俺はこの武器を最強の武器と疑っていない。そのことを他のプレイヤーに理解して貰うためにプレゼン資料を作ったのも今は昔だ。

 そして使用クラスはガンナー。物理攻撃と素早さに補正がかかるクラスで、俺が良く使うクラスの一つだ。

 これで準備は整った。俺はマッチング相手が問題なくストリバになったのを確認すると控え室を出た。
 ――このとき、口角が上がるのを自覚しながらも辞められなかったのは自分でも重症だと思った。



「来たか」
「そりゃあルームマッチで逃げたら格好つかないだろ」

 どういうわけか観客席が満席の第1アリーナ、そのバトルフィールドに俺とストリバは立っていた。
 ストリバの手に握られているのは身の丈よりも長い槍。その槍は刃の部分が黄金で、柄の部分が白銀の派手としか形容できない代物だった。うすうす感じていたがこの男は派手なものが好きで好きでたまらないクチだ。もう間違い無い。

「それにしても君は何者なんだ? あのLIOが連れてきた男だ。ただ者では無いとは思うが……」
「悪いけどノーコメントで。試合前に先入観とか持たれたくない」
「聞き入れよう」

 ストリバは意識を切り替えるようにして、咳払いと深呼吸をした。これが彼の思考回路を切り替えるためのルーティンなのだろう。そして槍を両手で握り直すと高らかにこう宣言した。

「行くぞミツル! 我が槍の煌めきをその身で味わえることを光栄に思うが良い!」
「上等だ。胸を借りるぞS1ランク!」

 その言葉が呼び水となってアリーナ内では試合開始の20カウントが始まる。
 その瞬間目に飛び込んでくるのは敵と自分のHPゲージ。自分のステータスの変動と状態異常の有無を現す欄。そして残り試合時間を表す欄には5:00の表記。カウントが0になればこちらの時計が動き出す。
 そして初手と呼ばれる最初に使える5枚のコマンドカードが配られる。20秒という少々長いカウントはこの初手を確認するために設けられていると言っても良い。
 そしてカウントが0となった時、俺とストリバは同時に動いた。

 最初、俺は銃撃で牽制するつもりでいたが事情が変わった。数メートルは遠くに居たはずのストリバが狙いを定めるよりも先に俺に肉薄していたのだ。

「ここまで速いとはな……!」

 だがまだ見えている。
 ストリバが突き出した槍と俺の振るうガンブレードが激突する。攻撃力は恐らく相手の方が上。なのでこちらは無理な体勢で受けたことも相まって後ろに弾き飛ばされる。だが。

「今のに対処してくるか!」

 無理攻めだったのは向こうも同じ。トップスピードの突き攻撃は防がれた場合、大きな反動がプレイヤーを襲う。だからここぞという部分でしか使わないが――それを今使ったのは相手が序盤を如何に大事にしているのかの裏返し。
 ここは絶対有利に立たなければならない。

 後ろに飛ばされながら右手の人差し指をガンブレードの持ち手につけられた引き金にかける。

「シュート!」

 ガンブレードの峰に取り付けられた銃口。そこから放たれる銃弾がストリバを襲う。その数、計7発。
 だがそれを黙って受けてくれるようなことは無い。

「賢しい真似を!」

 最初の二発は防御が間に合わずそのまま命中。しかしあとの5発は弧を描くように振り回された槍によって弾かれる。その速すぎる回転数も含めてヘリコプターのプロペラを連想させる。

「コマンド――《旋風刃》!!」

 更にストリバはコマンドカードを使用。≪旋風刃≫は風の刃を刃先から飛ばすアタックコマンドだ。その射程距離は馬鹿にならないほど広い。それこそバトルフィールドの端から端まで届くくらいに、だ。

 風の刃を命中の寸前に空中に飛んで回避。けれど空中に飛んだということはそこには少なからず隙も生じる。そしてストリバはその隙を逃さないタイプらしく、猛スピードで飛び上がりながら次の攻撃を用意していた。

「《雷撃閃》!」
「《フォトンストライク》!」

 ストリバが追撃に選択したのは雷属性の突き攻撃。
 俺がジャストガードに選択したのは光属性の蹴り技。
 基本的にこのゲームではキックやパンチといった技はリーチの短い代償として威力が高めに設定されている。そしてジャストガードは敵の攻撃威力を20パーセントにまで減衰させる。
 その結果、槍へと向けて放たれた蹴りは≪雷撃閃≫を押し返し、ストリバを思い切り吹き飛ばした。

「まだまだ!」

 俺は麻痺属性を持った銃撃技、《パラライズショット》を発動する。
 このように声に出さずともコマンドは使用できるが、ほとんどのプレイヤーは気合いが入りやすいと言う理由で叫んでしまう。≪AB≫未プレイの人間は叫ぶことに情報アドバンテージの損失を感じることが多いが、どちらにせよ技モーションとか視界の端のガイドで相手の技は一部を除いて使う瞬間に分かってしまうので誤差なのだ。

