魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第29陣未来を生きる者

 ヒデヨシの言葉を理解するのには、五分ほど時間を要した。それほど彼女の言葉は衝撃的だった。

「ど、どうして急にそんな事を?」

「何か急にそう思ったの。ヒッシーのお嫁にならなってもいいかなって」

「いや、だから何で?」

 付き合うのをいきなり飛ばして、結婚しろだなんてハードルが高くないか? それにヒデヨシ、お前の嫁は扉の先にいる人物だぞ(歴史上)。

「駄目かな?」

「いや、駄目も何も、そういうのは段階というのがあってだな」

「お姉様は渡しません!」

 厄介な人が一名、ログインしました。

「渡すもなにも、あんたと私はそんな関係じゃないでしょ」

「いいえ、私とお姉様は常にそんな仲なんです!」

「その一方通行な愛情、何とかしてよ!」

「一方通行ではありません。私とお姉様は常にただならぬ関係なんです」

「た、ただならぬ関係なんだな二人は……」

「ヒッシーも変な勘違いしないでよ! 私は真剣に告白したんだから」

「そうは言われてもな……」

 その告白、俺には少し荷が重すぎないか? そもそもこの世界で結婚なんかしたら、元の時代に帰れないし、下手したら存在すらなくなってしまう。ヒデヨシの気持ちは、もちろん嬉しいけど、越えなければならない壁が多すぎて、頷くことができない。

「なあヒデヨシ、冷静になって聞いてほしいんだけど、俺はお前のその気持ち受け取れない」

「何でよヒッシー。結婚が無理なら、ヒッシーが言う段階から始めても私は構わないよ?」

「段階以前に、無理なんだよ俺には。たとえそれが、ヒデヨシでなくても」

「どうして? ヒッシーが別の世界から来ているから、とか。それだったら問題ないよ。ヒッシーがずっとここにいればいいから」

「だから無理なんだってば!」

 思わず強く言ってしまう。でも不可能なことは不可能なんだ。俺がこの時代の遥か未来を生きていること、それも理由の一つだ。だけど理由はもう一つある。

「悪い、言い過ぎた……」

「ヒッシー?」

 その後俺は黙って部屋を出た。流石に強く言い過ぎたかもしれない。ヒデヨシにはあとでちゃんと謝っておかないと。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 ヒデヨシへの謝罪の気持ちは、夜になっても消えることはなかった。

(傷つけちゃったよな……)

 恐らくあの告白は、ヒデヨシの気持ちだったかもしれない。俺はそれを拒否してしまった。それは申し訳ないと思っている。だけど俺は非日常の中で知ってしまったのだ。何が起きるか分からない異世界で、恋をしてしまう事の恐ろしさを。ましてやその相手が……。

「ああもう!」

 自分の不甲斐なさに苛立ちが隠せない。ヒデヨシにまさか結婚を申し込まれるとは思っていなかったし、それに対しての俺の答え方に問題があった。だから自分に苛立つ。なんでこんな答え方しかできないのかと。

「ヒスイ様、いらっしゃいますか?」

 タイミングがいいのか、悪いのか、そんな時にノブナガさんが俺の部屋を訪ねてきた。

「あ、いますよ」

「先程ヒデヨシさんの部屋を飛び出していくヒスイ様を見かけたのですが、何かありましたか?」

 どうやら用件は先程の一部始終を見ていたらしく、気になって俺の部屋に来たらしい。とりあえず俺は、ノブナガさんを部屋に入れて、さっき起きたことを話した。

「なるほど、そういう事が……」

「俺謝らないといけないんですヒデヨシに。まさか結婚を申し込まれるなんて思っていなかったですし、それに対してどんな答えを出せばいいか分からなくて……」

「ヒスイ様の気持ちは分かります。誰だってそうなります。でもどうしてヒスイ様は、そんなに強く言ってしまったのですか?」

「それにはちょっと深い訳があるんです。それがどうしても、引っかかるんです心に」

「その深い訳というのを、聞かせてもらうことは?」

「できなくもないです。でも、俺にも少し時間がほしいんです」

「無理に話さなくてもいいんです。でもやはり、ヒデヨシさんにはちゃんとした答えを返してあげないと、彼女もきっと辛いですよ」

「そうですよね……」

 だからちゃんと言わなければならないのも分かっている。どうして彼女の気持ちに答えられないのかを。

「ヒスイ様は、その魔法という力はこことはまた違う世界で手に入れられたのですよね」

「はい。以前も話しましたが、この魔法は自分が元から持っていたのではなく、少し前にこことはまた違うところで、師匠に教えてもらいました」

「もしかしてその事とも何か関係があるのですか?」

「ない事はないです」

 異世界で闇を滅ぼす為の旅仲間達と一緒に旅したし、その中で俺はかけがえのない物も手に入れた。けれど、同時に失う物もあった。

「ノブナガさんは、もし自分のせいで誰かが死んでしまったら、どうしますか?」

「いきなり難しい事を言いますね。そうですね、その時は……」

 もし他の誰かが同じ環境にあった時、その人はどうするのか気になった。そしてその問いに対して、ノブナガさんの答えは少し予想外だった。

「私でしたら、その人の分まで生きていこうと思います。特に私達戦人は、常にその環境下の中で生きていますから」

「自分のせいで死んでしまってでもですか?」

「はい。ヒスイ様でしたら、どうしますか?」

 同じ問いがノブナガさんから返ってくる。俺だったら、

「俺は」

 俺だったら、

「死なせてしまった事を後悔し続けて、ずっと苦しみ続けます」

「それがヒスイ様の答えですか?」

「はい。俺には乗り越えることはできません」

 現にそれが今の自分なのだから、嘘偽りない答えだ。

「私ヒスイ様は強い方だと思っていましたが、私の思い違いでしたね」

「え? どうしてそんな事をいきなり……」

「今日この日をもって、ヒスイ様を攻撃隊隊長の任を解かせてもらいます」

「え?」

 ……え?

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