魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した
第131陣ヒデヨシとヒスイ 中編
ヒッシーへの想いが消えたわけではない。今だってどこかで諦めきれていない自分がいるのは分かっている。
だからってそれとこれとでは話が違う。
「そんなの無理ですよノブナガ様。それだと私がノブナガ様からヒッシーを略奪したみたいで、とてもではありませんが結婚なんてできません」
「略奪だなんてそんな事はありませんよ。これは私の明確な意思なんですから。ヒデヨシさんには幸せになってもらいたいんです、私の分まで」
「だからそんな事ができるわけないじゃないですか!」
つい語尾が強くなってしまう。この言葉が本当にノブナガ様の意思だなんて微塵も感じられない。本当ならヒッシーと結婚して、幸せになりたい。それがノブナガ様の本心だ。
だけどその本心すらも病が奪い去ってしまう。
私にはそんな苦しんでいるノブナガ様の姿を見ていられなかった。
「それがノブナガ様の意思だなんて、嘘に決まっているじゃないですか。本当はヒッシーと結婚したいと思っているんですよね? 本当は病気を理由で諦めたくないんですよね? だったらその気持ちを最後まで」
「私だって……最後までそうしていたいですよ。けど、それを逆にヒスイ様を苦しめる事になることをどうして分からないんですか?」
「ヒッシーが苦しむ?」
「ヒデヨシさんは先程から私の事ばかり言っていますが、ヒスイ様の気持ち、そして貴女の気持ちはどうなんてすか? そんなにヒデヨシさんはヒスイ様と一緒にいるのが嫌なんですか?」
「そんな事は……」
無いに決まっている。もしこの先も一緒にヒッシーといられるなら私にとってはこの上ないくらい幸せだ。でもそれは人の幸せを踏みにじってまで得られるものではない。何よりそれをヒッシーが望んでいない。だから私なんかがヒッシーと……。
「私が貴女にヒスイ様を託したのは、織田家のためだけじゃないんです。ヒデヨシさんとヒスイ様にはただ幸せになってもらいたいだけなんてすよ。私が得られないだけの幸せを二人には作ってもらいたいんです」
「でもその為にノブナガ様が犠牲になる必要なんてないんですよ。私は最後までこの想いが叶わなくたっていいんです。だから……」
これ以上言葉が出てこなかった。言いたいことはたくさんあるのに、言葉が浮かばない。きっとノブナガ様は私が何を言っても、答えをもっている。だからこの人にはかなわない。私が折れるまで意思を曲げるつもりはないと思う。
(どうすれば……いいの)
本当にヒッシーと私が二人で支えていくしか答えがないの?
「ヒデヨシさん、もういいんですよ。今度はあなたが幸せを手に入れる番です」
「そんな、だって、ノブナガ様が」
「もう、いいんです」
もういい。
そのたった一言、たった一言が私の胸に突き刺さった。どうにかしたいとどんなに願ったって、もうノブナガ様がいなくなってしまうという事実は変わらない。その現実が、私にはとても悔しくて……とても悲しい。
「ヒデヨシさん、今日まで私を支えてくれてありがとうございました。これからは私ではなくヒスイの傍にいてあげてください」
「ノブナガ様ぁ」
だから私は涙を我慢することができなかった。ノブナガ様の胸を借りてただただ、子供のように泣きじゃくった。
この日は私にとって特別な日で、ヒッシーと歩みだす新しい未来への始まりを告げる事になる日にもなった。
■□■□■□
ヒデヨシが二人で話したいと俺を呼び出したのは、安土に戻って来てから三日が経った頃だった。珍しくヒデヨシが真剣な顔をして呼び出してきたので、とても重要な話なのは分かってはいたが、その肝心の内容に思い当たる節がない。
「ごめんねヒッシー、急に呼び出したりなんかして」
俺が呼び出されたのはヒデヨシの部屋。中に入ると何故かヒデヨシは普段はあまり着ないはずの着物を着ていた。
「気でも狂ったのか?」
「それすごく失礼じゃない?! 私は真剣なの!」
「真剣って、何がだよ」
「私達のこれからの事に決まっているでしょ」
これからの事。
それはつまりノブナガさんが俺達の目の前から居なくなってしまった後の事。それを話すのはとても大切な事ではあるが、ヒデヨシの言い方からするとどうやらそれ以上の事なのかもしれない。
「もしかしてついにネネと結婚する決意でもしたのか?」
「だからどうしてなるのよ! 違くて、その……私とヒッシーの事で、ちょっと話したいことがあるの」
「俺とヒデヨシで?」
少し顔を赤らめるヒデヨシに、俺は一つだけ思い当たる節があった。
だいぶ前の話になってしまうけど、俺は一度ヒデヨシに結婚してほしいと言われたことがある。
その時俺は彼女を振った。
サクラの事、この世界の事、ノブナガさんの事。あの時はまだ色々と混乱していて何も整理できていなかったからだ。でもその後改めてノブナガさんへの気持ちに気づいた。それにヒデヨシも気づいていたみたいだし、俺はそれ以上あえて触れてこなかった。
今でも俺の気持ちは変わっていない。
だけど、もし仮にノブナガさんが居なくなった後、俺は何を心の支えに生きていけばいい。沢山の人を失ってしまったこの世界で。
「ヒッシーはまだノブナガ様が好きなんだよね」
「……ああ」
「でもノブナガ様が居なくなったら、ヒッシーはどうするの?」
「それは……まだ分からない」
