魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した
第127陣織田家を継ぐ者
師匠が亡くなって二日後。俺はリハビリという形で、ノブナガさんと鍛錬に励んでいた。
「やはり片手だけだと、太刀は使いにくそうですね」
「練習は重ねるつもりですが、復帰はもう少し時間がかかるかもしれないです」
片腕を失くしてから三日。失くした腕が利き手だったこともあり、俺の生活はなかなか困難なものだった。このままだと戦への復活はともかく、日常生活にも支障をきたす可能性が大いにある。
「でもこの腕の一本でノブナガさん達を守れたなら、安いものだと俺は思いますけど」
「だからといってヒスイだけが辛い思いをしなくたっていいじゃないですか」
「辛くはないですよ。俺は」
「そんな嘘を」
「嘘ではないんですよ。俺よりももっとつらい思いをしている人達を見てきたので、それに比べたら俺なんか安っぽいものですよ」
「ヒスイ……」
その言葉は強がりだったのかもしれない。でも日常生活に関しては辛いとは思っていないのは事実だ。それよりも俺が辛い事が俺にはある。それは……。
「それよりも俺は、ノブナガさんを守ることができる事ができなくなった事の方が辛いですよ」
「な、な、何をいきなり言い出すんですか。私の事より自分の心配をしてくださいよ」
「冗談とかで言ったつもりじゃないんですよ、俺は」
右手を失ったから守れないとかそういう次元の話ではない。今こうしてノブナガさんと鍛錬しているのだって、実のところこの心の中の不安を消す為だった。起きなければそれでいいし、起きる事は絶対にないと思っている。
日本の歴史で言うなら本能寺の変。
それが史上の中で起きたと言われている時期が間もなくこの世界にも近づいていた。まあミツヒデが亡くなっているので、起きる事はないと思っている。
だがもしそれが、この戦国時代にも起きてしまったら?
日本の史実とはまるで違うこの世界で、ミツヒデとは違う誰かがそれを起こしてしまったら?
今右腕が無くてまともに戦えない状態の俺が、彼女の事を守ることができるわけがない。だから心の不安が消えない。
「ヒスイ、どうかされましたか?」
「あ、いえ、すいません。考え事をしていました」
だがその不安を煽るように、この世界の歴史は少しずつではあるが動き始めていることを知るのは、この日からしばらく経った後だった。
「ヒスイ、そういえばあなたにはお話しなければならない事があるんです」
「話さなければならない事?」
「これはとても大切な話です。なのでしっかり聞いてほしいのですが」
そしてそのキッカケになったのが今この瞬間。
「ヒスイは私の代わりに織田家の主君になる考えはありませんか?」
俺が織田家の跡継ぎにならないかという話が出てきたときからだった。
「どうしていきなりそんな事を言い出すんですか? ノブナガ様の代わりだなんて」
「本来ならもっと早く話すべきだったんです。でもこの話をしたら、ヒスイ様が混乱すると思って、お話しするのを先延ばしにしていたんです」
「だからその理由を俺は」
「もう長くないんですよ、私の体が」
「え?」
長くない? 体が? それってつまり、
「先日腕利きの医師に言われたんですよ。私の体はもって三ヶ月だって」
余命三ヶ月
突如としてノブナガさんから出たその言葉。かの有名な武田信玄でさえその体は病に侵されたと言われていたが(あくまで一説によるけど)、まさかノブナガさんまでもがその身に病の手が迫っていただなんて考えられなかった。
「本当なら少し前に約束した通り、ヒスイと結婚してこの世界で残る余生を過ごそうと思っていました。しかしもはやその余裕もなくなってきたみたいなんです」
いつも通りの顔でそう言うノブナガさん。こうして俺に鍛錬してくれたり、闇から俺を救ってくれたりしたノブナガさんが病気だなんて、そんな話信じられないし信じたくない。
「だから早めにこの話はヒスイにだけはしておきたかったんです。あなたには私の意思を継いでもらいたいので」
「そんな事できるわけがないじゃないですか。余命三ヶ月だなんて、そんな話をどう受け止めればいいんですか!?」
「ヒスイ……」
「それに俺がノブナガさんの遺志を継ぐなんて、そんな事できませんよ」
「私はできると信じていますよ」
「信じられても、できません」
そんな事をするくらいなら、俺はこの世界から今すぐに去って全てを無かったことにしたい。ノブナガさんが亡くなるのをこの目で見る事になるくらいなら、俺はこの世界に居なくていい。
「すぐに答えを出してほしいとは言いません。でも考えておいてください、いずれ来てしまうその時までに」
■□■□■□
それから二日後。俺は一人で安土城の外に出ていた。以前のように家出をしてきたわけではない。ノブナガさんには黙って出てきたのは変わりないが、それもこれも全てノブナガさんのため。
「どこへ行くのヒッシー」
そう思って城下町から外へ一歩踏み出した時、ヒデヨシの声がした。
「ヒデヨシ、ノブナガさんに伝えておいてほしい。一ヶ月、ここに戻らないって」
「その理由は?」
「詳しくは話せない。でもこれは必要な事だから」
「必要?」
「ノブナガさんを守るために必要なとても大切な事なんだ」
俺はそう言うと、改めて城の外へと踏み出す。
「待ってヒッシー」
