魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第8陣恐ろしきその笑顔

 それから少しして、リキュウさんによって入れられたお茶を縁側に座りながら、俺はのどかな朝を四人で過ごしていた。

「ゲホッ、ゲホッ」

 すごく苦いお茶とともに。

「あらぁ、お口に合いませんでしたか?」

「い、いやそうじゃない。こういうお茶飲むの初めてだったから、ちょっとむせちゃっただけ」

「ヒッシーお茶苦手なんだ」

「だからそうじゃないって」

「まだまだ私も腕が甘いんですねぇ。ごめんなさ~い」

「だ、だから気にしなくていいって」

 どうやら俺の反応があまりに良くなかったのか、リキュウさんは落ち込んでしまった。うーん、悪気はなかったんだけど、悪いことしちゃったかな(むせただけなんだけど)。

(というか二人は平気なのか?)

 この二人平然と飲んでいるけど、俺が普通じゃないのか?

「もうヒスイ様、いくらなんでも失礼すぎますよ」

「ご、ごめん」

「いいんですよぉ。私別に気にしていませんからぁ」

 笑顔でそういうリキュウさんからは、黒いオーラを感じる。もしかしてこの人、かなり腹黒い性格の人だったり。

(やばい、怒らせたらまずい人怒らせたかも)

 そのドス黒いオーラに、思わず後ずさる。でも逃げ場はないし、ここは何とかして、

「と、とにかく折角の朝なんだから、お、落ち着こう」

「ヒスイ様、それは自分に言っているのですか?」

「そ、そうじゃないよ。こ、このお茶すごく美味しいなって思って。もっと飲みたいからゆっくりしようと思って」

 汗をダラダラ流しながら、俺は言う。

「本当ですかぁ。じゃあどんどん飲んでください、おかわりは自由なので」

「い、いやそんなに沢山は」

「飲・ん・で・く・だ・さ・い」

 だがそんな俺に対しても、リキュウさんは笑顔かつ容赦がなかった。

「……はい」

 その笑顔は正に恐怖だった。

 ■□■□■□
 色々な意味で悲惨だった朝を終えた俺は、ノブナガさんと共に昨日の試験で使った闘技場(?)みたいな場所へ来ていた。

「あの、ここで何をするつもりで?」

「私とちょっとお手合せをと思いまして」

「え? いきなり?」

「この目で見てみたいんです。ヒスイ様の魔法の力を」

 昨日のを見て触発でもされたのか、ノブナガさんがそんな提案をしてきた。

「そうは言われましても、ちょっと無茶がありますよ」

 だけど俺は少し躊躇ってしまう。見た目は結構落ち着いた性格をしているノブナガさんだけど、名はあの織田信長だ。実力はかなりのものだと考えたっていい。
 それに対して俺は魔法が使えるとは言え、必ずしも昨日のようにはいかない。つまり、俺が瞬殺される未来しか見えてこない。

「私も手加減はしますから、どうかお願いします」

「手加減する前提なんだ……」

 それはちょっと舐められた感じがして嫌だな。やるなら本気できてほしいわけだし。

「どうかお願いしますヒスイ様」

 それでも一歩も引かないノブナガさんに、ついに俺が折れる。

「うーん、ちょっと怖いけど分かりましたよ。ただし条件があります」

「条件?」

「俺は全力で行きますので、ノブナガさんも全力でお願いします」

「全力でいいんですか?」

「そうしないと楽しくないんで」

「そこまで言うなら分かりました。こちらも全力で行きます」

 そう言ってノブナガさんは剣を構える(流石に本物で戦うわけにはいかないので、木刀に似たものを使用)。俺はというと渡された具を身に付け、同じように構える。

(もって三分だろうな)

 向き合ってみて改めてノブナガさんの気迫を感じ、俺はついそんなことを思ってしまう。

「では行きますよ」

「いざ」

『勝負!』

 そして俺とノブナガさんの初めての戦いの火蓋が切って落とされるのであった。

 ■□■□■□
 俺のボロ負けかと思われた戦いだが、戦いは予想外な結果になった。

「はぁ……はぁ……。ノブナガさん、ちょっと休みませんか? 朝からこれはちょっと辛いです」

「ヒスイ様が……強いから悪いんですよ。私も思わず本気になっちゃったじゃないですか」

「それは……お互い様ですよ」

 まさかの十分経っても決着つかず。勿論俺は言われた通り魔法も使ったし、全力で挑んだ。それだというのにこの人は、退くどころか挑みかかってきた。こんなにも勇敢な人を見たのは俺も初めてだった。

「ヒスイ様、本当に魔法を使いましたか?」

「最初から使いましたよ。筋力増加と俊敏強化とか色々と」

「私からはなにも見えませんでしたよ?」

「これらは自分自身にかけるものなので、目に見えることはないんですよ。その他も使おうかなと思ったんですが、剣には剣をって事で、身体強化系の魔法を使わせてもらいました」

「へえ。魔法にも色々あるんですね」

 感心しながらノブナガさんはそう言うが、それに対して対等に渡り合った彼女に俺は感心した。
 たった一本の剣から放たれるあの剣さばき。魔法を使っていなければ俺は確実に負けていたのかもしれない。そうあの姿はまさに、

(お前とそっくりの人間を見つけちゃったよ、サクラ)

 俺が共に旅した勇者そのものだった。

「私本当は火とか出てくる魔法を見たかったんですけど、ちょっと残念です」

「そんな事を言われてましても、魔法を使う余裕どこにもなかったですよ」

「じゃあ余裕があれば使ってくれるんですね?」

「え、あ、いやそういうわけじゃ」

「今度はヒスイ様が余裕で魔法を使えるくらいのレベルで戦いますから、もう一戦お願いします」

「ひえ~」

 まさかのもう一戦を申し込まれ、どうしようか戸惑っていると突然ミツヒデが彼女の元にやってきた。

「ノブナガ様、敵襲です! 急いで出陣の準備を」

「昨日戦をしたばかりなのに、もうですか。ちなみに今日はどちら様ですか?」

「今川軍です」

「また性懲りもなく……」

 ため息をつきながらそんな事を言うノブナガさん。あれ? 昨日言っていたセリフとまるで違うような……。ていうか敵襲という事は、

「ヒスイ様、行きましょう」

「行くってどこにですか?」

 分かってはいても、あえてとぼけてみる。

「そんなの勿論戦場に決まっているじゃないですか」

「俺もですか?」

「当たり前じゃないですか。あなたは隊長なんですから」

「ですよねー」

 すぐには来ないだろうと思っていた俺の初陣は、思いの外早くやって来た。

「ヒスイ様にとって初陣になりますが、相手も何をするか分からないので気をつけてください」

「分かっていますよ。ただ、手加減は一切無しでいいんですよね?」

「勿論。敵をアッと驚かせてください」

「はい!」

 それから数分後、準備を整えた俺はついに戦の地に立つのであった。

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