「自分勝手な話かもしれないけど、もしヒッシーの心が崩れそうになったら、私が支えてあげる事って……できないかな」
だからってそれとこれとでは話が違う。
「そんなの無理ですよノブナガ様。それだと私がノブナガ様からヒッシーを略奪したみたいで、とてもではありませんが結婚なんてできません」
「略奪だなんてそんな事はありませんよ。これは私の明確な意思なんですから。ヒデヨシさんには幸せになってもらいたいんです、私の分まで」
「だからそんな事ができるわけないじゃないですか!」
つい語尾が強くなってしまう。この言葉が本当にノブナガ様の意思だなんて微塵も感じられない。本当ならヒッシーと結婚して、幸せになりたい。それがノブナガ様の本心だ。
だけどその本心すらも病が奪い去ってしまう。
私にはそんな苦しんでいるノブナガ様の姿を見ていられなかった。
「それがノブナガ様の意思だなんて、嘘に決まっているじゃないですか。本当はヒッシーと結婚したいと思っているんですよね? 本当は病気を理由で諦めたくないんですよね? だったらその気持ちを最後まで」
「私だって……最後までそうしていたいですよ。けど、それを逆にヒスイ様を苦しめる事になることをどうして分からないんですか?」
「ヒッシーが苦しむ?」
「ヒデヨシさんは先程から私の事ばかり言っていますが、ヒスイ様の気持ち、そして貴女の気持ちはどうなんてすか? そんなにヒデヨシさんはヒスイ様と一緒にいるのが嫌なんですか?」
「そんな事は……」
無いに決まっている。もしこの先も一緒にヒッシーといられるなら私にとってはこの上ないくらい幸せだ。でもそれは人の幸せを踏みにじってまで得られるものではない。何よりそれをヒッシーが望んでいない。だから私なんかがヒッシーと……。
「私が貴女にヒスイ様を託したのは、織田家のためだけじゃないんです。ヒデヨシさんとヒスイ様にはただ幸せになってもらいたいだけなんてすよ。私が得られないだけの幸せを二人には作ってもらいたいんです」
「でもその為にノブナガ様が犠牲になる必要なんてないんですよ。私は最後までこの想いが叶わなくたっていいんです。だから……」
これ以上言葉が出てこなかった。言いたいことはたくさんあるのに、言葉が浮かばない。きっとノブナガ様は私が何を言っても、答えをもっている。だからこの人にはかなわない。私が折れるまで意思を曲げるつもりはないと思う。
(どうすれば……いいの)
本当にヒッシーと私が二人で支えていくしか答えがないの?
「ヒデヨシさん、もういいんですよ。今度はあなたが幸せを手に入れる番です」
「そんな、だって、ノブナガ様が」
「もう、いいんです」
もういい。
そのたった一言、たった一言が私の胸に突き刺さった。どうにかしたいとどんなに願ったって、もうノブナガ様がいなくなってしまうという事実は変わらない。その現実が、私にはとても悔しくて……とても悲しい。
「ヒデヨシさん、今日まで私を支えてくれてありがとうございました。これからは私ではなくヒスイの傍にいてあげてください」
「ノブナガ様ぁ」
だから私は涙を我慢することができなかった。ノブナガ様の胸を借りてただただ、子供のように泣きじゃくった。
この日は私にとって特別な日で、ヒッシーと歩みだす新しい未来への始まりを告げる事になる日にもなった。
■□■□■□
ヒデヨシが二人で話したいと俺を呼び出したのは、安土に戻って来てから三日が経った頃だった。珍しくヒデヨシが真剣な顔をして呼び出してきたので、とても重要な話なのは分かってはいたが、その肝心の内容に思い当たる節がない。
「ごめんねヒッシー、急に呼び出したりなんかして」
俺が呼び出されたのはヒデヨシの部屋。中に入ると何故かヒデヨシは普段はあまり着ないはずの着物を着ていた。
「気でも狂ったのか?」
「それすごく失礼じゃない?! 私は真剣なの!」
「真剣って、何がだよ」
「私達のこれからの事に決まっているでしょ」
これからの事。
それはつまりノブナガさんが俺達の目の前から居なくなってしまった後の事。それを話すのはとても大切な事ではあるが、ヒデヨシの言い方からするとどうやらそれ以上の事なのかもしれない。
「もしかしてついにネネと結婚する決意でもしたのか?」
「だからどうしてなるのよ! 違くて、その……私とヒッシーの事で、ちょっと話したいことがあるの」
「俺とヒデヨシで?」
少し顔を赤らめるヒデヨシに、俺は一つだけ思い当たる節があった。
だいぶ前の話になってしまうけど、俺は一度ヒデヨシに結婚してほしいと言われたことがある。
その時俺は彼女を振った。
サクラの事、この世界の事、ノブナガさんの事。あの時はまだ色々と混乱していて何も整理できていなかったからだ。でもその後改めてノブナガさんへの気持ちに気づいた。それにヒデヨシも気づいていたみたいだし、俺はそれ以上あえて触れてこなかった。
今でも俺の気持ちは変わっていない。
だけど、もし仮にノブナガさんが居なくなった後、俺は何を心の支えに生きていけばいい。沢山の人を失ってしまったこの世界で。
「ヒッシーはまだノブナガ様が好きなんだよね」
「……ああ」
「でもノブナガ様が居なくなったら、ヒッシーはどうするの?」
「それは……まだ分からない」
「自分勝手な話かもしれないけど、もしヒッシーの心が崩れそうになったら、私が支えてあげる事って……できないかな」
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