「悪いヒデヨシ、必ず戻って来るから」
一ヶ月。俺は必ずノブナガさんを助けるための手段を見つけてくる。絶対にノブナガさんを死なせたりはしない。
「やはり片手だけだと、太刀は使いにくそうですね」
「練習は重ねるつもりですが、復帰はもう少し時間がかかるかもしれないです」
片腕を失くしてから三日。失くした腕が利き手だったこともあり、俺の生活はなかなか困難なものだった。このままだと戦への復活はともかく、日常生活にも支障をきたす可能性が大いにある。
「でもこの腕の一本でノブナガさん達を守れたなら、安いものだと俺は思いますけど」
「だからといってヒスイだけが辛い思いをしなくたっていいじゃないですか」
「辛くはないですよ。俺は」
「そんな嘘を」
「嘘ではないんですよ。俺よりももっとつらい思いをしている人達を見てきたので、それに比べたら俺なんか安っぽいものですよ」
「ヒスイ……」
その言葉は強がりだったのかもしれない。でも日常生活に関しては辛いとは思っていないのは事実だ。それよりも俺が辛い事が俺にはある。それは……。
「それよりも俺は、ノブナガさんを守ることができる事ができなくなった事の方が辛いですよ」
「な、な、何をいきなり言い出すんですか。私の事より自分の心配をしてくださいよ」
「冗談とかで言ったつもりじゃないんですよ、俺は」
右手を失ったから守れないとかそういう次元の話ではない。今こうしてノブナガさんと鍛錬しているのだって、実のところこの心の中の不安を消す為だった。起きなければそれでいいし、起きる事は絶対にないと思っている。
日本の歴史で言うなら本能寺の変。
それが史上の中で起きたと言われている時期が間もなくこの世界にも近づいていた。まあミツヒデが亡くなっているので、起きる事はないと思っている。
だがもしそれが、この戦国時代にも起きてしまったら?
日本の史実とはまるで違うこの世界で、ミツヒデとは違う誰かがそれを起こしてしまったら?
今右腕が無くてまともに戦えない状態の俺が、彼女の事を守ることができるわけがない。だから心の不安が消えない。
「ヒスイ、どうかされましたか?」
「あ、いえ、すいません。考え事をしていました」
だがその不安を煽るように、この世界の歴史は少しずつではあるが動き始めていることを知るのは、この日からしばらく経った後だった。
「ヒスイ、そういえばあなたにはお話しなければならない事があるんです」
「話さなければならない事?」
「これはとても大切な話です。なのでしっかり聞いてほしいのですが」
そしてそのキッカケになったのが今この瞬間。
「ヒスイは私の代わりに織田家の主君になる考えはありませんか?」
俺が織田家の跡継ぎにならないかという話が出てきたときからだった。
「どうしていきなりそんな事を言い出すんですか? ノブナガ様の代わりだなんて」
「本来ならもっと早く話すべきだったんです。でもこの話をしたら、ヒスイ様が混乱すると思って、お話しするのを先延ばしにしていたんです」
「だからその理由を俺は」
「もう長くないんですよ、私の体が」
「え?」
長くない? 体が? それってつまり、
「先日腕利きの医師に言われたんですよ。私の体はもって三ヶ月だって」
余命三ヶ月
突如としてノブナガさんから出たその言葉。かの有名な武田信玄でさえその体は病に侵されたと言われていたが(あくまで一説によるけど)、まさかノブナガさんまでもがその身に病の手が迫っていただなんて考えられなかった。
「本当なら少し前に約束した通り、ヒスイと結婚してこの世界で残る余生を過ごそうと思っていました。しかしもはやその余裕もなくなってきたみたいなんです」
いつも通りの顔でそう言うノブナガさん。こうして俺に鍛錬してくれたり、闇から俺を救ってくれたりしたノブナガさんが病気だなんて、そんな話信じられないし信じたくない。
「だから早めにこの話はヒスイにだけはしておきたかったんです。あなたには私の意思を継いでもらいたいので」
「そんな事できるわけがないじゃないですか。余命三ヶ月だなんて、そんな話をどう受け止めればいいんですか!?」
「ヒスイ……」
「それに俺がノブナガさんの遺志を継ぐなんて、そんな事できませんよ」
「私はできると信じていますよ」
「信じられても、できません」
そんな事をするくらいなら、俺はこの世界から今すぐに去って全てを無かったことにしたい。ノブナガさんが亡くなるのをこの目で見る事になるくらいなら、俺はこの世界に居なくていい。
「すぐに答えを出してほしいとは言いません。でも考えておいてください、いずれ来てしまうその時までに」
■□■□■□
それから二日後。俺は一人で安土城の外に出ていた。以前のように家出をしてきたわけではない。ノブナガさんには黙って出てきたのは変わりないが、それもこれも全てノブナガさんのため。
「どこへ行くのヒッシー」
そう思って城下町から外へ一歩踏み出した時、ヒデヨシの声がした。
「ヒデヨシ、ノブナガさんに伝えておいてほしい。一ヶ月、ここに戻らないって」
「その理由は?」
「詳しくは話せない。でもこれは必要な事だから」
「必要?」
「ノブナガさんを守るために必要なとても大切な事なんだ」
俺はそう言うと、改めて城の外へと踏み出す。
「待ってヒッシー」
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