魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第10陣魔法使い翡翠、戦地に立つ 後編

 俺は戦の始まりと言わんばかりに巨大な雷を一発、今川軍に落とした。思わぬ一撃に慌てる今川軍。ヒデヨシを敵がいない安全なルートへと向かわせた後、俺はそのまま雷を落とした場所へと向かう。そこは雷によって木々は焼け焦げ、敵兵も何人か倒れている。何とか動ける者も、何が起きたのかさっぱり分からずかなり動揺しているようだ。

『なんだ、何が起きたんだ』

『至急救護班を呼べ! かなりの被害がでている』

 慌てる兵士たちの声が聞こえる。俺はその目の前に堂々と立ち、鞘にしまってある太刀をゆっくりと引き抜く。事前に身体能力があがる魔法はかけておいたので、戦闘の準備は完了している。あとは敵に突っ込んでいくだけだ。

(と、その前に)

 折角の初陣だ。ここは少し格好良く宣言でもさせてもらうか。

「おいお前ら、今何が起きたか理解できてないだろ」

 俺はあえて全員に声が届くように叫ぶ。すると全員がこちらに目線を向け、各々何か言い始める。

「誰だお前」

「太刀を構えているぞ。まさか織田の新入りか?」

「新入りが一人で挑むのか?」

「まさか」

 確かに普通は有りない話だ。だが俺にはそれが可能だ……多分。

「俺は織田軍新隊長、桜木翡翠だ。よくその名前を覚えておけ。俺は魔法使い桜木翡翠だ!」

 そう叫びながら太刀をひと振り。敵は距離があって届くわけがないと言わんばかりに、余裕ぶっているが、残念ながら風属性の魔法を使っているので、かまいたちとなってそれは敵陣に直撃する。

「な、何だ。何か飛んできたぞ」

「また何人かやられた。一旦退くぞ」

 ぞろぞろと敵が下がっていく。よし、第一印象はバッチリ。あとは派手に魔法をかますだけだ。

「例えばこの炎で木を燃やしてみたりね」

 敵が逃げていく方面に火の玉を出して、正面の木々を燃やす。これで敵は逃げ場なし。

「あとはこの太刀で!」

 今度こそ敵に急接近をして、風魔法を乗せたままの太刀で斬りかかる。一振りするだけで風と共に敵を吹き飛ばしたり、かまいたちで直接のダメージを敵に与えたりなど、色々すること三分、ざっと三十くらいいた敵兵はあっという間に全滅。何というかあっという間すぎて、ちょっと目立たなかった気がする。

(って、いつから俺は戦闘狂になったんだ?)

 そんな事を考えながら、俺は更に歩みを進めるのであった。

■□■□■□
 一方その頃、

(魔法ってすごいな。あんな事もできるんだ)

 ヒッシーとは別のルートで敵陣へと向かった私は、彼が色々と凄いことをしているのを遠くから感じていた。

(ああいうの憧れちゃうなぁ)

 最初に大きな魔法を使っていた彼の姿を見たとき、思わず格好いいと思ってしまった、だって手をちょっと出すだけで、火とか出せるなんて今まで考えたことなかった。だからああいうのは新鮮で、憧れでもあった。

(いつか教えてくれないかな)

「ヒデヨシ様、間もなく敵陣の中枢です」

 そんなくだらない事を考えていると、兵士の一人が間もなく敵将の所へ付くことを教えてくれた。

「よし、私も頑張ろう!」

 気合を一つ入れ、木の影から飛び出す。ヒッシーが敵を引き寄せてくれているから、一般兵はいないはずだ。あとは敵将の首を取るだけ……。

「あれ?」

 しかしその中枢と思われる場所には敵将はおらず、その場所は人がいた気配があるものの、問題の敵将がいる影がどこにもなかった。

(ま、まさかヒッシー、敵将まで引き寄せちゃった?)

 そうだとしたら予定外だ。本来なら私がここで撃つ事になっていたはずなのに、ヒッシーが敵将を相手することになってしまった。

(で、でもヒッシーならきっとできるよね?)

 ノブナガさんが認めたんだから、きっと大丈夫だと思う。

(って、そんな事考えている場合じゃないや)

 私も急いでヒッシーの元に急がないと。

■□■□■□
 それから俺は、向かうところ敵なしと言わんばかりに、敵を倒していった。別に戦うのが好きとかそういうのではないのだが、こうして久しぶりに魔法を使って暴れられることが嬉しかった。快感とまではいかないが、この太刀ひと振りで敵が倒せるのは、どこかの無双ゲーム並に楽しい。

(そういえばヒデヨシの方はうまくいっているかな?)

 あれからしばらく経つが、戦いが終わったような様子がない。むしろ俺の方に敵がどんどん増援しはじめている。まさかとは思うけど、調子に乗りすぎて、呼ぶべきでないものも呼んでしまったりしたのだろうか?

「まあまあ随分と暴れてくれましたね。これではせっかくの兵士達が勿体無いじゃないですか」

 その道中どこからか声が聞こえる。が、木々が邪魔でどこにいるのか姿が判明できない。

「上ですよ!」

「おっとっと」

 数秒後上から声がするなり、槍が頭上から降ってきたのを慌てて避ける。槍と共に降ってきたのは、またもや女性。

「あなたが織田の謎の新戦力ですか。どのようなものかと思いましたが、まさか男だなんて驚きですね」

 地面に刺さった槍をすぐに抜くと、再び構える謎の人物。槍の長さはざっと一メートル近くあるかなりのものだ。相手は遠くからの攻撃、俺は近接武器。どちらが有利かといえば、接近すれば俺が勝つが、槍術には色々なスタイルがあるはずだ。油断はできない。

「まさかもう有名になってるなんて、こっちとしては嬉しい限りだな。俺は桜木翡翠、あんたは?」

「私は今川義元。見ての通り槍術に長けている。新人のあなたに勝ち目は零といったところでしょ」

 今川義元と言ったら、今川軍の総大将。確か桶狭間の戦いで敗れることになっているが、その通りの事が起きるのかは分からない。

(ていうか総大将がいきなりお出ましかよ)

 兵もそんなに多くはなかったから、敵武将も大したものではないと思っていたが、まさかの総大将自ら出陣とは。初陣からまさかの大物との対決。さてどうなるのやら。

「勝ち目があるかないかは戦ってから決めてほしいな」

「そこまで言うならお相手しましょう。いざ尋常に」

『勝負!』

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