魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第128陣漂う暗雲

「ではヒスイは一ヶ月帰ってこないって事ですか?」

「恐らく。ヒッシーは本気な顔で言っていました」

 ヒスイはが私の為にどこかへ行ってしまった。

 その事実を突きつけられたのは、彼にその話をしてから二日後の朝方。彼と最後に会話したヒデヨシさんからの報告によるものだった。

「あの、ノブナガ様、ヒッシーはどうしていきなりそんな事を言い出したのでしょうか? まだ片手での生活に慣れていないのに」

「それは……」

 自分が原因なのだとヒデヨシさんにも話すべきなのか一瞬だけ悩んだものの、何とかとどまる。彼女にもいつかは話さなければならないのだけれど、その時が今ではない。

「もしかしてノブナガ様、何か知っているんですか?」

「え、いえ、別に私は何も」

「では探しに行った方がやっぱりいいのでしょうか」

「しばらくは様子を見ましょう。もし何かあったら助けに向かえばいいですから」

 一ヶ月待った先に何があるのかは分からないけど、彼がその気なら私はあえて止めない。きっと一ヶ月経っても私の寿命が変わるわけではないし、それで彼が私の病気を受け止めてくれるならそれでいい。

「私が止めなかった事、怒らないんですか?」

「怒りませんよ。ヒスイ様がそうしたいなら、それで構いませんから」

「そもそもどうしてヒッシーを止めないんですか?」

「私は彼の意思を尊重したいだけですよ」

「嘘ですよね。本当はノブナガ様何か知っていますよね」

「彼が何をしようとしているのかは分かりませんが、どうしてそんな事をしようとしているのかは何となくですけど、分かります」

 だけどそれをヒデヨシさんに話すことはできない。まさかヒスイがこんなにも早く行動をすること自体が予想外だった為、私も正直どうすればいいか分からないでいた。でもこのタイミングで彼を追うのは……間違っている気がする。

「分かっているなら、どうして追わないんですか? どうして止めなかった私に何も言わないんですか? おかしいですよノブナガ様。それだとまるで」

 そこまで言ったヒデヨシさんは何かに気付いたのか、言葉を途中で止める。

「もしかしてノブナガ様、二日前にヒッシーと話していた事って……」

「話聞いていたんですか?」

「盗み聞きするつもりはなかったんです。でも気になる言葉が聞こえてきたので、スルーはできなくて……」

「いつかはこの城にいる人達にも話すつもりなので、聞いてしまったことは黙っていてもらえませんか?」

「そんな事できるわけないじゃないですか! だってノブナガ様があと三ヶ月で……」

「すいませんヒデヨシさん、今はその話をするのだけはやめていただけませんか?」

「ノブナガ……様?」

 ヒデヨシさんの言いたいことは痛いほど伝わっている。でもだからこそ、彼女にも理解してもらいたかった。

「私だって本当はこんな話をしたくないんです。自分の命の事なんて、どうして話さなければいけないんですか? 私はまだまだ戦う事ができるのに、どうして病はそれを許してくれないんですか?」

「ノブナガ様は何も悪くないんですよ。私だって本当はノブナガ様にはずっと私達の前を走ってもらいたいですし、居なくなるなんてそんな事考えたくありません。それをヒッシーだって誰よりも分かっています」

「そう……ですよね」

「それにヒッシーはノブナガ様を助ける方法を探し出すために、一ヶ月の間ここを離れる決意をしたんですよきっと。だから諦めちゃ駄目ですよノブナガ様」

「ヒデヨシさん……」

 彼女にここまでの事を言われるなんて思ってもいなかった。でも医者が言う限りではそれ以上長く生きる事は難しいらしい。だからヒスイがどんなに頑張っても、やはり私の命は……。

「うっ」

「ノブナガ様? どうしましたか?」

「胸が……苦しい……」

「ノブナガ様!ノブナガ様!」

 それを証拠に最近突然謎の痛みが私を襲うようになっていた。とくにマルガーテとの戦いを乗り越えた後からは、立ち上がることができないほどの激痛が私を襲う。

「ヒデヨシサン、リキュウさんを呼んできてください……。薬は彼女に任せていますので」

「今すぐ呼んできます!」

 私の部屋を急いで出ていくヒデヨシさん。彼女を見送った後、私は痛みに耐え切れずにその場に倒れこんでしまう。

(こんな事、今までなかったのに……)

 どうして……どうして……。

 ■□■□■□
 安土を出てから三日が経った。所々にある村を経由しながら最初の目的地に向かっていた。その場所は、

「ノブナガの病の話は風の噂で耳にはしておった。じゃが、まさかお主が一人でここにやってくるとはのう」

 それは徳川家康の元。少し前に協定を結んだものの、彼女達と協力する前にマルガーテを倒してしまったのでこうして会うのは久しぶりだった。

「イエヤスは何かノブナガさんの病気については知っているのか?」

「知ってはおるが、何故お主がそれをわざわざ聞く」

「治したいんだよ、その病を」

「やめておけ。お主がどんな不思議な力を使おうが、あれには決して叶わぬ」

「どうしてそう断言できるんだよ」

「あれは一度かかったら治らないと言われている不治の病だからじゃ」

「不治の……病?」

「しかもそれは病名すらも分かっておらぬ。そのような代物をお主が治せると思っておるのか?」

 まっすぐこちらを見ながら言うイエヤス。俺はそれに対してすぐにはいとは答えられなかった。

「見捨てろとは言わぬ。ただ、苦しみから解放するのが病を治すだけじゃない事を覚えておくんじゃな」

 名前も知らない不治の病。

 それをリアラのような治癒術使いではない俺が、相手にする。そんな夢みたいな話は、もうすでに暗雲が漂い始めていた。

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