「その麻痺攻撃は受けられない!」

 ほらこんな風に。
 それはともかく吹き飛ばされながらもストリバは何らかのコマンドカードを選択。防御系か、それとも攻撃コマンドで弾いてくるか。流石に見えていないコマンドカードまでは読み切れない。だからこそ次の1手は驚きを持って迎えるしか無かった。

「出でよ聖獣《ペガサス》!!」
「3手目でマスターコマンド!?」

 ストリバが使用したのは召喚コマンド。効果はその文字通りモンスターをはじめとする召喚獣と呼ばれる味方NPCを召喚するというものだ。今回の場合は翼の生えた馬、つまりはペガサスを召喚する。
 当然この召喚コマンドは使用した時点で味方キャラが一人増えることとなるので非常に強力で、それ故その全てがマスターコマンドもしくはレジェンドコマンドに分類されている。こうすることによってそもそもどんな強コマンドも引かなければ始まらない《AB》では初っぱなから召喚獣を出すなんて戦術が安定することも無い。また1度に出せる召喚獣は1体のみという制約もあるので最大5対1のリンチを仕掛けることは不可能だ。

 ただ最大の問題はその召喚獣が1体でも驚異という点だ。

「突き進め天馬よ!」

 《パラライズショット》を受けても意にも介さない《ペガサス》。というのもこの召喚獣には状態異常攻撃が例外なく一切通用しない。なので麻痺攻撃の受け手にはうってつけなのだ。
 しかも攻撃力も高いので体当たりを喰らえばダメージレースで一気に不利がつく。《ペガサス》をキッチリ処理できるかどうか、これが勝負の分かれ目となる。

 召喚獣がバトルフィールドから消える条件は二つ。一定時間が経過するか、一定のダメージを与えるかだ。
 今回のペガサスの場合、退却するまでの時間は20秒。対戦でのこの時間はかなり長いし、何よりその間延々と体当たりを仕掛けてくる飛行物体に気を配り続けるなど御免被りたい。そうなってくると一定のダメージを与えてお帰りいただくしか無いのだ。

 そして運が向いているのはこちらも同じらしく、あの《ペガサス》を倒せる札が俺のリザーブにはある。あとはソイツを外さないようにするのみ!

「行くぞ!」

 俺の目の前まで迫っていたペガサスの体当たりを受け流すようにして命中の寸前でかわす。
 だが1回避けてもすぐに次が来る。何なら初手と同じ高速の槍がストリバ本人から放たれてもおかしくない。
 だから俺は過ぎ去ったペガサスの後ろに貼り付き、思い描いていたコマンドを使用する。その名は――

「《ギガ・マグナム》!」

 それは剣で切り裂く瞬間に引き金を引くことで銃弾を暴発させ、振動によって斬撃の威力を上昇させるガンブレード専用の強力な技。その威力はどんなクラスだってバフの影響無しでHPの2分の1は削り取れる。もっともデメリットも大きいのだが、ペガサスを倒せることを思えば些細なもの。

 熱を持ったことで赤色に染まったガンブレードを《ペガサス》に振り下ろす。その威力は一撃で召喚獣を消し飛ばすほど。
 即ちストリバが呼び出した召喚獣は粉々に砕け散った。

「ほう?」

 その光景を前にストリバは特に狼狽えない。むしろ心底興味深そうにこちらを見てくる。 この目を俺は知っている。新しい遊び相手を見つけたゲーマーの目だ。それも血に飢えた、というのが頭に付くのだから物騒なことこの上ない。
 そしてそんな姿を見せながらも次の攻撃に備えて槍を構え直していた。
 こちらも当然、振り切ったガンブレードを再び構え直す。

「《ペガサス》の攻撃を問題なくかわす洞察力と反射神経。そしてペガサスを処理できるコマンドを引いてくる幸運か。なかなかどうして、こんな金の卵が居るからこそ、この第1アリーナは面白い!」
「こっちだって最善は尽くしてるのにまるで差が開いてない。これが今の強者って所か。……こりゃ様子見とかしてらんないな」
「まだ何か隠しているのは分かっている。ならば見せてみろ、お前の神髄を!」

 これはもう、気合いを入れ直して更に激しく攻めるしか無い。ここからは受けに回るのは無しだ。
 けれど不安材料もある。《ギガ・マグナム》の反動で20秒のクールタイムを挟まなければガンブレードを銃としては使えない。なのでその間、射程距離は槍を持った向こうが優位に立つことになる。こうなってしまえばまともに打ち合えば距離を測られて攻撃が届かない可能性がある。
 ならばやることはこれだ。先手をとってそれからも反撃の隙を与えないような速度で攻撃する。つまり今からやることは7年前と何ら変わらない。

 俺の出したたった一つの解答、超高速ガンブレード戦法の本領発揮だ。

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